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管理人ひさこによるガンダムSEED DESTINY及び蒼穹のファフナーのファンサイトブログです。オフィシャル等とは一切関連はございません。
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侵食 9 (#38~39)
TB[ - ]  CM[ 0 ]   Edit   2005/11/11[ Fri ] 23:37
プラントの長たる者、デュランダルによって地球軍の中枢である基地『ヘブンズベース』進攻を命じられ、ミネルバは他艦隊と合流するべく凍る海原へと辿り着いた。
既にあちら側には『ロゴス』メンバーの引き渡しと武装解除を『要求』として提示している。
しかしその『要求』を例え受け入れようが受け入れまいが、どちらにせよ海を埋め尽くす艦隊を陣取らせた現状が生み出す結末は変わらないだろう。
血を流すか流さないか、それだけの違いで『ヘブンズベース』をデュランダルの支配下に置く結末だけは変わらない。
それをこの作戦に賛同している者達は気付いていないのか、血気盛んに戦いの準備を進めていた。
それはミネルバ内部でも同じで、極一部を除いて皆慌ただしく各々の作業を進めていた。

まるで、過日の脱走など、なかったかのように。

皆、心痛める暇すらなく、目の前に迫る日々変わりゆく情勢に掻き回されていた。

「やはり、戦いは避けられぬ…かな。タリア艦長」

デュランダルが告げた。
真正面に立つタリアは答えない。

この進攻の軍司令部は最新艦のミネルバに配置され、議長自ら指揮をとる為に乗艦していたのだった。
艦長室の椅子に座り、この部屋の元の主人であるタリアに尋ねれば、タリアは表情を殺した眸で彼を見つめ、しかし何も云わない。
デュランダルも彼女の態度を予測していたのか、それとも始めから返答を求めていなかったのか、そのまま言葉を続けた。
「戦わなくて済むなら、これ以上ない良案なのだがね…」
その声は諦めを含んだ言い回しに聞こえて、だがタリアにはその言葉に隠された何かを探るかの如く眼を一瞬細めた。

彼が今、何を云おうと、彼女には正しくは聞こえてこない。
かつて愛した男の言葉は、歪んで聞こえていた。



「………シン、此処に居たの…?」

不意に背後から名を呼ばれてシンが振り返ると、いつのまにかルナマリアが傍に居た。

過日の出撃以来さほど時間は経過しておらず、シンはまだあの時の悪夢に囚われたままだった。

どうしても拭えない。
彼を、撃った衝撃。
彼の、流した血流。
そして、己の、慟哭。

それらがシンにまとわりついて消えない。
艦長に一通りの報告を済ませ、その足でかつて住人が居た、今は誰も存在しなくなった部屋へ向かい、改めてシンは彼が居なくなった事を実感せざるをえなくて。
以来殆ど自室にすら戻らず、彼が居た部屋へふらりとやってくる事が多くなっていたのだった。
あと数時間で出撃だという今もシンは其処に居て、ルナマリアは思った通りの場所でシンを見つけたのだった。
「………ルナ」
シンがぼんやりとした目付きでルナマリアを見つめた。
がらんとなった室内に残された、今はシーツすらひかれていないベッドサイドにシンは蹲るように腰掛けていて、ルナマリアはその目の前に立ち止まると、明かりも付けられていない薄暗い室内をぐるりと見回した。

「………何も、なくなっちゃった、わね………」

ぽつり、と呟かれたルナマリアの言葉に一瞬だけシンは反応したが、直ぐにまた無気力な状態に戻る。

室内は、始めから誰も、何も、なかったかの如く、痕跡を残していなかった。

アスラン・ザラ、が此処に居た、痕跡。

脱走の報を受け、シンによって撃墜されたあと、保安部の人間によってアスランの部屋は直ぐ様封鎖され隅々まで捜索されたのだった。
しかしどんなに室内を荒らすように捜し回っても何も今回の事に関する証拠は残っていなかったらしい。
アスランが逃亡する前に処分し、破壊していたと後から聞かされた。
アスランが不正アクセスによって侵入したデータバンク等には痕跡はあっても、それと符号させるアスラン側の証拠となるべき物は一切なかったらしい。
それでもアスランが犯した罪は、課せられた罰は、翻される事なく。
やがて彼が居た時の物は全て没収かもしくは処分され、何もかも消えていった。
元からトランクひとつで乗艦したのだから私物は極端に少なかったけれど、配給された生活品や常備されていた家具ですら処分されて。

本当に、何もない空間になっていて。

シンはそれでも此処に来る。

以前とは変わり果ててしまったのに、その事実にもひどく落ち込んでいるのに、それでもシンは来るのだ。

アスランが居た、過去の空間へ。

「………シン」

ルナマリアがシンの横に腰を下ろし、だが視線を向けずに名前を呼んだ。
やはり返事は戻ってくる事はない。

何処か遠くを見ているようにシンは隣の女性に反応ひとつ示さない。

事実、シンは己の記憶に残された、アスランの痕跡を手繰り寄せていたのだ。
Category [ 時系列(No.05)【侵食】 ]
Thread Title[ 機動戦士ガンダムSEEDDESTINY ]   Thread Theme [ アニメ・コミック ]
侵食 10 (#38~39)
TB[ - ]  CM[ 0 ]   Edit   2005/11/11[ Fri ] 23:34
シンにだけ唯一残った、アスラン・ザラという存在。

出会う前から識っていた。
彼程知られた人はいなかった。
密かに憧れもあった。
そして出会う時がきて。
最初はいらついて、反発して、逆らって。
なのに無意識に彼を気に掛け、姿を追い、いつしか求め始めて。

やがてその想いに答えてくれた。
嬉しさ、切なさ、心地よさ。
彼と共に居た時間に感じた全ての感情、記憶。

今でも鮮明に思い出せそうなのに、しかし曇ったかのようにぼんやりとしていて。

二人を巻き込んだ『世界』の歯車が激しく回りだした時から、シンの感情は歪みだし彼を心身共に傷つけて。

その過ちに気付き始めたのに。
彼が、消えてしまったから。
己が、消してしまったから。

シンは自分の中に刻まれたアスランの記憶をぼんやりとしか思い出せなくて。

それでも、縋る心は彼を求めて、探して、足を此処へと向かわせていた。

その度に絶望を突き付けられ、更に記憶を濁らせてしまうのだけれど。

「…ねえ、シン」
シンの心が此処ではない何処かにあるのを知りつつもルナマリアが話し始めた。

「この間は…ごめん、ね………」

小さく呟いた。

シンを責めた事、アスランとメイリンを撃った事実を責めた事。
それを、ルナマリアは謝罪した。
ルナマリアとて思わぬ形で妹を失い、しかも犯罪者の烙印を押された妹の為に監禁するかのような尋問をうけたのだ。
シンとは別にショックを受けていたし、それをシンにぶちまける権利もあるだろう。
しかしルナマリアはシンをそういった意味では責めなかった。
自分も同じ立場ならば軍人として、赤を纏う者として責務を果たせねばないから、シンの行動を責められない。
しかし自分も憧れていたアスランを、シンと想いを通じ合わせていたアスランを撃った事を、責めた。
それはどんなにシンを追い詰める形になろうと、云わねばならぬと思ったから。
だが云うべきタイミングを誤ったかもしれないと、今のシンの状態を見てルナマリアは謝罪したのだった。
ルナマリアの言葉にぴくり、と僅かに肩を震わせる少年を、ルナマリアはそっと、抱き締めた。

それしか、すべを知らない。
他に何も思い浮かばない。
それでも。

共に大切な人を、失ったのだから。
ルナマリアはシンによって奪われ、シンは自分自身によって奪われ、悲しみは多少違えど、深さは同じ。

だから、抱き締めた。

「………ル、ナ」

アスランとは違う、女性の柔らかい身体に抱き締められ、その肩に頬を預けながら、ぽつ、とシンが言葉を発した。
ルナマリアがシンの黒髪を優しく撫でつつ彼の言葉を聞く。

「………うん」
「…俺、好き、だったんだ…」
「シン…」

「アスランの事…好き、だったんだ………」

「…うん。…知ってる…」

シンの告白にルナマリアは知っていた、と告げた。
シンは知られていた事に動揺しなかった。

「…ど、う、して…こうなっちゃったの、かな…」
「…シン」
「…俺…っ、俺…、ぅ、う…ぇっ、…え…っ」

最初は他人事のように語り、しかし声は次第に震えていき。

シンは泣きだした。

ルナマリアの背に腕を回し、思い切り強く掻き抱いて。
肩に顔を埋めて、嗚咽を漏らして泣き始めた。
その様子にいたたまれなくなったルナマリアも静かに涙を零し、それでも彼を抱き締め髪を何度も撫でる。

「ぅ、うーっ。ア、ス…ランっ、…アスランーッ。うっ、うあぁーっ!」

やがて嗚咽は激しくなり、シンは大声で泣きじゃくりだす。
今まで吐き出せなかった想いをもはや止められず、黙って受けとめてくれるルナマリアに甘えて。

今、この感情を吐き出さねば、壊れてしまう。

そうして、シンは泣き続けた。

まるで幼子のように、かつて家族を、そしてステラを失った時とは違う感情で、


シンは、アスランを『殺した』事実を受けとめる為に。



泣いて泣いて、泣き続けた。
Category [ 時系列(No.05)【侵食】 ]
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侵食 8 (#38~39)
TB[ - ]  CM[ 0 ]   Edit   2005/11/08[ Tue ] 21:47
何処までも果てしない、赤い赤い水面。
血を思い起こさせるその世界に、たった独り。

アスランは血に塗れてそこに存在していた。

空は闇。一筋の光すらない、漆黒と赤だけの世界に、不意に何かが聞こえる。

それは呼び声。

アスランを呼ぶ声。

一人のような、大勢のような、アスランを呼ぶその声は始めは消えそうな程小さく、しかし次第に大きくなり、空気を伝わって反響していく。

その声に、アスランの意識が急激に引き寄せられて。
肉体から精神を引き剥がすかの如く、強く強く。




そして。

「………………っ」

ふる、と睫毛が痙攣し、やがて目蓋がゆっくりと開かれていく。

闇と血の色の精神世界の悪夢から、アスランの意識が現実へと連れ戻された瞬間だった。



「………ぁ、………………っ」

永く伏せられていた目蓋に隠されていた翡翠の眸が、ぼんやりと『現実』を映しこむ。
しかし未だ夢と現つの境界があいまいで、焦点は定まっていない。

「あ、アスラン!?」

漸く訪れた彼の目覚めに、キラは思わず立ち上がりかけ、身を乗り出すようにして名を叫ぶ。
覗き込んだ顔はやはりまだ現状を把握できていない表情で。
ゆるやかな動きで眼をキラへと向けて。

声。
誰かの、声。
自分を呼ぶ、声。

誰。
声は、誰。
呼ぶのは、誰。

霞む視界に入り込む誰かの影に、アスランはぼやけた眸をそちらへ向けて。

ああ。
キラ。
声は、その姿は、キラ。

良く知っている、けれど、どこか懐かしいような、遠く離れてしまった、キラ。

「………キ、ラ………?」

吐息に混じった弱々しい声音で彼の名を発した。

キラがいる。
でも、どうして。
彼は、確か。
そう、確かに。

シンに、撃たれて、そして。


ひどく痺れたような思考を巡らせて、アスランはキラに起きた出来事を思い出していく。

それはほんの僅かの瞬間のようでいて、とても永い時間にも感じられる程。

アスランはぼんやりとキラを見つめていて。
キラもまたアスランの様子を食い入るように見つめていて。

やがて、アスランが大きく眼を見開いた。

そうだ。
キラは、シンに、撃たれた。
シンが、キラを、討ったのだ。

だけど今此処にキラが居る。

その光景に一気にアスランの意識は覚醒した。

「キラ………ッ!」

もう一度名を口にする。
今度はしっかりとした声音でキラを呼ぶ。
と同時に心が身体を突き動かして跳ね起きようとする。

しかしそれは叶わない。

「…っ、ぐ、あ、ぁ…ッ!」

全身に走る激痛。
指ひとつ動かせない程に身体は重く痛みしか感じない。

「駄目だよ、まだ動いたら駄目だから!」
漸く長かった昏睡から目覚めたばかりの身体を動かそうとするアスランの様子に、キラは焦りその肩に手をかけて彼を制した。
「アスラン、動かないで…今は寝てて」
優しく諭すようにキラは告げて、ほぅ、と安堵の溜息をついた。

目覚めたなら、大丈夫だ。
もう、彼は、死なない。
命を失う心配はなくなった。

覚醒した意識と共に視界が開け、アスランはしっかりとキラの姿を見つめている。
肩に触れるキラの手から伝わる暖かさに、鼓動に、此処が『夢』ではなくて『現実』だと。

それを無意識に理解した刹那、アスランの視界が急にまたぼやけていった。

つ、と頬を伝う水の感触。
熱く潤う眼。

アスランは自分が泣いている事にも気付かずに、ただじっとキラだけを見つめて。

「…お、まえ………生き、て…た………!」

絞りだすような声で必死にそれを伝える。

「うん、生きてるよ………僕も、君も、…生きてる…から…」

きっとアスランはあの艦で自分が撃墜されるのを見ていて、そして、この世から消えたかもしれないと。
ずっとそんな不安の中で過ごしていたのだろう。
だから今キラの姿を見て、驚愕と安堵が一気に押し寄せているのだ。
アスランのその気持ちはキラにも痛い程伝わる。
キラも、アスランが目覚めるのを同じ気持ちで見つめていたのだから。

「ちゃんと、生きてるから………アスラン」

アスランの涙にキラの眸も熱くなる。
震えそうになるのを必死に堪えてやんわりと微笑んで彼に二人とも生きているという『事実』を伝えた。
その言葉を受けてアスランもうすく微笑って。

「………………………」

再び、ゆっくりと、目蓋を閉じた。

まるで恐い夢から解放されたような、幼子のように。
安らかな表情を浮かべて、ほんのひとときの眠りについた。

まだ術後の痛みを取り除く麻酔が切れていないのだろう。
夢と現つを行き交う意識ではきっと今の事を、アスランは覚えていないだろうけれど。

それでもいい。

生きてさえいてくれたらいい。

キラは眠るアスランを静かに見つめ、そしてベッドの端に蹲る。
そこには包帯が巻かれ点滴の針が刺さった、細く白いアスランの腕。
その腕にそっと触れて。

「………アスラン…生きて戻ってくれて、ありがとう………」

そう呟いて、溜まった涙を一粒、落とした。



それから直ぐにキラは立ち上がり、ベッドサイドにある端末で医療スタッフにアスランの容体を伝え、そして、この時を誰よりも待ち望んでいた人を呼ぶ。

もう、会わせても平気だ。
まだ身体は癒えていないけれど、云えない傷もあるけれど。

でも峠は越えた。

「…マリューさん、そこにカガリはいますか?。アスランが…目覚めた、と伝えて下さい」

短く用件を伝えて通信を切る。

間もなく医療スタッフと共に息を切らしてカガリがやってくるだろう。
泣きながら、だけど安堵しながら駆けてくるだろう。

それまで、見ていよう。

今はまた眠ってしまったけれど。

アスランの寝顔を、今は一人、見ていよう。



キラは椅子に座り静かにアスランを見守り続けた。
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侵食 6 (#38~39)
TB[ - ]  CM[ 0 ]   Edit   2005/11/07[ Mon ] 23:32
アスラン・ザラの引き起こした衝撃はシンに絶望を、キラに動揺を与えて。

そして彼に関わった者達を揺り動かすも、『世界』は気遣う事もなく更なる悪夢を突き付ける。

地球軍に潜伏し諜報活動をしていたキサカによって偶然救出されたアスランを乗せ、AAは海底に潜みながらオーブへと向かっていた。
まだ先日の戦闘によって受けた艦のダメージは回復していない。
それを修復しながらも地球軍、ザフトどちらからも隠れるように静かに海深くを進んでいて、あと少しでオーブ国内の小さな島の地下に密かに建設された軍事ドックへと辿り着くという時に、その報が入ってきた。



ザフトが本格的に戦争を引き起こした『ロゴス』壊滅の為に動きだした、という報告。

しかしそれは表面上の名目でしかなかった。
『ロゴス』を匿っているとして、長い間対立してきた地球軍を討つ為に必要な理由でしかなくて。

争いをなくすとしてその地位に上りつめたデュランダル議長が、言葉巧みに民衆を操り今新たな争いを生み出そうとしていたのだった。

その知らせはAAにも届き、艦内は動揺に包まれる。

「そんな…!」

報を受けたカガリが嘆く。
まだ小さいその身体を怒りと悲しさでいっぱいに満たして、震える手をきつく握り締める。

オーブの長であるカガリだけでなくマリューやキラ達も知らされた時ひどく沈鬱な思いに襲われた。

ザフトと、デュランダルの宣言に感銘を受けて連合を脱退した元地球軍の艦隊が、地球連合の中枢であるヘブンスベースへと発進し始めた。
彼らが隠匿している『ロゴス』の構成メンバー引き渡しと全軍の武装解除の要求を携えての侵略開始だった。

しかしその誰もが気付いていないのだ。

争いを生み出し影で操り、それによる潤いを得ていたのが『ロゴス』というならば、今大戦の開戦のきっかけになった地球軍からの略奪だけでなく、先の大戦でおきたザフトからの略奪行為も彼ら『ロゴス』の謀略のひとつではないのか?と。
つまりは今嫌疑をかけられたオーブを含めた地球側だけでなくプラント側にも『ロゴス』がいるのではないか?という疑問。
そして何故デュランダルが闇に隠れたその組織を知っていたのか?という疑問。
これより争おうとする者達は誰も、気付かなかったのだ。
それぞれが植え付けられた捻じ曲がった信念に突き動かされて、気付く余裕すらなかったのだった。

気付いていたのはAAに居る者達と、オーブの地下ドックに停泊しているクサナギの者達、そして今宇宙に上がり潜伏しながらも全てを探っているラクスを乗せたヱターナルの者達だけだった。

「急がなければ、手遅れになる…!」

俯きながら呻くように呟いたキラの言葉に、管制ブースに集っていた者皆、頷いて。
AAはスピードをあげ、オーブへと向かった。



情勢が慌ただしく動きだすも、アスランは何も知らず知らされず、未だ昏睡したままで。
漸く危篤状態を脱したが意識は戻らない日が続いていた。
集中治療室を出て医務室へと移らされたが、翡翠の眸はまだ目蓋の下に隠されていて。
死にかけた身体はひどく痩せ細り顔色は青白いままで、酸素マスクは外されたものの栄養と鎮痛剤を送り込む点滴は欠かせない状態だった。

「…キラ!。アスランは…っ?」
医務室に入ろうとしていたキラをドアの前でカガリが呼び止めた。
急いで追い付いたのか、呼吸が荒い。
「………まだ、眠ったままだよ」
キラはカガリを見る事なく俯いてそう呟く。そんな彼の様子にカガリは沈黙するしかなくて。
AAに収容されてから一度もカガリはアスランに会わせて貰っていなかった。
どんなに願っても泣き叫んでも、マリューやキサカ、そしてキラが許さなかった。

まだ今は会わせる訳にはいかないと。
ひどく動揺している彼女に今のアスランの姿を受け入れさせるには余りにも酷すぎると。
そう判断したからだった。
一命は取り留めても、キラですら目を背けたくなる程の怪我で、しかもアスランの身体には。

カガリには云えない傷が、あるから。

「………まだ、会わせてはくれないのか………?」
「………………ごめん。今はまだ、我慢して………」

傷が少しでも癒えるまでは。
会わせてはあげられない。

キラは涙を滲ませるカガリをドアの前に独り置き去りにして、アスランの眠る医務室へと入っていった。



ふたつの簡易ベッドにはそれぞれの住人が居て。
一人は過日キラが撃墜しAAに収容した地球軍の捕虜、と表向きは繕われた立場の男だった。
しかし風貌も医学的にもキラ達がよく見知った男なのだけれど彼には記憶がなかった。
その為に扱いをどうすればよいか困り果て、未だに医務室に軟禁状態が続いていた。
キラが医務室に入ってきても男は何も云わず、ちらり、と見やるだけでカーテンを閉めて作られた空間に籠もる。
しかし今はその方が助かる。
記憶を失った彼に気を使う余裕がキラにはなくて、男もそれを察してくれていたらしい。
やはり記憶はなくとも人間性は変わらない。
きっと誰もいない時は彼は同室の病人をさり気なく気にしてくれているだろう。

男がカーテンを閉めたのを確認して、キラはもう一つのベッドに横たわる病人の元へ脚を向けた。

アスランは今も、目覚めない。
骨折による発熱が続き吐く息は苦しげなままだ。
きっとそれだけではないだろう。
彼の事だ、混濁した意識の中で己を責めてうなされているに違いない。
その証拠に時折呻き辛そうに眉をひそめている。

キラはアスランの変わらぬ様子を見て深く溜息をつき、ベッドの横にある椅子に腰掛けた。
綺麗な藍の髪が薄汚れて艶をなくしている。
この傷ついた身体を、目覚めた彼はどう思うのだろうか。
生き延びてしまった事を後悔するのか、それとも。

キラは、目蓋を閉じて、未だ眠り続けるアスランを、思って。

心の中で、淋しく泣いた。
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侵食 7 (#38~39)
TB[ - ]  CM[ 0 ]   Edit   2005/11/07[ Mon ] 23:31
ゆら、と赤い水面が揺れる。
騒めくような波紋がどこまでも広がっていく。

辺りは闇に閉ざされているのに、何故か足元の赤い水面はくっきりと判別できる。

独りその空間に存在していたアスランは先程一瞬だけ現われて水面に溶けて消えていった黒髪の少年を探して、あてもなく歩き続けていた。

不意に風が吹いた。

アスランの藍の髪を風が乱して。
ざあ、と何処かへと吹いて掻き消えていく。
突然吹いた風にアスランは歩き疲れた脚を止めて立ち尽くした。

何処に向かっているのか、何処に行けばいいのか。
判らない。

だけど、何かが、アスランを歩ませる。
行け、と突き動かす。

また、ざあ、と風が吹いた。
今度は強く吹いて、アスランは思わず眼を伏せる。

次に目蓋を開いた時、異変がおきた。

「………っ!」

アスランは息を飲んだ。
一瞬の内に、何故か目の前に、自分以外の人影が現われた。

それ、は、アスランが良く知る者だった。

同じ顔をした、金の髪の少女と、茶の髪の少年。

「………キ、ラ…カガリ………」

アスランの呟いた声は、しかし音になる事はなく。
何故か声が発せられなかった。
喉の奥で詰まったかのように出てこない。
目の前の二人はアスランをじっと見つめて、淋しそうに微笑した。
ただ微笑んでアスランを見つめる。
名を呼ぶ事もなく、手を招く事もなく。

アスランは彼らに近寄ろうとして、脚を止める。

ぎゅ、と己の肩を掻き抱いて。
唇を噛み締め眸を閉じる。

「………ごめん」
と。

声にならない言葉を吐いて。

「まだ………行けない。まだ、俺は…其処へ、行けない………」

そう呟いた刹那、二人は先程の黒髪の少年と同じように、身体の輪郭を溶かして赤い水面に消えていった。

独り残されたアスランは涙をひとつ零す。

自分は彼らを、信じてくれた彼らを、裏切ったのだ。

例え彼らが許してくれても、きっと許してくれるだろうけども。

まだ、裏切った自分を、許せない。

だから行けない。

己が引き起こした全てを自らの手で終わらせるまでは、彼らと共に笑えない。

足元にある赤い水面は、これまでアスランが流した、流させた血のようで。

独り罪を償え、とアスランを責め立てていた。





「………………っ」

何か、が起きた。

俯いて床を見つめていたキラは弾かれたかのように顔を上げて、その何か、に集中する。

「………っ、ぅ………」
「………!?」

キラの眸が、アスランを、捉える。

突然起きた異変は、アスランの身体の僅かな反応だった。

食い入るように見つめるキラの眸に、アスランの目蓋の震えが映る。
微かな吐息と共に小さく呻き、閉じられたままの目蓋を痙攣するように震わせて。

一粒の涙を目尻に滲ませて。


「………ぅ」


そして。


キラが、カガリが、皆が、待ち望んでいた瞬間が、訪れる。


ひどくゆっくりと、時が止まるかのようにゆっくりと。


目蓋が開き。

隠されていた翡翠の眸が。

アスランの眸が。



目覚めを、むかえた。
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侵食 4 (#37~38)
TB[ - ]  CM[ 0 ]   Edit   2005/11/05[ Sat ] 22:29
やがて、扉は開かれた。

白衣を纏う医術を担当するクルー達と共に現われた彼は、照明に照らされて更にその肌を病的な程白く曝していて。
肩まで掛けられた布が隠した身体が負った傷はどれ程のものだったのだろうか。

長い長い時間だった。
潜伏しながらも航海を続ける艦を放る訳にもいかず、マリューはキサカと共に艦長室へと戻っていった。
アスランから託された物を巡って話し合う為でもあった。
自分も駆け付けたいと泣いて縋ったカガリは自室に無理矢理閉じ込めてきた。
まだ今は逢わせてはいけない、とキサカが告げた通りにした。

そして。
手術は一応終了した、と医療スタッフに告げられて一人廊下で待っていたキラは手術室の隣にある集中治療室へと案内される。
最低限の設備はあっても戦艦という閉ざされた空間では使えるスペースも限られていて、集中治療室といっても本当に小さな一室で。
手術を終え、未だ意識の戻らぬアスランは体中に様々な管が取り付けられ、簡易ベッドの上に寝かされていた。
中へと招かれたキラは静かにそこへと近寄っていく。
辺りには流れた彼の血を拭ったガーゼなどが散乱していて、アスランの負った怪我の凄まじさを物語っている。

「………アスランは、大丈夫なんですか?」
キラが小さな声で問い掛けた。

本当は泣き喚いて取り乱したい心境だったが、しかし横たわるアスランの姿をみればそれすら出来ない程に心が軋んで沈鬱な表情で俯くしかできなかった。

大切な何かを失う直前とはこういう気持ちなのか、と。

嫌な予感が頭から離れない。

「…取り敢えずは一命を取り留めました。しかし…依然危険な状態です」
「…そう、ですか…」

キラにはそうとしか云えなかった。
命を失わずに済んだのが不思議な位の怪我だった。医療スタッフの言葉には偽りはなかった。

「怪我の殆どが墜落の衝撃で負った物でしょう。頭部の裂傷や全身の打撲はそう思われます」
「………はい」
「そして恐らく脱走時に襲撃されたのかと思いますが、銃で撃たれた左肩は幸い弾が貫通していました」
「………」
「左上腕部の裂傷は、キサカさんの証言通り自ら鋭利な刃物で切り開いて抉ったようです。傷はかなりの深さでしたが、但し筋などは傷めぬよう細心の注意を払ったらしく、後遺症は残らないかと。」

アスランの身体について淡々と病状を告げる医療スタッフの話は、聞いているだけで自分の身体まで切り刻まれたようで、激しく痛む錯覚を引き起こす。

それだけ、アスランの身体は、ぼろぼろだった。

一番ひどい怪我である胸部は、やはり肋骨が数本折れていて。
その内、粉砕骨折した部位は肺の近くで、砕けた骨が肺を圧迫していたとの事だった。
かなりの血液を体内から失い失血死寸前で、この艦に辿り着くまで生きていたのが不思議だ、と医療スタッフまでもが云った。

「………あと、気になる事が………」

余りにもひどすぎて、殆どを覚えきれないアスランの具合を一通り説明したあと、医療スタッフが突然重々しく口を開いた。
その様子にキラはそれまでアスランを見つめていた眸をそちらへと向ける。
すると医療スタッフは本気で狼狽えながらも、キラを見つめて云った。

「撃墜された事による怪我にしては…普通では考えられない箇所も、裂傷がひどく、化膿していました………」

「………………え?」

親友であるキラに事実を伝えるべきか否か、困り果てた末の医療スタッフの言葉に、キラは僅かに眉をひそめ彼の顔を凝視し、そして視線を移して簡易ベッドの上で麻酔によって眠り続ける青白いアスランの顔を見つめた。

「それは、どこ………ですか?」

本能的に聞くのが恐かった。
何故かは判らない。
けれど、聞かなければ、と思い直して必死に己を奮い立たせる。

きっと、その隠された『事実』は、艦長であるマリューやカガリ達にも聞かせられないものだろう。

咄嗟にそれを察して、キラは、言い淀む医療スタッフから『全て』を聞き出した。

ずっと、アスランを、眸に捉えたまま、キラは全てを、知った。
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侵食 5 (#37~38)
TB[ - ]  CM[ 0 ]   Edit   2005/11/05[ Sat ] 22:29
ミネルバに帰投したシンは休む間もなくレイと共に艦長室へと呼び出された。
通路で出くわしたルナマリアをそのままに、先に辿り着いてドアの前で待っていたレイと合流し、そして艦の長であるタリアの待つ中へと足を進めた。

「………報告は先程、議長から聞いたわ…」
入室し、入り口で敬礼をするシンとレイを見つめる事なく、腰掛ける椅子を横にむけたままタリアはそう告げた。
きちんと彼らを見て話さねばならないと思うのに、それが出来ない。
タリア自身未だ動揺を抑えられず、そして金髪の少年を視界に映せば堪え切れずに問いただしてしまいそうで。

「改めて貴方達にもお話します」
重々しくタリアは口を開いた。

「…アスラン・ザラは、自室の端末からハッキングして軍中枢部のメインコンピューターから重要機密を探っていた、と報告がありました。そうして得たデータを隠し持ち、逃走したとの事です」
「………っ、そ、んな!」

シンは思わず慟哭した。
そんな、彼が。
何時の間に、そんな事を。

全てがおかしくなる前はそんな素振りは感じられなかった。では自分が彼を傷つけ始めてからだろうか。
しかし脱走する数時間前までは一緒に居たのに。
複雑に絡み合った想いを解してまたやり直そうと互いに願って、己の未熟さで傷つけてしまった彼を、抱いたばかりなのに…!。

シンは何も知らず、知らされず、置いて行かれたと悟った。
拳をきつく握り締める。

「そして逃走途中にメイリン・ホークの部屋へ立ち寄り、そこからこの軍港の警報システムに不正アクセスし、誤報を発生させて追撃する警備兵を撹乱した。これも彼女の部屋の端末からアクセスログが発見されたそうよ」
「彼女は情報処理のエキスパートで、その腕を買われてミネルバ所属になったクルーですから」

一度も視線をかわさないタリアを冷たい眸で見つめるレイが初めて言葉を発した。

「アスランが探っていた重要機密も、彼女が関わっていた可能性があります」
「…ええ、議長も同じ事を考えているわ。今メイリンについても捜査中だそうよ」

必死に感情を殺そうと苦しげに話すタリアと、対照的に何かの作戦を決めているかのようなひどく冷静なレイの言葉が、シンの頭をぐるぐると回っていく。
「でも…どうして、そんな…」
まだシンは全てを理解しきれなく、俯いた視線を彷徨わせている。
「恐らくアスランが向かう先は、あの艦だったのでしょう」
そう告げて、初めてタリアは二人を、シンを見た。

「かつて共に闘ったあのAAの元へ、彼が向かう先は其処しかないわ」

鋭い眼差しでタリアはレイではなくシンを見る。

アスランにとってかつての仲間が駆る『フリーダム』を、そしてシンが撃墜した『フリーダム』を乗せた艦。
アスランが向かおうとするならば其処しかない。
彼を知る者ならば見当がつく。
タリアの言葉にシンは眼を見開いて。
「………まさか!」
しかし、確かにアスランはあの艦に、そしてフリーダムに執着をみせていた。
シンには理解出来なかったそれが、今逆に確信に繋がる。
「…では、アスランは」
レイが動揺するシンをちらりと見て結論を語りだす。

まるで今判ったかのように、装いながら。

「AAは我々が討とうとしている『ロゴス』と繋がっていると嫌疑されているオーブと深い関わりがある。そしてアスランはこちら側の重要機密を隠し持って、その艦に向かおうとしていた」

レイの言葉にタリアはぐ、と唇を噛み締めて。
シンは驚愕して。

「つまり、アスラン・ザラは始めから『ロゴス』側の人間だった。…そういう事ですね?」
「………そういう事、らしいわ。今はまだ調査中だけれど………議長はそう疑っているわ」

嘘だ。
誰か、嘘だと。
そんな筈はないと。

シンは心の奥底に沸き起こった感情を爆発させてしまいそうで。
カタカタと震えだす。

アスランは、始めから『敵』だった?。
初めてシンを認めてくれた人で、初めて本気で好きになった人で。
想いを通じ合わせて、そして。
肌の触れ合いと繋がる事の意味を互いに教え合った人。

なのに、敵、だった………。

不意にシンの記憶の中に残る、一番最後に見た彼の姿と言葉が思い出されて。
色を失い、くすんでいく。

全てが、闇に染められていく。

「………とにかく、今は休みなさい。近い内に大規模な『ロゴス』討伐作戦が開始されるそうだから………」
タリアがぽつりと呟く。
休息を欲しているのは自分も同じだった。
例え短い間でも共に闘った者を失った喪失感はどうしても拭えない。
それはミネルバクルー全員にも云える事だった。

今は束の間の休息を。
傷ついた心を癒す時間を。

タリアの言葉で締め括られてレイは彼女に敬礼し艦長室を去っていく。
突き付けられた『事実』に我を失っていたシンも慌ててその後を追おうとして敬礼しようとした瞬間。

シンを見るタリアの眸が、切なげに揺れた。

「………シン、貴方は…アスランを………」

そこまで云いかけて。

「いえ、いいわ。………今更、もう………遅い事よね」
「艦長?」
「但し、これだけは覚えておいて」

不思議そうに見つめ返すシンに、タリアは『艦長』としてではなく、彼らを知る一人の『人間』として呟いた。




「貴方と共に居たアスランが、全て、嘘だったと………思わないでね?」



「でなければ、貴方も………彼も、かわいそうだから………」



タリアの言葉は、艦長室を出てからもずっと、シンの心にこびりついて離れなかった。

彼女の言葉の意味を、アスランの真意を。

シンが識る日は、まだ訪れない。
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侵食 1 (#37~38)
TB[ - ]  CM[ 0 ]   Edit   2005/11/03[ Thu ] 23:08
どぉん、と。

何かが爆発する音。
そして。

どん、という音。

水でしかない筈の海面に叩きつけられ、何かが破壊される音。

やがて沈みゆくそれを壮大な母なる海は、闇夜の中狂暴な一面を見せ付けるかの如く飲み込んでいく。



そうして、アスラン・ザラはメイリン・ホークを巻き添えにして海へと消えていった。



やがてその様を上空で見つめていたふたつのMSがザフトに属した軍港へと帰投していく。
今も鳴り止まぬ雷を孕んだ雷雲が激しい雨を降らせ海を狂わせるかのように荒れさせている。
その荒れ狂う高波の隙間を潜り抜ける一艘の船。
甲板の灯を全て消し暗闇の中を漂うその船は、MSが完全に立ち去ったのを見計らうと、サーチライトを灯し、何かが沈んだポイントへと舵を切った。



最後の記憶。

モニターに映った、彼の、狂気に満ちた顔。
覚醒したかのような、全神経を研ぎ澄ます鬼神の顔。

そして彼に、何よりも愛しい、と告げた自分。

シンが刄を向けて襲い来る瞬間。

アスランは咄嗟にシートベルトを外しシートから離れると、コクピット内部の僅かな隙間で蹲るメイリンを無理矢理引きずるようにそこに座らせた。
そして恐怖で声すら出ない彼女を守るように覆いかぶさり、後ろを振り返ってモニターを見た。

無意識下でとった行動はほんの一瞬で。

『シン』

既に声は彼には伝わらない。

何かに取り憑かれたかねように襲い来るシンには、アスランの言葉は伝わらない。
それでも、云わなければ。
これが、アスランの、真実だ、と。

指を伸ばしシート横にあるボタンを押して。

『愛してる』

そうはっきりと告白した。

僅かにモニターに映るシンの表情に動揺が走る。
刹那、アスランが押したボタンに連動してパイロットを守るセーフティシャッターがコクピットを守護するかのように降り、視界は閉ざされた。

次の瞬間、シンの駆るデスティニーの刄がアスランの乗るグフを貫通して。
先程の僅かな動揺が、狙いをずらさせた。
貫通させる筈だった刄はコクピットを逸れて突き刺さり、それでも機体は完全に貫かれて破壊された。

ぐらり、と倒れこむように後ろへと傾いた機体は制御を失ってそのまま海面へと落下していく。

腹に刄を抱いたまま。

海面に叩きつけられる瞬間、胴体を中心とした爆発が起きる。

「きゃあああ!」
「………っぐ!」

メイリンの悲鳴とアスランの呻きが同時にあがり、そして爆発によって起きた衝撃がコクピットを襲った。
外がどうなっているのか、判らない。
完全に破壊された機体は既にモニターはブラックアウトして何も映さず計器類も沈黙している。
だが衝撃はコクピットに居る二人に襲い掛かり、メイリンはシートに蹲ってがたがた震えていた。
激しく揺れる内部で、アスランは巻き込んでしまった彼女を死なせまいと、大量の失血で遠退きそうな意識を無理矢理に保ち、彼女を隠すように己が身で庇う。

しかし爆発の直後に海面に叩きつけられ、機体は無残にも粉々に粉砕された。
勿論それはコクピットにも衝撃は訪れ、周囲の計器類が崩れて落下してくる。

「…っ、ぐぅ!」
落ちてきた何かの破片がアスランの額に激突し、痛みと共に薄い皮膚を切り裂いた。
「…っう、う…」
ぼたぼたと血が滴り落ちてアスランの視界を霞ませていく。
海面に落下し水中を沈んでいく中で再び爆発がおきたらしい。
どん、と衝撃が襲い、耐え切れなくなったアスランの身体がぐらりと傾いて。
強かに胸部をシートの背もたれに打ち付けた。

「うぁぁ!」

アスランが叫ぶ。

のしかかる重力にシートは胸部に食い込み、そして。

ばき、と。

何かが砕ける音がした。

「が、は…っ!」

その音は、アスランの体内から、聞こえた。

またコクピットが激しく揺れて更にばきばき、と折れる音がする。

「ぐ、う…ぅ…っ」

どうやら、肋骨が幾本か折れて砕けたらしい。
途端に呼吸が出来なくなった。
息をする度にひゅう、と喉が鳴り、肺に激痛が走る。

ずる、とその場に崩れ落ちたアスランの身体が怯えたメイリンの膝に寄り掛かる。

「ぁ、あ…あーっ!」

その所為でメイリンは一層錯乱し甲高い悲鳴をあげて。
激痛と失血で意識を失いかけたアスランがそれによって失神するのを踏み止まれた。
「………っ、メ、リン………っ」
ひゅうひゅうと擦れた吐息と共に無理矢理起き上がり、アスランは再び彼女を庇うようにしてシートを覆う。

水中を沈みゆく中、ぼろぼろと崩れる壁や何かの部品がメイリンを庇うアスランの背に降り落ちる。
それでもアスランは必死に彼女を庇い、そして。

「………………シ………ン」

そう呟いて、ごふ、と血を吐いた。
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侵食 2 (#37~38)
TB[ - ]  CM[ 0 ]   Edit   2005/11/03[ Thu ] 23:05
青い機体が爆発し、沈んだポイントへと船が辿り着いた。
荒れ狂う海を操行するのはかなりの技術があっても難しい。
それでも舵を取る一人の男は、己の命をかけてでも、と必死になって。

潜入していた地球軍の艦で、ザフトの動向を探っていた矢先、偶然に傍受した無線に男は驚愕した。

『アスラン・ザラが脱走した』

己が唯一と認め従う姫の、仲間であり、最愛の男の名。

その彼がザフトに復隊したのは知っていたが、しかし今、再び袂を分かち、離脱したと。
傍受した情報に我が耳を疑いながら男は直ぐ様行動に出たのだ。

もしその情報が確かならば行かねばなるまい。
今彼を失えば我が姫が泣く。
それにまだ失うべき存在ではない。
彼、アスラン・ザラは今ここで死すべきではない、と。

潜入していた地球軍ではもう調べるだけ調べあげ、必要な情報は手に入れた。
自分ももう姫の元へ戻る頃だと、密かに内部の協力者に頼み用意していた小さな船で。
男、キサカは、アスランを、救う為に荒れる海へと出航したのだった。

漸く辿り着いた沈没ポイントでキサカは錘を降ろし、船が流されないように固定する。
しかしこの荒れでは時間の問題だ。
一刻も争う事態にキサカはダイビングスーツを着用し、酸素ボンベと水中で捜索し救出する為に必要な道具を担いで水中へと潜行していく。

直ぐに目的の物は発見できた。
機体は予想どおりバラバラで、辛うじてコクピット部分は砕かれていなかった事にほんの僅かだけ安堵する。
そしてコクピットを器具で固定し、再び海面へと浮上する。
船内に戻ったキサカはゆっくりと船が傾かないようにコクピットを海中から引き上げていく。
やがて海面へとあがったコクピットのセーフティシャッターを工具でこじ開けると。

「な………っ!」

キサカは、余りの惨状に、息を飲んだ。

コクピット内部は、血の海だった。

その中でぐったりとしているアスランと名も知らぬ少女二人が流した血だろう。
しかし圧倒的にアスランの流した血が多かった。

「なんて事だ…!」
撃墜されて無事ですむとは思ってもいなかったが、しかし予想を遥かに超えていた。
キサカは直ぐにアスランを担ぎ出そうとして、シートにかぶさるように気絶している彼の呼吸がおかしい事に気付く。
ひゅうと喉を鳴らし、殆ど息をしていない。
瞬間的にアスランの容体の悪さを判断して身体に響かぬように慎重に担ぎ、船内へと連れていく。
その後直ぐに少女も救出し、降ろしていた錘をあげて。

早く行かねば。
彼は、死ぬ。

キサカは船に積んでいた通信端末を開き、姫がいるであろう『大天使』に呼び掛けた。

「こちらキサカ。『大天使』に告ぐ。負傷者を発見、救出した。一刻を争う状況の為、乗船を許可されたし。負傷者は二名。一人は少女、もう一人は………かつて『正義』を掲げた同志だ」

きっとこれだけで、あちらには誰か通じるだろう。
例え通信を傍受されたとしても、危険を犯してまでも、彼を連れていかねばならない。

『こちら「大天使」。了解した。直ぐにそちらに迎う』

やがて答えが返ってきて、近くの合流ポイントを確認すると直ぐに通信は切れた。

キサカは船舶に設置された粗末な簡易ベッドに寝かされたアスランを見つめ、舵を握り、必死に荒波の中を操行した。

頼む、死んでくれるな、と。
お前は今ここで死すべき存在ではない、と。





揺れる船の中で、アスランは夢を見た。

赤く染まった水面に一人立つ自分。
辺りには何もなくて光すら灯らない。
行くあてもなく、ただ歩き続けて。

やがて闇の中に一人の少年の姿がうっすらと浮かび、アスランを見つめて涙を流した。

アスランが彼に手を伸ばした瞬間、彼の姿は滲み、赤い水面へと溶けて消えていった。



「………シ………ン」

ひゅう、と喉を鳴らして、アスランが誰かの名を呟いた。

しかしキサカには誰なのか判る筈もなく。




ごふ、と血を吐いてアスランは沈黙した。
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侵食 3 (#37~38)
TB[ - ]  CM[ 0 ]   Edit   2005/11/03[ Thu ] 23:03
暫らくしてキサカがアスランと少女を連れてAAへと合流した。
偶然にも近くに潜伏していた艦は、海中深く潜水し身をひそめながら過日の戦闘で破壊された箇所を修理していたらしかった。

艦の中へと入ったキサカは血塗れのアスランを抱きかかえ、直ぐに近くのクルーに指示を出す。

「今直ぐ医療スタッフを呼べ!。彼は危険な状態だ。一刻も早く緊急手術を!」

その言葉にクルー達は騒然となりながらも手配をする。

キサカは尚も告げた。

「艦にはカガリも居るのだろう?。彼女には何があっても彼の容体を伝えるな!。俺や艦長が良いと云うまで合わせても駄目だ!」

その声は悲壮なものを秘めていて、ぎゅ、と彼は手の中にある物を、握り締めた。

医務室へと担ぎ込まれたアスランの容体を見た医者が言葉を失う。

それ程ひどかった。

左半身は血に塗れ、肩には銃で撃たれた傷が、腕には何かで切り裂き抉った傷があって。胸部は肋骨が砕けて肺を圧迫しているようだった。
最悪、肺に刺さっている可能性もある。
かなりの失血量で、本当に生きているのが不思議な程だった。

戦艦の中には一応手術室も設けられていたが、しかしこの状況を救えるか船内の設備では断言はできなかった。
それでも何とかせねばならない、と。
最善を尽くす、と駆け付けた艦長のマリューと彼の親友でもあるキラに告げて。

扉は閉められた。



暫らくして帰投したMSから降り立ったシンは駆け寄ってくる整備クルーに何も反応を返さず、無言で背中を向けて歩きだす。
その後をレイが追い、二人は沈黙したまま通路を歩いていく。

やがて呆然と通路を歩くシンの前に、一人の少女が現われた。

ルナマリアだった。

保安部の尋問から漸く解放された彼女は、妹が起こした事件を何も知らなかったと判断され釈放されたのだった。
「………ル、ナ」
ルナマリアの姿に気付いたシンは立ち止まり、思わず名を呼ぶ。
するとルナマリアもシンとレイに気付いて。
「………………」
何も云わず、沈黙したまま二人を見つめた。
「………先に行くぞ」
レイが気を利かせたのか、真意は判らなかったが二人だけを残し、その場を立ち去っていく。
「………………………」
残された二人に、重い沈黙がのしかかる。

やがて口を開いたのはシンだった。

「………ごめん」

たった、一言。ごめん、と。

しかしそれだけで、ルナマリアには充分だった。
シンが、アスランを、そして妹のメイリンを、討ったのだと、理解するには充分だった。

「………っ、な、んで………」

俯いたルナマリアから絞りだされた言葉。

「何で、二人を討ったの!?」

二人だけの通路に彼女の悲しい絶叫が響き渡る。
シンが柘榴の眸を閉じて、拳を握り締めて云う。
「………命令、だったんだ………裏切ったから、撃てって………」
しかしシンの呟きはルナマリアを更に激昂させる。
だん、とシンの身体を壁に押しつけて、女性とは思えぬ力でシンを押さえ付けて。

「命令だから!。だから討ったの!?」
「………ああ」
「シンの気持ちは判るわ!。私だって軍属だもの、判るわよ!」
「………」

ルナマリアの言葉がシンの心を、新たにつけられた心の傷を抉る。

「でも!。なんであんたが彼を討つの!」
「………え?」

てっきり妹のメイリンを討ち落とした事を責められていると思ったシンが驚いて彼女を見つめる。

ルナマリアは、泣いていた。
そして。

「あんた、アスランを好きだったんでしょう!?。アスランもあんたを好きだったんでしょう!?。なのに何であんたがアスランを討つのよ!!」

そう叫ぶルナマリアに、シンは眼を見開いて、そしてずる、と壁を伝うようにその場に崩れ落ちた。

「………あ、ぁ………」

がたがたと震えだすシンを、ルナマリアは泣きながら見つめた。

睨むでもなく、責めるでもなく。
シンの立場もよく判っている。逆らえば自分も軍規違反として罰せられる。
だけど、云わずにはいられなかった。
ずっとアスランを見てきたのだ。
憧れて見つめ続けて、そしてシンも逆らいながらも同じように見つめている事に気付いて。

やがてそれは尊敬ではなく恋慕で、しかもアスランもシンの想いに応えた事も。

セイバーが撃墜され、全てが狂いだして二人の関係が歪みだした事も。

ルナマリアは知っていたのだ。

だからシンを責められないし、だけど云わずにはいられなくて。
今、自分しか、シンにそれを、犯した罪を突き付けられるのは自分しか居ないから。

ルナマリアはシンに告げたのだった。

「…ぁ、あ…っ。ルナ…俺、俺…っ」
膝を抱えるように蹲って泣きだしたシンを、ルナマリアは強く抱き締めた。
「判ってる…シンが辛いのも判ってる…。私も、同じ立場なら…メイリンを、討つと思う…。だから私はメイリンの事はあんたを責められない…」
泣きながら告げるルナマリアを、シンが縋るように抱き返す。

「でも…忘れないで…シン。あんたは、アスランを、好きだったんでしょ…それは忘れないで…」
「ルナ、ルナ…っ!」
「どうして…こんな事になったの…っ」

泣き崩れる彼女に返す言葉もなく。
暫らく二人は通路の片隅で互いを抱き締めあい、泣きじゃくり続けた。




「キラ、艦長。これを…」

閉ざされた手術室は未だ開かれる事なく、その前から動かずに見守っていた二人にキサカがある物を差し出した。
「何ですか?、これは…」
マリューが尋ねたそれは、キサカの手のひらにのせられた、小さな赤い物。

否、赤く見えたのは、血だった。

「…血?。まさか、これ…っ」

赤い色が血だと気付き、キラがぞくり、と背筋を震わせた。

「…彼が、自ら腕を切り開き埋め込んで体内に隠していた物です」
「アスランが!?」

キサカの言葉に二人は息を飲んだ。



数時間前、まだAAに合流する前に、それは渡された。
気絶したままのアスランが意識を取り戻し、しかし朦朧としながらもキサカを呼んだのだった。
半ば死にかけているアスランがキサカを認識出来ていたのかは判らない。
しかし呻き苦しみながらもアスランは口を開いて。

「…たの、む………これを…キ…ラか………ラ、ク…に……渡して、く…れ…」

血を吐きながらもアスランは右手で左腕の傷に触れ、そしてその傷を自ら抉りだした。

「………っ、お願い…だ、これ…を………」

恐らく想像以上の激痛だろう。しかし悲鳴をあげる力すらないアスランは、微かに呻くだけで瀕死の自分を更に傷つけて左腕から何かを取り出し、メモリーをキサカに差し出した。

「………これ、を…渡し、て……」

息も絶え絶えに必死に渡そうとする。
キサカが血塗れのそれを受け取ると、アスランは青ざめた顔で、ふ、と微笑を浮かべて。

「………頼み………ま、す」

そう呟いて、再度気を失ったのだ。



キサカから告げられた事実にマリューは口を押さえ涙が零れるのを堪えていて。
キラは沈黙して唇を噛み締めて扉の向こうで生死を彷徨うアスランを思った。

恐らく、自分では、傷つき果てた身体では、渡す事は不可能だと。
だからキサカに託したのだ。
死ぬと覚悟した上で復隊したザフトを抜け、そして討たれてまでも渡したかったこれを。

キラはキサカから受け取った、アスランの血に塗れたメモリーを、ぎゅ、と握り締めた。
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