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管理人ひさこによるガンダムSEED DESTINY及び蒼穹のファフナーのファンサイトブログです。オフィシャル等とは一切関連はございません。
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【肩に在る温もり】
TB[ - ]  CM[ - ]  Edit   2007/02/21[ Wed ] 23:33
閉じた瞼の向こうに眩い朝陽を感じた時、人は眠りから目覚める。穏やかな目覚めの時は、大概それまで閉じていた意識がゆっくりと光に向かって開けていくのだけれど。

「………んう?」

そっと開いた瞼の直ぐ傍に、やっぱり在るのは見慣れた情景。
遮光カーテンからでも漏れる程に眩しい朝陽と、光に照らされ出した静かな寝室、肌を包む暖かな毛布と沈む躯を受け止めるマットの心地好さ。

そして。

視界いっぱいの、黒い毛だまり。

寝相はいい方だと自他共に認めるアスランだったが、姿勢正しく仰向けに寝ながら僅かに傾げた首と肩の隙間に、それ、は在った。
「シン…」
「………」
アスランに寄り添うように、というよりも摺り寄って横向きにシンが眠っていた。黒い毛だまりに見えたのは無論シンの頭である。顔こそアスランの肩に寄せているから見えはしないのだけれど、ぴったりとくっついてスヤスヤと気持ちよさげな寝息をたてながら眠っている。アスランが名を呼んでも眼は開かない。
「シン…おい、朝だぞ」
「んぅー………」
休日ならばまだ寝させてやりたいが、しかしそうもいかない。室内の明るさを見るだけでも今起きなければならない時刻なのだと、まだ眠気の残る頭でも察する事が出来た。シンだけでなく自分も起きねばならない時刻だ、とアスランは傾げていた首を動かして、そうして突き出すようにした顎で肩にくっついたシンの頭をつついた。
「シン起きろ」
硬そうで意外と柔らかい黒髪の、つむじの辺りを顎で何度かつつけば、然程時間を要せずにシンが目を醒ました。
「んー、もう…朝…?」
「ああ、起きろ」
「判ったー………」
まだ寝惚けているのだろう、つつかれた頭を擽ったそうに小さく振りながらシンがぼんやりと瞼を開く。一足先に目を醒ましたアスランは、するり、と寄り添うシンから離れてベッドから起き出した。白と青のストライプ柄のパジャマだけでは寝起きだと流石にうっすら寒さを感じる。ぶるり、と肩を小さく震わせると、アスランは後ろを振り返って未だ毛布に埋もれたシンに告げた。
「パンはクロワッサンとバターロール、どっちがいいんだ?」
「んー…、バターロール………」
ベッド脇に置いていたガウンを着ながら尋ねれば、シンはうつらうつらと寝惚けた声で律儀に返す。しかしまだ瞼はトロンと半分閉じかかっているけれど。
「コーヒーは?」
「紅茶がいいー…」
「…いつものブレンドでいいな」
「えー、ケチー…。あ、ジャムはアプリコット以外のー…。あれ甘くて嫌だー…」
寝惚けている子供の我儘など聞けるか、とアスランは慣れた態度でシンのリクエストを却下する。別に紅茶を入れてやってもいいが、目を醒まさせるならばコーヒーの方が良いだろう。それでなくとも毎日毎朝こんな会話を繰り返していれば、寝起きのシンの言葉などいちいち聞いていられない。
寝室を出ようとしたアスランが再びベッドを振り返って。やはりというか、睡魔に負けて二度寝しかけているシンに、室内の空気に触れて完全に目覚めたアスランの凛とした声が届けられる。

「10分以内に起床。その後着替と洗顔を終えたらリビングに集合。いいな!」
「………イエス、サー」

穏やかな朝には不似合いな命令口調に対し、寝惚けて多少間抜けな返答が、それでも毛布の中から返ってきたのは誉めてやろう。

リビングに繋がったダイニングキッチンに向かうとアスランは直ぐに朝食の準備を始めた。自分はカリカリに焼いたクロワッサンを、シンには温めたふわふわのバターロールを、各々用意して。昨夜寝る前に茹でて下拵えしていた野菜で温野菜サラダを作り、ハムエッグを盛り付けた皿と一緒にテーブルに並べる。
パンにはアスランはいつも無塩バターだけれど、シンはジャムがお気に入りだ。しかし好みは煩く、甘いのは嫌だとほざく。
仕方ないだろ、ラクスから贈られてきたアプリコットのジャム、開封してしまったんだから早く食べきってもらわねば、と。先程シンに拒否されたアプリコットジャムの瓶をアスランは気にせず並べて。甘い物は余り好まない自分がそれを食べるという選択は皆無らしかった。

コーヒーのいい薫りが漂い始めてきた。いっぺんに落とせば手間も省けるのだけれど、自分用に落としたブルーマウンテンとは別にシンの為にブレンドしたアメリカンを落としている。先に落としたブルーマウンテンをカップに注ぎ、シンのアメリカンが落とし終わるのを眺めながら飲んでいると。
「おはよー」
とシンが漸くリビングにやってきた。
「遅いぞ、五分遅刻だ」
「アンタねぇ、顔洗ってりゃそん位かかるよっ」
「冗談だ。ほら、朝食出来てるから」
「ん」
上官のように偉そうな口調で若干の遅れを追求すれば、シンが片目をしかめて軽く睨んでくる。互いにジョークだと判っているから、唇の端はにこやかに上がっていて。
カウンターに並んで座り、共に朝食を取る。アスランがクロワッサンに無塩バターを塗っていると、隣でシンがぼやきだした。
「ちょっと、俺アプリコットは嫌だって云ったじゃん」
「嫌なら早く食べきってしまえ。悪くなる」
「うぇー、横暴だー!」
「我儘云うな」
口を突き出して朝から元気いっぱいに文句を垂れるシンに、アスランは少し冷めたコーヒーをすすりながら隣の黒い頭を軽く撫でた。掌に伝わる柔らかさが心地好い。
「アンタ俺の事愛してないでしょー」
「何でそうなる?」
「だって俺の言うとおりにしてくんない!」
「子供の我儘全部聞いてたらきりがない。たまには躾も必要だろう」
朝から軽口を叩きあうのもすっかり日課になってしまった。昔なら素直じゃないシンと頑固なアスランはしょっちゅう喧嘩を繰り返していたけれど。
「俺ガキかよ!」
「違ったか?」
そう云って、笑いあう。軽口すら爽快に感じて。
「あ、もう行かなきゃ」
「食器下げておけ。俺が洗っておくから」
「うん、すいません」
ふと壁掛け時計に目をやったシンが立ち上がる。もう家を出なくては、と告げる彼に、まだ若干時間に余裕があるアスランは先に行くよう促した。

シンは今オーブのカレッジで機械工学を学んでいる。アスランはモルゲンレーテで技術者みたいな事をして暮らしている。

二人ともに、やっと手に入れたのだ。

何気無い事で笑いあっていられる、穏やかで平和な時間を。

「じゃあ行ってきます」
「ああ、気を付けて行けよ」
「アンタもね」
玄関で靴を履きながらシンが見送るアスランの頬に触れた。つられるようにアスランも瞼を閉じて、シンが背伸びする。

一瞬触れるだけの、朝のキス。

そうしてカレッジに行ったシンを見送り、アスランは再びキッチンへと戻った。朝食の後片付けをする位は時間的に余裕がある。二人分の食器を軽くすすぎ食器洗浄機に入れて。

ふ、と首を傾げて。

朝目覚めた時感じた温もりを、肩に在ったシンの温もりを、想い出す。

ふわ、と微笑みを浮かべ、自ら肩に頬を寄せて。仄かに残るシンの気配に。

これ以上ない程のちっぽけな幸せが、其所には在った。

そしてアスランもまた家を出た。モルゲンレーテに向かい仕事をして、日没後に帰れば今度はシンが夕食を作ってアスランの帰宅を待っていてくれるだろう。また軽口を交わして笑いあい、そうして同じひとつのベッドで眠るのだ。キスをしたり肌に触れたり、時折抱き合ったりして。
そんなごくありふれた日常を、アスランはシンと二人重ねていく。

平和な時間を、ひとつ、ひとつ、重ねて。

いつまでも、愛し合って生きていく。

その証が、肩に残っていた。
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