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管理人ひさこによるガンダムSEED DESTINY及び蒼穹のファフナーのファンサイトブログです。オフィシャル等とは一切関連はございません。
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【月から見上げる宇宙の涯】
TB[ - ]  CM[ - ]  Edit   2007/02/10[ Sat ] 08:56
「アスラン、旅行、行きませんか?」

シンに唐突に云われ、アスランは暫し眼を丸くした。

「いや、そんな暇はないぞ、俺は」
「明日から連休なんですよ?」
「軍に連休もくそもあるか、馬鹿」
ついさっきその勤め先から帰ってきたばかりで、まだ玄関に立ったままのアスランに、シンは世間一般的な感覚で堂々とほざいた。
そりゃ普通はそうかもしれないが、軍に祝日も何も、任務第一だとお前だってよく判っているだろう。とは思うのだけれど口下手なアスランは顔に不快感を滲ませただけで、口をへの字にしたまま無言でシンを睨んで靴を脱ぎ中へと入った。
共に暮らす、この『家』に。

現在、二人はひとつ屋根の下で暮らしていたりする。
アスランは戦後オーブに留まり、相変わらず軍人だったりするけれど、シンはあれからザフトを退役し今はオーブで気楽な学生なんかやっている。その際アスランが保証人になったのだが、ならば寝食も保証しろと言わんばかりにシンが転がりこんできて、今に至る訳だが。
しかし幾ら何でも軍人としての感覚が鈍り過ぎていないか?、とリビングに向かいながらアスランがシンの平和呆けを一瞬疑い出した時だった。
「うん、まぁ、そういうと思ったんですけど。だから先に手を回しておきました」
それまでふてくされた面で後ろをついてきていたシンが、急にあっさり引き下がったのだ。それ所か、何やら不審な言動付きである。
「はい、コレ」
と目の前に差し出されたシンの掌にあった物を見て、アスランは今度こそ愕然とした。
「………お前、これ!」
「俺の努力の結晶です」
「ふざけるな!」
茶化すシンの脳天に一発アスランの拳が飛んだのは言うまでもない。

シンが差し出した物は軍から許可が下りた正式な休暇申請書と、月までのシャトル便のチケットだった。

「大体お前はいつも自分勝手過ぎるんだ」
「アンタここに来てまで説教ですか」
「当然だろう。俺は来ると一言も云ってないぞ!」
「ふざけんなよ、じゃあ何で着いて来たんだよ!」
「それはお前が無理矢理連れ込んだんだろうが!」
「じゃあ今直ぐ降りろーッ!」

そうして、今。エアカータイプのレンタカーに乗って、アスランはシンに連れ去られている所である。いや、正確にはアスランがエアカーを運転させられているのであるが。この場合被害者であるアスランに運転させておいて、降りろ!と助手席のクソガキは怒鳴っている。

あれからアスラン本人の了承もないままに強引に休暇をもぎ取ってきたシンは、ぐだぐだ騒ぐ彼を無理矢理宙港まで連れだし、シャトルに押し込んで、そうして先刻月面都市に到着したのだった。勿論アスランも手足を言葉通り出して逆らったが、シンにとどめの一言を云われて渋々従うしかなかった。

『アンタの休暇はアスハ代表からの命令でもあります!』

そう、シンは戦中に出来たオーブの現国家代表、カガリとのパイプを利用していち民間人の癖にアスランの休暇を軍からもぎ取ってきたのである。
カガリ公認、しかも命令となればもはやアスランに選択権はなかった。
しかしその命令に、任務に真剣に取り組み過ぎて休暇を殆んど取っていないアスランへの気遣いも含まれていた事に、彼自身全く気付いてはいなかった。

やがてエアカーはシンのナビゲーター通りに目的地へとたどり着く。元々此処は幼少時にアスランが住んでいた都市である。シンに案内されなくとも地理は頭に入っているが、しかし連れてこられた場所は初めて訪れた建造物だった。
「此処は?」
「展望台です。月面都市ですからね、此処。視るのはオーブと違って宇宙ですけど」
「へぇ、そんな物が出来ていたんだな」
聞けばアスランが居た頃はなかったというその展望施設は、衛星都市という利点を活かして地球では決して視られない至近距離での宇宙空間を展望出来るという事で、地球からの観光客に人気だという。
こうして観光施設が建設され、地球と宇宙で人々が行き交う事が出来る治安になったのも戦後平和を迎えたお陰でもあり、当時戦って生き抜いたアスラン達からしてみれば感慨深くなる。
だが今更宇宙なんか、と思わなくもない。実際シャトルで月まで渡航したのであるし、戦中はその宇宙空間を飛び回っていたのに。
アスランにはシンの考えている事が理解出来なかった。
それでもシンはアスランの腕を掴んで展望台の中へと引っ張りこんでいく。建物の中はそれなりに広く、展望ホールがある場所は高い天井と、ぐるりとホールを取り囲む硝子張りの窓があって。当然その先は暗い宇宙の景色しかなくて。
ホールを行き交う観光客を避けながら幾重にも張り巡らされた強化硝子の前にたどり着くと、やっと其処でシンはアスランから離れた。
「アスラン、見て」
そうしてシンが指差した方向には、果てなく広がる宇宙の闇。スペースデブりが星の瞬きに照らされながら永遠に漂う空虚な空間だった。
「………?」
いきなり連れてこられ、よく判らないままに窓の向こうを指さされて。其処に何が在るのか判らなくてアスランが首を傾げた時、シンがぽつりと呟いた。

「ユニウスセブン、もし今も在るとしたら、あっちの方角でしょう?」

その名前を含んだシンの言葉に、アスランは息を飲む。

「お前…」
「俺馬鹿だからいつもバレンタインは浮かれてた。アンタからチョコ貰えないかなとか、アンタに何あげようかな、とか。一応俺達恋人同士、じゃん?」
確かにシンの言う通り、二人はそういう関係である。同性婚がまだ公式に認知されていないオーブでは、当然周囲には隠しているけれど、代表であるカガリには薄々気付かれているらしい。
突然の事にぼんやりとシンの顔を見つめたまま固まったアスランに、シンは苦々しい笑みを浮かべて言った。
「でもさ、アンタいつもバレンタインの時は寂しそうな顔してて、それが何でかよく判らなくて苛々したりもしてた」
「シン…それは…」
「俺まだガキだしね。仕方ないけど」
そう言ってはにかむシンに、アスランの視線は釘付けになる。

「ユニウスセブン。血の………バレンタイン」
「………」
「アンタにとって、悪夢の始まりだった、違う?」

俺にとって、オーブ領土のオノゴロが、悪夢の始まりの地であるように。アンタにとって彼処は全てを狂わせた場所でもあるでしょ。

だから一緒に来て、アンタと一緒に、見たかった。

全てが変わったあの日に想いをはせて、そうして、それでも、前を見て生きている今の自分達を。

何の代わり映えのない日常に安堵と幸福を感じながら。

故人に感謝の念と、安らぎの祈りを、捧げよう。

アスランは一度もシンにユニウスセブンの話をしなかった。勿論知ってはいたけれど、自分の事で一杯で気遣ってやれなかったのかもしれない。まだ精神的に未熟だったから。
だからシンは決めたのだ。自分の成長の為にも、アスランの為にも。

ユニウスセブンに行こう、と。

勿論もう其処は現存していないし、周辺の宙域は今だデブリが散乱していて安易には近寄れないから。だから昔アスランが住んでいた月から眺めよう、と考えたのだけれど。
カガリにも相談したら彼女は賛成してくれた、とシンが照れたようにアスランに真意を伝えた。
「すいません、無理矢理連れてきちゃって」
「いや………」
「怒って、ます?」
「いや………」
「アスラン?」
「………」
声をかけてもアスランはどこかぼんやりと返事を返すから、シンは少々不安になって彼の顔を覗きこんでみた。真正面の硝子の向こうをじっと見つめていたアスランの、翠の眼が。

涙で濡れていて。

「シン、ありがとう」

と一言呟いたきり、もう何も言わなくなった。
シンも何も言わずに、うん、とうなずいて。
二人静かに硝子の向こう側の、全ての悲劇の始まりであり、アスランにとっては今も心をしめる、ユニウスセブンのある暗い星空を眺めて。

きゅ、とただ静かに、手を握って。

ありがとう。生まれてきてくれて、生きててくれて。そしてこうして側に居てくれて。

辛い事ばかりじゃない、と教えてくれて。
前を見て生きていく意味の大切さを教えてくれて。

愛してくれて、本当にありがとう。

アスランにとって忘れられないバレンタインが、またひとつ増えた。悲しみではなく、慈しみのバレンタインの、記憶、だった。
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