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管理人ひさこによるガンダムSEED DESTINY及び蒼穹のファフナーのファンサイトブログです。オフィシャル等とは一切関連はございません。
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真実と幻想と 1
TB[ - ]  CM[ - ]  Edit   2005/09/24[ Sat ] 22:53

何か、に呼ばれたような気がしてアスランは目を醒ました。

「………っ、ぅ、ん………」
未だ眠気の残る目蓋を擦りながらアスランは身体をゆっくりと起こした。静かに部屋の中を見回すと既に朝日は昇り始め、暁の光がカーテン越しに室内をうっすらと照らしだしていた。
ふ、と視線を斜め下に向けると、シンが横向きになってくぅくぅと眠っている。
そうだ、と。アスランはぼんやりしたまま思い出す。昨日はシンに半ば流されるような形で…事に及んで、久々に燃え上がりすぎた。最初は彼に押し切られ、知らずあがる嬌声を抑えていたが、やがて快楽に身を任せてしまうと自らシンを求めて…舐めて銜えて、腰を振っていた。極めても求めあいぐちゃぐちゃになる迄絡み合った。

「………ぅぁぁ………」
膝を立てて顔を埋めた。思い出せば出す程、頬が熱くなる。
俺、何しているんだろう…。
今更ながらの自己嫌悪にアスランは心の中で一人ごちる。
確かにシンの事は好きだけれど。肌を重ね身体を交じらわせた後は必ずこうして羞恥心が沸き起こる。
自分でもこんなに、年下の彼に溺れているんだと。
嫌でも思い知らされる。

「………」
埋めていた顔をあげて隣で眠るシンを見た。

なんて、幸せそうな。
無邪気な顔で眠る彼に、昨夜みせた、アスランを泣かせた『雄』のカオはない。
「………この野郎、嬉しそうに眠りやがって………」
少しむかついて、アスランは目を覚まさないシンの頬を指で突いた。それでもやはり目覚めずぐっすりと眠るシンに、ふぅ、と諦めにも似た溜息をついて微笑を浮かべる。

漸く気持ちが、彼に追い付いたのだと、思う。
彼よりも遅く、告白されて初めて目覚めた恋。付き合いだして何度も夜を共に過ごして、徐々にシンへの想いは増していく。
今じゃ、どっぷり彼にはまっている。
こんな子供に。駄々っ子みたいな幼い少年に。
「…重症、だな。俺も…」
そう呟いて。口調は諦め半分、しかしアスランの表情はとても幸福に満ちていて。…淋しそうな程、幸せ、で。

暫らくシンの寝顔を見ていたが、次第に睡魔が再びアスランに襲ってくる。それに抵抗する事なく、もそもそと毛布の中に潜り込んでアスランは再び眠りについた。シンに寄り添うように、愛しい温もりをその身に感じながらアスランは眠りに落ちていく。




「アスラン、アスラン」
声がした。誰の声…シンの声、だ。
「………っ、ぅ」
重い目蓋を開くと、直ぐ目の前にシンの顔。
「………おはよう、シン………」
「おはよう、アスラン」
ぼんやりと目覚めの挨拶を交わすとシンの唇が下りてきて、ちゅ、と額にキスをされた。抵抗もなく受け入れる。
「起きて。朝ご飯出来てるから」
「………いい、まだ眠い………」
そう云って毛布ごと寝返りをうつアスランを、シンは寝かせてたまるか、と毛布をはぎ取った。
「駄目だから!。ちゃんと朝飯食わないとっ」
「………あー、うー」
「うー、じゃない!。ほら、起きる!!」
無理矢理起こされた。

まだ寝呆けたままのアスランがパジャマ姿でリビングにやってくると、鼻をくすぐる煎れたてのコーヒーの香り。
「まだそんな格好してる…今日はこれから仕事なんでしょ?」
彼の姿にシンがぶつぶつ云って焼きたてのトーストと温めたばかりのマフィンをパン皿に並べていた。
「あぁ、そうだけど…まだ時間はあるだろ」
「そうだけどさ」
「お前は?。今日は朝から?」
「うん、一講目外せないからさ」
「そうか」

二人はこうして毎日を平凡に、だけど幸せに過ごしていた。再びおきてしまった戦争は地球軍がその過ちを認め、プラントのデュランダル議長の元、平和へと歴史の進む方向性を変えて。
戦後アスランはオーブには戻らず、軍を退役したシンと共に暮らしていた。
カガリにその旨を告げると、淋しくなるなとか、頑張れよとか…幸せになれとまで云われたけれど。キラやラクスにまでからかうように云われたけれど…。
シンは至極簡単に軍を退き、今は大学へと通っていた。教師になりたいのだと、本来人好きの彼は他人と接したいと、そう照れ臭そうに云う姿は嬉しそうで、かつて憎しみに眸をぎらつかせていた面影はない。これが本来の彼だったのだろう。平和になり、アスランという大切な人を手に入れて満たされた今は、穏やかに過ごしたい、と思っていたようだ。
アスランもまた軍を退いていた。元から争いをなくしたいが為にザフトに戻ったのだから力や地位に未練はなかった。今は議長の紹介で彼の直属の国家機関の開発部でプログラマーをして生活をしていた。思った以上の高待遇でシンと二人暮らす分は楽に稼げていた。技術面で最高水準のものを持つオーブとも技術提携を結び、互いに情報を交換しながら『軍事利用』されない、『平和』を維持する為の技術を日々作り上げていた。
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Category [ 時系列(No.00)【番外編・短編集】 ]
真実と幻想と 2 (#28)
TB[ - ]  CM[ 0 ]   Edit   2005/09/24[ Sat ] 22:48
「そうだ、今日仕事何時に終わる?」
マフィンを頬張りながらシンが喋る。
「シン、汚い。飛んでるぞ」
しかめ面でコーヒーを啜りながらアスランが注意する。

妙に甲斐甲斐しくアスランの身の回りの世話をするシンも、こんな所はまだ子供じみている。彼も、もう20歳だ。出会った頃は成長過程だった背も随分伸び、今ではアスランの方がシンを見上げねばならない。アスランも22歳になり、さすがに背は伸びなくはなったが、今もすらっと伸びたしなやかな手足は健在だ。

「んぐ。だから、今日は何時に終わる?」
急いで口内に残るマフィンを飲み下してシンがまた尋ねた。
「今日はオーブ側と共同で開発しているプログラムのログをチェックして…その経過をレポートにまとめなきゃいけないから………そうだな、夕方までには終われると思うが」
職種上、以外とアスランの就業時間は不規則だった。

「じゃあさ、終わった後逢わない?」
「逢えるだろ、此処で」
シンの問い掛けにアスランはコーヒーカップを持たない、空いている方の手でテーブルを、自分達の『家』を指差した。しかし途端にシンが憮然とした顔になる。

「…あんたのその鈍さ、好きだけどさ…もう天然記念物だね、その域は」
「は?」
「俺は『外』で逢いたいって云ってんの!。『此処』じゃなくて」
「…あ。そ、そうか、そういう意味か」

漸くシンの言葉の意味を理解して、彼の物言いに反論できない。確かに天然かもしれない。そう思ってまだ寝癖のついたぼさぼさの頭を掻く。

「で?。いいの?」
「ああ。平気だと、思う」
「なんか、はっきりしないなぁ…ま、いいけど。じゃあ終わったら携帯鳴らして?。俺の方が早く終わるからどっかで時間潰してるよ」
一気に約束を取り付けるとシンは立ち上がる。大学に出掛ける時間がきたようだった。
「もう行くのか?」
「うん。あ、食べおわったら食器下げてよ。帰ったら洗うから。ちゃんと水もはっといて」
「…判ってるよ」
いそいそと自分の分の食器を下げながらシンが云う。まるで小姑みたいに云う彼に今度はアスランの方が憮然となる。

シン曰く、アスランは他人の面倒を見て甘えられるのは大好きで、凄くしっかりしているように見えるけれど、実際は自分の事になれば途端に無頓着になる、ずぼらな人間だと。

確かにそうかも、しれない。こうして一緒に生活するまで、一人で自炊などした事はなかった。

「あと服」
「は?、服?」
「またいつものジャケット着てこないでよっ」

…先に釘を刺された。そのつもりだったのに。

「なんだっていいだろ、服位…」
「ダーメ。せっかく久々に外で逢うんだから」
テーブルに肘をついてコーヒーカップを持ちながらとうとう拗ねたアスランにシンは遠慮なく言葉を続けてくる。
「アスラン?、聞いてる?」
全く返事をしないのを不審に思い、シンは彼の顔を覗きこんできた。途端にアスランの手がシンの黒髪をぐい、と掴み引き寄せて。

キス。

「んっ…」
「…ほら、いってこい」
軽く触れただけで直ぐに離れた唇。視線が合うと、アスランはしてやったりな表情をしていた。
されて嬉しいのか、不意打ちで悔しいのか、なんともしがたい顔つきでシンがそのまま玄関へと向かう。アスランも彼を見送る為に食事を一旦やめて後を追った。
ドアノブに手をかけてシンが振り返り、真っすぐな視線をアスランに向けた。アスランは、ん?と少し首を傾げて。

「じゃあ、いってきます」
「ああ、いってらっしゃい」

なんて、普通な、毎日。
なんて、平凡な、日常。

シンが少し身体を屈めてアスランは逆に背伸びをして。お互い幸せそうな笑みを浮かべながら、唇を重ねた。

いつもの情景。毎日の触れ合い。
なんて幸せなのだろうか。

血に塗れ硝煙の中をがむしゃらに突き進んだ記憶は、其処にはない。

一瞬アスランの何か、が『違う』と違和感を覚えた。だが何が違うのか、それが判らない。

「じゃあ後でね」

ドアを開けて外へ行こうとするシンに、また何か、を感じる。

何だろうか、判らないけれど………危険な、予感がする。


「…っ、シン…」
自分でも理解しがたい焦燥感に駆られてアスランが慌ててシンを呼び止めた。否呼び止めようと、した。
Category [ 時系列(No.00)【番外編・短編集】 ]
真実と幻想と 3 (#28)*一部グロいかも。
TB[ - ]  CM[ 0 ]   Edit   2005/09/24[ Sat ] 22:46
刹那、凄まじいまでの光が、高熱を孕んだ光が、ドアの向こうの『外』で輝いた。
『中』に居たアスランの目の前で、『外』に出たシンの姿が、光に包まれて。


一瞬で光に溶かされるかのように焼かれ、崩れていくシンの姿。

肉は溶け骨が吹き飛び流れる血すら、一瞬で蒸発する。



「ぁ、…あ、あ…」

アスランは目を見開いて咄嗟に手を伸ばした。崩れゆくシンに。

しかし次の瞬間光速より遅れて空気を伝わってきた爆発音が衝撃となってアスランを襲う。
玄関の壁に身体を打ち付け激痛に意識を失いかけるが、必死に翡翠の眸はシンを探す。

「シ、ン…っ、シン…シンッ!!」

床に倒れこみながらドアの向こうの『外』を見たが………其処にはシンの姿は、なくて。

「シン…?、シン…っ、シン!!」

在るのは、彼の物だった、肉と骨の一部だけで。

「…っぁ、あ…ぁあ、………ッ」

がたがたと身体が震える。
一瞬で、失った。
幸せも平穏も、愛しい彼も。

何もかもを、失った。

嘘だ。嘘だ嘘だ嘘だ。
こんな、誰か、嘘だと云ってくれ…。

「うわぁぁぁ---ッ!!」

アスランは、『シン』だった物を掻き集めるように、血に塗れながら肉と骨を必死に掻き抱いて。

『外』へと、叫んだ。








「…ン、アスラン…っ」

誰か、が呼んでいる。

誰…?。シン…の、声?。

いや、彼は今、消えた…。では、誰…?。



「アスラン!?」

叫ぶように名を呼ばれてアスランの意識が覚醒した。

「………ぁ」

勢い良く眸を見開き、茫然と視界に映るモノを見た。
朝日に照らされたコンクリートの天井と、自分を覗きこむ、シンの姿。

「あ………シ、ン………?」

思考が完全に停止していて、現状が理解できない。

「大丈夫ですか?」
とても不安そうに尋ねるシンの声に、アスランは漸く視点を彼に定めた。
翡翠に映りこむ、黒髪の少年。未だ幼さの残る柘榴の眼差しの、少年。

「ああ………」
漸く頭がはっきりとしてきてアスランは擦れた声で返答した。

夢、だったのだ。
あの幸せは。
あの悪夢は。

ほぅ、と深く溜息をついてアスランがベッドに横たわっていた身体をゆっくりと起こす。未だ夢の余韻から醒め切れていないのか、力は抜け、かたかたと小さく震えている。

「アスラン…」
「…すまない、起こしたのか…」
俯いて自分を包む毛布を見つめながらも、隣に感じるシンの気配に安堵する。

本当に夢だったのだ、と。

「いえ、俺はいいんです…けど…うなされてましたよ…?」
「………ああ、ちょっと………夢を、見た…」
広いとはいえないベッドの隣に座り、心配そうに声を掛けるシン。アスランはゆっくりと首を動かして彼を見つめた。

夢の中の青年とは違う、今のシン。それがひどく胸を締め付ける。
Category [ 時系列(No.00)【番外編・短編集】 ]
真実と幻想と 4 (#28)
TB[ - ]  CM[ 0 ]   Edit   2005/09/24[ Sat ] 22:43
「…アスラン…」
じ、と暫らく彼を見つめていると急にシンがごくり、と喉を鳴らして息を飲み込んだ。
そして彼の手がそっと延びて凝視しているアスランの目元を掠めた。
触れた途端に肌に吸い付く水の感触。

「アスラン」

その時初めて己が泣いていた事に気付いた。

「…ぁ…、お、れ………」
シンが優しい仕草でアスランの涙を拭う。

何度も何度も。
愛おしそうに、物悲しそうに、彼を見つめながら。

「…は、はは…」
泣きながらアスランは微笑う。

たかが夢で泣く自分に。
たかが夢なのに、ひどく安堵している自分に。

「アスラン」
知らず溢れる涙を何度も拭いながら名を呼ぶシンに、アスランは崩れるようにその身を重ねた。
勢いで倒れこみながらシンはアスランの身体を抱き留めて、きゅ、と彼の背中に手を回した。
藍の髪を広げシンの胸に顔を埋めて、アスランは彼の心音を聞いてまた涙を流す。

生きている。彼も自分も。
あれは夢。失っていない。
夢の最後で覚えた違和感は、こういう事だったのかと。

あれは夢。今の戦況ではありえない幸せの未来。
ザフト、地球軍、そしてオーブまでもが加わった三つ巴の最悪の戦況で。
今後どうなるかなんて誰もが判らない世界情勢で。

知らず望んだ夢。
知らず恐れた夢。

あれは願望であり、不安。

シンの傍に居たくて、シンを失いたくなくて。

いつのまにか心の中で存在が大きくなっていた事に気付かなかった自分が、無意識に願い恐れた事が夢となって現われたのか。

夢という形で自らの深層心理を突き付けられた。

「シン………」
「アスラン?」
未だ肩を震わせて声もなく泣き続けるアスランが、胸に顔を埋めたままシンの名を呼んだ。
「………シン、シン」
「どうしたんですか?」
急にうなされ、目覚めた後泣きだした彼に激しく動揺しながらも、シンはそれを押し隠して彼を優しく包む。初めて見るはかなげな姿に戸惑いながらも愛しさも感じながら。

「シン………」
守りたい、と思う。
誰よりも強く、でも本質は揺れ続ける彼の心を。
自分が、守りたい、とシンは願う。
「もう、いいから…アスラン」
藍の髪をそっと梳きながらシンは彼に呟いた。
「俺は此処にいるから、安心して…?」
アスランがどんな夢を見てうなされたのか知らない。でも様子からして自分が関わっているのだろう。

「シン………」
「うん」
「………ありがとう」

アスランが、云った。切なそうに、しかし微かに喜びに満ちた声音で。



先程見た幸せな夢が現実となるのか、それとも恐ろしい夢が現実となるのか。
それはまだ判らない。

でも、アスランは願う。

シンに抱き締められながら、ひたすらに願う。



いつか、幸せに、なりたい。
彼と共に、幸せになりたい、と。



近い未来、二人に降り掛かる現実の悪夢を未だ知らぬまま、アスランは心の中で独り呟いた。


アスラン・ザラは、シン・アスカを愛している、と。

愛して、いるのだと………。
Category [ 時系列(No.00)【番外編・短編集】 ]
君にキスしよう 4 『二人』
TB[ 0 ]   CM[ 0 ]   Edit   2005/09/18[ Sun ] 23:22
「君にキスしよう」4…というか、番外編?をR18にUP致しました。
長いです。とっても長いです。

エロでこんなに長くてどうするんじゃ、自分orz。

取り敢えず幸せな二人です、はい。
コレで一応私の中では純情なアスランさんは終わりかな?(笑)。
もう書ききったって感じがするよ(苦笑)。
Category [ 時系列(No.00)【番外編・短編集】 ]
君にキスしよう 3 『彼と彼』 1
TB[ 0 ]   CM[ 0 ]   Edit   2005/09/16[ Fri ] 23:16
シンの行動パターンは、判っていた。

戦艦という限られた空間では行く場所は限られているし、その上何故かアスランと同じだったから、だ。
それは多分彼がアスランを追っていたからというのもあるだろうが、それを抜きにしても、出会った時から彼とよく出会う場所は、必ずあの場所で。

アスランは確信にも似た気持ちで、その『場所』へと歩みだした。

シン、は必ず、居る………と。






あんなにも眩しく照らしていた太陽は、時と共にその高度を下げ、色彩もトパーズのように変えていた。
もう暫らくすればあの地平線に沈んでいくのだろう、橙の柔かな光を水面に散らすように映しこんでいる。
シンはミネルバの上部甲板に居た。格納庫での整備チェックを…アスランの視線から逃げるようにしながら必死に集中して終わらせ、その後ずっと独りで此処にいた。仲間達がレクルームに行こうと誘っても断り、甲板に来てずっと太陽が沈もうとするのを見ていた。
甲板の床に力なく座り込み、拗ねた子供のように膝を抱えて。
ただぼんやりと、太陽と海原を見つめていた。

シンの瞳が夕日に照らされて更にその紅を増していく。



不意に、気配がした。
シンの背後に、誰か、居る。
自分しか居なかった甲板に誰かが来たのだ。
しかし、その気配に気付いてもシンは決して後ろを見ない。
…見たくなかった。


その気配は、アスラン。

ずっと憧れ、恋焦がれた人。


いつの間にか判るようになった彼の気配を、今更自分が間違える筈がない。

シンの姿を思った通りの場所で見つけたアスランは表情を変えず、しかし鼓動を早めた自分を自覚しながら、彼の人に近づいた。

ゆっくり、と距離は縮まる。
二人の全て、の距離、が縮まっていく。


「………シン」
不思議と落ち着いた声。
鼓動は高鳴るのに、アスランはそれを表に出さない。
だがアスランのそんな態度にシンは気持ちがいらつくのを止められない。自分はこんなにも全神経を彼に集中させているのに、それすら気にしないような、声音。

二人の間に沈黙が流れ、やがてシンが沈黙を保ったまま立ち上がり、アスランの方へと歩きだす。
しかし、その顔は決してアスランを見ようとはせず、俯いたままだった。
「シ…」
声を掛けようとしても、シンはその横を過ぎ去ろうとして。思わずアスランは彼の腕を引き掴んだ。

「シンっ」

「………っ!」

瞬間、ばっ、とその腕を振り払われた。視線を交わさぬまま。

「シ、ン…っ」

無意識にしてしまったシンの動作にアスランの声が詰まり、端正な眉をしかめた。シンもまた、顔を逸らした状態で自分の行動に驚いている。
でも今、触れられたくなかった。触れられた箇所が熱く感じられて、自制が効かなくなりそうな気がして恐かった。
だが直ぐにアスランが再びシンの腕を掴んで、今度は力任せにシンを自分の方へと向かせた。その強さにシンが再び振り払おうとしても、アスランは離さない。

「シン!、こっちを向け」

「…っ、………嫌、だ…」

「…な、シンっ」

拒まれた。

その事実にアスランは愕然とする。
告白した日はあんなに必死に思いを伝えようとしていたのに、今度は、拒否された事に。
しかしそれは自分がシンに対してした事と同じで。

胸が、痛んだ。

「シン…話があるんだ…。頼む、こっちを向いてくれ」
今更あの時のシンの気持ちを拒否された事で痛感しても、自分がしてしまった事は変わらないし、消えない。それでもあの時のアスランはその気持ちに気付けなかったし、今だからこそ分かる。

そう、今だからこそ。
話をしたかった。

「シン…俺は…」
アスランの切なそうな声音に逃げるのをやめたシンは俯いたまま、アスランの前でじっとしている。しかしアスランが話し始めた途端だった。
「………いぃ………」
小さい声だった。目の前にいても聞き取りにくい程、小さな声。

「え?」
思わずアスランが聞き返す。シンの表情を見ようと動こうとすると、急にシンが顔を上げた。
Category [ 時系列(No.00)【番外編・短編集】 ]
君にキスしよう 3 『彼と彼』 2
TB[ 0 ]   CM[ 0 ]   Edit   2005/09/16[ Fri ] 23:15
「…っ、もう、いい!!」

シンの感情が、爆発した。
必死に押さえていたのに、アスランに掴まれた腕が熱すぎて止められなくなった。
アスランをようやく真正面から見たシンの眸は紅さを増して、潤んでいた。
今にも溢れそうな涙を隠さずに、ぎっ、とアスランを睨み付けている。
「シ…ン」
彼の迫力に言葉を詰まらせてしまった。
「もういいよ!!、ほっといてくれよッ!!」
「おいっ、シン…だから」
「聞きたくないッ」
物凄い剣幕でアスランの言葉を拒む。もう、止まらなかった。

「どうせあんた、俺の事嫌いなんだろ!?。いつもあんたに逆らって、怒らせてっ。こんな奴、普通は嫌になるよな!!」

アスランに話す隙を与えない程一気にシンの言葉が吐き出される。
「そんな事、自分でも判ってたよっ。どうせ嫌われてるって!。でも、仕方ないだろ。いつの間にかあんたの事好きになってたんだから!!。好きで好きでたまらなくなってたんだから!!」
ありのままの言葉で告げるシンを、アスランは黙って見つめていた。
こんなに激情をぶつけられるのは、かつての仲間、イザーク以来かもしれない。しかし彼とは違う。シンの激情はアスランにむけられた、恋慕。生まれて初めてぶつけられた感情だった。
「自分でも何でなのか判らないけど、あんたがいいんだっ。あんたでなきゃ駄目なんだよ!」
シンの激しい程の恋心に、アスランの中で何かが芽生える。

「でもっ!、………あんたは…俺の事…嫌いだろ」
急にシンが俯いた。先程までの勢いは失われ、声が途切れがちになっていく。
「判って、るよ…聞かなくても…。だから…云わないでよ…聞きたく、ない………あんたの口、から………っ」
そう云ってシンは黙り込んだ。肩を震わせる様が、泣いているのを表していて。アスランが、彼の名を呼んでも首を振って、その先を聞く事を泣いて嫌がった。まるで、子供だ、と。
シンを見てアスランは思う。

駄々をこねるような彼。
好きなのに、気持ちとは裏腹に逆らってしまう彼。
それでも…眸は知らず姿を探してしまう、彼。



ああ。だから。だからこそ、アスランは彼を、シンを…気にしていたのだと。

嫌いになるならとうの昔に嫌いになっていただろう。しかしそんな風に思った事はなくて。手が掛かるとは思っても、彼の視線を、気持ちを、存在を拒む事もなくて。
告白された時は突然すぎて動揺してしまったけれど、不思議と…嫌悪感はなかった事に今更ながら気付く。鈍感だと認めざるをえないだろう。

「…シン」
「………っ」
「シン、シン…」
「…っ、やだ…っ」

優しい声音で彼のまた逃げられないように両腕を掴んで、人の名を呼んでもシンは顔を背けたままで。

そんな仕草すら。

「………シン」
もう一度名を呼び、アスランはシンの首に手を回すようにして、そっと抱き締めた。刹那、驚いて顔を上げたシンは、もう涙でぐちゃぐちゃだったけれど。

そんな彼の顔を見て、アスランは改めて自覚する。


つい先程気付いたばかりの気持ちを。


泣き顔をしたシンの耳元に自らの唇を寄せて、アスランは囁いた。

小さく、本当に小さく、シンに囁く。




『俺も、お前と………同じ、だから………』



「………………え」

シンが、濡れたままの柘榴色の眸を瞬かせた。
「え、………え?」
突然すぎて、頭が回らない。
囁いた後のアスランは、自覚した想いを、たった今告げた想いをどうしたらいいのか判らなくて、彼もまた混乱してシンの肩に顔を埋めた。

「う、そ…。それ、って」
身体が震える。混乱したままの理性より身体が先に反応している。
「…ね、今っ、何て云ったの!?」
思わずシンが聞き返すと、今度はアスランが顔を背けた。しかし、その頬はうっすらと赤く染まって。
「…いや、その…」
アスランにしがみついてくるシンが彼の言葉をじっとまっている。
「だから…同じ、だって………」
顔を背けたまま答えると、急にシンががくん、とその場に座り込む。驚いてアスランが視線を向けた。

「シン?」
「………ッ、やっ、たぁーッ!!」
座り込んだまま、シンが叫んだ。嬉しくて、どうしようもなくて。
「シン、お前…」
思った以上の喜びようにアスランが少し呆れたような声を出す。するとシンが再び立ち上がり、アスランの腕をぐい、と掴んで。
「嬉しいです、俺」
「あ、あぁ…」
「信じらんないくらい嬉しい!」
「…お前なぁ…」
「だって、完全に駄目だと思ってたんですよ!?」
まるで子犬のように体全体で喜びを表現するシンを見て、アスランの中に芽生えたばかりの気持ちが告げている。

『愛しい』と。

「なのにまさか…」
「シン、もういいから…」
まだ騒いでいるシンの唇に指をあて、言葉を封じて。そっと彼の肩に両手を置いて顔を近付けながら目蓋を閉じる。

「今、証拠を、やるから…黙れ」

そんな、彼らしい言い草で。

シンも彼の行動を察して少し背を伸ばして、濡れた眸を閉じた。


直ぐ近づいてくる、しかしゆっくりと感じられるような早さで、二人の唇が。



重なった。







沈みゆく夕日に照らされながら、重なった唇から、想いが伝わる。
ただ触れるだけのキス。
でも、気持ちいい位幸せな、キス。


まだ始まったばかりの、二人。

ずっと想いを寄せていた彼と、告白されて漸く自分の気持ちに気付いた彼。

多分これからもスピードの違いが生じるだろうけれど、きっと直ぐに追い付くだろうから。




いつのまにか沈んだ夕日が、祝福するかの如くやんわりと彼等を包んでいた。
Category [ 時系列(No.00)【番外編・短編集】 ]
君にキスしよう 1 『シン』
TB[ 0 ]   CM[ 0 ]   Edit   2005/09/12[ Mon ] 23:57
「アスランさん…好きです」
「………シ、ン?」
「あんたが、好きなんだ………」

ガーネットのような眸の紅が涙を滲ませて更に彩を増していた。

突然の、彼からの告白。

その炎のような紅、に心を、焼かれた。





「シン!!」
「………」
「おい、シン!!」

いつもの、日常だった。シンがアスランにつっかかって、それを咎めるアスラン。元から反抗的な態度が多い、人付き合いの下手なシンではあったが、何故かアスランには怒りをぶつける事が更に多くて、アスランもまた正直に彼にぶつかっていくものだから二人の激突は今更な日常だった。
だから周りは余り気に留める事もなく、今も格納庫で怒鳴るアスランと、それを無視しているシンの姿を溜息まじりにちら、と見つめるだけだった。

「………っ」
やがてシンがその場から逃げるように背を向けて歩きだした。
「おい、シン!!」
いつもならもっと噛み付いてくる彼が余り反論をしない事に疑問を抱いたアスランが後を追い掛ける。
二人が去った後の格納庫はようやくいつもの雰囲気を取り戻していった。



どうしてかなんて、自分でも判らない。
最初は逢えて嬉しかった。過去の英雄達に余り興味のない自分でも知っている存在-アスラン・ザラ-と出逢えたのだから。でもそれ以上に彼に対しての怒りが強かった。
第二次ヤキン・ドゥーエ戦では公式には記録に残っていないから、その時彼が愛機をジェネシスごと爆破させて数多の人命を救った事と、その後ザフトから亡命して表舞台から姿を消した事だけは人々の噂で聞いて知ってはいたけれど。
その、彼が。今、オーブのアスハと共に、居る。アスラン・ザラではなく、『アレックス・ディノ』という偽物の存在として。
それが、シンにとっては過去の傷をも刺激される程怒りを増幅させた。よりにもよって、シンにとって今最も憎むアスハと、だ。何故憧れである、彼が。
前大戦時に彼に起きた事実を史実しか知らないシンには全く理解出来なくて。


だから、第一印象は最悪で。




「シン」
部屋へと戻るシンをその前の通路でようやく捉まえる事が出来た。アスランがシンの腕をぐい、と掴んで己の方を無理矢理向かせる。しかしシンは俯いたまま、何も云わない。
「………シン?」
様子がおかしい、と鈍さには定評があるアスランでもようやく気付く。
「おい、どうした?」
そう云って肩に手をやろうとして………それは、叶わなかった。

突然の事に、一瞬思考が止まる。
急にシンがアスランの身体を通路の壁に押しつけて、逃げられぬように彼の頭を挟むように両手をついてきた。
「シン…?」
「…アスランさん、好きです」
「………ぇ」
シンの言葉に益々頭が回らない。茫然と立ち尽くすアスランに畳み掛けるようにシンは云い続けた。
「あんた、が………好きだ」
シンの真摯な眸に鼓動が激しくなる。

「あ、ああ。」
ようやく動きだした理性でアスランが声を発すると、シンも、ごくり、と息を飲んでその言葉の続きを待った。
「俺も好きだぞ、シン」
「アスラン、さん………」
アスランの言葉を受けて一瞬シンの顔が嬉しそうに綻んだが、その直後に続く彼の言葉に凍り付く。

「大事な後輩だからな」

「………………ッ」
「だから、お前が心配なんだ、俺は………」
そこまで云って、アスランは言葉を失った。シンが見た事もない、切なそうな表情を浮かべていたからだった。
シンは泣きそうになるのを必死に耐え、どこまでも鈍感な彼の腰に手を回した。
「………判んないの?」
そう云ってもう片方の手でアスランの頬に触れた。そっ、と優しく心の激情を隠すのに必死になりながら。


「俺の『好き』とあんたの『好き』は………違うんだよ?」


「………………え?」

さっと頬を染めながらも切ない表情のシンを間近で見ても、アスランはその真意に気付けずにいた。そんな彼に焦れてシンはアスランの首に抱きつき、背伸びをして………唇を奪った。

ほんの一瞬の、触れるだけの、キス。

「…、んッ」
「…っ、これで判った?」
また、泣きそうな顔でシンが呟くと驚いたアスランがシンの身体を引き剥がす。
「…な、何…っ!?」
ようやく、理解、した。
シンの気持ちを、シンの告白を。…その、意味を。
一気にアスランの顔が赤く染まりたった今奪われた唇を指で隠しながらたじろぐが、背後の壁に阻まれて逃げられない。アスランの狼狽える姿に更にシンが顔をしかめ、今度こそ耐えきれなかった涙がうっすらと眸を潤ませた。
「…云っとくけど、俺本気だから!!。あんたの事!!」
そう叫んで、シンは茫然とするアスランに背を向けて自室へと入っていった。
一人取り残されたアスランは、完全に思考が凍り付いて、ただ立ち尽くしていた。



悔しい。
堪らなく好きなのに。それを必死の思いで伝えても、理解してくれなかった彼の鈍感さに。
勢いでキスした自分を、本気で狼狽して逃げようとした彼の態度に。
………そんな彼を、言葉もなく拒まれた今でも、好きな自分に………。

シンは部屋に入るなり、堪え切れずに泣いた。
ドアに背をつけて俯くと、涙が足元にぱたぱたと落ちていく。

「………っ、ぅ………ぅ」

涙を止める気にもならなかった。それだけ深く、心が傷ついていたから。
口元に手首を押しつけ、漏れる嗚咽を噛み殺すだけで精一杯だった。

多分、今も壁を隔てた向こうに立ちすくんでいるだろう彼に、聞かれたくはなくて。
それがシンの唯一出来る強がりだった。

「ぅ…っ、うぅ………っ」

そのまま、ずるずると座り込んでシンは蹲る。
室内は暗闇に閉ざされたままだった。今この瞬間、同室のレイが居ない偶然を心から感謝して。



いつからだろう。
最初は敵意をむき出しにしていたのに。
アスハと共にいる彼に一方的に敵意を抱いて、勝手に失望して。

なのに。
ユニウス落下事件の時の彼を見て、やはり彼は英雄だと、そう称されるだけの力を持った男なのだと。
改めて彼の凄さを見せ付けられて。
多分、それが、始まりだった。

その後ザフトに復隊して『フェイス』の『アスラン・ザラ』として、シンにとっての憧れの存在としてミネルバに合流した日から今日までずっと。
シンにとってはちぐはぐとも思える彼の言動にいらつきながらも、眸は知らずに彼を追っていた。


居るとうっとうしい、でも、………居ないと、淋しい。


そんな不安定な気持ちを抱えてきた。
彼への想いをいつのまにか自覚してからは更に彼を気にして、彼に気に掛けて欲しくて。

何度告白しようか、秘めたままでいようか、迷い悩んだか判らない。

だから今日の告白だって、自分でも云った後に内心驚いてる。勢いで云うつもりなどなかったから。

駄目だと覚悟はしてたけれど………やはり辛い。


辛すぎて………たまらない。


「………っ、ア、スラ…ンさん………ッ」


シンの、彼を呼ぶ声は、その想いと共に闇に消えていった。
Category [ 時系列(No.00)【番外編・短編集】 ]
君にキスしよう 2 『アスラン』
TB[ 0 ]   CM[ 0 ]   Edit   2005/09/12[ Mon ] 23:47
「隊長、こちらが『セイバー』の整備ログです」
「ああ、ありがとう」
「云われた通り、ここのケーブルを調整してみたのですが………」

格納庫でアスランと整備士の会話が交わされるのをシンは彼らに背を向けるようにして、耳に入ってくるのを煩わしそうに思っていた。


なんて人だ。


あれ以来彼は平然としていた。全く何事もなかったかのように…そう、シンの告白など、始めからなかった、と云わんばかりに。
どんな顔をして逢えばいいか、ずっと悩み続けていた自分を馬鹿にされたようで、そんな『大人』な彼を見て、自分が『子供』と突き付けられたようで。
苛立ちが止まらなかった。



しかし。
あの日以来、…シンに告白された日以来。
アスランは努めて冷静を装っていただけ、だった。
というよりも、アスランにはそれ以外の方法が見つからなかった。私的感情を曝け出せばフェイスという公的立場に支障が出るのは明白だったし、何よりもシンを含めた周囲に、今自分が抱えた混乱を知られたくなかった。

そう、…シンにすら。

感情が余り表情に出ない自らの性格にこんなにも安堵した事はなかった。



「あと、センサーの調整ですが、こちらでいいですか?」
「ああ、充分だ。ありがとう」
うっすらと微笑んでアスランは紅の愛機を見上げた。
小さい傷が無数についたその機体は、それでも紅さを輝かせていて。

シンの、ガーネットのような瞳を、思わせる。

ふ、と浮かんだ考えを必死に振り切って、アスランは『セイバー』から視線を外し、背を向けて歩きだした。
調整のチェックも済んで自室に戻ろうとするアスランの行く先に、シンが、居た。
自分の機体『インパルス』の整備ログを友人でもある若い整備士と一緒に見ていたのだろう。
しかしアスランが近づくと視線を向ける事無く、くるりと身体を動かして自分の機体へと歩みだす。
「おい、シン?」
話の途中で立ち去られた整備士が戸惑いながら彼の後を追った。

完全に、避けられている。いくら鈍いアスランでもそれ位は判っていた。
でも、掛ける言葉も、見つからない。
小さく溜息をついて歩を進めるアスランに、何処から現われたのか、 ルナマリアが声をかけた。
「隊長」
「ああ、君か。『ザク』の整備はどうだ?」
「ええ、それは順調ですけど…」
そこで語尾を濁した彼女に、強気な彼女らしくないな、と思いアスランは聞き返した。
「けど?」
「…ええ。シン、なんか…様子がおかしくないですか?」


どきり、と胸が鳴った。


「最近、なんかおかしいですよね?。ちょっと前はあんなに隊長に突っ掛かってたのに今じゃ何だか避けてるみたいで」
「………」
「隊長も、気付いているんでしょ?」

「………え?」

「だって、前と逆なんですもの。前はシンがよく隊長を見てたのに、今は逆。隊長がシンを見てるから」



ルナマリアの言葉が、アスランの思考を完全に停止させた。





それからどうやって彼女の問いに答えたのか、全く記憶にない。多分しどろもどろになっていただろう。彼女の不思議そうな表情だけはよく覚えている。

気付くとアスランはいつのまにか自室に戻ってきていて。ベッドの端に座っていた。


誰が、誰を、見ている?。
前はシンが、アスランを、見ていた。今はアスランが、シンを見ている。


「………う、そ…だろ………」

無意識に出た言葉。
ルナマリアの感の良さに感嘆しつつも、自分でも気付かなかった視線の先を見抜かれていた事に驚愕する。
確かにあの日以来、心ではシンを気にしては、いた。でもそれを周囲に悟られぬように平静を装っていたのに。

女のカンは、恐い。
アスランですら気付かなかった事なのに。
早く気付いてやれ、と突き付けられたようだ。

「………あー。もう………」
そのままアスランは無造作にベッドに寝転んで。両手で自分の頭を抱えた。


確かに、見ていた。シンを、自分は見ていた。


それまでは余り見る事なく、むしろ向こうからの視線に気付く事が多くて。声を掛けると必ず憎まれ口を叩かれて………。

ああ、そうか、と漸く納得する。シンは、自分が、好きで、だから、見ていた。そしてその想いに気付かない自分に対して憤りを感じて、いたんだ。

そして今。シンの告白をうけて、その立場が逆転している事にも。

突然の告白に戸惑ってシンを避けようとしていて、でも出来ずに彼を見ていた自分。
告白されて初めて、彼を意識しはじめた自分。
無意識に誰かを気に掛けるなんて、生まれて初めてで。

「………本当に俺は馬鹿だな」


つまりは、そういう事、だ。

まだはっきりとはしていないけれど、多分そういう事なんだろう。

「俺は………」

アスランの独白が室内の空気に響いて消えていく。

確かめよう。
シンの気持ちを。自分の、気持ちを。

ここでじっとしていても、きっと答えは出ない。
アスランは決心して、ベッドから起き上がって部屋を後にした。
Category [ 時系列(No.00)【番外編・短編集】 ]
最後の幸福 1
TB[ 0 ]   CM[ 0 ]   Edit   2005/09/11[ Sun ] 17:35
「こういうの、シアワセ、って云うのかな…」



今だセックスの余韻が抜け切らない身体を気怠げに投げ出していたシンが、ぽそ、と呟く。

すると、シンの身体の下で先程まで荒々しい吐息をはいていたアスランが眉をひそめて、力任せに彼の頭をこづく。イカされすぎて、ぐったりとしていた身体の、どこにそんな力が残っていたのか、と思う位、強い力で。
「お、まえ…。人を、さ、んざ…んいいように、して、…そんな事、云う、か…?」
まだ息は整わないらしい。切れ切れに紡がれた言葉と共に翡翠の眼が細められて、睨まれた。

「あ、ごめんなさい」
本気で謝る馬鹿が、何処にいるんだ。この流れで謝る方が普通はひどくはないか?。謝る位なら否定するなり、誤魔化すなりするだろう。普通。
内心毒づきながらもアスランは深く、深く溜息をついて、下からシンをぎゅう、と抱き締めた。されるがまま抱き寄せられた彼の吐息が胸元に触れて、心地よい。

「………で?。なんで急に、そんな事云いだしたんだ?」
アスランは胸元に顔を埋めているシンの黒髪を優しく梳きながら問い掛けた。何かに思い詰めているのか、シンはなかなか直ぐには話さない。言葉がうまく見つからないのかもしれない。でも、馬鹿正直な恋人の事だから、しどろもどろになりながらも答えてくれるだろう。

そんな、小さな、絶対的な、信頼。
………返答によっては、拳が飛ぶかもしれないが。

「………ん、や、………シアワセ、って」
「幸せ?」
「………俺、暫らく………そういうの、忘れてた、から………」
「………………」
今度は、アスランが、沈黙した。
そうだった。シンは、目の前で………家族を、幸福の象徴を、全て失っていたのだ。
想いを通わせ肌を重ねるようになって極最近ではあるけれど、自分の視界に映るシンはいつも嬉しそうだったから、不謹慎にも忘れていた。
まだ16才の少年が、その悲しみから癒されるには幼すぎるし、時間が足りない。アスラン自身も経験のある悲しみだから、それはよく判る。
「シン………お前」
「あ、ごめんなさい。………別に深い意味はないんだけど………ただ」
「いや、いいよ」
深い意味はない。それは、自分との関係に不満があるとか、そういう事ではないという意味だとアスランは直ぐに気付いたから優しい声音でシンに続きを促した。
「………あの日から、ずっと独りだった、から…」
完全に孤独だった訳ではない。レイやルナマリア達がいたから。でもオーブに居た『幸福の時間』とは又違った。今は仲間でも、いづれは戦友となり、………失う可能性も、あるから。
それに仲間で癒されるほどシンの負った傷は浅くない。
傷が深すぎて、何かを求めて貪欲すぎて。

アスラン、という、思い人を手に入れてからも、『幸福の時間』を無理矢理終わらされたあの日から初めて本気で欲しがった存在を得てからも、またいつか失うかもしれないという不安は心の何処かに無意識に残っている。

「………俺」
胸元に顔を埋めたままのシンの肩が小さく、震えた。

「俺は、幸せだよ」

シンの頭ををぎゅっ、と両手で抱き締めてアスランが囁いた。表情を隠したままの黒髪に唇を寄せてひどく優しい声で囁き続ける。
「俺は幸せだよ。お前が居てくれて、幸せだよ」
シンの肩が又小さく震えた。アスランの胸元に埋めていた頭をすりつける。
「…俺も、沢山失くしたけれど…でも今、生きてる」
手を動かして、俯いたままのシンの顔を自分に向けさせて。

「生きて…お前に、出会えた。」

シンの眸は更に赤みを帯びて潤んでいた。顔を見られる事を嫌がることもなく、じっとアスランを見つめて言葉に耳を傾けている。

「だから………俺は幸せだよ」

そう云って微笑んだアスランはとても綺麗で、本当に、幸せそうだった。

アスランとて、シンとよく似た境遇だ。それはシンも知っている事だし、シン以上に辛い経験を沢山している事も知っている。
母を殺され、父に裏切られ、撃たれ、殺されて。
そして、彼にとって『幸せの時間』の象徴でもある、親友と、憎しみ合い、殺し合いを、した。
大人びていてもアスランもまだ18才で、傷を癒すにはまだ若い。
今も時々一人で辛そうに思い悩んでいるのを知っている。
シンと同じく、過去に囚われている事も、知っている。

でも、その彼が、幸せだと。
シンに出会えて、幸せだ、と。


そう………云ってくれた。


「ア、スラン…さ、ん」
「アスラン、でいいと云ってるだろ」
途切れがちになりながら名を呼ぶシンに、敬称で呼ぶなとアスランが困ったように笑った。
こんな、二人きりの時くらい名前で呼びあいたいから。

「………アスラン」
「ん」
名を呼ばれてアスランは今度こそ嬉しそうに首を傾げた。
Category [ 時系列(No.00)【番外編・短編集】 ]
最後の幸福 2
TB[ 0 ]   CM[ 0 ]   Edit   2005/09/11[ Sun ] 17:33

「どう、しよう………」
「は?」
突拍子もない事を又云った恋人に眉をひそめる。
慣れては、いるけれど。
そんな仕草も、シンにとっては。
「俺、すっげぇ………」
「うん」
「嬉しい」
シンにとって、アスランの全てが、愛しい。
それは、アスランも同じだと、翡翠の眸が教えてくれている。
「嬉しいよ、アスラン」
「幸せ、だろ」
「え?」
「だから、今、それを幸せって云うんじゃないか?」
ああ、そうか。
アスランの言葉がすとん、とシンの心に入り込んで染み渡る。
なんて、嬉しい事だろう。
「えへ」
うっすらと涙が滲んだ眸を瞬かせて、ようやくシンが笑った。純粋で真直ぐすぎる彼は涙を見られる事も気にしておらず、更に赤みを増した柘榴の眸を細めて本当に嬉しそうに、笑った。

「…ほら」
そう云って、アスランがシンの身体を押し退けるように起こした。まだ身体はだるいけれど、まあいいか、と思いながら。
突然の事に心底不思議そうな顔をしたシンをベッドの上に座らせて。
「アスラン?」
自分も向かい合うように座り込むと、ぎゅ、とシンの身体を抱き締めた。シンの首に頬をすり寄せて自分の肌を押しつけるように。
「ちょっ、アスラ、ン」
「ん?」
「やばいっ、て…」
誘うような仕草にシンが慌ててアスランの身体を離そうとしたが、アスランは全く動かない。
「何が?」
「………俺、またしたくなる、から………」
さっきまで散々アスランの身体を味わって、もうやめてくれ、と泣かせたばかりなのに。普段ならこういう事に淡泊なアスランをそこまで喘がせて、後で叱られてばかりなのに。

今、アスランから煽られたら、確実に我慢ができない。

「だから…離れて」
「いい、よ」
「…え?、ヱ!?」
「…なんだよ、俺から…誘ったら、その、おかしい、か…?」
自分から決めたのに、恥ずかしそうに云うアスランにシンの鼓動がどきり、と鳴った。

「…俺、もう止まらない、よ」
「ああ」
「あんたが泣いて許してって云っても…止められないから…」
「いい、よ…誘ったのは俺、だから」
ぎゅっ、とシンにしがみつくとアスランは昂ぶる彼の耳元に唇を寄せた。
「俺、が欲しい、から…シン」

恥ずかしそうに、でも欲情した声音で。
「今日、だけだぞ…」

アスランから欲しがるなんて、初めてで。シンはこれ以上ない位熱くなった。
アスランも内心自分の言動に驚いてはいたけれど、欲しい、と思ったのは本当で。誰よりも強いと認めている羞恥心を、捨てた。



今、幸せだ、と思うから。彼にも、思って欲しいから。

シアワセで満たし合いたかったから。


それからのアスランは本当に自分でもどうにかなったのか、と思う位に大胆になった。
自ら進んでシンを舐めたり、舐め合ったりもした。そしてシンの上に乗り掛かり、深く銜え込んで腰を振った。
疲れて身体が動かなくなってもシンに揺すられ喘ぎ続けた。
幾らでも、もっと、と彼を求めた。

シンも何度イッても治まらない熱をアスランにぶつけては果てた。彼を愛撫して中を自分でいっぱいに満たして。

そうしてアスランが全てを出し尽くして、枯れて気を失うまでシンを愛して欲しがり続けた。
シンもそれに答えて、溢れかえってもアスランに熱を注ぎ尽くして。



多分明日は全く身体が使い物にならないだろうな、と後で少し後悔するのだけれど。

明日は『コンディションレッド』発令にならなければいいな、と呑気に思いながら。




二人、『シアワセ』に満たされて、いた。






これ、が、最後のシアワセ、になるとは、思う事なく………。

Category [ 時系列(No.00)【番外編・短編集】 ]
たったひとつのココロ(#36・アスランヴァージョン)
TB[ 0 ]   CM[ 0 ]   Edit   2005/09/07[ Wed ] 23:40
ひとつの、夢があった。
祈りにも似た、願い。

それ、を夢見るには自分のこの手は血にまみれていたけれど。
それでも、夢を、みていた。夢、に魅せられていた。
たったひとつの、夢だった。それさえ叶うのなら何もいらない。この身すら、要らない。
それだけ大切な、アスランにとっては全ての、夢。

前大戦時に、沢山のものを失った。新しく大切なものも得たけれど、失ったものの方が大きすぎた。
それ、に耐えられる程、ココロは成熟していない、から。

殺意に打ち勝てなかった、幼き頃の幸福な記憶。
唯一の愛情を求めた、父からもたらされた弾丸。


半身とも云える程大切な存在との、命を奪い合う瞬間。


多くの同胞、名も知らぬ『敵』という名の、同じ生命。そして-帰るべき『故郷』。



それでも。

ともすれば罪の重さに潰されていただろう自分を、失意の底から救ってくれた、大切なものが、あったから。

己を支え、生きる場所を与えてくれた、カガリ。
迷い戸惑う己に歩むべき道を指し示してくれた、ラクス。

そして。
憎しみと殺意から解放し、許し許される事を教えてくれた、キラ………。

その為にも、彼等の為にも、この夢は捨ててはいけない。何よりも守らなくてはいけない。
自分が存在する為に。



妄嫉にも似た、その夢を、たった一人の少年に別の形で突き付けられた。
想いは、同じ。みている、夢も、同じ。
だけど、彼とは違っていた。まるで昔の己の幻影を眸に映しているような程に。
彼の想いも痛いほど伝わった。この身を引き裂かれそうな程理解できた。
だから、駄目だった。
自分と同じ道を進ませたら駄目だ、と思った。


そう、感じた時から眸は彼を追っていた。

尊敬され、反発されて。
自分はそんなすばらしい存在ではないという意志の弱さと、辛い道を歩もうとするのを止めようとする意志の強さと。
相反する自分を沢山彼に見せてしまった。

それでも、彼-シン-は。

好き、だと。こんなにもちぐはぐな自分を好きなのだと。
紅の眸を真っすぐにむけてきた。
己の事ですら持て余すのに、彼を心配し気に掛ける自分。
そんな自分を、好きだと、彼は、云った。
そして彼の想いを、受け入れた自分。
余りにも似た互いの傷を舐め合うような関係だと理解している。
でも、知らぬ内に彼を心に住み着かせていた自分に気付かされたから。

彼を救いたい、心の傷を癒したい、癒されたい。
まだ見えぬ道を指し示してあげたい。


愛したい、愛されたい、愛し合いたい………。


初めて、自ら願った、この想いを。

ずっと一緒に居たい、と切なそうに呟く、彼の眸を。
好きだ、と真直ぐな気持ちをぶつけてくる、彼の仕草を。
激情に似た欲望を己にぶつけてくる、彼の………肌の熱さを。


大切にしたかった。
それ、は『本当』だった。それ、は『嘘』ではなかった。



しかし、今。
自分は、行く。
彼を、置いて。独り、残して。

すまない、と詫びるココロと、夢を、守ろうとする意志。
連れて行きたいという願いと、光の見えぬ道筋に連れていけないという想い。
揺れる、自分………。
それでも、行かなければいけないのだ。例え、彼を置いても。裏切りと、思われても。
いつか、道が交わるかもしれない。交わらないかもしれない。

それでも、いい。
ココロ、は彼に、置いてきた。
カラダ、は夢に、むかわせる。

きっと、最初で最後の。
罪人の自分が、望んだ、唯一の存在。
今は判ってもらえなくとも。
ココロは彼と共に。
カラダは夢の為に。

彼と出会う前、願った夢は己の贖罪と、平和な世界。
彼と出会った後、願った夢は………。
幸せな未来で、彼と笑って居られるように。
彼とともに過ごしていつのまにか変わった、夢。

その為だけに。
行くのだ。





『あ、んたが、悪いんだ…っ』
「…シン!!」
『あんたが、裏切るからッ!!』
「シンーッ!!」


告白にも似た、慟哭。


そして。
刹那の閃光。


-シン、俺はお前を、置いていくけれど-


一瞬の爆音。


-オレハオマエヲ、アイシテイルカラ-



永遠の、沈黙………。




何処にも届く事のなかった、独白---。





2005/09/08 UP
Category [ 時系列(No.00)【番外編・短編集】 ]
たったひとつのココロ(#36・シンヴァージョン)
TB[ 0 ]   CM[ 0 ]   Edit   2005/09/07[ Wed ] 23:36
厭だ、厭だ厭だ厭だ―――。
又、失う。又、壊される。又、独りに、なる。
守りたい、のに。失いたくない、のに。

どうして。大事にしたいと想うものは、守りたいと願うものは、どうしてこうも自分の掌からすりぬけていくのだろう。
妹を-家族を-失い、ステラを守れず、そして…今。


アスラン、が離れていく-。


憧れていた、強い姿に。
だから反発していた。はかない姿に。
好きだった。とてもとても、好きだった。
迷い悩む弱いココロを守りたくて、感嘆する程の力を持つ、その背中を見ていたくて。
傍にいたくて。
但、それだけ、で…。


なのに何故。今、彼は自分の前に居るのだろう。
殺すべき『敵』として。

ずっと一緒に居たいと、そう囁いた自分に『ああ』と微笑って答えてくれた、彼の眸。
好きです、と告白した自分に黙って頷いてくれた、彼の仕草。
止まらない欲望をぶつける自分を優しく、そして力強く抱き締め返してくれた、彼の…肌の熱さ。


それ、は全て『本当』だと思っていたのに。
それ、は全て『嘘』だったのだろうか?。


こんな時代に、ずっと一緒に居られるなんて、無理な事だと判ってはいた。
でも彼-アスラン-とならば、大丈夫、と信じてた。信じていたかった。



しかし。今、彼は行く。自分を捨て置いて、違う処へ。



判ってた。本当は、判って、いたんだ。
アスランの碧の眸は目の前に居る自分ではなく、その先の-何か-をずっと見ていた事を。
ひと時の情欲より、永遠の愛よりも、大事なものがあると。彼の存在はその為に在るんだと、判って…いた。
だから彼が何時か何処かへ行ってしまうとココロのどこかで知って、いたのに。それを認めたくなくて、これ以上失いたくなくて、『告白』と『束縛』で彼を繋ぎ止めようとしていた自分が愚かだったのだろうか?。
否、そうは思いたくない。だって、好きなんだ。愛しているんだ。一緒に居たいだけなんだ。



ただ、それだけ、だったんだ………。



全てを失い、何もないシンが、最後に心から望んだ、唯一の『存在』。
もう彼すら失ったら、自分は、壊れる。
そう、『壊れる』んだ、と。

なのに彼は、アスランは行く。行ってしまう。
シンを、置き去りにして。
何を云っても何をしても失ってしまうのなら。
変えられない『運命』だというのなら………。




………そうだ。壊そう。

『彼』を壊そう。
『自分』を壊そう。
アスランも、シンも、想いも、記憶も。何もかも『全て』を。


今、この手で壊して、やる。失う前に、壊れる前に。




脆い少年の『ココロ』が紅い涙を流していた。




「あ、んたが、悪いんだ………」
『…シン!!』
「あんたが、裏切るからーッ!!」
『シンーッ!!』

お互いの慟哭。

声はココロに響かない。
キモチはココロに、届かない。



そして。

刹那の閃光。一瞬の爆音。


永遠の、沈黙。





2005/09/08 UP
Category [ 時系列(No.00)【番外編・短編集】 ]
一瞬の夏
TB[ 0 ]   CM[ 0 ]   Edit   2005/09/07[ Wed ] 23:32
嬉しかった。
幸せだ、と思った。
…愛しい、と思った………。





空を、見ていた。ただぼんやりと上を見上げてアスランは目の前に広がる青空を見ていた。

天然の砂浜の感触とふわりと髪をかきあげる心地好い風に、此処が『地上』だという事を不意に思い出す。生まれてからずっと『宇宙』しか知らなかったアスランにとって人工ではない自然の風景は新鮮すぎてどこか異世界のようにも感じていた。ヤキンドゥーエ戦の後、オーブに亡命し、その地を終の住みかと決めてからもその感覚は心の何処かに残っていたようだった。
確かに、オーブに来てからも安穏とした日々は訪れなかった事を思えば、『自然』に馴れ親しむ余裕などなかったのだろう。だからこうして碧い水面が広がる海辺にいても現実感が薄かったのかもしれない。

「アスランさん」
砂浜に座ってそんな事を思いながら空を見上げていると、前方から急に名前を呼ばれ意識を空から地上へと引き戻された。
「アスランさん、何見てたんですか?」
「…ああ、空を見てた」
アスランが向けた視線の先に居たのは、シンだった。シンは砂浜に座っているアスランを置いて一人波打ち際ではしゃいでいた。靴を浜に放り投げジーンズの裾を膝下まで捲り上げたシンは浅瀬を楽しそうに歩いている。
「空なんていつでも見れますよ。それよりこっちに来ませんか?。すっげぇ気持ちいいですよー」
声の調子からしてシンがどれだけ今を楽しんでいるかよく判る。
「いや、俺はもう少しここで休んでるよ」
そう云ってアスランは波打ち際にいるシンに、微笑んでみせた。

再び開戦となり日々緊張感に包まれた閉塞した状況の中、不意に訪れた休息。まだ戦況は緊迫していたがそうすぐには戦闘は行なわれそうにないのと、物資を補給せねばならなかった事もありミネルバからの下艦許可が出た。特に何も予定がなかったアスランをシンが誘い出し、二人きりで街に出た帰り道、偶然通り掛かった海岸線で一時の休息をとっていたのだった。

「そんな事云って、もう疲れちゃったんですかー?」
「いや、そういう訳ではないが………」
「じじくさいですよ、隊長ー」
「………ッ、じ………っ」 
いたずらっ子のように笑って云うシンの言葉に思わず言葉を失う。
「俺はまだ18だっ!!」
先程までの和やかな雰囲気をぶち壊され、思考が止まったアスランは何処か論点がずれた反論をした。
「そんな事知ってますよー。ただ云ってみただけですー」
「………あのなぁ………」
ふぅ、とつい溜息をついてしまった。
確かにまだ自分は18なのだ。年令の割に大人びた風貌と常に冷静な態度が若さを感じさせないのかもしれないが、視界に映るシンとはたった二つしか離れていない。なのにこんなにも自分は『大人』で彼は『子供』だと思えてしまう。多分それは元々の性格の違いもあるのだろう。それだけ彼は良くも悪くも素直で正直だった。己よりも周囲の事ばかり考えてしまう自分には羨ましくもある。

しかし。こんな時つい考えてしまう事がある。

何故、彼なのだろう。
何故、彼を選んだのだろう。

ミネルバに『フェイス』の『アスラン・ザラ』として乗艦してからまだわずかの時間しか過ごしていないのに、その間彼とは衝突ばかり繰り返していたのに。
気付いたら眸は彼を追い掛けていた。彼ばかり意識していた。それは相手も同じで、半ば無理矢理な口付けと共に彼の方から告白してきた。突然の事に驚き戸惑う自分に対し真剣な想いをぶつけてくる彼。

『………好きです、あんたの事が好き、なんだよ…アスランさん…』
『………あぁ、知ってる………。俺、もだ………シン』

そうしてお互いの想いを受けとめて。誰にも云えぬ秘密の恋物語を綴り始めたのはつい最近の事だったはずだ。でも、今も不思議に思う自分が心の何処かに居る。何故、彼-シン・アスカ-でなければいけなかったのだろうと。
けして恋愛に慣れている訳ではない、むしろ奥手だと自覚してるのに、彼に対してはすんなりとその存在を受け入れてしまっている。既に何度も肌も重ねた。何も知らなかった己の身体に快楽を教えられた。
心は彼を常に欲しているのも知っている。でも理性の一部が心のスピードに追い付けないでいた。



「アスランさん?」
不意に名を呼ばれてアスランの意識が目の前の少年にむけられる。いつのまにかシンは波打ち際から離れ、アスランが座る砂浜まで来ていた。屈んで少し心配そうに見つめてくる柘榴色の眸。
「…あ、いや、何でもない」
「そうですか?。怒っちゃったかと思って、俺慌てたんですよー」
「…なら、云うなよ…」
思わず脱力する。怒っていない事が判ったシンは嬉しそうにへへ、と笑うと座り込んでいるアスランの肩に手を置いて、その耳元に唇を寄せた。
「好きです」
言葉と共に軽く触れてくる唇。驚いたアスランがシンを見上げると、彼の瞳は返答を求めているように見つめ返してくる。いつも、愛を囁く時に見せる表情。
「こんな所でするんじゃない、シン」
人一倍羞恥心が強いせいか、アスランの頬がさっ、と赤く染まる。シンが求めた愛の囁きの返答ではなく、返ってきたのはそれを咎める言葉。
「…ちぇ」
判ってはいたけれど案の定なアスランの反応に少し残念そうな声をあげてシンが苦笑する。そして再び波打ち際へと足をむけた。
「まだ時間平気ですよね?」
「あ、あぁ…あと少し位なら大丈夫だ」
アスランの言葉を背で受けとめてシンはまた海辺で白い波と戯れ始めた。先程の冷たい自分の態度も気にしないかのように。アスランは少々罪悪感を感じた。そういえば、自分はまだ彼に『好き』とも伝えていなかった。いつも彼からの告白に同意するだけで、言葉できちんと伝えた事などなかった。不意にその事実に気付く。
ああ、だから彼はいつも『好きだ』と云った後に自分の言葉を待っていたのか、と。
「本当に、馬鹿だな…俺は…」
ぽつりと呟いてシンを見つめる。シンの姿を自然の太陽が照らしていた。日が当たって煌めく彼の姿。まるで夢を見ているような、平和な時間。今、が戦時中だという事を忘れてしまいそうな程、和やかな瞬間。



ああ、とアスランは頭の中でうなづいた。


だからなのか。
だから彼を好きになったのか。


今まで己の心を理解できずにいた部分が判ったような気がした。


それぞれの信念は強く、時に反発し衝突はするけれど、それでもアスランがシンを求めるのは、彼の飾らぬ姿。彼の長所であり欠点でもある、その純粋な心が、己を和ませてくれる。…己の傷を癒してくれる。一人なら気付かなかった、例えば海の碧さや空の蒼さ、そして風の凪ぎを教えてくれる、存在。

だから彼を求めて止まないのだ、と。



アスランはじんわりと心が暖かくなるのを感じていた。好き、だと思っていた。例え言葉にしなくとも彼の事を、シン・アスカの事を好きなのだと。
だが己が思っていた以上に彼の存在が心の中で大きくなっていたようだ。今、改めてそれを思い知らされる。

「シン」
「なんですかー?」
名を呼ぶと直ぐに彼が振りかえる。
「シン、シン」
「だからなんですかー!!」 
何度も名前を呼ばれてシンが怒鳴る。その姿につい笑みがこぼれた。
「人を犬を呼ぶみたいにみたいに呼ばないで下さいよっ」
名を何度も呼ばれ、しまいには笑われて。突然のアスランの行動が判らず、ぷぅ、と頬を膨らませて拗ねるシンに、アスランは今だ止まらぬ笑いを何とか堪えて、云った。



多分、言葉にした途端、柘榴色の目を大きく見開いて、しかし直ぐに嬉しそうに笑って全身で喜びを表しながら自分に向かって走ってくるだろう彼に。

一回り大きい自分の身体をぎゅう、と力強く抱き締めてくれるだろう、シン・アスカに。



アスランは、云った。





「シン、俺もお前が好きだよ」





2005/08/31 UP (2005/09/04 改稿)
Category [ 時系列(No.00)【番外編・短編集】 ]
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