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管理人ひさこによるガンダムSEED DESTINY及び蒼穹のファフナーのファンサイトブログです。オフィシャル等とは一切関連はございません。
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茜さす帰路照らされど 18 (#37)
TB[ - ]  CM[ 0 ]   Edit   2005/10/25[ Tue ] 22:43
荒れ狂う水面に、青の機体が沈んでいく。
海面に叩きつけられた瞬間爆発をおこし、粉々に砕けた鉄の塊が気泡をたてながら暗い海底へと吸い込まれていく。

その様はまるでシンの心境を表しているかのようで。

全てを壊した。全てを壊された。

残ったものは、虚しいまでの空虚なココロだけで。

「…っ、は、ぁ…っ」
シンはコクピットの中で独り俯いて、肩を上下させながら荒い呼吸をしていた。先程までクリアだった視界が急に曇り、急激に何かが冷えていく。

ふと顔を上げると幾つか設置されたモニターのひとつに、レイが映っていて。
ついさっきまで映していた、彼の姿は、そこにはなくて。

シンは無意識に眉をひそめて唇を噛む。

宙に浮いたままのデスティニーにレジェンドがゆっくりと降下して近づいてくる。
「…よくやった、シン」
「………ッ!」
画面越しにレイが云った。非情なまでに冷静な彼の姿を、何故か今は見ていたくなくてシンは顔を背ける。
「俺達の任務は終わった」
「…っ!?。任務…?」
「ああ。そうだ…任務だ」
レイの言葉にシンは驚きながら再びモニターの彼を見る。やはり冷静な、普段と変わらない彼の表情。
「………っ、………」
悲しいまでに見開かれた柘榴の眸が次第に呆然となり、シンの感情の揺らぎを映しこんでいく。

「………メ、イリ…ン」

感情のこめられていない、小さい声で。

「ア、ス、ラン………」

今、この荒れ狂う海原に消えた者の名を、呼ぶ。

しかし、返事も、その姿も、何もない。

「俺達は…裏切った彼等を………『敵』を、討ったんだ」
「………ッ!?」
『敵』。
その言葉の持つ意味にシンは飛び上がるようにレイを見つめた。
「俺達は、間違ってはいない。軍人として正しい事をしたんだ。シン」
何一つ顔色を変えず言い切るレイを、これ以上視界に映すのは耐えられなくて。

「戻るぞ、シン。天候が回復したら機体の回収に………」
最後までレイの言葉を聞く事なく、シンは一方的にレジェンドと繋がっていた回線を切った。
殆ど衝動に駆られた行動で。自分でも何故切ったのか判らなかった。

でも。たったひとつ。
判ること。

「………っ、ぅ………」

アスランは、いない。
もう、何処にも、いない。

「ぅ…ッ、ふ…ぅ、う…っ」

俺が、墜とした。
彼を傷つけて、汚して。
そして心も身体も、壊した。
あの瞬間、確かに、彼を壊すと、アスランを、殺すと。
そう決めたのは自分自身だ。

なのに何故こんなにも。

悲しさ、悔しさ、愛しさ、全て心の空虚に飲み込まれていく。

「ふ、う…うッ。ぅ、う…」

子供のようにシートに蹲って。
シンは、静かに泣いた。

レジェンドがデスティニーの腕を掴んで軍港へと飛び立つ。
それでもまだシンは動けなくて。

「………アスラン、アスラン………ッ」

シンの声がコクピットの壁に反響して届く先は、自分だけで。
その言葉を受けとめてくれた人は、何処にもいなかった。





「………………え?」

突然呼び出されたミネルバ艦内の狭い一室で、ルナマリアの吐息のような弱々しい声が響いた。
軍内部で起きた事件や事故に関わる当事者や、その関係者の事情聴取をする為の部屋らしいが、今の今まで自分が此処に呼び出されるとは思わなくて。
出頭を命じられただけでも動揺するのに、今保安部の人間に伝えられた事実にルナマリアは打ちのめされた。

「………う、そ………そんな、まさか………」
「残念だが、事実なのだよ。ルナマリア・ホーク」

頭が、がんがんと、激しく痛む。
視界が歪んで、眸に映る世界全てが回りだす。

助けて、助けて。
誰か、嘘だと云って。
お願い、誰か---。

「君の妹でもある、メイリン・ホークは、脱走兵アスラン・ザラの脱走幇助、及び軍基地内部のメインコンピューターへハッキングし情報操作で撹乱した罪で、彼同様重罪とみなし撃墜された、との報告を先程受けた」

改めてこの事件の詳細を告げられ、辛うじて保たれていたルナマリアの意識が途切れる。
かくん、と崩れる細い身体は座っていた椅子から滑り落ち、床に倒れこんだ。

しかし室内に居た者達は誰も彼女に同情する者はおらず、床に崩れ落ちたルナマリアを冷たく見つめていた。



『………議長』
「ああ、レイ。君か」

デュランダルしか居ない一室に、急に端末の回線が開かれて直通の通信が入る。聞こえてきたのはレイの声で。
デュランダルはこの回線を開けるのは彼以外居ないのを知りつつも、わざとレイだと確認して言葉を返した。
レイは未だレジェンドのコクピット内部にいて、ミネルバが留まる軍港へと帰投する途中で通信を入れてきていた。

『先程命じられた件、無事に任務遂行完了致しました』
「そうか…では彼は?」
『…ええ、シンによって奪取されたグフは爆破し、機体が海に沈んでいくのをこの目で確認しました。しかし悪天候の為、沈んだ機体の回収と、彼らの生存確認はまだ…』
「まあ、それは仕方ないだろう。気にしなくていい。どのみち、あの雷雨の中では思うようにはかどらないだろう。それに万が一生き延びられたとしてもあの海原の真ん中では身動きは取れないからね。幾ら彼でも無傷ではいられない筈だ」
『………はっ』
「そして、レイ?。彼は…シンはどうしている?」

デュランダルが静かに尋ねた。しかしその眸に宿るものは、穏やかさではなく、危険なものを孕んでいる。

『はい。かなりショックを受けているようです』
「そうか。では彼も…」
『いえ、それは大丈夫かと。アスランがシンに話した事もほんの僅か、あれだけでは全てを識る事は不可能でしょう』
「ああ。ではまだ彼は『こちら側』だという事か」

明らかに何か裏を含んだ物言いに、レイがはっきりと言い切った。

『彼は私が選んだ人間です。アスランのように道を外れる事は、絶対に私が阻止します』
「判った。では彼の事は君に全てを任せよう」
『…はっ!』

そして通信はそこで切れた。
再び沈黙が訪れた室内で、デュランダルは眸を伏せて思考を巡らせる。

最後の賭けは、成功した。
せっかく引き入れたアスラン・ザラを失うのは彼の能力からしても痛手だが、どちらにせよ元からAAに近い立場の彼が我が手を離れるのは予想の範囲内だった。
だからそれを利用した。
可能性のあるシン・アスカを、彼の信念を、こちら側に正当性を感じさせる為に、それを維持する為に、アスラン・ザラを利用した。
巧くこちらの導くままに全て進み、そしてシン・アスカはアスラン・ザラを討った。
これで彼は我が手から逃れられない。

デュランダルは唇の端をつりあげて。
静かに微笑を浮かべた。



初めて出逢った時はお互いの印象は最悪で。
何度もぶつかりあい、同じ気持ちを、望む夢を、語っては激突した。
それでもいつのまにか、シンはアスランを知らず見つめ続け、やがて気付いた彼への恋慕に苦悩して。
半ば押しつけた想いを、アスランは戸惑いながらもしっかりと受けとめてくれた。
自然と結ばれて、短い時間の中で互いがなくてはならない、かけがえのない存在になって。

好きだった。愛していた。
共に未来を生きようと、願いはじめていた。

しかし現実は、戦況は、二人を引き裂いていく。

出会いは最悪で。
でもこれからは。
共にありたいと。

迎えた結末は、残酷すぎた。

出会った瞬間に、幸せだった時間に、共に刻んだ記憶に。




もう、後戻りは出来なかった。
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Category [ 時系列(No.04)【茜さす帰路照らされど】 ]
Thread Title[ 機動戦士ガンダムSEEDDESTINY ]   Thread Theme [ アニメ・コミック ]
茜さす帰路照らされど 16 (#37)
TB[ - ]  CM[ 0 ]   Edit   2005/10/24[ Mon ] 23:19
「聞くんだ、シン!」

アスランの叫びがシンのコクピットに響く。

「確かに議長やレイの言葉はお前にとって正しく聞こえるかもしれない!」
「何…!?」
「しかし、では何故お前にその機体を与え、戦わせようとするか、考えた事があるか!?」

「アスラン!!」

アスランが告げる言葉を邪魔するかの如く、レイの叫びが割って入る。
レジェンドが本気で狙いを定めビームライフルを撃ちこむのをシールドで防ぎ、グフがレジェンドにライフルを撃ち反撃する。
邪魔をするな、とアスランは必死でレイを威嚇しながらシンへの通信を止めなかった。

「それは彼らにとってお前は『戦う者』としてしか、お前の存在を必要としていないからだ!。彼らにとって不必要なもの全てをなくす為にそれらを滅ぼす『戦う者』としてのお前が必要なだけだ!。戦争を終わらせたい思いは例え同じであっても、その進む道は違うんだ!」

「ア、スラン…ッ!?」

シンは驚愕し、食い入るように画面に映る彼を見た。その隣のモニターには恐ろしく感じる程の怒気を放つレイの姿もあって。

「そうして彼らは不必要な者、自分達にとっていらない世界全てを殺す!!」

アスランの絶叫にシンだけではなくメイリンも愕然とする。

「俺はそれを…っ」
「シン、聞くな!!。お前を動揺させる作戦だ!!」

アスランの声をかき消すようにレイが叫ぶ。
そして腰部からソードを取出し、今まで少し離れていた上空で戦闘を見守っていたレジェンドがバーニアを全開にしてグフに突進してくる。
咄嗟にアスランはグフを動かしてシールドでその刄を受けとめた。
衝撃がコクピットに伝わり、アスランの傷を刺激する。

「…っ、ぐぅ…ッ!」

しかしグフもソードを抜いてレジェンドへと飛びかかり、刄をぶつけ合う。
切り付けるグフのソードをかわしながらレイがシンに云った。

「アスランの言葉を信じるな!。彼は脱走を正当化する為に自分に都合のいいように話を作っているにすぎない!」
「ふざけるな、レイ!。俺は全て暴いたんだ。議長の事も、そして…レイッ!!」
「惑わされるな、シン!」

真実を告げようとするアスラン、そしてアスランの言葉を遮るレイ、二人が互いに叫びながらソードを振り下ろし、激突しあう。

その様をモニターで見つめたまま呆然としているシンは、どちらの言葉を信じればいいのか、直ぐには選べなくて。

動揺がひろがっていく。

レイは共に戦う仲間で、シンを理解してくれる数少ない同志で。
アスランは今シンにとって唯一残された、最後の『守りたいもの』で。

しかしアスランが告げた真実の片鱗はシンには衝撃を与えすぎていた。

戦う者。
それはシン自ら望んだ事でもあるけれど、アスランも同じ筈なのに、彼は違うと断言する。
今のシンにはまだその違いが判らない。
争いをなくす為に、議長を信じ戦う事は間違っていると。
では、今までシンがしてきた事は?。
議長を信じて戦ってきた己も間違っていると?。
最も心を傾けていたアスランに、シンの全てを全否定されて。

でもレイは、今でもそれが正しいのだと叫ぶ。

完全に戦う意志を見失ったデスティニーは動く事をやめて宙に浮いていた。

「彼は裏切り者だ!。我らを裏切り、議長の志を踏み躙った反逆者だ!。もう以前の彼じゃない!。…アスラン・ザラは、今…『敵』なんだ、シン!!」

レイの叫びが迷うシンを揺らがせる。

「シン、お前は争いをなくす為なら例えどんな敵だろうと戦うと決めたのだろう!?。そしてあのフリーダムも倒した!。そして今、あのAAと同じ意志を持ったアスランを、『敵』となった彼を、討たねば争いはなくならないんだ!」

「レイ、何を…ッ!。シン、レイの言葉を聞くな!。だまされるな、シンーッ!」

二人の言葉がシンを追い詰める。

もし間違っているのなら、ならどうしたら良い?。
シンにはその答えが判らない。

違うというなら、正しい答えを。
正しいというなら、証拠を。

それがなけれはシンは自分の中で彷徨い続ける。

争いをなくしたい。
それが、今でも揺らぐ事ない、シンの全て。

争いをなくす為ならば、戦う。
家族を、ステラを奪い殺した者全てと、戦う。
もう何も失いたくないから、戦う。

そう決めた。
だけど、アスランはシンを一人残して遠くへ行こうと。
一緒にいようと告げたくせに、シンの気持ちを裏切った。
シンの意志も想いも全部知っているのに、シンの全てを否定した。

コクピットのシートに蹲るようにシンは俯いて。
頭の中を、様々な事が駆け巡る。
議長の言葉、レイの言葉。
ルナマリア、仲間達、ステラ。

そして、アスラン。

「…っ、は、はぁ…っ、はぁ、はぁ…ッ!」

シンの呼吸が荒くなり、レバーを握る手が、がくがくと震えて。

判らない。何も、判らない。

ただ一つ、判る事。

アスランガオレヲステテイク。

それだけで。

もう失いたくないのに。
守りたいだけなのに。
だから戦うのに。

アスランは、裏切った。
シンの願いも想いも、夢も。
シンに残された唯一の存在が、シンを裏切ってひとり置き去りにしていく。

厭だ。厭だ厭だ厭だ。

もうなくしたくないんだ。
ただ、それだけなんだ。

でも。アスランは。離れていく。

ならば、もう、それで。

大切なものを又なくす位なら。
目の前でなすすべなく失う前に。

自ら、壊してやる。

やがて、シンを支配していた動揺が理性の一線を越える。
荒い息が止まり、震えていた身体に力がみなぎる。
自分の中で何かが弾けた感覚がシンの思考も神経も全て昂ぶらせていく。

「………ッ!!、うああーーッ!!」

絶叫し、俯いていた顔をあげたシンは、あのフリーダムを倒した時と同じように、『鬼神』の如く、凄まじい気迫を漂わせていた。
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茜さす帰路照らされど 17 (#37)
TB[ - ]  CM[ 0 ]   Edit   2005/10/24[ Mon ] 23:14

停滞していたデスティニーが急に動きだし、ソードを引き抜いて。
雷光が長大な刄を照らし、頭部の眼が、シンと同じように、ぎらり、と光を放つ。

「シン………ッ!?」

レジェンドをかわし、再び先へと進みだしたアスランが、シンの異変に気付く。
レイもまた、シンが漸く目覚めた事を悟り、一切の攻撃をやめて。

デスティニーの背面にある部位がまるで翼のように拡げられ、妖しい光を纏ってグフを視界に捉えた。

「………っ、何で、こんな事に………ッ」

またシンの頭の中で様々な声が、聞こえる。

「あんたが、悪いんだ…ッ」
「シン、シンっ、やめろ!」

モニターに映るシンの表情を見てアスランに戦慄が走る。

あの時と同じだと。
ステラを失った時の彼と、同じ。
己以外を敵だとみなすような、まがまがしい気迫を放っていた彼と同じ。

アスランは、悟った。
自分の言葉はシンには届かなかったのだと。
ではきっと彼は。

シンは、アスランを、撃つ。

そう悟ったアスランには驚きも動揺もなく。
あるのは悲しみと、そして。

「…シ、ン」

ふ、とモニターに映るアスランがシンの名を呟いたけれど、シンにはもう届かない。

「あんたが裏切るから!。あんたが、俺を、裏切ったからーッ!!」

シンが絶叫と共にレバーを力任せに握り締める。
もはやモニターに映るアスランではなく、彼の駆る機体しか見えてはいなかった。

凄まじいスピードでデスティニーがグフに迫る。
ソードを振り下ろすも辛うじてグフがシールドで跳ね返し、後ろに飛びずさりながらヒートロッドを撃ちこんだ。
しかし今度は目標を捕える事は出来ず、伸ばされたデスティニーの右手の平から放たれたビームがソレを爆破し焼き切る。
初めて見る武装にアスランは目を見開いて。
その所為で反応が遅れた。

「………っ、あああっ!」

デスティニーが振り下ろした刄がグフのシールドを切り裂いた。
急激に攻撃が激しくなった相手に、アスランは過去自分も経験したあの感覚を思い出す。

シンは、目覚めたのか、と。
ならば、もう。

衝撃で跳ね飛ばされたグフに一気にデスティニーが接近し、ソードを振り回してグフの右腕を付け根から切り落とした。

アスランは覚悟を決める。
もはやここまでかと。
しかし巻き込んでしまったメイリン、彼女だけでも。
例えこの身がどうなろうと、彼女だけは守らなければいけないと。

反撃に出るのをやめ、咄嗟にシートベルトを外して恐怖で蹲るメイリンの身体を思い切りシートに引き寄せて。自分と入れ替わるように座らせて彼女の上に自分の身体を重ねて覆い隠した。

それら一連の行動は本当に一瞬で。
無意識下での行動だった。

上空に舞い上がり、ソードを突き立てながら再度急降下するデスティニーを、その機体を操るシンを、モニター越しにアスランは振り返り見つめた。

「シン!!」

願わくば。
言葉は届かなくとも。

想いだけでも、伝われ、と。

「うおぉぉーッ!!」

デスティニーが迫りくる中で、アスランはその機体ではなくシンだけを見つめていた。

突き立てられた刄が、グフの腹部を狙う。

狂気に取り付かれたかのように殺気を放つシンの視界の隅に、モニター画面に映るアスランが唇を動かしていた。
しかしシンには声は聞こえない。
聞く気すらなかったのだ。もう。
でも視界の隅で何かを語るその唇の動きは、いつもシンが見ていたもので。

それに気づいた瞬間アスランの声がシンの鼓膜に響いた。

シンの中でほんの僅かな誤差が生じる。

デスティニーのソードがグフを貫いた瞬間。

「     」

アスランの声が、した。

途端にデスティニーが動きを止め、グフは刄をそのボディにくらったまま宙で体勢を崩す。

ぐらり、と機体が揺れてグフが力なく落下していく。
シンの刄をその身に受けて、アスランが、墜ちていく。

完全にコントロールを失ったグフがそのまま海面に墜ち、水面に叩きつけられる瞬間その機体が炎を孕んだ爆音と共に爆発して。

粉々に砕け散る機体が、激流に引きずられるかのように海底へと沈んでいく。

覚醒していた何かが一気に治まり、はあはあと苦しげな呼吸を繰り返しながら、シンはシートに蹲る。
レバーをきつく握り締めるシンの思考は全てが終わったこの空間に取り残されていた。

己がした事と、その結果。

そして、アスランの、最期の言葉。



「愛してる」


確かに、そう告げていた。





アスランの言葉は、しっかりとシンに届いていた。
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茜さす帰路照らされど 14 (#37)
TB[ - ]  CM[ 0 ]   Edit   2005/10/23[ Sun ] 23:06
「何ですって!?」

ミネルバの艦長室にタリアの叫びが響き渡る。

『残念だがタリア、これは事実なのだよ』
「そ、んな…まさか…」
戦闘もなく艦の補給と整備の為に一部クルーを除いてミネルバはオフとなっていて、勿論タリアも今は艦長の任から解放され暫し身体を休めていた時だった。その時急に評議会の長であるデュランダルからの極秘の通信が入ったのだった。

その通信チャンネルはデュランダルとタリアしか知らない、秘密の回線でもあって。

しかし今はタリアは彼からの通信が入った事よりも、その内容に驚愕していた。

「何故、そんな…」

アスラン・ザラのザフト離脱。

純白の軍服を身に纏った細い身体が、かたかたと震えていた。

『君の許可なしに申し訳ないのだが、一刻も争う事態でね。今レイとシンに新型機で追撃に出て貰っている』
「新型機…アレを?」

デュランダルの言葉に、タリアは一瞬で艦長としての顔になった。

『ああ。アスランに量産機ではあるが、グフを一機強奪されてね。捕獲する為にはそうするしかなかったのだよ』
「………判りました。そちらはお任せします。それで私に通信を入れたのはどういう用件でしょうか?」

混乱していた思考が一気に冷静になっていく。

この男は、何を望んでいるのだろうか。
シンをアスランから奪うようにレイを使って洗脳し、そのレイですら議長の手駒だと。
彼らの様子と今までの議長の言動だけで、うっすらとタリアは気付いていた。
そして恐らく自分も彼に、かつての恋人に、利用されている。
しかし、その目的が判らない今、これ以上の詮索はすべきではないと、タリアは自分に言い聞かせる。

タリアの心を読んだかのようにデュランダルは彼女を見つめて、ひとつの命を下す。

『アスランの脱走を幇助した者がミネルバにいる。その者について艦内を調べさせて戴きたい。詳しくは直接話すから今直ぐ私の元へ出頭してくれ』

その言葉に、タリアはもはや言葉もなかった。



激しい雨を降らせていた雨雲はやがて凄まじい轟音と共に夜の闇を切り裂く幾筋もの雷を放ち始めた。
豪雨と光る雷鳴に機体の外に設置されたメインカメラは視界を遮られ、アスランの行く手を阻む。
「…っ、くそ!」
それでも大量の出血で霞む眼を必死に凝らし、アスランは雷が鳴り響く海原を飛行し続けていた。

しかし、アスランを阻もうとするモノが、突如迫る。新しい機体に乗り込んだシンとレイだった。

「…ちっ、追い付かれたか!?」

性能差を考えなくとも所詮量産機ではあの新型機にはかなわないだろう。
量産機を操るのが例えアスランでも二機を同時に相手にするには余りにも辛すぎる。

その時だった。
コクピット内に幾つか設置されているモニターのひとつに、よく見知った男が映し出された。

「議長!?」

それぞれのコクピットから驚きの声が上がる。ただ一人、レイを除いて。
緊急の通信チャンネルを、わざとアスランにも聞こえるように、開いたのだろう。
議長だけでなくシンとレイ、そしてアスランの機体も強制的に回線をオープンにされてそれぞれのコクピット内部が互いのモニターに映し出された。

『…レイ。君がアスラン・ザラを追っていた時、彼は一人だったか?』

基地内に用意された、元はこの軍港の司令室に当然の如く彼は居て。
机に置かれた通信端末から送られる映像と共に問い掛けてきた。

「いいえ、議長。彼は一人ではありませんでした。私が駆け付けた時同じ艦のクルーであるメイリン・ホークが格納庫周辺にて不審な行動をとっており、先に駆け付けたシンと対峙していたアスラン・ザラが彼女を救おうと我々に反抗の意志を示しています」
「…レイ、貴様!?」

淡々と報告するレイの言葉は間違ってはいない。
ただし、レイがミネルバへ戻ろうとしていたメイリンを捕らえ、人質にしてアスランを脅した事は報告されず、アスランはモニター上のレイにむかって叫んだ。
アスランの隣でメイリンが声もなく怯えて震えているのがシート越しに伝わってくる。

『そうか、やはり彼女が手引きしていたのか』
「はい、議長」

二人だけで報告しあう会話にアスランはどうする事も出来ず、シンは驚いて聞き入っていた。

『先程鳴った警報は彼女の部屋にある端末からのハッキングによる物だと判ってね』
「ええ、彼女は情報のエキスパートです。それ位は簡単に遣り遂げれるでしょう」
『やはり彼女は、人質ではなく、仲間だと?』
「はい。アスランだけでなく彼女も機密事項を知っている分、充分に危険な存在だと思われます」

議長の言葉に肯定したレイに、アスランが叫ぶ。

「彼女は違う!!………っ、くそ!!」

しかしアスランの言葉は誰にも伝わらなかった。

意図的にグフからの通信は切られていた。

これでは何一つ真実を伝えられない。
アスランは機体を飛ばしながらも必死にパネルを操作して通信を回復させようと回線をいじった。

シンもまた、レイの言葉に動揺していて。

「レイ!。メイリンもアスランの仲間だって!?」

シンにはそれが信じられなくて。
だって自分の知る限りあの二人に接点はない。
自分にすら何も話してくれなかったのに、メイリンには話すだなんて。

シンは衝撃を受けた。



そして議長から冷酷な言葉が伝えられる。

『レイ、シン。君達に命ずる。アスラン・ザラ、メイリン・ホークの撃墜を許可する』

一方的に下された命令と共に議長からの回線は切られて。アスランがグフの回線を正常に戻した時には既に遅かった。

「聞いたな、シン」
「でも…だけど!」

シンはメイリンの事を、真実とは違う事実を突き付けられて動揺する。
しかしレイはシンに告げた。

「彼らが逃亡し向かう先は、シン、お前にも判るだろう?。今阻止しなければ事態は益々悪化するだろう」
「…っ!」
「シン、戦争を終わらせたいなら今彼らを討たねばならないんだ!」

その言葉がシンを狂わせる。

「レイ!。お前、何を…っ」
通信が回復したグフからアスランの声が聞こえ、レイが告げる言葉を否定しようとしたが、声を荒立てた為に傷が痛みアスランはその後に続く言葉を飲み込むしかなかった。

「行くぞ、シン」
「…ああ!」

何も云えなかったが為に、アスランはシンを止められなかった。
シンは完全にレイの巧みな話術に操られてしまう。

今、目の前にいる機体は、敵。

討たねばならない、敵。

シンの心にある癒えぬ傷が、悲しい記憶が、シンに残された生きる為の意志を揺り動かした。

敵を討たねば、戦争は終わらない。
戦争の為に全てを失った。
もう、失いたくない。
だから、敵を、討つ。

繰り返し繰り返し、シンはそれだけを思って。

デスティニーのバーニアを全開にした。
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茜さす帰路照らされど 15 (#37)
TB[ - ]  CM[ 0 ]   Edit   2005/10/23[ Sun ] 22:54
「アスランさん…っ」

己まで撃墜すると告げられた恐怖に自失していたメイリンが漸くアスランの名前を呟いて。そのまま泣き崩れた。

彼女まで巻き込んだ。
判っていたのに。
こうなる事は始めから判っていたのに。
うまく逃げられる筈などないと判っていたから調べあげたデータを自ら腕を切り裂いて隠して。
なのにメイリンの言葉に、対応に、甘えて。
巻き込んでしまった。

アスランはひどく後悔した。

しかし背後から迫りくる機体はアスランの懺悔を無理矢理にとめる。

バーニアを吹かし急接近してくるデスティニーの後ろからレジェンドがビームライフルをグフに向けて発射した。
威嚇の為に発射されたそれはかすかにグフから逸れて海面を撃つ。

「…っ!」

アスランは横のモニターを見やり、背後に設置されたカメラからの映像を確認して機体を傾けて今だ放たれ続ける射撃を辛うじてかわす。
機体にかかる衝撃が身体を伝わり、傷が激しく痛む。しかしアスランの全神経は今シンとレイの機体に集中していて、流れる血すら感じなくなっていた。

高度を下げて海面すれすれを蛇行するように飛び、レジェンドの放つビームライフルをかわすグフに、デスティニーが追い付いて。

「…っ、シン!」
「ちっ!」

名を呼ぶアスランの映像に舌打ちするシンの表情は、かつてセイバーが撃墜された時や軍規違反し営倉に入れられた時のような、ひどいものだった。

憎しみを隠す事無く目の前の機体を撃ち落とすと。
まるで鬼神のような表情で。

デスティニーもビームライフルをグフめがけて発射する。威嚇ではない、本気の射撃で。

「シン!」
「何で…っ。何でこんな事…っ」
「シン、やめろ!」

アスランが背後から追うシンを気にしつつも彼を呼ぶが、シンは憎悪をぶつけるようにアスランの機体を睨み付ける。

「何であんたは、こんな事ーっ!」

どうして逃げる。
どうして裏切る。

何も語らず、何も頼らず。
シンの存在を、否定するかのように、置き去りにして。

シンの絶叫が彼の心の痛みをアスランに伝えた。
と同時に撃たれたビームライフルがグフをかすめ、脚の装甲の一部を削り取った。
急激に正確性を増すシンの射撃に、アスランは覚悟を決めてグフの飛行をとめ背後を振り返った。

やはりこのままでは無理だ、と。
戦わずにすむなら良かった。
しかしお互い機体を駆る人間だ。
戦わねば、先には進めない。

振り返りながらグフの右手がデスティニーに向けられ、解放された指先から実弾が放たれる。
性能の高い機体には効かないのは判っている。
それでもアスランはシンとの避けられない戦いを最小限に抑えようと必死だったのだ。
予想どおりビームシールドで弾かれてしまう。

「シン、止めろ!」
「煩いっ!」
「お前は、まだ判らないのか!?」
「…何?」

モニター越しのアスランの言葉に一瞬シンの動きがとまる。

「議長の本当の思惑に気付くんだ、シン!。お前は彼に利用されているんだ!!」
「なんだよ、それッ!!。そんな筈ない、議長は…ッ」
「黙って話を聞け!!」

動揺しだしたシンに、アスランは覚悟を決めた。

本当は話すつもりはなかった。
話せば彼も巻き込んでしまう。
決して楽ではない道に、命すら保障できない道に。
だから今はまだ話す時ではないと、迷っていた。

しかしレイの言葉に操られるシンはアスランの考えていた以上に深刻で。
今伝えなければ、今云わなければ、彼も自分とは違う修羅の道を望まずに進まされると。

アスランが真実を語ろうと口を開いた時、デスティニーの背後から一筋の光がグフを掠めるように海面に突き刺さった。
それはレイの駆るレジェンドから放たれたビームライフルだった。

「踊らされるな、シン!」
「レイ!」

アスランとシンが同時に叫んだ。
ぎり、と唇を噛みながらアスランがモニターに映るレイを睨む。
映像の彼は、危険な何かを孕んだ笑みを浮かべていた。

レイの言葉にシンは動揺がとまり、再度グフへ射撃しはじめた。

「…逃げるな!。降伏しろよ、アスランッ!!」
それはシンの中にまだアスランを撃つ事へのためらいがあると物語っていた。
「裏切るなっ、基地へ戻れー!」
サーベルを抜いて切り付けてきたデスティニーをかわすように、ひらりと上空に舞ったグフを雷光が照らしだす。

「…っ、シン、お前…ッ」

やはりきちんと話せる筈はない。
攻撃するシンを、逃げるアスランを監視するかの如く見守るレイがこの場にいる限り不可能だとアスランはさとる。
少しでも話そうとすると威嚇してくるレイは今も二人を見つめて少し離れた上空にいる。

アスランは空を旋回しながら下を振り向き、やはり向かってきていたシンにヒートロッドを振り投げた。
初めて駆る機体とは思えぬ程正確な動きで、一瞬にしてデスティニーのビームライフルに絡み付き、それを電撃で焼き払うかのように爆破させる。

「いい加減止めろ、シン!」
「なんだと!?」

「俺は今此処で…『死ぬ』訳にはいかないんだ!!」

アスランの言葉に、シンが柘榴の眸を見開いた。

死ぬ?。誰が?。アスランが?。
殺す?。俺が?。俺が!。

びくりと肩を震わせたシンの姿を、アスランはモニター越しに見つめていた。

まだ彼が自分を想ってくれているならば。
伝えなければならない事があると。

悲壮な想いでアスランは叫んだ。
Category [ 時系列(No.04)【茜さす帰路照らされど】 ]
Thread Title[ 機動戦士ガンダムSEEDDESTINY ]   Thread Theme [ アニメ・コミック ]
茜さす帰路照らされど 13 (#37)
TB[ - ]  CM[ 0 ]   Edit   2005/10/22[ Sat ] 23:23
レイとアスランの会話の意味が理解できず、更にレイに撃たれたアスランが左半身を血で染めた状態でメイリンを連れてグフのコクピットに姿を消していくのを、シンはなすすべなく茫然と見つめるだけで。

これは、夢だ。
悪い夢を見ているのだと。
頭の中が割れるように痛む。

早く眼を覚ませ。
手遅れになる前に、眼を覚ますんだ。

でなければ、彼を、失う。




「シン!!。俺達も行くぞ!」
「…え。何処、へ…?」

突然レイが立ち竦むシンの肩を揺さ振って飛びかけた意識を現実に呼び戻す。
しかし思考はまだ理解できていないのか、ぼんやりと聞き返したシンに対し、レイはその頬をぱん、と叩いた。

「いい加減眼を覚ませ!。あれは『敵』だ!!」

「…て、き?」

「そうだ!。議長に逆らい、ロゴスとの繋がりがある『AA』を支持する者は『敵』だ!。そして彼はそれを明らかに支持し、脱走した!。もはや『アスラン・ザラ』は俺達の『敵』なんだ!!」

レイに叩かれた頬よりも、彼が発した言葉の方がシンの中に燻る何かを突き動かす。

それは、家族を、ステラを、シンから奪った『敵』への憤怒であり、全て失ったシンに残された生きる為の執念だったのかもしれない。

「…敵。アスランは…敵」

そう呟くシンに、レイが最後に放った言葉。

「彼はもうお前の愛した男ではないんだ!。今、お前を裏切って『敵』の元へ行こうとしている!。許せるのか、シン!!」

レイがこんなに激昂するのを見たのは初めてだった。

しかし、それに気付くよりも。
レイの言葉が、完全にシンを覚醒させた。

「俺達も追うんだ、シン!」

そう云って駆け出したレイの後を、シンは何かに取りつかれたような顔つきで追い掛けた。




「…っ、う…」

コクピットに乗り込んだアスランはメイリンをシートの横に行かせて、自分もまた転がり込むようにシートに座るとぐったりとして俯き荒々しい呼吸で呻いた。。
先程シンに切り裂いた腕の傷を抉られ、更にレイによって肩を撃ち抜かれた所為で出血がひどかった。自室を出る時に飲んだ止血剤は既に意味をなしてなく、深紅の軍服は黒く変色している。

「アスランさん、大丈夫ですか!?」
メイリンが身を乗り出すようにしてアスランの顔を覗くと、出血の所為で貧血をおこしているのか、顔色は真っ青だった。
しかしアスランは言葉を返す事無く、顔をあげると前方の計器類をぐるりと見回して無傷の右手を使って機体のメインコンピューターを立ち上げ始めた。

「アスランさん!?」
「ここでじっとしていたら確実に殺られる」
「………っ!?」

アスランの言葉にメイリンが絶句する。

「………君まで巻き込んでしまって、本当に申し訳ない…っ」

く、と唇を噛み締めて己を責めるように呟くアスランにメイリンは必死で首を横に振った。

「私の事は気にしないでください。それより、これからどうするんですか?」
「ああ、とにかくこの基地を脱して…AAを探す」
「え、でもあの艦は」

メイリンが言い淀む。
先日の戦闘でフリーダムはインパルスに撃墜され、AAも海へと沈んだ筈だ。
確かにその後の捜索で一切それららしい残骸は見つかってはいないが、とても無傷で逃げ延びたとは思えなかった。

しかしアスランの翡翠の眸には揺らぎない強い意志が宿っていて。

「沈んでなどいない…絶対に捜し出して…っ」

それは祈りにも似た願い。

そう簡単にあの艦も、そしてキラも、いなくなる筈などない、と。

「渡さなければならないモノが、あるんだ…ッ!!」

アスランはそう叫ぶようにきっぱりと言い放ち、そして出血で既に感覚すらなくなった左手でレバーを押し上げた。





シンとレイが格納庫を出て、新しい機体が隠された格納庫へと駆け続ける上空を、一つの機体が飛び去った。

夜の闇に紛れるような青いカラーリングの、グフ。

満身創痍のアスランが乗り込んだ機体だった。

「…っ、アスラン…!!」

シンが呼んだその名を持つ男は、今ザフトから完全に脱した。





限界までバーニアを吹かし、グフは夜の空を飛行し続けた。雨雲が星の光をも覆い隠し、辺りは完全に暗闇だった。

まるで少し前のアスランの心の闇のようで、自身の闇を切り抜けるかのようにアスランは眼を凝らしモニターに映された夜空を見つめて機体を操作する。

何処にむかえばいいのか。
それすら判らないが、それでも行かねばならない。
どうにかしてAAを捜し出し、渡すべき物を渡して。

そして、行かなければ。
全ての原因である、彼、デュランダルの元へ。
行って今度こそ問い詰め、全てを止めなければならない。

それまでは死ねないのだ、とアスランは必死に遠退きそうになる意識を奮い立たせる。





「シン、お前は自分の機体に乗れ!」
「ああ。レイは!?」
「俺はレジェンドに乗る!」

格納庫についてそれぞれが機体に駆け寄った。
本当ならばアスランが受領する筈だった機体に、レイが乗り込む。
普通ならば簡単には乗りこなせないであろう、ドラグーンシステムを搭載した機体だが、レイにはそれを我が物にし、乗りこなす絶対的な自信があった。

パイロットスーツを着込む事無く急いでコクピットに乗り込み、僅かの時間で機体のシステム確認とメインコンピューターをたちあげて。

開かれた扉にむかって二つの機体は動きだした。

アスラン・ザラを追う為に。

レイは勿論、シンまでもがそのひとつの目標に集中して。






やがて全てが決まる、雷鳴の海へと。
Category [ 時系列(No.04)【茜さす帰路照らされど】 ]
茜さす帰路照らされど 12 (#37)
TB[ - ]  CM[ 0 ]   Edit   2005/10/21[ Fri ] 23:50
「メイリンッ!!」
アスランが二人に駆け寄ろうとするが、その動きにレイがメイリンの頭部に向けた銃を更に押しつけた。
「動かないで下さい。少しでも動けば、彼女を撃ちます」
そう云って引き金に指をあてがうレイの眸は本気だと告げていて、アスランは凍り付いたかのように動けなくなった。

「レイ…っ、何で、メイリンまで…?」
一人状況が把握出来ていないシンの手が、かくん、と垂れ下がりアスランに向けられていた銃口が逸れる。
「…っ、くそっ、卑怯だぞ、レイ!」
メイリンを人質にとられたアスランは完全に動きを封じられてしまった。

恐らくアスランと別れた後、独り敷地内を歩いていただろう。其処にアスランを追ってきたレイと遭遇したのだと簡単に想像がつく。
普通ならば格納庫が建ち並ぶ区画に全く関わりのないメイリンが夜更けに独り歩いていれば怪しまれても仕方がない。
そんな簡単な事にすら気が回らなかった。
最悪の形で巻き込んでしまった、とアスランは心底後悔したが、今更もう遅い。

「何とでも好きに云ってください。『裏切り者』の貴方に何と云われようと別に構わない」

裏切るならば仲間ですら殺す。レイはその覚悟でメイリンにすら銃口を向けていた。
レイにとって議長が全て、唯一無二の存在で、それを裏切る者は例え仲間でも殺して阻止すると。
そう、アイスブルーの眸が静かに物語る。

「レ、レイっ?。どうしてメイリンまで!?」
「彼女が脱走の手引きをしたんだ、シン。脱走幇助も重罪だ」

混乱したシンの問いにレイは冷酷に言い切った。

「そ、んな…っ」

シンは愕然として完全に思考が停止してただ立ち尽くすだけで。もはやシンには戦う事もアスランとレイを止める事も、何も出来なかった。
その横でアスランはメイリンに銃を突き付けているレイをぎらつく眸で睨み付けながらも、動く事が出来なかった。

「ア、スランさん…っ、ごめ、なさ…っ」
恐怖に怯えながらもメイリンがアスランを見つめて泣いた。
彼を助けたいと思ったのに。足手纏いにしかならなかった。
それが悲しくて、悔しくて。

「…っ、レイ。お前は…そんなに、議長が正しいと、そう思っているのか!?」
「当然です。彼がいたからこそプラントは先の大戦後、平和を維持できたのです。『ロゴス』に踊らされた地球軍があんな馬鹿げた事をしなければ…」
唸るように低い声音で問うアスランにレイはさも当然と言い切る。その顔には自信が満ち溢れていた。

「…本当に、そうなのか?」
「だからそうだと云っているでしょう!?」
「ではッ!。ではお前は何故此処に居るッ!!」

アスランが叫んだ。と同時にレイの手が一瞬だけ震えた。

「………っ、な、に…?」
「レイ、お前は…」
言葉に隠された意味に驚愕して目を見開いたレイに、じり、と僅かに足を進めながらアスランは重々しく言葉を繋ぐ。

やはり、レイは動揺した、と。

アスランの中にある疑問はレイにとって最も探られたくない事実だったらしい。そこを突けば例えレイでも動揺する、とアスランは考えて。
未だ決定打のない疑問を彼にぶつける。

「…『ラウ・ル・クルーゼ』と、レイ、お前の関係は…何だ?」

刹那、レイの顔が強ばる。

アスランならば知っていてもおかしくはない名前を、しかし今は違う意味を含んで告げられる。

「アスラン…?」
その言葉の持つ意味が読めないシンが呆然としてアスランを見つめる。
「レイ、お前は…っ」
少しずつ距離を詰めるアスランに。
「アスランッ!!」
レイがメイリンの頭部に押しあてていた銃口をアスランに向けて。

ダァン、と。

衝撃と共に銃声が格納庫の壁に反響した。

「ぐあぁぁッ!!」

と同時にアスランの絶叫が張り詰めた空気を切り裂いて。

「アスラン!」

シンとメイリンの叫びが重なる。

レイの放った銃弾がアスランの左肩を撃ち抜いたのだった。
熱く焼かれそうな激痛にアスランの身体ががくり、と床に崩れ落ちる。それぞれ握り締めていた短銃とマシンガンを足元に落とし、撃たれた肩を右手で押さえ蹲り呻くアスランにレイが又も銃口を向けた。
「それ以上は云うな!!」
隠し通した秘密をアスランに悟られた所為でレイは完全に動揺している。
続けて銃弾を彼の身体に撃とうとトリガーを引いた瞬間。

床で呻いていたアスランの身体がふわ、と動いて。

「メイリンッ、横に動けッ!!」

そう叫んで負傷していない右手で足元の短銃を拾い、一瞬で構えて照準をレイに合わせた。

幾ら負傷していようと、射撃の腕前は断然にアスランの方が上だった。
ほんの僅かの差で再び撃たれた銃弾を横に飛んでかわし、飛びずさりながらレイの銃を撃ち砕いた。
衝撃で跳ねとばされる銃はガシャン、と音をたてて遠くへ飛ばされた。

「そのまま走れ、メイリンッ!」
銃を構えながらアスランはレイから無事逃げられたメイリンに指示を出して『グフ』のコクピットへと共に駆けた。
「…っ、くそ!」
武器を失ったレイが舌打ちしながらもアスランを追おうとするが、それすら阻止するかのようにアスランが振り返りながら足元の床を威嚇射撃してくる。
さすがに戦い慣れていると思わざるをえなかった。
巧みにメイリンを誘導し、その後ろを守りながら追うレイを『傷つけない』ように威嚇射撃するアスランは『戦う者』として最高の能力を兼ね揃えていた。
それが共に在れば心強いが、敵に回ればこれ程恐ろしいものはなくて。

やがて近くのパネルを操作して頭上から下りてきたラダーに二人は掴まり、機械音と共に上昇していき。

二人の姿がグフのコクピットに消えていくのを、シンはなすすべなく呆然と見つめていた。
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茜さす帰路照らされど 11 (#36 ~37)
TB[ - ]  CM[ 0 ]   Edit   2005/10/20[ Thu ] 22:44
無機質な物体しかないこの空間でただふたつの命。

そのひとつのシンは、もう片方のアスランの左腕を力任せに握り締め、彼が逃げるのを許さない、と動きを封じていた。
肉に食い込むシンの指が知らずアスランの傷に突き刺さり、その傷口を抉っている。しかしアスランを逃がさないと必死になっているシンは彼が何故今青ざめた顔で苦しんでいるのか、全く気付く事もなくて。

「あんたが本当の事話してくれるまで、許さないから!!」

そう云って更に指に力を込めた。

「………ぐ、ぅッ、シ…ンッ!!」

アスランがぎり、と歯を噛み締めて痛みに耐えながらシンを制止するも、シンはアスランの左腕と肩をがっちりと掴み顔を近付けて睨んでいる。

まるで唇が触れそうな距離で、愛を語るのではなく、言い訳を求めていて。

戸惑いと焦り、哀しみが交じりあう柘榴の眸と、翡翠の眸。

しかしお互いを想いあう心は今は一つではなくて。
繋がることも交わることもなくて。

「何でだよ!?、アスランッ!!」

シンが叫ぶ。
叫んで、涙を滲ませてアスランの首元に頬を擦りつけた。
「アスランッ、アスランーッ!!」
格納庫に響き渡るシンの絶叫は閉ざされた空間で反響して、激痛に呻くアスランの思考を揺り動かした。
封じられていない右手をシンに気付かれないように咄嗟に動かし、その手に持つマシンガンの弾倉部分を彼の後頭部めがけて振り下ろした。

「…ッ、うあッ!」

後頭部に走った衝撃と激痛にシンの身体がずる、と崩れ落ち、その所為で握り締めていたアスランの右手が自由になった。
「あ、んた…っ」
痛みに耐えながらも直ぐにシンは崩れた身体を踏み止まらせてアスランを睨もうと目線をあげた。
しかし次の瞬間シンを待ち構えていたのはアスランの蹴り上げた膝頭で、防ぐ暇すらなく腹部にくらう。

「が、あッ」

完全に形勢は逆転してシンは今度こそがくりと膝を床につけた。
アスランはそれを見逃さず、あとずさってシンから離れようとしたが、掴まれていた左腕に激痛が走り、思わず右手を添えて庇うように背を丸めてしまう。

「…っ、う…」
シンの指によって傷口は抉られて鮮血が流れているらしい。じわり、と深紅の軍服の袖が黒く変色し始めていた。

左腕の痛みはシンを置いていこうとする自分へ与えられた、彼からの叱責のようで。
痛みよりも胸を締め付ける切なさの方が辛かった。

「くっ、そぉぉッ!」
今度はシンがアスランに飛び掛かるように突進し、痛みに反応が鈍った彼の鳩尾に拳を食らわせて。
しかしシンよりも戦場での経験が豊富で、場数を踏んでいるアスランの方が立ち直りは早かった。

そして。

次の瞬間。

同時に二人の手が上がり、シンはアスランの喉元に。アスランはシンの眉間に。

それぞれが握る短銃の銃口を、おしあてた。

「………っ、あんたに、俺が撃てるのかよ…ッ」
「お前は、撃てるのか?。俺を………」
「………っ!」

シンは威嚇のつもりだった。でなければ、アスランに冷たい銃口を突き付けるなど出来る筈はない。
しかし、逆に聞き返すアスランの眸は、俺には撃てる、と。
そう伝える冷たさを孕んでいて。

ああ、本当は、彼は、こういう人間なのだと。
迷わず撃つ事の出来る男なのだと、シンは気付かされた。

いつも迷い悩み、強いくせに弱くて。そして自分だけに見せてくれた姿は優しくて格好よくて可愛くて色っぽくて。

そんなアスランが今、狩ろうとする獣の鋭さを見せ付ける。
今シンの目の前に居るのは、『戦士』としての『アスラン・ザラ』だった。

「………シン」
名を呼んで、銃のトリガーに触れた指に力を込める。
その指が、紅く色付いている事に、シンは目を奪われた。

あれは、あの色は。

漸くシンは先程まで自分が掴んでいた彼の左腕から滲んだ血に、気付いた。

さっきも、そして今も、アスランがシンに突き付けた銃を持つ手が、利き腕ではない、負傷した『左腕』だという事に。

「あ、んた…その腕…っ。じゃあ…っ!?」

つまり、アスランには、始めからシンを撃つ気などないのだと。

アスランの真意に、そして自分へ向けられた変わらぬ想いに、シンの眸からぼろぼろと涙が零れた。

間違ってシンがアスランを撃ち抜いても、アスランはシンを撃つ気もなく、シンに撃たれる覚悟で。

苦しむシンよりも、覚悟を決めたアスランの決意の方が、辛すぎて。
シンは声をあげる事無くぼろぼろと涙を流した。






だが。

現実は二人を容赦なく引き裂く。



「アスラン、銃を下ろして下さい」

刹那、冷酷な声が、した。

はっ、と二人の視線が声のする方向へ向けられる。

声が聞こえた格納庫の扉には、ふたつの人影が在った。

「レ、イ?」
「メイリンッ!?」

シンの戸惑う声とアスランの叫びが同時にあがる。



其処にはかたかたと恐怖に震えるメイリンと、彼女のこめかみに銃口を突き付けたレイの姿が在った。
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茜さす帰路照らされど 10 (#36 ~37)
TB[ - ]  CM[ 0 ]   Edit   2005/10/19[ Wed ] 23:04
雨降る夜の闇を駆け抜け、アスランはメイリンと共にひとつの格納庫へと辿り着いた。
そこは数多くの格納庫が建ち並ぶ区画の端に在る所為か、使用頻度の低い機体を収容している所だった。
ミーアが指し示した場所は追われるアスランにとって好都合であった。
勿論周囲には人の気配はない。
アスランはそれを今一度確認し、MS運搬用の巨大な扉の前に来て、その横にある人間が出入りする為の小さな鉄扉に背をつける。
と同時にマシンガンをいつでも撃てるように構えると、後ろをついてきたメイリンを見つめた。

「君は此処まででいい」
「でも…ッ」
「この先からは俺一人で行くから…本当に、ありがとう」

そう云って微笑するアスランは、今にも消えてしまいそうな程はかなげで。見つめ返すメイリンは胸が痛くなった。

この人は、覚悟しているのかもしれない、と。
逃げ切れないのを判っていて、それでも行かねばならないのだと。

「………は、い。アスランさん…気を付けて」

涙が零れそうだった。
メイリンの言葉に小さく頷き、アスランは鉄扉を開けて内部へと侵入していった。

置き去りにされたメイリンはその場で泣き崩れそうになるのを必死で堪え、人目につかないようにアスランの消えた格納庫から離れていった。

侵入した内部は非常灯が幾つか灯るだけの暗い空間で。慣れない眼を凝らしながらアスランは奥へと進む。
内部には見覚えのある機体が幾つか在った。

「…グフ、か」

以前違う色にカラーリングされた同機種の機体に乗っていた男を不意に思い出す。

その男とは短い間だけども同じ艦に所属し、そして短いけれどアスランにとっては濃密な意味ある会話を交わした。

夕焼けのような明るい髪の、陽気な男。

『お前は、何処となら戦いたい?』

男の言葉が聞こえたような気がした。

『割り切れよ』

鮮明に浮かぶ姿と、紡がれた言葉。

『でなければ…死ぬぞ、お前』

アスランは、一度だけ眸を閉じて。

どことも、誰とも戦いたくはないんだ、と。
しかし今。
己の望む夢の為に、戦うしかない、と。
たとえ、望まぬ相手と戦う事になっても、今はそうするしかないんだと。

記憶の中の男に、告げた。

再び目蓋を開いて、辺りに注意しながらアスランはひとつの機体の足元まで辿り着いた。
気が進まぬが仕方ない。
これしか脱するすべはなかった。
そして機体を見上げた刹那。

「………ッ!」

アスランは振り返って息を飲んだ。

誰か、居る。
否、侵入した時は、居なかった。
では今、追い付いてきた者か?。

一瞬でアスランの神経が研ぎ澄まされてひとつの標的に集中する。

足音を忍ばせて近づいてくる気配。
物陰に隠れようとした時、アスランはその気配にどこか懐かしさを覚えて。

まさか。
まさか、彼が、ここに?。

薄暗い闇の中を静かに近づいてくる影を見つめる。
よく見知った影。気配。

「居るんだろ、アスラン………」

彼が、アスランの名を呼んだ。

「シ、ン………」

アスランは覚悟を決めてシンの前に姿を現した。

「アスラン………」
「やはり、お前、来たんだな…シン」

アスランの姿を眸に映したシンが安堵したような表情で駆け寄ろうとした時、アスランの動きによってその表情は強ばった。

近寄ろうとするシンに、アスランは銃を、突き付けたのだ。
右手に持ったマシンガンを降ろし、『左手』でカートリッジ式の短銃を、シンに突き付けて。

「ア、ス、ラン」

シンが信じられないモノを見つめるかのように激しく動揺する。

二人の距離は僅か数メートルなのに、見えない不可視の壁に遮られたかのようだった。

「な、何だよ、何…してんだよ、あんたっ」
「…シン、来るな」
「何で逃げたりなんかしてんだよッ!?」
「来るな、シン!!」
愛しい人に銃口を向けられ驚愕しながらも、じりじりと距離を縮めようとするシンにアスランは叫び、トリガーに指を絡めた。
は、とシンが硬直する。
本気で近寄るな、とアスランは告げている。

「何で…っ?。何でだよ…」

シンが泣きそうな顔をして唸る。

「俺、さっきレイから聞いて…まさかあんたがって…信じられなくて…っ」
「………」
「違うんだろ!?。本当はっ。何か疑われて、それで…っ。あんた、口下手だから巧く云えなくてっ、誤解されてるんだろっ!?」
「………」
「俺、俺も力になるから!。ちゃんと話せば誤解も解けるから!!。なあ、アスランッ!!」

シンの言葉は次第に大きくなり、涙声も含まれていて。しかしアスランは銃口をむけたまま沈黙を守っている。
その表情は堅く、今までシンが見た事もない程冷徹なもので、思わず背筋が寒くなる。

「………レイに、何と云われた?」

漸くアスランが口を開いた。

「ミネルバから…離反者、脱走兵が出た…って。それが、アスラン…あんた、で…それで、射殺命令が………ッ」
「………そう、か」
「アスラン…」

シンから告げられた情報にアスランは一瞬だけ笑い、シンから視線を逸らして足元を見つめる。

彼の仕草にシンが、ああ、やはり違うんだ、と安心しかけた時。

再びアスランはシンを見て、呟いた。

「…レイの云う通りだ、シン」
「………え?」

「俺は、『離反』したんだ」

鋭い眼差しで睨み付けながらアスランはレイの言葉に同意した。

刹那シンの身体からかくん、と力が抜けた。
その場に崩れ落ちて呆然とアスランを見上げるシン。
その姿にアスランは今にも心臓が止まりそうな程胸が痛んだ。

すまない。本当に、すまない。
今、お前を連れてはいけないんだ。
『真実』も今のお前にはまだ、話せない。
お前まで危ない目に合わせたくはないから。

急に自傷した左腕が痛みだして、銃を握る指から力が抜けかける。

その瞬間をシンは見逃さなかった。

冷たい床に座り込んだ身体を一気に跳ね起こし、アスランの銃を構える『左腕』をぐい、と掴み、外側へ捻る。

「あぁぁッ!!」

アスランが声をあげて苦しむ。
指を左腕の内側に食い込ませるようにして、ぎりぎりと捻る。
「何でッ、何でそんな事ッ!!」
「シ、ン…っ。離せ…っ」
「嫌だ!!。ちゃんと全て話してくれるまで俺はあんたを離さないから!!」
荒い息をつぐアスランにシンは噛み付くようにして顔を近付けて叫ぶ。

もう彼を傷つけないと決めたばかりだけれど、しかし今この手を離したらきっと彼は居なくなる。




そんな気がした。
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茜さす帰路照らされど 8 (#36 ~37)
TB[ - ]  CM[ 0 ]   Edit   2005/10/18[ Tue ] 22:52
夜の闇は深く、軍港の施設内は恐ろしいまでに静まり返っていた。

先程偽装の為にメイリンが鳴らした警報がアスランを追う衛兵を撹乱しているらしく、今彼らが駆けるこの施設の付近には誰も居なかった。
しかしそれも時間の問題だろう。直に誰かがやってくるに違いなくて。
非常階段を降りた所でアスランは建物の壁に隠れながらその先の方を見やる。降りしきる雨で視界は鮮明ではないが、人の気配は感じられない。
「アスランさん、此処で待っていて下さい。今車を回します」
後ろを着いてきていたメイリンがそう言い残して雨の中をぱしゃぱしゃと駆けていく。

彼女が無事に行った事を確認したアスランは、とさ、とコンクリートの壁にもたれかかった。
「…っ、は、あ…っ」
気を張り詰めながら走り続けた所為で、一瞬安堵した途端に呼吸が荒くなる。
それまで感じなかった左腕の痛みも急にひどくなったかのように痛みだし、鼓動と重なるようにズキズキと神経を伝う。
幸い飲んだ止血剤のおかげで出血は抑えられているし、軍服の深紅が巧く隠してくれている。
メイリンは気付かなかったようだが、しかし血に馴染んだ自分には独特の鉄臭い匂いが鼻を擽っていて。
「…まずいな…」
雨の中を走り、身体は冷えきっている。
体温を奪われた状態で、しかも出血の所為で貧血をおこしかけていて、アスランの視界が時折霞んで見えた。
だが今此処で果てる訳にはいかないのだ。
ゆるんだ気持ちを再び引き締めて、アスランは夜の闇をぎっ、と睨み付けた。

やがてメイリンが一台のオープンカータイプのエアカーで戻ってきた。
辺りには誰も居ない。それを確認したアスランは一気に駆け寄って車内へ転がりこんで、助手席に座った。身体を縮こまるように下げて隠し、腹部においたマシンガンを握り締めていつでも撃てる体勢をとった。
メイリンがハンドルを握り、ギアを入れて一気に加速させる。
二人を乗せたエアカーはそのまま格納庫が立ち並ぶ方へと走り去っていった。



外に出たシンは、辺りを見回して神経を尖らせる。
先程シンが居る場所とは正反対の施設で警報がなったと報告があった。
だから殆どの衛兵はそちらに向かっているのだという。

でも、と。シンは考える。
アスランならばそんな簡単に警報を鳴らすようなへまはしないだろう。
普通のいち軍人ではないのだ、彼は。
ザフトの中でもトップクラスの力を持ち、周囲にも認められる程のエリートのアスランが、そう簡単に警報を鳴らし掴まるとは思えない。
シンはアスランの実力を、その凄さを識っている。

殆ど直感だった。
きっと彼は格納庫が密集するこの区画に来る筈だ。
もし本当にこの基地を脱するなら、行動する為の物、つまりMSを求めて此処に来るはずだと。
シンが彼の立場なら同じ事を思うから。
アスラン程ではないも、シンだって深紅の軍服を纏う実力をかねそろえている。
神経を尖らせて、周囲を伺い。
右手に握り締めた銃の重さを感じながらシンは雨の中を、走りだした。



エアカーが急にピタリ、と停止した。
「………っ?」
助手席で蹲り気配を探るアスランが息を飲む。
なにかが、居る。
運転席に座るメイリンが、隣のアスランを見ないように、始めから誰もいない、と装いながらも動揺していた。
「こんな時間に何をしている!?」
聞こえてきたのは一人の男の声。
数多くある格納庫のひとつの前で、警備をしていたらしい軍人だった。
多分議長の息がかかった者なのだろう。左手には携帯式のライトを、右手には銃を持っていて。腰には連絡を取る為の端末があった。
夜更けに走り去ろうとする不審車を見つけて尋問してきたのだった。
少しずつ近寄ってくる男にメイリンは顔を強ばらせ、アスランは腹部に置いたマシンガンのトリガーをぎゅ、と強く握る。
男の持つライトがメイリンを捉えて照らしだす。
覚悟を決めてアスランが起き上がろうとした時だった。

「どうなさいました?」

一人の女性の、声が、した。
アスランにとってはよく聞き慣れた、しかし『本物』ではない、声。

「あ、ラクス、様…っ」
「雨の中の警備、本当にご苦労さまですわね」
「いえ………」
「その車が、どうかしたのですか?」
雨の中、ふらりと立ち並ぶ施設の影から出てきた彼女が男にやんわりと声をかけてきて。
現われる筈のない彼女に男は本当に驚いているらしかった。
ラクス、と呼ばれた彼女は男が照らすライトの先に停車したエアカーをちら、と見て問い掛ける。

「いえ、不審車がいたので詰問しようと………」「あらあら、不審車などではありませんわ」
「え!?」

彼女の言葉に男もメイリンも、助手席に潜んだアスランでさえも度胆を抜かれて。

「彼女は私を迎えに来てくれたのですわ。私、散歩に出たはいいけれど迷ってしまいまして…。それでお願いして来て頂いたのですよ」
「そ、そうなんですか?」

男が動揺しながらメイリンを見て。メイリンも困惑しながら彼女の言葉に強く頷いた。
すると男は信じたのか、『ラクス』に敬礼して去っていった。
どうやら男は彼女を『本物』と信じているらしく、今はそれが幸いした。
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茜さす帰路照らされど 9 (#36 ~37)
TB[ - ]  CM[ 0 ]   Edit   2005/10/18[ Tue ] 22:45
「………っ」
アスランが身を起こして彼女を見つめる。
『ミーア』と、彼女の本当の名を呼ぶたくとも今はメイリンがいるから呼べずに。

「…『ラクス』…」

と、違う名を呼んだ。
彼女は、微笑する。
「アスラン、早く行った方がいいわ。あなた、議長に疑われているから………」
そう『ラクス』らしくない口調で話す。
「ああ、そうだろうな…さっきの俺の態度ではそう思われるのも無理もないさ」
「さっき…議長がレイっていう人と話してたの…」
「レイ!?」

彼女が告げた名にアスランが驚く。
何故彼が。
しかし、アスランの中にあるレイへの疑問がそれを納得させた。
彼はもしかして、と。
思考をそちらに巡らせかけたアスランに、『ラクス』が戸惑いながら告げた。

「…議長は、彼に…貴方の暗殺命令を出していたの…」
「………ッ!?」
「多分、今動いている衛兵も、レイの指示で動いていると思うわ…。議長、あとは任せるって云ってたから…」

しかしアスランは覚悟していたように、薄く微笑して。

「そうか」

とだけ呟いた。

ではきっと。
レイが関わっているならば、きっと。

彼も、来る、と。

アスランの隣でメイリンが混乱して小さく震えている。アスランはちらりとメイリンを見つめて、そして再び『ラクス』と呼ばれる少女を見た。

「…君も、一緒に、行こう」
そう云って銃を持たない、自傷した左腕を差し出した。
しかし彼女は首を横に振る。そして悲しそうに笑って。

「私は、行かないわ」
「しかし!。このままこちらにいれば君も…っ」

『偽物』の君の命も危ない、と。
アスランが必死に『真実』を隠しながら説得するも、彼女は優しく笑うだけだった。

「私は、………『ラクス・クライン』だもの………」

もう、アスランは何も云えなかった。

彼女は、ミーアは、覚悟を決めていると。
そう悟った。
最初は憧れの存在になれて、例え利用されていても、嬉しかったのだと。
自分に出来る事をしたいと以前アスランに告げた彼女は、今の情勢が自らの立場を危険に曝していくのを理解した上で、覚悟をしていた。
きっとその細い身体の中は恐怖で埋め尽くされているだろうに。

アスランはエアカーから降りて、雨降る中彼女をそっと抱き締めた。

初めてアスランからもたらされた抱擁に、ミーアは驚きながらも嬉しそうに微笑んで。
しかし抱き返す事無く二人の身体は離れた。

メイリンも車を降り、代わりにミーアが乗り込んで。
「あちらの格納庫にはまだ誰もいないわ。………アスラン、気をつけて………」
そう告げて、二人の代わりにエアカーを走らせて去っていった。
アスランは遠くなっていく彼女に、翡翠の眸を揺らして。
直ぐに気持ちを切り替えて彼女が指し示してくれた格納庫へと脚を向ける。
メイリンも戸惑いながらもその後を追って行った。



アスランと別れたばかりのミーアはエアカーを走らせながら、静かに泣いていた。

今なら泣いても雨が隠してくれる。
今なら『ラクス』ではなく『ミーア』でいてもいいと。
そう思いながら泣いて。

エアカーを走らせ、一人の少年とすれ違った事に気付かなかった。

ミーアが運転するエアカーとすれ違い、その車を不審そうに見つめた少年は、本能で車がきた方向を睨むように見つめて。

「………アスラン」

と、呟いた。

きっと彼は、この先に、居る。
今走り抜けた車は、多分関わりのある者だ。

ならば、行かなくては。
アスランに逢って、話をしなくては。

止まない雨にびしょ濡れになった黒髪が柘榴の眸を覆う。

しかしそれも気にしないと、少年は、アスランを求めて必死に走りだした。

その手には冷たい銃が、鈍く光っていた。
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茜さす帰路照らされど 7 (#35 ~36)
TB[ - ]  CM[ 0 ]   Edit   2005/10/17[ Mon ] 22:29
「………はい?」

そしてメイリンがドアを開けた。
その姿は普段ツインテールにしている髪を下ろし、バスタオルを巻いただけの、いかにも『シャワーを浴びていた』姿で。
たった今急いで服を脱ぎ、全身を濡らしただけの『偽装』だとは瞬間的には思えない程、刺激的な姿で。
何度もドアを叩き、今にも突き破って侵入しようとしていた衛兵達の予想を見事に裏切っていたらしい。衛兵達は皆目を見開いて驚き、咄嗟に視線を逸らす者さえ居た。

「なんでしょうか?」
メイリンが『何が起きたのか判らない』といった風に尋ねる。
「な、何故直ぐにドアを開けなかった?」
「シャワーを浴びていたので…」
動揺した衛兵が分かり切った質問をするも、メイリンは落ち着いて返答した。
「何か?」
「あ、いや。何か変わった事はなかったか?」
「いえ…シャワールームに居たので何も…」
本当に何も知らない、とメイリンは態度で物語る。
「そ、そうか。いや、ならいい。すまなかったな」
「いえ…。あの、もう宜しいですか?」
メイリンが自分の身体をドアに隠すようにしながら衛兵を見つめると彼らも困惑したように目線を逸らして。
「あ、あぁ…」
そう云ってドアを閉めて去っていった。

そのまま近隣の部屋を尋ねながら順に『不審者』つまりアスランを探していき、その気配はやがて遠ざかっていった。

「もう、大丈夫です…」
閉じられたドアに張りつきながら外の様子を探っていたメイリンが小さく声を発した。
するとバスルームからアスランが静かにその姿を現して。
「…すまない。助かった」
「いえ」
そう答えた途端、メイリンの細い身体からかくん、と力が抜けてその場に座り込んだ。
過度の緊張から解放された所為だろう、かたかたと身体が震えていて、それに気付いたアスランは悲しそうな表情を浮かべて。

「本当に、すまない…」
ともう一度謝罪して彼女に軍服の上着をかけてやった。
そして直ぐに銃を装備しなおし、窓の方へと進もうとする。

これ以上彼女に迷惑はかけられなかった。

しかしアスランの動きはメイリンに呼ばれて制止させられた。
「ま、待って!」
「…え?」
「アスランさん、さっき調べていたの、アレ…どういう、事ですか?」
こんな幼い少女でもコーディネーターでミネルバのクルーだ。何かしらの疑問を抱いたらしい。
「………君は、知らない方が、いい………」
「でも!。あれは………もしかして前アスランさんが搭乗していた『ジャスティス』のような存在ですか?」

アスランはメイリンの言葉に弾かれるかのように振り返って彼女を見つめた。

「な、ぜ君がそれを…?」
「あ、いえ………アスランさんがミネルバに合流してから私…個人的に過去のデータを調べて見ていたんです…」

メイリンは密かに姉と同様にアスランに興味を持って、ザフトに残っていたアスランに関するデータを調べたのだと云った。

先の大戦でアスランが搭乗していた『ジャスティス』はザフトで製造されてはいたが実際は当時の評議会議長でありアスランの実父のパトリック・ザラの『私物』として属していて、結果アスランが寝返る事となったが、その機体はザフトとは分けられた物として存在していたのだ。

つまり今、それと同じ状況だと、メイリンは気付いたのだ。

「…何か、あったんですか?」
「………」
メイリンの問いにアスランは答えなかった。
再び視線を窓際へとむけ止めていた脚を進める。
「待って下さい!」
またメイリンが呼び止める。
「このまま行っても直ぐに気付かれます!」
「しかし、俺は行かなくては…」
するとメイリンがす、と立ち上がり、デスクの上のパソコンを起動させる。
「今、何処か別の場所にアクセスして警報を鳴らします。それなら多少は時間が稼げますから…!」
キーボードを叩きながらメイリンはアスランに告げた。
「それでは君が危険だ!」
「いいから!!。ちょっと待って…あ、よしっ、アクセスできた!!」
さすがといわんばかりのハッキングでメイリンは軍港のメインシステムに侵入し、ミネルバが居る場所から離れた倉庫で警報を遠隔操作で鳴らした。
「メイリンッ!!」
危険を侵す彼女の行動にアスランは思わず声を荒げたが、メイリンはパソコンの電源を切りながら急いで服を着始めた。
「大丈夫です。私、こういうの得意で、ミネルバ配属が決まったんですから」
「しかし…っ」
「アスランさん、行くんでしょう?。私も手伝います」
そうきっぱりと言い切るメイリンの眸は戸惑いに揺れながらも、謀らずして気付いてしまった『真実』の片鱗に疑念と反発を覚えていた。

「………やっぱり、厭ですから………前みたいに、なるの………」

それは、少女のはっきりとした意志だった。
もう、あんな混迷した残酷な世界は繰り返してほしくないという、意志。
アスランはそれに気付き、もうメイリンを止められなかった。

己一人で行こうとした。
しかし、今。
彼女が抱いた気持ちはアスランと同じもので。

「すまない………本当に、すまない」
「いえ、気にしないで下さい。とりあえず窓から外に出ましょう。今車を回しますから」
「ああ」

そしてアスランはメイリンを連れて窓の外に出る。そこから繋がる非常階段へと二人は夜の闇を駆けていった。



自室で議長との直通の回線を切ったレイに衛兵からの内密の通信が入る。
それを受けたレイがぎらりとした視線を上げて。
再び端末を開いてある場所へと繋いだ。
其処は、隠された機体が、ある場所。
そして今、シンが、居る場所。

「………レイ・ザ・バレルだ。其処にシン・アスカはいるか?」

やがて繋がった先にいる議長の部下に冷徹な声音でシンを呼べと命令した。



「レイ?。どうした?」
整備クルーに呼ばれて出た回線に、シンは話し掛ける。
シンはアスランと別れてからずっと自分に託された新しい機体のデータを把握する為に格納庫に居た。
『シン、今から直ぐに動けるか?』
「え?。何で!」
ついシンは大きな声をあげた。
此処に居るのを知られていた事もだが、それ以上にレイの突然の言葉に驚いた。
『ミネルバから離反する者が出た』
「………え?。離反って…脱走!?」
『ああ、そうだ』
「それで?。俺が追うの?」

普通ならば衛兵が追うだろう。シンは只のパイロットだ。追う権利はないし、そんな指示も出ていない。

『…シン』

疑問に思い訝しむシンに、回線の向こうでレイが残酷な事実を、突き付けた。

『離反者は、アスラン・ザラ、だ』

「………え」

シンは、愕然として。
暗闇に堕とされるような錯覚。

「う、そ………だ………」
『シン、これは事実だ』
「な、んで………?」

だって。
さっきまで一緒に居たのに。
ずっと一緒に居ようと、約束したのに。

好きだと、云ってくれたのに。

アスランは、シンの居る此処から、去ると。

「ア、スラ、ン」
途切れがちに彼の名を呼ぶも、返事は勿論ない。

『いいか、シン。携帯端末は持っているか?。アスランは多分格納庫へと向かうだろう』
「………っ」
『俺も今からそちらへ向かう。シン、お前も直ぐに動いてくれ』

そう云ってレイからの回線は一方的に切れた。
しかしシンは動けなくて。
身体が麻痺したかのように自らの意志では動かせなかった。

そう、だ。
アスランは頑固で、自分と同じように人付き合いが巧くないから。
だからきっと。
何か誤解されているんだ。
きっと、そうだ。

シンはぼんやりと考える。
レイに突き付けられた事実を未だ受け入れられないで、心はアスランを信じたいと。
信じて縋りたいと。

それだけを思って、シンは。
漸く脚を動かして格納庫から出ていった。

携帯端末と、念の為にと整備クルーに持たされた銃を持って。

アスランに逢わなくては。
レイや衛兵に見つかる前に逢って、話を聞いて。確かめなければ。

シンは思考をそれだけで埋め尽くして、雨降る夜の闇を駆けていった。
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茜さす帰路照らされど 6 (#35 ~36)
TB[ - ]  CM[ 0 ]   Edit   2005/10/16[ Sun ] 23:12
二人との面会を終えたデュランダルは、一時的に滞在するこの基地に用意させた一室で一人思考を巡らせていた。

『シン・アスカ』は大丈夫だろう。
あの様子から見ても完全に自分を崇拝し、これからも役にたってくれる筈だ。これまでの戦績も予想以上に優れているし、何より彼の傍には我が懐刀の『レイ』が常に居る。

しかし。

『アスラン・ザラ』はどうであろうか。
彼自身迷い続けた所為で戦績が良くない事は自覚しているだろう。一度決心すればその実力は飛躍的に発揮されるが、迷い悩む間はどうしても非情にはなれない性格だ。

それに『アスラン』は気付いている。
全てを、自分を、知ってしまっている。
彼が怪しい、とレイから報告は受けていたが、直接逢ってそれを実感した。
彼はもう自分の言葉を聞かない。
だまされない。
『計画』を無事進める為に排除せねばならない危険分子となってしまった。

「残念だが…そういう事だな。アスラン・ザラ…」

デュランダルは小さく呟くとデスクに置かれた端末を操作し、直通の秘密コードを入力し『レイ』を呼び出した。

「…ああ、レイ。やはり君の云う通りだったよ」
『では、ギル…彼は』
「もう、いいだろう。これ以上は…」
『必要ない、と…』
「ああ、すまないがレイ。あとは頼んだよ」
『…はっ!!』

そして回線は切られた。

閉められたドアの向こう側で、これもデュランダルが用意した『偽物』の彼女が会話を盗み聞きしていた事すら、気付いてわざと放置しながら。
一人デュランダルは微笑した。



窓を蹴破り、外に出たアスランは雨降る中を必死に走り抜けていた。鉄製の非常階段を下り、闇に紛れて逃走する。
多分議長は、気付いた筈た。アスランが何を思い、何を調べて、そして今何をしようとしているかを。
だから時間はないのだ。少しでも遠くへ行かねばやがて議長が差し向けるであろう衛兵がアスランを追う。
やがて頭上からカンカン、と階段を下る足音が聞こえてきた。
その音は一人ではなく、明らかに複数の人間の足音だった。

「くそ…っ、早すぎる…っ」
アスランはそう吐き捨てて階段の横にあった鉄製のドアを開けて再び艦内へと入る。少しでも撹乱しようという判断だった。

「居たぞ!、あそこだ!!」
通路を走っていると、後方から声が聞こえた。
「…ちっ!」
声の聞こえ方からして距離はそんなにない。ならば逃げるよりも倒した方が良いだろうか。
そう思い駆ける脚を止めて振り向いた。
衛兵が三人こちらに駆けてくる。この人数ならばアスランにとってたやすいもので。
だん、と床を蹴って最初の一人目の腹めがけて左肘を食らわせて、蹲る男を後ろ蹴りで床に倒す。
そして直ぐに二人目の男が飛び掛かろうとするのを身を翻して避け、三人目の男の脇を潜り抜けて背後から首を締め上げた。
簡単にかわされた二人目の男がくるりと振り返った刹那、アスランは三人目の首を締めながら二人目の男に蹴りを入れる。
首をしめられた男が落ちて気絶するとさっと身体を離して未だ意識のある二人目の男に拳を食らわせて。
たった一人で立ち向かうアスランに衛兵達は翻弄されて簡単に倒された。床に崩れ落ちた彼らからアスランは装備していた短銃やマシンガン、弾倉などを取り上げて、見返す事無く、通路を駆けていった。

しかし後ろから追い掛ける衛兵の足音は続々と聞こえてくる。
一体どれだけの議長の息がかかった者がこのミネルバに忍び込んでいるのだろうか。
予想どおり事態は悪いらしい。
先程自ら切り裂いた左腕が激しく痛み熱を発している。
「…っ、う…」
思わず軍服の上から傷を押さえてアスランは呻いた。

保つだろうか。

不意に不安がアスランの中を駆け巡る。

その時だった。

一つのドアが見えて、アスランは反射的にそのドアを開けて室内へ潜り込んだ。
ドアを閉めて通路の気配を探る。まだ衛兵は先を進んでいると思ったらしい。足音が一旦遠退いていく。

「………っ、はぁ………」
走り続けた所為で息が途切れがちだった。息苦しさに大きく呼吸すると、何か音が聞こえてアスランは慌てて室内を見た。

「………きゃっ」
其処には、女が、居た。
突然の侵入者に驚き、小さい身体を震わせている。
「君は………メイ、リン」
アスランはぼぅ、とする頭を巡らせて彼女の名を呼んだ。

そういえばこの辺りはクルーの個室がある所だ。パイロット達の個室とは離れていて余り来る事はなかったが頭には艦内の見取り図は既に記憶されている。

「あ、アスランさん………?」
「すまない、少しだけ静かにしていてくれないか?」
「あ、は、はい」
「それと…ああ、ちょっと君の部屋の端末を貸してくれ。連絡をとりたい所があるんだ」
そう云うとメイリンは黙って端末を立ち上げてアスランに促した。
「ど、どうぞ…」
「本当にすまない…」
完全にメイリンは怯えていた。夜遅くに見知った男とはいえ、銃を構えたアスランが忍び込めば普通は誰もが驚くだろう。しかし彼女は混乱しているからだろうが、素直にアスランの言葉に従ってくれている。

アスランは借りた端末を使い、ある所へとアクセスした。
メイリンが後ろで不思議そうに見つめているが気にしている時間はなかった。
アスランがアクセスしたのは、軍港にある数多くの格納庫のひとつ、先程議長と面会した場所だった。
しかし、そこのデータを見てアスランは愕然とした。
先程確かにあったあの機体が、データ上では存在していなかった。
つまり、其処には何もない、と表示されたのだ。

「まさか…そんな!」

確かにあるのに、ないと偽装されている。
その理由は判らない。しかしまだアレは公表できないという事なのだ。
シンとアスランに託すと云われた機体は、正式にはザフトには属していない物となる。

「くそ…っ、議長!!」
アスランは思わずデスクを殴り付けた。

「あ、あの…それ、今度ミネルバにくる新しい機体ですよね?」
突然メイリンが云った。
アスランが格納庫のデータと共に新しい機体のデータを不正アクセスして表示させていたのを背後から見ていた彼女が、それを知っている、と告げたのだ。
「何故それを…っ」
「いえ、さっき…評議会から通信があって…ミネルバにと…」
「それで?」
「はい、まだ正式には登録してはいないけれど、軍本部ではなく、評議会直属の機体として扱うと…」
「なんだって!?」

では、まさか。

あの機体は完全に議長の私物で、それを議長にとって『信頼』できる者に託し、争いをなくす為に戦えと。
裏から操ってあの機体を駆る者を暗躍させて議長にとって『敵』である物を滅ぼすつもりなのか。
全てが終わった後でどう処理するかなど、簡単に想像できた。

アスランは硬直した。
本当に、大変な事が起きようとしている。
そう、思った。

刹那、ドアが叩かれて。
通路から衛兵の声が聞こえた。

「ここを開けなさい!」

しまった、とアスランは内心焦りをみせた。
端末の操作に夢中になって通路の向こうへの注意を怠ってしまっていた。

まずい。今開けられればどうにもできない。

ちら、とアスランはメイリンを見た。
「…いいか、君は俺に銃で脅されていたと云うんだ。それなら君は巻き込まれずに無事に済む筈だ」
「…え、アスランさん…っ?」
メイリンとて馬鹿ではない。
今彼が何らかの事情で追われている事は直ぐに判る。
そして最初は驚いたものの、彼は自分を脅したり命を奪おうとはしていない事も。
事情は判らないが、アスランが全て悪い、とは思えなかった。

「早く開けなさい!」
衛兵が声を荒立ててドアを叩く。
「ま、待って下さいアスランさん」
外に聞こえないように小さな声で窓から脱しようとするアスランを呼び止め、メイリンは彼の腕を掴んだ。
途端にアスランが不自然に呻くが、メイリンは必死で気付かずにそのまま彼をシャワールームへと連れていく。
「おい、メイリン?」
アスランが慌てて声を上げるがそれを無視してメイリンは軍服の上着を脱いで急いでノズルを回し、シャワーを浴び始めた。
突然の事にさすがにアスランも動揺するが、直ぐに彼女の行動を理解し、バスタブの中に潜んで銃を構えて待機する。

そしてバスタオルを巻き付けてメイリンがドアの方へとむかっていった。

アスランは息をひそめて、様子を伺う。

今、捕まる訳にはいかないのだ。

例えメイリンを、彼女を望まずに巻き込んでしまっても。
すまないときっと後で後悔するだろう。

しかし今は彼女の行為に頼るしかなかった。
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茜さす帰路照らされど 5 (#35 ~36)
TB[ - ]  CM[ 0 ]   Edit   2005/10/16[ Sun ] 00:22
議長との面会が終わり、アスランはとうとう彼から求めていた答えも、改心の言葉も、聞く事はないままに。

キャットウォークを降り、新しく与えられた機体の足元へとアスランとシンは来ていた。先程までは見当たらなかった整備担当の者達が、議長が帰った後に幾人かやってきて各自作業をしている。

「…で。これからどうします?」
シンが隣で呆然としているアスランに声をかける。
アスランの様子を気にしながらも、その意識は目の前にある新しき『力』に向かっていて。時折ちらちらと視線をそちらに向けている。

「…あ、ああ。…俺は艦に戻るよ…」
「え?」
「しなくては…いけない事が、あるから…」
「アスラン?」

問うシンに眼を合わせる事なく俯いたままアスランが答え、その気力を失ったような態度にシンが不思議そうに彼の名を呼ぶ。
「あんた、どうしたんです?。さっきも急にあんな事云いだして…」
シンにとって先程の議長とアスランの会話の意味は、何処か隠された何かを含んでいて全てを理解できなかった。AAの事を出されれば、相手を『敵』としてしか知らないシンには尚更二人の会話を理解する事は出来なかった。

「議長にあんな事云って、いいんですか?。せっかく新しい機体もくれて、俺達の事信頼してくれてるのに…」
シンの言葉にアスランはふと顔を上げて彼を凝視した。

今はこうして元の二人のように居るけれど、此迄のすれ違いや信念の違いはまだきちんと話をしていない。
だからシンはまだ議長を『信頼』したままで。それを前提とした考えでアスランに向かってくる。夢見る未来は同じでも、議長を信じるか信じないかによってその道筋は全く違う事を、シンはまだ知らないのだ。

「シン…」
「何ですか?」

神妙な面持ちで名を呼ばれたシンは、どきり、とする。

アスランの翡翠の眸が、迷い揺れていた。

今、全てを、話すべきか。
シンを、連れていくべきか。

アスランはそれだけを考え、何度も口を開きかけては躊躇して。視線が揺れる。

「どうしたんですか?。本当におかしいですよ、あんた…」
シンが向かい合うように立ち、アスランを正面から真摯な眸で見つめた。

ああ、と。アスランは思う。
この純粋な眼差しは、『真実』を知ればどうなってしまうのだろうか。

しかし、迷うアスランに、シンが云う。

「議長程、この世界を守ろうとしている人は居ないんですから、あんたも余計な事考えるのやめたら?」

刹那アスランが翡翠の眸をかっ、と見開いて。

「………ッ!、シンッ!!」
と。叫んだ。

「な、何ですか!?」
突然怒鳴られた事に戸惑いながらもシンはアスランを睨み返した。
「………っ、お前は…何も、知らないんだ…全て、を知らないんだ…ッ」
目線を再び床に落とし、拳をぎゅう、と強く握り締めて絞りだすように吐き出されるアスランの言葉。

シンは動揺してそれ以上何も返せない。

駄目だ。こんなにも議長を信頼しているシンを、今は連れていけない。
シンに全てを話し、説得するには、時間が足りない。

そう、時間が、ないのだ。

アスランには、もう。

「…すまない」
「アス、ラン?」
「俺は…もう、行くよ…」

うなだれながらくるりと背を向けてアスランは格納庫の入り口へと進んでいく。
その姿が余りにも弱々しくて、今にも消えそうな程小さくて。

シンはアスランを呆然としたまま見送るしか、出来なかった。





ミネルバに帰還したアスランは、艦長への報告もせず、真っすぐ自室へと戻った。ドアを閉めキーロックをかけると、照明もつけずにデスクへと向かった。
その上に置かれたノートパソコンの電源を立ち上げ、横の差し込み口に持ち歩いていたメモリーを挿入するともの凄い勢いでキーボードを叩く。

思った以上に、時間は待ってはくれないだろう。
一秒でも早く『行動』をせねばならない。
本当ならばもう少し調べてから、環境を整えたかった。しかし議長からの面会の申し出と、与えられた新しい機体。
多分それは、『脅し』と『選択』だ。
これ以上探るのは許さない、そして、我に従うか従わないか、選べと。
そのつもりで呼び出したのだ。

ならばアスランにはもう時間はない。
先程共に歩めないと意思表示をしたのも同然なのだ。きっと聡い相手の事だから直ぐにでも行動を起こす筈で。

「…間に合う、か?」
焦る気持ちを必死に抑えてアスランはキーボードを叩く。
調べ上げたデータを全てメモリーに移し、パソコンから痕跡を消し去っていった。
最後の作業を終え、メモリーを引き抜くとアスランはそれを手に握り締めて一瞬躊躇した。

最悪の事態も想定しなくてはならないだろう。
となると、コレを普通に持ち歩いていてはまずい。
だが隠せる場所は限られている。

「………っ」
アスランは決心してデスクの引き出しを開けて、その中に隠すように忍ばせていた物を取り出した。

それは、小さな、ナイフ。

折り畳み式のそれを開き、軍服の上着の袖を捲る。顕になった腕の皮膚に、冷たく光る刃を充てた。

「…っ、う…ぅっ」

つぷ、と皮膚に刺し、すう、と切り裂く。鋭利なナイフは簡単にアスランの腕を裂き、その傷から鮮血を滴らせる。
「ぐ、う…っ。うぁ…っ」
苦痛に声を洩らしながらもアスランは更にナイフを突き立てて、なるべく血管を避けながらも皮膚の下にある肉を割り開いていく。
ある程度の深さまで抉るとナイフを置き、小さなメモリーをその傷にめり込ませた。
切り裂くのとは断然に違う、異物をめり込ませる激痛に一瞬目の前が霞むも、アスランは堪えてぐい、と自らの腕にメモリーを隠した。

「っ…、はぁ…」
苦痛に喘ぎ血をぼたぼたと床に滴らせながら救急箱を取り出して乱雑にガーゼをあてて包帯を巻いた。
白い包帯が一気に赤く染まる。
そして止血剤を噛み砕くように飲み、捲った袖を元に戻した。

これでいい。
これならばなくす事無く、万が一捕えられても直ぐには見つからない。
少しの時間稼ぎでもいいのだ。
例えこの身が失われても、きっと今も動いているだろうラクス達が同じ事を調べ上げる時間は稼げるだろう。
確証はないが、しかしアスランのカンがそう告げていて。

鎮痛剤を飲まなかった為に激痛はやむ事はない。しかし飲めば感覚が鈍る。
止血剤だけで充分だ。

アスランはふらつきそうになる脚に力を込めて。

雨降る夜の外界に出る為に、窓めがけてその身を踊らせた。
Category [ 時系列(No.04)【茜さす帰路照らされど】 ]
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茜さす帰路照らされど 4 (#35 ~36)
TB[ - ]  CM[ 0 ]   Edit   2005/10/14[ Fri ] 23:26

「どうだい?。二人ともお気に召してくれたかな?」
「…俺の、新しい機体…っ!」

議長の言葉にシンがまるで大好きな玩具を与えられた無垢な幼子のように笑って、見上げていた視線をMSから議長へとむけて喜んでいた。
「議長…それは…っ」
しかしアスランは喜ぶ事なく感情をぎらつかせて議長を睨み付けるように凝視した。

「この機体は最新鋭でね。まだ何処にもない技術を駆使して作られているのだよ。多分、いやきっと他の者には扱う事は出来ないだろう。君達のような『力』を持った優れた者しか駆る事は無理だ」

機体の説明を淡々と語りながら議長はそれまで浮かべていた微笑を消し去り、真摯な顔つきで凝視するアスランを見返す。アスランは刹那、己の態度に本音が滲み出てしまっていた事を悔やむも、既に手遅れだった。

「シン、君の最新の戦闘データを見せてもらったが、益々スピードを増してきているようだね。インパルスでは性能の限界もあっていらつく事もあっただろうが、これならば思うように動かせる筈だ。何せ、このデスティニーは君が搭乗するのを想定して整備された物だからね」
「そんな…光栄です、議長!。」

議長の賛辞にシンは満面の笑みを浮かべてはしゃぐように喜ぶ。元からアスラン以上に議長の言葉に心酔していたシンにとって、この新しい機体の受領は願ってもいない事だっただろう。

「…そして、アスラン。君にはレジェンドを渡したいと思うのだが…。これは改良されたドラグーンシステムを搭載していてね。空間認識能力に長けていなければ他の者には使いこなせないだろうが、君ならば大丈夫だ。………どうした?」

じっと俯いて言葉を聞いているアスランに、議長は不思議そうに尋ねてきた。
アスランは覚悟を決めたかのように顔をあげて、彼を見つめる。何処か思い詰めた風のアスランに、シンも漸く様子がおかしい事に気付き、そちらを見やる。アスランの隣に居るミーアもまた、アスランの表情を見て不審そうに首を傾げた。

「議長………」
「ん?」
「これは…この機体は…。これから『ロゴス』と戦う為に必要だと、おっしゃるのですか…?」
「アスラン?」

突然『ロゴス』の名をだしたアスランに他の者は皆彼を不思議そうに見た。
しかしアスランは話を続ける。今聞かねば、きっともう直接問う事は出来ないだろう、と。そう覚悟を、決めて。例えこれで完全に自分が疑われても。
アスランはそう決心していた。

「議長は…争いをなくす為に、その争いを謀略で操作する『ロゴス』をなくす為に戦うのだと…おっしゃいましたが…」
「ああ。争いをなくす為に武力をもって戦う、というのはひどく矛盾した論だとは思うが、しかしそうせねば武力を駆使し戦争を裏で操る彼らには勝てないのだと気付いて、ね。彼らを完全に叩かねば争いは永遠に続くだろう」
「………では、議長。ひとつお聞きしても宜しいでしょうか?」
そこで一旦言葉を切ったアスランに、議長は視線だけで先を促した。
「それならば何故議長は………AAを討て、と命じられたのですか?」
「アスランっ。あんたまだそれを………っ」
その言葉にシンが口を挟み、議長もひく、と頬を僅かに引きつらせた。

「彼らはロゴスではないと議長もご存じの筈ではありませんか!。なのに何故彼らを討て、と…。これではまるでAAがロゴスであると認めているようではありませんか!?」

抑えようとしても、一度溢れた思いはそう簡単には堰止められずに。横でシンが、やめろ、と軍服の袖をひいて制止するが、アスランは議長から翡翠の眸を逸らさず問い詰めた。

「確かにあの艦は突如現れ両軍に戦闘停止を呼び掛けては武力を削いでいく。戦場を混迷させていると言われるのは私も同じ想いですので理解できます。しかし、その想いは、我等と何ら変わらない。争いをなくしたいからこその行動であると、議長もご存じではありませんか!?」
「アスラン…」
「私には討伐命令が正しかったのか、今も判りません」
「私の話を聞きなさい、アスラン」

次第に熱くなるアスランの言葉を、議長が優しく、しかし強い口調で遮った。

「…では私からも君に聞きたい」
「………っ」

議長の眸に鋭い光が灯り、アスランはたじろいで口をつぐんだ。

「もし本当に想いが同じというのなら、何故彼らは我等と話し合う場を設けようとしなかった?」
「…っ、そ、れは…」

刹那アスランの全身の血が凍り付く。

「何度も我等は彼らを探し、そして私は繰り返し彼等を含めた全てにメッセージを伝えてきた。ならばこちらの意志は充分に伝わっている筈だ。しかし彼等は話し合う事無く戦場に現れ、一方的に両軍の武装を攻撃して奪っていった」

「………っ!」

議長の云う事は、確かに正論である。アスランの気持ちが彼の言葉に揺らぎそうになる。

「未だ我等に『接触』してこない。それが彼等の答えではないのかね?」

『接触』。
その言葉にアスランは激しく動揺した。

議長は、知っている。
アスランがタリアに密かに申し出て、彼等AAの中枢であるカガリやラクス、そしてキラと密会していた事を知っていて。

知られていないなど甘い考えをもっていた訳ではないが、今この状況ではアスランにはとても不利だ。

「しかし、それは…っ!」
そう叫ぶように云いながらアスランは隣に立つ
ミーアをちら、と見つめる。
堂々と彼等が出てこれないように『贋作』の彼女を用意したのは一体誰か、とアスランは問い詰めたくなる。
アスランに視線を向けられたミーアが困惑して議長を見つめて俯いた。
「…ん?。ああ、ラクスもこうして私の想いに賛同して共に戦おうとしているのに」
アスランとミーアの視線に気付いた議長がさらりと『偽物』を『本物』だと言い切った。しかしその真実を知っているアスランは愕然として。
思わず身を乗り出してしまうのをシンが慌てて抑えこむ。
シンは二人の会話の裏に隠された事を知らず、ただ沈黙して聞いているだけだった。
こんなアスランは初めて見たかもしれないと。そう思いながら。

「………君の憤る気持ちもよく判る」
「………っ!?」
「何故こんな事になってしまったのかと。先の大戦で多くの物を失い、それでも同じ過ちを繰り返したくないからと頑張ってきた君の事だ。この現状が耐えられないのだろう?。ならば判る筈だ。争いをなくす為に必要な事は何なのか、を」

その言葉の裏には、だから私の指し示す道を進め、と。議長によって決められた道を『戦う力を持つ者』として進めばいいと。
そう告げていた。

つまりは、議長は始めからアスランを『戦士』としてしか必要としていなかった、という事だ。

「その為にもあの艦は討たねばならなかった、と私は思うがね。例え思いは同じでも、戦乱を止める行いと、戦況を困惑させる行いでは、どちらが今この世界に…いや、アスラン、君の望む世界に必要だと思う?」

アスランはもう議長に反論する余裕すら見失っていた。

駄目、だ。
もうこれ以上は、話してもこちらの思いは通じない。

「だから私は、我が元で同じ思いを抱き、前を見つめて歩む君達に期待しているのだよ」
「っ、は、いッ!」
そう締め括る彼の言葉にシンは気持ちを引き締めて敬礼を返した。
アスランは完全に言葉をなくし、俯いたままで。



やがて議長は二人を置いてミーアを伴って格納庫を後にした。
その場に残されたシンは与えられた機体を嬉々として見上げ、アスランは固まったまま足元の床を睨むように見つめ。

問い詰めようとしたのは、これが最後だと思ったからだった。
自らの立場が危険になると判っていても、そうするしかなかった。

しかし、議長にはアスランの想いは通じる事無く、粉々に砕かれた。

アスランは今自分が立つこの場が崩れていくような錯覚に陥っていた。
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