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管理人ひさこによるガンダムSEED DESTINY及び蒼穹のファフナーのファンサイトブログです。オフィシャル等とは一切関連はございません。
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侵食 23 (#38~39)
TB[ - ]  CM[ 0 ]   Edit   2005/11/24[ Thu ] 00:11
そうして、アスランは全てを語る。
カガリと共に出向いたアーモリーワンでMS奪取の混乱に巻き込まれ、偶然ながらも乗り込んだミネルバで出会った、黒髪の少年。
それが、『シン・アスカ』。アスランの、愛した少年、だと。
ミネルバから下りオーブに帰った際束の間の再会を果たした時にはまだ互いに想いを抱いておらず、だからキラには彼の事は語らなかったのだと。
やがてオーブを離れザフトに戻るという修羅の道を再び選び、乗り込んだミネルバでシンと共に過ごして。
最初は反発され手のかかる存在だった彼がいつのまにか気になりだし。
彼に告白され、そして自分も彼を選んだ事。
キラやカガリと袂を分かつ形になった時、かつての仲間と今の仲間が剣を交え戦う現実に、心を痛めた事。
そして、シンが、自分の中に渦巻く怒りや憎しみにあらがえず、負の感情に飲み込まれ、アスランをひどく抱いた事。
己の事に必死で思い悩むシンを受けとめ切れず苦しめてしまった事。

アスランはキラに語る。

伏せた目蓋を時折震わせ、涙を拭う事すらせずに。
吐き出される吐息が、胸部の激痛により荒々しくなり、もうこれ以上の会話は無理だと身体は伝えるも、アスランは言葉を続ける。
今話さなければ駄目だと。
苦しみ喘ぎながらアスランはキラに話す。

ただ一つ。シンが暴走したきっかけ、だけは。
そのきっかけ、でもあるキラには、まだ今は話せなくて。
自分自身心の整理がつかないのに、話せない。話せる訳などない。

「………そ、う…。アスラン…本当に、好き…だったんだね?」
「…っ、そう…だ。俺は…彼を………シン、を………っ」
アスランの告白にキラは半ば呆然としながら聞いていた。
それは当然だろう、とアスランは内心考える。
親友が、同性と心を通わせ、身体まで繋げたなど、一体どこの誰ならば受け入れられるだろう。
自分がキラの立場でも、きっと動揺するに違いないから。
背徳の関係だと判っている。
種の存続に逆らう行為だとも理解している。
それでも、想いは止められない。
例え今、キラに詰られても、アスランはシンを想う気持ちは壊せない、と。

「でも、どうして…そんな、好きなら…ひどい事、されたの…?」

突然キラが核心を突く。

アスランは言葉に詰まって、一瞬見開かれた涙に濡れた眼をキラから逸らした。
その反応に、キラが悟る。

「………もしかして、その子、あの『インパルス』のパイロット…?」

キラの言葉に、アスランはびく、と肩を震わせ。思わず起き上がろうとするが胸部の痛みに呻き声をあげる。

「…だから、彼は、荒れて、君に…?」

キラにも判る事だった。
ミネルバからすれば己の存在は、『フリーダム』は、憎悪の対象でもおかしくはなかろう。
それが『インパルス』のパイロットならば尚更だ。
何度か戦い、そして『フリーダム』を撃墜された。
ぶつかる毎に感じた憎悪は確かに自分に向けられたもの。
アスランを愛し、そして蹂躙したというなら、彼が『インパルス』のパイロットならば、全ての事が一致する。

「………じゃあ、アスラン。君は辛かった、でしょう?」
「………キ、ラ」
「君の好きな人が、僕を撃墜して………。それに、僕は、君を」

そこで一瞬キラは言葉を切って。

何を云おうとしているのか悟り、それ以上云うな、と動揺するアスランを見つめ返して。

「僕は、君を、撃墜したから」

かつて『親友』で、しかし本気で『殺し合い』までして。
それでも互いを許し、和解して同じ道を選んだ二人。

アスランはキラの意志を否定し決別を選び。
キラはアスランの意志を否定し撃墜した。

再びすれ違った『事実』を、キラは避ける事なく真正面からぶつけてきた。
AAに運び込まれ、ろくに話せる状態ではなかったから必然的に避けてきた事をキラは今告げる。
それを受けたアスランが表情をなくして。ただキラの眼を、見つめ返して。

恐らく全ては、それ、が原因だろう。
あの頃から『インパルス』の戦闘の仕方が変化を見せ、時にはキラすら恐怖を感じる程の気迫を背負い戦っていたのだ。
ザフト、地球軍どちらの陣営も様子を伺い監視してきたから、殆どの戦闘を見てきて、かつての自分を見るような感覚に陥った覚えがある。
ならばキラが思う通り、シン、が変わり始めたのは恐らくその頃ではないだろうか。
そう考えて問い掛けた言葉は、アスランの反応で当たっていた、と確信できた。
しかし。それでも。

「………うん、判った。君が、彼を、好きなのも。そして…どんなにひどい事されても、今でも、好き…って事も…。判ったよ。でも、アスラン」

「………っ、キラ」

「でも………僕は、あの時、君を撃ち落とした事、今でも間違ってない、と思ってる。例えそれが原因で君達の関係がおかしくなったとしても、僕は…自分を信じて戦った。だから…それ、は謝罪しない」

「………………」

はっきり、とキラは目を背ける事なく、言い切った。
望まぬ戦いだったけれど、己の信念の為に戦った、と。間違っていない、と。

キラの言葉を受けたアスランもまた、表情を固く強ばらせて。

「………ああ。お前に落とされた事は、責めるつもりはないし、それが元であいつと…こじれた事も、俺達の問題だ。お前…には、関係、ない」

苦しげな息と共に強く言い切る。

「確かに、俺は…道を間違えた。でも、あの時…ミネルバで、感じた事までは…否定したく、ない…」

「………うん。アスラン。そう、だね」

アスランの言葉にキラは頷いてみせる。

オーブはキラの故郷。
プラントはアスランの故郷。
それを守りたい、と願った想いは、互いに同じだ。
平和を願う意志も同じ。
ただ守りたいものが、違ったから。

再びすれ違っても、それは互いに認め合った。

「………だから、アスラン。もう一度、考えよう。どちらも守りたいものがあるなら………どうしたらどちらも失う事なく、争いを止められるのか、考えよう………」

キラが口調をそれまでの燐としたものから、普段の優しいものへと変えて呟く。
確かに、キラの云う事も判る。願いは同じなのだ。
それは、キラだけでなく、シンも同じ。
皆、同じ願いを持つのに、ぶつかり合う。
キラの言葉に、まだアスランは頷く事ができなかった。

キラの、カガリの願い。そしてシンの願い、自分の願い。
まだ、全てを叶えるすべをアスランは知らなくて。

頷けなかった。
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Category [ 時系列(No.05)【侵食】 ]
Thread Title[ 機動戦士ガンダムSEEDDESTINY ]   Thread Theme [ アニメ・コミック ]
侵食 24 (#38~39)
TB[ - ]  CM[ 0 ]   Edit   2005/11/24[ Thu ] 00:08
その時だった。

不意に訪れた沈黙が、隣のベッドから流れてくるモニターの音声を捉える。

『繰り返します。先程、プラント最高評議会はロゴス主要メンバーであるジブリール氏を隠匿したとして、オーブ政府に氏の身柄引き渡しを要求。それと同時に軍事機能の一切の停止と放棄も要求しました!。制限時間内に要求が受け入れられない場合は止むを得ず武力行使もありうる、との事です!』

キャスターの動揺を隠し切れない、戸惑った叫びに、キラもアスランも愕然とした。

「………っ、オーブ、が!」
「な、ぜ………っ。議長、こんな…ッ!」

キラはある程度覚悟をしていたけれど、アスランは先日のヘブンズベース戦を知らない為にひどく動揺をしていた。

つまり、ミネルバも、出撃する。
シンが、オーブを、討つ。
故郷を、自ら討つのだ。

アスランは憎悪に満ちたシンの表情を思い出して戦慄を感じおののいた。

「駄目、だ…っ。オーブを、射ったら、駄目だ…ッ」
「…アスラン!。ちょっと、駄目だよ!。アスラン!」
途端に上半身を無理矢理起こし始めたアスランをキラは慌てて制するが、アスランはその手を振り払い。

「…っ、ぐあ、ぁ…ッ!」

全身に走る激痛に叫びすらあげて尚、傷ついた身体を起こそうとあがいた。
肘をつき横向きに捻った身体が、ぐら、と傾いて。

どさり、と。
アスランの身体がベッドからずり落ちて床に身体を叩きつけられた。

「ぅ、アァァ………ッ!。ぁ、あ…ぐ、う…」

「アスラン!。大丈夫!?。駄目だよ、まだ動いたらいけない!」
床に蹲り、呻くアスランをキラが抱き起こそうとしたが、それでもアスランは必死に手を伸ばして。何かを掴もうとするかの如く、腕を伸ばし、ずるり、と床を這い始めた。
落下音に気付いた、隣の男がしめられたカーテンをあけ、現状を知り驚いている。
「おい、何やってるんだ、お前!」
しかしアスランは答えない。
痛めた左腕は動かせず、右腕だけで床を掴み這いずり回る。
脚も怪我を負い、まだ満足に立てない身体で、アスランはずるずると前に進もうとして。
「アスラン!」
「…ぅ、ぐ…ぁ…っ」
「駄目だよ!。傷が開くから!」
キラがアスランの身体を上から押さえ込んで。
「すいません、直ぐマリューさんに連絡を取ってもらえますか?。あとナースコールも!」
「え、あ、ああ」
突然の申し出に焦りを見せたが、男はさすがにまずいと感じたのか、モニター横のパネルを『慣れた手つき』で操作し、ブリッジを呼び出した。
「おい、隣の奴がじたばた暴れだしてるんだけど!。煩いからどうにかしてくれよ」
そんなふざけた口調でアスランの行動を報告した。モニターに映ったマリューが驚愕しながらも。
『…判ったわ!。今直ぐ医療スタッフを向かわせます。…でも、艦内無線の扱い方は…覚えて、たのね………』
哀しげな表情を浮かべて一方的に切られる。
マリューの言葉と、身体が何故か知っていた無線コードに、男は愕然とした。

キラはそれに気を配る余裕はなくて。
傷ついた身体で暴れるアスランを抑えるのに必死だった。
こんな身体の何処にそんな気力が残されていたのか。
アスランの執念めいた気迫に身じろぎそうになる。

「…っ、俺は…行くんだ…っ!。行かなければ、あいつは…っ。行かせろ、俺を…行かせてくれ…ッ!」

胸部の痛みに呻きながらも、キラに身体を押さえ込まれても、尚も手を伸ばして先へ進もうとするアスランに、キラは動揺しながらも。

こんな身体で、誰を、恐らく彼を、止めようとするのか。
アスランの想いの深さに、抗う意志の強さに、キラは何故か、哀れだと。
そう、感じて。

「………君は、何処に、行くの?。彼を、置いてきた君が…ザフトを捨てた君が…。行ってどうするの…?」

「………っ、キラ………!」

事実を無残にも突き付けられる。

「今の君には………守る力も、その為の機体も、ないでしょう?」

その機体を壊したのは自分だけれど。
でも、そう云わなければ、アスランは。
命すら捨ててしまう。
きっと、彼の為に。
だから告げた。
君には行くべき処はない、と。

キラが哀しく告げると、アスランは翡翠の眼を見開いて。

がくん、と。床に崩れ落ち、こうべをたらして。
意識を手放した。

急に弛緩する身体を、キラはそっと抱き起こし、ベッドへと寝かせる。

「………っ、け………」
「え?。アスラン?」

今意識を失ったばかりのアスランが何かを呻く。
キラが耳を寄せて擦れた声音を鼓膜に拾う。

「………キ、ラ、行け………っ。行って、シ、ンを………と、め、て………」

そう、確かに、呟いて。
今度こそアスランは沈黙した。

彼の言葉を聞いたキラは決意する。
迷ってはいけない。
自分も、守る力を、機体をなくしたけれど。
でも、すべがない訳じゃない。
アスランもこの傷尽き果てた身体で想いを貫こうとしたのだ。
ならば自分もまよってはならない。
アスランから託された想いを、今は引き継ごう。
今、二人の想いは、同じだ。

「………うん、アスラン。判ったよ!」

気絶したアスランにそう誓って。
駆け付けた医療スタッフに後を任せて。

キラは駆け出した。

今この艦で唯一機体を持つカガリの元へ。
そして。
恐らく力を、新しい機体を、極秘に造り出している、ラクスの元へ。

キラは一心不乱に走り続けた。
Category [ 時系列(No.05)【侵食】 ]
Thread Title[ 機動戦士ガンダムSEEDDESTINY ]   Thread Theme [ アニメ・コミック ]
侵食 25 (#38~39)
TB[ - ]  CM[ 0 ]   Edit   2005/11/24[ Thu ] 00:05
意識が、揺らめく。

沈むような、浮かぶような。
闇の中を、ふら、と彷徨い。

アスランは再び夢の世界へと、墜ちていた。

暗闇と、血の水面と。
己しか存在しない、夢の世界。

其処に、また、彼が現われる。

「………シン」

アスランが、ぽつりと名を呟いた。
シン、の姿をしたモノは、輪郭をぼやけさせながらもアスランの前に存在していて。
柘榴の眸から、涙をほろほろと零している。

哀しげに、苦しそうに、手が伸ばされて。

アスランに救いを求めるかのように、縋りつこうと。

指先が触れる瞬間、ざあ、と。
シンの姿は輪郭を崩し、血の水面へ溶けて消えた。

また、掴み損ねた手。
救えなかった彼。

アスランは独りだった。



「…ご、め、…シ、ン…」

現実世界で、アスランは浮かされたように言葉を紡ぐ。
無理に動き床に叩きつけられた為に傷口が開きかけ、医療スタッフが治療を施す中で。
キラに自分の機体を貸し出し、心配し駆け付けたカガリが、アスランの声に気付く。

「…え?。アスラン…」
荒々しい呼吸に混じったアスランの呻きはカガリには伝わらなくて。

それでも。

「………ごめ、ん………。シ、ン………シ………ッ」

幾度も繰り返される内に、漸くそれは意味をもった言葉となる。

アスランは、シンに、謝罪していた。

シン、ごめん、と。
何度も。何度も。

お前を裏切って、ごめん。
置き去りにして、ごめん。
お前を、好きになって、ごめん。
愛してしまって、ごめん。

俺なんかで---本当に、ごめん。

幾らでもシンへの謝罪は止まず浮かび上がる。
それらをたゆたう意識の中で、心の中で、何度も繰り返して。
アスランは夢の中で、記憶の中で、傷ついた身体を横たわらせた現実世界で。
シンに謝り続けた。




「………………?」

何か、感じる。
一瞬だけ、シンは自分を包み、そして消えていった『何か』を感じて。

柘榴の眼を瞬かせた。

「どうした、シン」
レイが、訝しむ。

「………あ、いや。何でもない」
感じた『何か』を不思議に思いつつも、シンはレイを見返した。

そうだ。今はしっかりしなくては。

これから、オーブを、討つのだから。

現実から逃げてはいられない。

そうしてシンは前を見据える。
傷ついた心が、アスランを殺した事実に軋んで悲鳴をあげていても。
前を、見据えた。

遠く、遠く、離れた、二人。

想いは今も変わらない。
だが現実が二人を引き裂いていく。

もう、振り返るな。
戻る事などできやしない、と。

互いに離れた空間で、平和を欲する願いと互いを想う心に。

二人はじわり、じわり、と。
傷ついた心を、闇に、侵食されていった。
Category [ 時系列(No.05)【侵食】 ]
Thread Title[ 機動戦士ガンダムSEEDDESTINY ]   Thread Theme [ アニメ・コミック ]
侵食 20 (#38~39)
TB[ - ]  CM[ 0 ]   Edit   2005/11/21[ Mon ] 22:56
「…カガリ、アスラン起きてる?」

突然扉が開かれて、キラがそぉっ、と医務室に顔を出した。
その仕草がまるで無邪気な子供のようで、いきなりやってきたキラに驚いた視線を向けたカガリが、次の瞬間には、ぷ、と吹き出していた。
「…何で笑うの?」
「あ、いや、何でもない」
笑われた事に不思議そうに尋ねてくるキラに、カガリは慌ててそう告げた。
然程気にしない様子でキラが室内に入ってくると、カガリの横に立ち止まる。
「…キラ」
アスランが柔らかい声音で名を呼ぶが、キラは彼に対し何故か硬い表情をむけた。
アスランが訝しむ。
「…カガリ、ごめん。アスランと二人だけで話があるんだ…」
ぽん、とカガリの肩に手をやり、キラがすまなさそうに話し掛けると、カガリは一瞬戸惑いをみせ、切なげな表情をキラに向ける。
「…あ、うん。判った。…じゃあ、また来るから…」
小さく告げてカガリは席を立ち、そのまま医務室から退室していった。
後ろ姿が淋しそうで、アスランはキラを軽く睨み付けて声もなく責めた。
「………」
しかしキラはアスランの眸を見ようとせず、そのままカガリが座っていた椅子に腰掛けると今度は後ろを振り返った。

そこにはもう一人、住人が居る。
過日地球軍との戦闘で捕虜として収容された男。
しかし、キラ達がよく見知った男。
何らかの形で記憶を失うか操作されたであろう男は、キラ達を覚えていない。
しかしそれでも元来の性格は変わらない。
今もカーテンを閉めきり、アスランとの空間を閉ざしている。
多分彼なりに気遣ってくれているのだろう。
壁に取り付けられたモニターで何処かのTV局の報道を見ているらしく、時折キャスターの声が漏れ聞こえていた。
カーテンに仕切られ様子は伺えないが、きっとこちらの会話をも聞いているだろうが、彼は詮索などしない。
今は違う『人間』だが、それでも何故か信用できた。

心の内でそれを思いながらキラは漸くアスランと視線を交わした。

「………例のデータ、キサカさんから受け取ったよ」
それだけ告げて、キラはアスランから視線を外し、膝の上で握り締めた己の拳を食い入るように見つめる。
「…一応、中もファイル開いて見たけど…後で詳しい事聞きたいんだ。いいかな…?」
「いや、何かあるのなら今話すが…」
キラの言葉にアスランは今でなければならぬ、と急かす。

しかし未だアスランの身体は、意識が回復し峠は越えたとはいっても万全ではない。
左手首の辺りには点滴の針が刺さった状態で、常時痛みを和らげる鎮痛剤と栄養剤が体内に送り込まれている状態だった。
本当ならばまだこうして会話するのも医師に控えるよう通達がでている程だ。
満足に身体を起こす事も出来ず、あちこちに巻かれた包帯の白さが痛々しい彼を、今はまだ休ませる事が先決だとキラだけでなく皆が考えている。
特に胸部は一番ひどく、呼吸を繰り返すだけでも痛みを感じている筈なのに。
しかしアスランは努めて冷静に、何事もなかったかのように振る舞うのだ。
元来弱った姿を見せまいと強がる彼だから、それを知るキラにすら弱り果てた己を隠されて。無性に悲しくなった。

「…駄目だよ。君の身体はまだ…」
やんわりとキラはアスランを治めようとするが、彼は横たえた身体を動かし始めて無理矢理に起き上がろうとする。

「…っ、しかし、それじゃ、遅いんだ…ッ!。う、ぐ…っ!」
「アスラン!。駄目、まだ起き上がったら駄目だよ!」

必死に両肘をついて上半身を起こそうともがくアスランだったが僅かに胸部を浮かせただけで激痛が走り、息を詰め、げほ、と咳込んで。
キラが慌てて彼の肩を押さえ、シーツに沈めて寝かせてやる。
「…っ、でも、急が、なければ…っ。全て、おわ…る…」
やはり自力では起き上がる事すら出来ないアスランは右手を胸元にあて、其処を掻き毟るように身につけている病室着を、ぎゅう、と握り締めながら呻く。
先程まで平静だった声音は途端に荒々しいものとなり、時折ひゅ、と喉を鳴らして。

そんな身体で、何故急ぐのか。
確かに事は重大だが、キラにはアスランの急く理由が判らない。否、判りたくなかった。
ふ、と視線をアスランにむけて、キラは静かに問い掛けた。

「…どうして、そんなに急ぐの?」
「…キラ!。判らない、のか…アレを見たのなら、どんなに、危険な事か………っ!」

一瞬何故キラともあろう者が、アスランが掻き集めたあの機密データを見て焦りを感じていないのか、判らなかった。
どんなに身体が痛もうと構わずに声を張り上げて言い返そうと、アスランはキラを、見た。

刹那言葉を失う。

キラの表情は、さっき医務室にきた時の年相応な少年のものでもなく、そしてアスランがよく知る心優しい彼のものでも、なかった。

ひどく冷めたような、感情のない、カオ。

「…ねえ、どうしてそんなに急いでいるの?。君は急いで何をしようとしているの?」
「………っ、キ、ラ………」

思わずゾクリ、と背筋に寒気が走る。
キラの眸を凝視して、アスランは何故か彼を恐ろしくも感じて。
「君は、あのデータを僕達に託すと、キサカさんに渡したよね?」
「………あ、ああ」
「それで?。渡した後は、どうするつもりだったの?」
キラは感情の込められていない眸でアスランを、アスランの本心を探るかのように見つめ続けている。
その視線に耐え切れなくなったアスランがキラから逃れるように顔を逸らした。
だが直ぐにそれはキラの発した言葉によって戻される。

「………本当は、何処に、行こうとしてたの?。アスラン」

その言葉に弾かれたかのように、アスランは眼を見開いて。

恐ろしい、とすら感じるキラを、キラの問い詰める眼を、睨み返した。
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侵食 21 (#38~39)
TB[ - ]  CM[ 0 ]   Edit   2005/11/21[ Mon ] 22:53
「………やっぱり、思った通り、なんだね………」
アスランの反応を、己の中に沸き起こった疑問の答えだとキラは悟る。
しかしアスランは何も答えない。只沈黙したままキラを睨む。

「…君は、あのデータを…危険を侵してまで…僕達に託して………」
そこで漸くキラの眸に感情が戻っていく。
わざと感情を押し殺して問い掛けていたのだ。でなければきっと喚き散らしてアスランを問い詰め、責めたかもしれなかった。
だからキラは己の気持ちを殺し『機械』の如くアスランを詰問したのだった。

「………アスラン。君は…あのデータにあった…デュランダル議長の企みを…止めようとしてたんだね?。」

そこで一旦言葉を区切り、深呼吸をしながらキラは最後まで言い切った。

「そして、差し違えてでも…議長を止めるつもりだった…違う?」

アスランは更に眼光を鋭くして。キラを、ぎっ、と睨み付けた。

初めて『親友』に向けられた、本気の眼差し。
しかしキラは怯みもせずに。

「………否定、しないんだね」

悲しそうに、ぽつり、と告げた。

「…何故、判った」

睨んだまま、低い声音でアスランが問い返す。
「うん、判るよ。だってあのデータを見たら…。僕がアスランだったら同じ事をしていた、かもしれないから…」
つまりそれは、キラならば、違う行動を起こす、と。
そういう事を示してもいた。
「…どうして?。何で君がそこまで…するの?」
キラは判っていて、それでもアスランに尋ねる。

一時的でもあのデュランダルを信じ、付き従ったアスランならば、それが間違いだったと知れば絶対に己の選択を恨むだろう。
と同時に、間違った選択を選ぼうとしている世界を、未来を、それ以上進まぬように自ら犠牲となってでも阻止するだろう。

アスランは、そういう人間なのだ。

かつて彼の父がそうだったように。
アスランは罪を犯した父を許せず、それに従った自分をも許せず、己が罪を償う為にも犠牲となり命果ててでも世界を救おうとしたのだ。
あの時はカガリがアスランを生ある世界に引き止めてくれた。

しかし今また同じ事を繰り返さんとしている彼を、引き止められるのは『誰』なのだろうか。

キラはそれが自分ではない、と何故かそう思った。

もう、二人は、かつてそうだったように、共に歩めないのだ、と。

「………話しても、お前には判って貰えないさ…」

アスランが眼光をゆるめ、ふい、と顔を逸らして呟いた。
キラが今思っていた、二人の間に生まれた溝を、アスランもまた感じていた。

あの時岸壁で対面し、意見をぶつけ合い決別した時から付きまとっていた予感が、今現実となったのだ。
互いに道を選び、離れた今。
アスランが選んだものは間違っていたけれど。それに気付いた今もまた間違った道を歩もうとしているのかもしれないけれど。
もう以前のように、同じものを見て、感じ、歩む事は出来ないだろう。
例え見つめる先の未来は同じでも、その道程は違うのだと。

「…うん。そうだね。アスラン」

キラが小さく頷いた。

「でも、君は…生きなきゃ、駄目なんだよ?」
「………キラ」
「………もう誰も悲しませたくない、と思うなら…。アスラン。君は生きなきゃ駄目だ。君を失ったら悲しむ人はたくさんいるんだから…」

その言葉に、顔を背けたままのアスランの眸が切なさに揺れ動いた。
記憶の中に居る『誰か』を想いだす。

そっ、とキラの指が、自ら切り裂きひどく傷ついたアスランの左腕に触れた。
厚く巻かれた包帯の下に隠された、自傷された其処を、優しく撫でる。
「…君は本当に、自分の身体を大切にしなさ過ぎる。もっと、大事にして…アスラン」
キラに触れられた傷が、何故か熱く疼くようで。
アスランは目蓋を閉じた。
「何だって、こんな…ひどい事…」
自ら腕を切り裂くなど、キラには信じがたくて。
とても痛かっただろう、辛かっただろう傷を見つめる。
「…仕方ないだろう。そうしなければ…お前達には渡せなかった」
ザフトから逃れながら機密を隠し持つなど、そう簡単にはいかなかったから。
だから自傷してまでも持ち出す事を選んだのだとアスランは告げる。
しかしキラは静かな声音でそれを責めた。
「馬鹿。やり過ぎだよ、これは。…只でさえ、君は怪我ばかりするんだから…」
「………すまない」
本心からアスランを気遣っているキラに申し訳なくなり、アスランはぽつり、と謝罪を口にして。背けたままだった顔をキラに向けた。

そして二人の眸が、視線が、交わった時。

「………ねえ、アスラン。聞きたい事があるんだけど………」

キラが、また、感情を押し殺した眼で。

「その、傷。………下半身の、傷、は…誰に、つけられたの?」

言いにくそうに、だがしっかりとした声音で。

「…アスラン。ミネルバで、何をされたの?」

核心をつくかのように、問い掛けた。
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侵食 22 (#38~39)
TB[ - ]  CM[ 0 ]   Edit   2005/11/21[ Mon ] 22:51
一瞬、何を尋ねられたのか判らなかった。
キラは、何を、聞いているのだろうか、と。

しかし本能で詰問の意味を悟り、アスランは横たえた身体を硬直させた。

「………キ、ラ…」

紡がれた言葉は、動揺でひどく擦れていて。
それが、キラに己が思っていた通りだった、と悟らせる。

「アスラン?。君は…ミネルバで、何を、されたの?。何で…あんな、怪我を…?」
はっきりと言葉にしないのは、キラなりの優しさなのだろうか。
だがそれでもアスランにもたらした衝撃は大きかった。

「…キラ、お前………っ」
「うん。知ってる。君がどんな傷を負っているのか、全部知ってる」

まだAAに担ぎ込まれたばかりで意識がないまま緊急手術を受ける事となったアスランの容体を、キラは全て医療スタッフから報告を受けたのだと。
その時に、脱走し撃墜された時に負ったとは信じがたい傷がアスランの身体にあった、と。
キラは当の本人に告げた。
アスランの顔が強ばっていくのが判る。

知られた。
キラに、知られてしまった。

そればかりがアスランの頭を駆け巡る。

知られたくなかった。
キラにだけは、知られたくなかったのに。

だが、瀕死の状態の自分を治療すれば厭でも気付かれるし、それは誰もが不審に思う筈だ。
そして報告するのも医師として当然の事をしたのだと、理解は出来る。

でも、キラにだけは、知ってほしくなかった。

かつての『親友』が、同じ『男』に犯され傷ついた身体だという事を。

知られてしまった。

「………この事は、カガリは勿論、マリューさんも他の皆も知らない。僕だけが医療スタッフから聞かされたんだ」

例えそうだとしても。
一番知られたくなかった者に知られた事実は変わらない。

感情を隠した眸で見つめてくるキラに、アスランはひどく怯え始める。
先程までの鋭かった眼光も意志の強さも、完全になりを潜めてしまっていて。
こんな、びくついたアスランを見るのは初めてだと。
そう思いながらもキラは非情に問い詰める。

今でなければ聞けないから、と。
自分が聞かなければならないから、と。

キラは尚も言葉を繋ぐ。

「…アスラン。君は、あのミネルバで、誰かに…犯された。………そう、なんだね?」

それ、はアスランにとって死刑宣告のようで。

薄く開かれた唇が、わなわなと震えだした。

「どうして、そんな…。君なら、相手を簡単に捻伏せられるでしょう?」

キラにはそれが判らなかった。
アスランが犯された、という事実も衝撃を受けたが、だが彼がそれを甘んじて受け入れるなど信じがたくて。
誰よりも自尊心が高くて、誰よりも清廉で。
例え誰かと身体を繋げたとしても、彼の清らかさは汚れないと。
心の何処かでそう思っていたのかもしれない。
「…相手が誰か、だなんて僕には判らないし、関係ない。…でも、ね。アスラン」
怯え震えだすアスランを哀れむような眼差しでキラは見つめて。
それまで押さえ込んでいた感情が一気に爆発した。

「君を犯した相手を、僕は…許さない」

今度はキラの本気の眼差しを、アスランが見つめる番となる。
許さない、と告げたキラの眸には確かに『憎悪』かあった。
それを感じ取ったアスランは漸く我を取り戻して。
未だ傷口が塞がっていない左腕を何とか動かして。
見えない相手を、アスランを犯した『男』を怒るキラの腕に縋りついた。

「…っ、キ、ラ…っ」

震えた声で、アスランが必死にキラを呼ぶ。
吐く息が荒々しいのは胸の傷の痛みだけではなかった。

「…っ、違、違う…っ。キラ、キラ…違うんだ…っ」
「何が違うの?。だってあの傷は…っ!」
「…そう、じゃない。違うんだ、キラ…っ!」

縋るアスランの手を強く握り返せば、彼の震えが伝わってくる。
ひどく動揺しながらも何かを伝えようとするアスランに、キラは眉をしかめて口を閉ざした。

「…っ、確かに、俺は…っ。ミネルバで…ある『男』に、犯された…っ」

アスランが真実を告白しながら翡翠の眸を揺らめかせて。

「でも、それは…っ。俺が、望んだ、事…なんだ」

アスランの言葉に、今度はキラが激しく動揺した。

「………え、ア、スラン?」
「…本当、なんだ…っ。好きで、愛していて、そして…っ。俺も、あいつも、望んだ事、なんだ…っ!」

そこまで告げて、急にアスランがひどく咳き込み、ひゅう、と喉を鳴らした。
胸の傷が激痛を呼び起こし、アスランは軽い呼吸困難に陥るも、それでも必死にキラに告げる。
「確かに…あいつは、艦を抜ける前、…俺を、ひどく…抱いた…っ。でも…っ!」
途切れ途切れに紡がれる言葉はキラの胸を締め付ける。

アスランは『嘘』を云っていないと。
『嘘』をつくのが誰よりも下手な彼が、こんな状態で自分を騙せる訳がないと。

「…っ、愛、して…るんだ、俺は、あいつ、を…っ!」

そして。

アスランの翡翠の眸から、一筋の涙が、零れ落ちた。

自分でも知らぬ間に、アスランは泣いて。

キラの前で、泣いて。
シンを想って、泣いて。

全てを、キラに、告げたのだった。
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侵食 17 (#38~39)
TB[ - ]  CM[ 0 ]   Edit   2005/11/18[ Fri ] 02:28
再び眠りに落ちたアスランの傍にカガリを残し、キラはブリッジへと向かった。
其処には艦長であるマリューや途中から加わったミリアリア、そして先の大戦の時より共に戦う仲間達がいる。

「あ、キラ!。アスランの調子はどう?」

キラの姿を見つけたミリアリアが声をかければ、皆が振り返ってキラの言葉を待っている。
これまでにどんな別れ方をしていようと、さほど深い付き合いをしていなくとも、かつて同じ立場で戦ったアスランを皆が心配してくれているのだと、キラは彼らのそんな懐の広さが好きだった。
「うん、まだ安静にしていなきゃいけないけど、もう大丈夫だと思う。カガリはそれでも心配だからもう少し一緒にいるって」
キラの言葉に皆頷いた。
カガリが彼の身を案じる気持ちはよく知っていたから、緊迫した状況だけれど何も云わなかった。

「…それで、今あちらはどうなっていますか?」
キラがそれまでの優しげな少年の顔から急に険しいそれへと変化させて、マリューを見つめながら問い掛けた。
マリューが溜息をつく。

「…最悪、とでも云えばいいのかしら…。あれだけの戦闘をしたにも関わらず、結局『ロゴス』の長ともいうべきメンバーは見つからなかったそうよ」
「…そうですか…じゃあ次は…」

マリューの報告を聞き、眉をしかめたキラが言い淀む。

「…次に標的にされるのは………オーブ、だ………」

キラがそう告げた瞬間、ブリッジの空気が張り詰めた。
真っ先に狙われた地球軍の中枢にやはり『ロゴス』の者はいた。
だが共に潜伏していただろう『ロゴス』の長である『ジブリール』という男は居なかった。
勿論その彼を最優先して捜索しているプラント、即ちデュランダル側にも居ないと云えるだろう。
ならば後残された、潜伏の可能性のある場所は、ひとつ。
カガリの国『オーブ』しかないのだ。
改めてそれを知り、彼らは焦燥する気持ちをどうする事も出来なかった。
今直ぐオーブに向かい、繰り広げられるだろう攻撃からオーブを、あの大地を守りたい。
しかし今の自分達はどの国にも属していない艦だ。カガリや他の一部の上層部の好意で今まで潜伏させてもらっていたが、帰るべき場所も守るべき国ももたない、それは悲しき事実であった。

そして。
『力』を持っていない。
守る為に必要な力『フリーダム』を今のキラは失っているのだから。
カガリの愛機『ルージュ』はあっても、それだけではどうにもならない。
気持ちばかりが急いて。
しかし現状はどうにもならないのだ。

「………マリューさん、ラクスから連絡は………?」
キラが、今この場に居ない彼女の名を出した。
だがマリューは沈痛な表情で首を横に振る。
つまり、何も報せはないのだ、と。
ラクスは今AAには居なかった。愛するキラの隣から離れ、同士であるバルトフェルド達と共に宇宙へと向かっていた。
再びおきてしまったこの戦争の、隠された事実を知りたいと、渋るキラを説得してプラントに潜伏し調査しているのだ。
しかし未だ何の報せもない。
慎重なデュランダルの本当の思惑を、そう簡単には調べあげられないのは判っている。
しかしそれでも、今ラクスと連絡を取れないのはキラだけでなくAAの者達皆が不安に思っていたのだった。

「………それと、キラ君」
沈黙で静まり返る中、不意にマリューが話し掛けてきた。

「彼…アスラン君が託してくれた物だけど…」
そう云ってマリューはキラにそれを見せた。
「何か判りました?」
「ええ、貴方の指示どおりに解析してみたんだけど…」

もし最悪の形でキラ達に渡せなかった事も考えて幾重にもかけられていた、アスランが施したプロテクトを、キラは簡単に解除した。
アスランもだが、キラも情報処理能力は優れていて、そして長い付き合いからの自信が判らせるのか、アスランのかけたプロテクトをキラは差程時間を要せずに解除したのだった。
そしてその後の解析を他の者に任せてアスランの眠る医務室へと向かったのだった。

「それで…中には、何が…?」
「………ええ。もし、これが、本当なら…世界は大変な事になるかもしれない」
「………そう、ですか………」

眸を揺らしながら語ったマリューの様子に、キラの表情が曇る。
やはり、あのデータにはザフト、否、デュランダルの核心でもある重要機密が隠されていたのだろう。
だから、少しでも早くアスランから直に話を聞き、そしてラクスとも連絡を取りたかったのだが、しかしアスランは未だまともに会話をできる状況ではなくて。
ラクスとも接触できなくて。
唇を噛み締めて、キラはどうする事もできない自分を歯痒く思っていた。



その頃ミネルバ艦内でも動揺が広がっていた。
確かに『ロゴス』の者達はいたが、長である『ジブリール』が必死の捜索でも見つからなかったと一報が入ったのだった。
今回の作戦の最重要項目だった彼の発見及び拘束が叶わなかったのだ。
侵攻している時に混乱に紛れて逃げられたのだ。
今上層部は彼が次に潜伏しているだろう場所を特定し、作戦を練っている。

「…っ、くそッ!」
シンが吠えた。
ミネルバに帰投して直ぐに聞かされた報せに怒りを隠せない。
パイロットスーツから軍服へと着替え一人通路を歩いていたが、怒りは治まる事なく眸の柘榴色を更に鮮明にしていた。

見つからなかった。
見つけれなかった。
『ジブリール』を。全ての根源を。
それではまだ悲劇は終わらない。
『ロゴス』を全て消し去らなければ終わらないのだ。でなければまた新しい『ステラ』が生み出され、そして彼女を救えなかった自分が生まれる。
もう繰り返したくないのに。
早く終わらせたいのに。
焦りと悔しさに突き動かされ、独り言のように呻くシンを誰かが背後から声をかけた。
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侵食 18 (#38~39)
TB[ - ]  CM[ 0 ]   Edit   2005/11/18[ Fri ] 02:25
「…シン」
「…あ、ルナ…」
声の主を振り返れば、其処にはルナマリアがいた。
「…何?」
複雑な表情をして立っている彼女に、まだ怒りを抑えきれていないシンが憮然と尋ねる。
「…うん。………さっきは、ありがとう」
「…あ、いや…別に、気にしなくてもいいよ…」
云われて急にシンの態度が変わった。
彼女を守る。
そう告げた時の事を思い出し、爆発しそうだった怒りが急激に萎んでいくのが自分でも判った。
その気持ちは変わらない。
今も同じだ。
だが、それは果たして同情なのか、罪悪感からなのか。
シンには判らない。
それでも今は、縋りたくて。
甘えていると思うけれど、それでも今は彼女に縋りたくて。
でなければまだ癒えない記憶が己を食い荒らしそうだった。
視線を泳がして困惑するシンを、ルナマリアは苦々しくも微笑みかけて。

「…守るって云ってくれて…嬉しかった」

そう告げた。
縋りたいのは自分も同じだから、と。
シンもルナマリアも、気付いている。
この気持ちは偽りだ。
本当に求めているものは別にある。
けれど失ってしまった者は戻らない。
それを認めるには互いに精神が未熟すぎる。
だから偽りでも、擬似恋愛でも。
今は二人、縋らなければ前には進めない。

「…シン、大丈夫?」
「ああ、俺は平気…。ルナは?」
「うん、私も」

そっと伸ばされたルナマリアの手がシンの頬に触れる。シンも彼女の手を握り締めて。
前に進む為に、全てを終わらせる為に、互いを選びとろうとしていた。



ルナマリアと別れ、自室に戻ったシンは何気なくデスクの上にあるノートパソコンを立ち上げた。
まだ同室のレイは戻ってはおらず、僅かに安堵する。
まだ今はレイと会ってもあの時の事を思い出してしまうから気持ちは複雑だった。
そして立ち上げた端末をなんとはなしにいじり、メールチェックをした。
部屋の備品であるから勿論私用で使うのは許されないが、プラントから離れた兵士達が家族や友人と他愛もない連絡を取り合う位は許されていた。
しかしシンにはもう、そんな人は居ないのだけれど。
レイにも同じ事が云えるのか、彼にも余りメールはこない。
自分でも判っているのに、何故だろうか。
ついその時はチェックをしてみたのだった。

久しぶりに繋いだ回線を通して、幾つかのメールが受信されていく。
その殆どがプラントから戦災孤児となったシンへの義務的なものだったが、あるひとつのメールを見つけて、不意にシンの意識がそれに集中する。

「………え」

マウスをクリックしてその気になったメールを開いた。

見覚えのないアドレス。
明記されていない差出人の名前。
しかし、何故か視線は開かれたメールに釘づけとなる。

アドレスの一部に、見知った名前を、見つけたのがきっかけだった。

どこからか借りてきたサブアドレス。
そのアドレスの一部に使われている、名前。

『アレックス』

それに、シンが、息を飲んだ。

開かれたメールの本文にあった、メッセージ。



『シン、ごめん
俺は、行くけれど
でも………
心は、お前と共に』



短い、短い、言葉。

「………っ、あ、嘘…だ…」

途端に震える声。
霞む視界。
デスクの上にぼたぼたと水滴が落ちる。

送信日時は、あの日。
彼と判り合い、抱き締めて眠ったあの日の、朝。

まだ議長に会いに行く前の、彼が起こした事件が発生する前の、時刻。

「…アスラン………?」

シンには直ぐに誰なのか判った。
『アレックス』は彼が使っていた偽名。
そして記された本文の内容。
恐らく誰が見ても不審がられないようにと、細心の注意をはらって送信されたであろう。
あの日、彼の部屋で、眠るシンに気付かれないように。

アスランが、シンに、送った、最後のメッセージ。

涙が止まらない。
枯れたと思った涙が、まだ溢れてくる。

傍には居られないけれど、気持ちは変わらない。
愛している、と。

過去から届けられたアスランの言葉。

刹那甦る最後の言葉。
機体のモニター越しの告白。

『愛してる』

鮮明に、甦る。

あの時から、シンに抱かれながらも、アスランは軍を離脱する事を決心していたと知った。
しかし、決して気持ちが変わったからではないと。
想いは同じだけれど、守る為に、行くのだと。

今更アスランの真実を知ってもシンの涙は止まらない。

彼を、殺してしまった事実は変わらないのだ。
恐らく過去の彼もそれは考えていないだろう。

見なければよかったとシンは静かに泣き続けて。

そして、アスランからのメッセージを消去した。

このまま残してはいられない。
同室のレイに見つかる可能性もある。
それを覚悟して送られてきたであろうメッセージを、シンは自らカーソルを操作して消し去った。

もう、遅い。
今更アスランを想っても、アスランの気持ちを知っても。
彼を殺してしまった自分を許せない。
ザフトから、そして自分から離れたアスランを、今はまだ許せない。

未熟な精神は受け入れられず、軋み続けているのだ。
もうこれ以上は、心が壊れそうだった。

「………っ、ぅ、う………っ」

とうとうシンはデスクに突っ伏して泣きじゃくりだした。

心が寒い。
彼が居ない、この世界が、寒い。

寒くて、寒くて。

シンの心は、更に深くなる傷に侵食され続けていった。
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侵食 19 (#38~39)
TB[ - ]  CM[ 0 ]   Edit   2005/11/18[ Fri ] 02:22
ゆら、ゆら、と。
意識が、緩やかに、浮上する。

「………っ、ぅ」

アスランがひどくゆっくりと閉じられていた目蓋を開いていく。
呻きにも似た吐息を吐きながら目覚めたアスランは、傍に誰かが居るのに気付いて視線をそちらに向ける。

「………カガリ?」

そこにはカガリが居た。
ベッドサイドの椅子に腰掛け、疲れたのかベッドに伏せるように転寝をしている彼女の綺麗な金の髪が、天井から降り注ぐ人工照明の光に照らされて眩しく感じる。
「………っ」
その髪に触れようと指先を動かそうとするも、未だ身体はアスランの意志の通りには動かなくて。
微かに蠢いた指先がシーツをさざめかせただけだった。
「…っ、う、ぅ…ん?」
カガリが不意に声を洩らして、のそり、と伏せていた頭をあげた。
「…あ、ごめん。ちょっと…寝てたみたいだ」
「…いや、いいよ…俺も、今、目覚めたばかりだから…」
そう呟いたアスランの言葉に、カガリが、ふわ、と微笑んでみせた。

あの日、アスランが突然AAに救出されてから数日が経過していた。
瀕死の状態で担ぎ込まれ直ぐに緊急手術が施されたが、しかしアスランの病状はひどく辛うじて生き延びられたに近い状態だった。
最初の日は意識も戻らず、次の日になって漸く意識を取り戻すも記憶が混濁していて、何度か僅かな時間目覚めた以外はずっと眠り続けていた。
優れた能力を保つコーディネーターであるアスランですら生死を彷徨う程だったのだ、きっとこれがナチュラルだったならば絶命していたに違いなかった。
アスランの驚異的な回復力によって漸く意識もはっきりとし、短時間ならば通常の会話も出来るようになったのが今日。
その間何度もカガリはアスランの元を訪れていたのだった。

「…具合、どうだ?。何処かおかしい所はあるか…?」
目覚めて、顔を合わせれば必ず聞かれる言葉。
カガリなりに心配してくれているのは判る。
判るが、しかし。
「………ああ、何とか………生きている、みたいだな」
やや自嘲的に呟き返すと、カガリがあからさまに顔をしかめる。

「…冗談でも、そんな事云うなよ…」
「………すまない………」

カガリにしてみれば怒るのも当然の事だ。漸く会えたのに、死にかけていて、今もまだ心が不安定なまま回復していない。
そんな状態のアスランを彼女が心配しない筈がないのだ。
申し訳なく思ってアスランが小さく謝罪した。

かつて自分に対し『生きろ』と云って救ってくれた彼女に、そして自分を愛してもくれたカガリに、こんな形であたる自分がひどく惨めだった。
そうだ。カガリは自分を愛してくれていたのだ。
自分もそんな彼女を愛していると、思っていた。
だがそれは友愛的なものに近く、全てを失い迷いかけていたのを救ってくれた彼女に甘え、縋っているだけだ、と気付いたのは何時だったろうか。
カガリもそれをうっすらと悟り、二人の間が変わりだしたのは。
ちょうど、アーモリーワンに赴いた頃、ではなかったか。
そうして彼女から離れ、やがて…出会い、ひかれ、結果的に彼女を裏切った気がして。
逃げた訳ではない。
今も彼女を好いている。
ただその想いは、キラやラクスにむける想いと同じだったのだけれど。
カガリはそれでも笑って許してくれた。
深い想いをひたすら抑えて、傍に居てくれたのに。

「………本当に、すまない」

もう一度謝罪した。
これだけでは足りない位、彼女に対し心の中で陳謝し続ける。
するとカガリはアスランの謝罪の意味を悟ったのか、哀しげに微笑って。
「…そうだ。彼女。アスランと一緒にきたあの子」
と別の話題を切り出した。
「…メイリン?」
「そう。彼女。あれからちょっと熱が出て…。今はまだ眠っているんだ」
混濁した意識の中で何度かアスランが尋ねた彼女は、アスランが庇った甲斐あって、あの爆発に巻き込まれても軽傷ですんだ。
まだ少し打撲や擦り傷が痛んでいたし、念の為の検査も続いていてアスランとは未だ会えていなかった。
「…そうか」
「多分、疲れも出たんだろうって。今はミリアリアがついていてくれてる」
それを聞いてアスランが安堵しつつも複雑な表情を浮かべた。
カガリも気付いて同じ表情になる。
「…ミネルバに居た子だよな…?。あの子」
「………ああ。助けてくれたんだ…俺を」
そろ、と静かに目蓋を伏せたアスランの脳裏にその時の記憶が甦る。
「同じMSのパイロットの子の妹で…余り話した事もないのに、な…」
そんな、繋がりの薄いメイリンまで巻き込んでしまった己の甘さに嫌気がさす。
覚悟していた筈なのに、結果的にメイリンが居なければ一人ではどうする事も出来なかっただろう。

そして、もう一人の、彼女。
ミーア。彼女も、助けてくれた。
今自分が生きているのは、皆のお陰だと、今は会えない彼女も含め、アスランはそっと心の中で感謝する。

「…俺は、焦り過ぎていたんだろうな…」
「アスラン…」
「少しでも早く、争いを終わらせたくて…。自分でも何か出来るなら、と…そう思ったのに…」
アスランの独白は哀しさと、そして想いとは裏腹に何も出来ずに翻弄されている自分への腑甲斐なさも含まれていて。
「…アスランだけじゃない…私も、焦っていた」
カガリが視線をそらし、座る自分の膝を見つめながら呟いた。
「父上から授かったオーブを、私が守らなければ、と…それだけに固執して…。きちんと情勢を把握出来ていなかった」
確かに以前のカガリは自らの思いに翻弄されていた。
国を守ろう、再び焦土にしてはならぬ、と。
それだけを思い、若いながらに奔走してきた。アスランもそんなカガリを助けたくて共に居たからよく知っている。
思いが強すぎて、真っすぐすぎて、空回りする事も多かった。
結果的に外部に目をやりすぎて内部の暗躍に気付けないで、キラに救われなければあのまま操られていたに違いない。
今も焦燥感がカガリの強い意志を曇らせているのだ。

「…なかなか、うまくいかないな…」
カガリが、ぽつり、と呟いた。

「………もう、全て、遅すぎるんだろうか…」
今にも泣きだしそうな声音でカガリが弱音を口にした。

しかしアスランは頷かずに。
それまでぼんやりと見上げていた天井を、急に睨み付けて。

遅いのだろうか。
もう、間に合わないのか?。
否、違う。
まだ、遅くはない筈だ。
でなければ何の為に自分は危険を犯してまで軍から機密を盗みだし、瀕死になりながらも脱したのか。
愛しい者を置き去りにしてまで、彼を取り巻く未来を守りたい、と決めたのに。

アスランの記憶の中のシンが、鮮明に甦る。

まだ、遅くはないのだ。
これからでも、救えるのだ。
シンも、世界も。全て、まだ。
例え、其の為に、己は幸せになれなくとも。

「遅くなんか、ない…」

アスランの呟きは、カガリの耳を掠めて。
思わず顔を見つめ、聞き返した。

「………え?」

「まだ、間に合う…大丈夫、だ…」

アスランはじっと、天上を、その向こうにいる誰かを見つめて。
自分自身に言い聞かせるように、呟いた。
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侵食 16 (#38~39)
TB[ - ]  CM[ 0 ]   Edit   2005/11/15[ Tue ] 21:30
不意にアスランの身体が微かに震えたのをキラとカガリは見逃さなかった。

その身を切り裂くような激痛ではなく、明らかに心因的な震え。

「アスラン?」

カガリが不安げに名を呼んだ。
するとアスランは飛びかけた意識を記憶の中に居る少年から現実世界へと戻し、未だ巧く動かせない唇を僅かに開いて。

「………ただ、守、りたか…た…の、に…」

と、吐息に満ちた声音で語り始めた。
眸はカガリ達からそれ、天井の白い色をじっと見据えている。
「…アスラン?。何…?」
余りに小さい声は聞き取りにくく、カガリが泣きながら覗き込むように身体を動かした。
キラは沈黙したままアスランの僅かな変化も逃さないようにと見つめている。

「…カ、ガ…リ…も、キラ…も、…す…べて…守り、たか………た」
「………アスラン」
「だ…か、ら…力…欲し、…く…て…」

ひとつ言葉を発する度に胸部に激痛が走り、アスランが苦しみ呻きながらも必死に言葉を繋いで己の心を伝えようとする。
しかし麻酔ですら押さえられない痛みは確実にアスランの気力を削いでいく。
「アスラン…アス、…ラ…ンっ」
彼の呟きをひとつ残さず聞こうとするが、その苦しむ様にカガリは耐え切れなくなり、涙を散らして横たわる身体の横に顔を埋めてしまった。

もういい。もういから、と。

アスランの独白がひどく胸に突き刺さる。

彼の気持ちはよく判っている。
守りたいからと、しかし守る為の力がないからと、それでも出来る限りの事がしたくて。
一度は捨てたかつての故郷を、アスランはどんな想いで見つめ、そして選びとったのだろうか。

今なら判る。
その想いはオーブを想う己と何も変わらない。
国こそ違えど、想いは同じなのだ。
軍に復隊したのも、戦いたかったからではない。
カガリがオーブを守りたいのと同じように、アスランもプラントを守りたくて、そして平和を貫きたかっただけだ。
近くからではなく、遠くから、プラントを守り、そしてカガリ達が居るオーブをも守りたかったのだと。

離れ離れになった今になって漸く理解できた。

随分と回り道をしてしまったけれど。
すれ違い、決別までしたけれど。

何処にいても想いは同じだったのだ。

アスランの言葉に、カガリは泣き崩れ、キラもまた顔をしかめて視界が潤むのを感じていた。

「…デュ…ラ、ン…ダル…議長…は、それ…知っ、て………」

話が核心へと触れた。
その名を聞いてキラもカガリも、心が騒めくのを感じる。

「しか…し、彼…は…。俺、…を…戦、う…者…として…利用…する、…つ…も…りで………ッ」

次第にアスランの声音が歪みだし、ひゅう、と喉を鳴らし始めた。
その変化にキラが焦り、アスランに制止を呼び掛けた。

「アスラン、もういい。いいから…今は喋らない方がいい」
「…で、も…キ…ラ。彼………はっ、人間…を…っ」
「アスラン」

全てを、真実を伝えねば、と急くように語るアスランだったが時折息を詰め、酸素が足りない喉をひくつかせて。
恐らく声を発するだけで胸部に激痛が走っている筈だ。
キラは少し強めに彼の名を呼んだ。
これ以上は、本当に危険だと判断したのだ。

「今は無理しなくていい…。また、話せる時間はあるから…」

そして焦るアスランを落ち着かせる為に、キラは無理に微笑んでみせた。

「…また、話せるから…僕達は…。だから、今は…眠ろう。ね…?」

アスランを安心させるかのように首を傾げながら伝えると、アスランの眸から焦燥感が薄らいだ。

そうだ。まだ、話せる。
急がなければ間に合わないかもしれないけれど。
でも、もう彼らとの時間を阻むものはない。

今少し休息を得ても、また目覚めれば直ぐに話す時間はあるのだから。

苦痛と焦燥で満ちたアスランの意識にゆっくりと安堵の気持ちが沸き起こった。
と同時に開かれていた目蓋が急に重く感じられて。

ああ。

眼を閉じれば、また、彼が居る。

彼に、逢える。

束の間の幸せを与えてくれた頃の彼を、思い出して。

早く、早く、全てを伝えて。
そして、自分は行かねばならない。
混迷する世界を、争いをなくしたいと願った彼の未来を、守る為に。

しかし今は少しだけ、この疲弊した身体を、休めよう。

「………っ」

そして、ふう、と意識が閉ざされていく。
目蓋が閉じ、辺りは闇になる。
だが以前囚われた闇とは違う、彼の髪のように温かみを感じる闇に。
アスランは次第に引き込まれて。

「………………シ………っ」

小さく小さく、何か、を呼んで。

アスランは再び眠りだした。

意識を失う瞬間にアスランが呟いた言葉。

『シン』

その言葉を、キラは聞き漏らさなかった。
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侵食 15 (#38~39)
TB[ - ]  CM[ 0 ]   Edit   2005/11/14[ Mon ] 23:43
シンは、病んでいたのかもしれない。

アスランを、殺してしまった、と。
自分が、殺してしまった、と。

『真実』など知る由もなく。
心を、精神を、病んでいたのかもしれない。

日常を何事もなく過ごしていても、不意に襲いくる虚無感がシンの心を軋ませて。
それが戦闘時には鬼神の如く振る舞わせていたのかもしれない。

それ程ヘブンズベース戦で見せたシンの戦いには鬼気迫るものがあり、海底に潜み歯痒い思いで戦いの行く末を見つめていたキラ達AAクルーに恐怖を感じさせていた。
未だ深手を負い艦の修理に急かされているAAは潜航しつつ世界の情勢を注視していたのだった。
今までならあの場に赴き、少しでも戦闘を回避できるよう突き進むのだが、それすら出来ない状況で拳を握り締めるだけで。
艦はダメージがひどく、しかも主力というべき『フリーダム』を失った現状ではどうする事も出来ない。

しかし、いついかなる時でも動けるよう、全てを把握しなくてはいけないと。
はやる気持ちを抑えて今はただ、その時を待っていた。

キラに漸く許しを得たカガリが医務室へと駆け付けた。
シュン、とエアの抜ける音と共に自動で開くドアの動作ですら遅く感じる程、カガリは焦りを顕にしていた。

離れ離れになっていた彼とやっと出会えた時、彼はザフトに復隊し『あちら側』にいて。
そして今。
開かれたドアの向こうにいる彼は、アスランは、ベッドの上で静かに眠っていて。
弱い息は今にも命の灯が消えてしまいそうで恐怖にかられる。

「………ッ!」
「…カガリ、静かに…ね?」

アスランの痛々しい姿を眸に映したカガリが彼の名を思わず叫びそうになり、ベッドの横の椅子に腰掛けていたキラが唇に指をあててそれを制止した。

「…まだ、麻酔効いてるから…意識は、はっきりしてないんだ」
「………すまない」
「うん、いいよ」

キラに近寄りながらカガリがすまなそうに俯いて謝罪する。
カガリのはやる気持ちも判るから、キラは仕方ないよ、と微笑う。
その表情は柔らかく、唯一の肉親へと向けられた優しいものだった。
そしてキラが退いてカガリを椅子に座らせると、彼女は身を乗り出すようにアスランを見る。
アスランは先程僅かに覚醒したけれど、また眠りについていた。
術後の麻酔が彼の意識を混濁させているから、今はまだちゃんとした会話は無理だろうとキラはカガリに伝えていた。

それでも逢いたくて。

カガリは弱々しい呼吸を繰り返し、青ざめた顔で眠るアスランを静かに見つめている。
それだけなのに、眸が熱くなって視界が潤みだす。

一体どれだけそうしていただろうか。
二人じっと見守る中、傷つき眠るアスランの目蓋がピクリ、と痙攣して。

そして再びゆっくりと開かれていく。

「ぁ、…アスラン!」

驚きと興奮でカガリは思わず叫びそうになる。
キラがそっと彼女の肩に触れて静かに、と無言で促した。
伏し目がちに開かれた目蓋の奥で翡翠の眸がゆらゆらと揺れて、静かに視線を巡らせていく。

見上げていたまっさらな天井から、金の髪の少女へと。
アスランは視界に鮮やかな色彩を映しこんで。

「………カ…ガり…」

薄く開かれた唇から震えるような声音で名を呟く。

「…あ、あ………。カガリ、だ…」

ひどくゆっくりと首を僅かに動かして横に居るカガリを、ぼんやりとした表情で見つめながら微かに微笑んだ。

全身を襲う痛みを取り除く為の麻酔がアスランの意識を混濁させている。
その為、まるで白昼夢を見ているような彼を、カガリは哀しく思いつつも額に張りついた藍の髪をそっと指で払ってやった。
汗を吸い込んで艶を失った前髪が指の動きにあわせて、はらり、と横に滑り落ちる。
アスランの視界にカガリの指が入り、きらり、と何かが光を反射させた。

それが何であるか、たゆたう意識の中でアスランはしっかりと理解する。

己が、彼女に、贈った『指輪』。

途端に眸を揺らめかせて、アスランが僅かに眉をしかめ、ふい、と視線をずらした。

その微かな反応に勿論カガリもキラも気が付いて。

カガリが触れていた指を、指輪が光る指を、もう片方の指で隠すように握り、そして己の膝の上に置いた。
次第にカガリの身体が小さく震えだし、視線をアスランからそらして俯いた。

「…ど、うして………こんな………っ」

絞りだされた声は途切れ途切れで、俯いていても泣いているのをが判った。

漸く逢えたのに。
なのに、こんなにもアスランはぼろぼろで。
カガリも、想いを素直に表せない。

二人を取り巻く状況も、世界の現状も、共に居た時とは違ってしまった。

それが、哀しくて。

何故だろうか。
もう、元の二人ではないのだと。
戻れない、変わってしまった、と。

カガリはそう実感して泣いた。

逢いたくて逢いたくて。

ずっと願っていたこの再会を、しかし思いのままに表す事が出来なくなっている。
彼には彼の信念が。そして自分には信念と愛する国が。
それらのものが、どうしても二人の間に見えない壁を作り出してしまうのを、感じてしまう。

「…ど…して…こんな、事………っ」

何度も繰り返しながら泣き続けるカガリの涙を、今のアスランは止める事も拭う事も出来ず。
後悔にも似た悔恨の念にかられて目蓋を伏せた。

どうして。

ぼんやりと霞みがかった思考にその言葉が重くのしかかる。

どうして。

同じ疑念は己にもある。
しかし、答えを持ち合わせていなくて。

次第に意識ははっきりとしだし、記憶の中に眠る光景が脳裏に鮮明に甦る。

彼ら、キラやカガリと共に居た時間。
そして信念の為に、離れた瞬間。
隠れるように再会し、すれ違う思いによって決別した瞬間。

一体、何を成し遂げたかったのだろうか。

一度は捨てた母国へ還ると決意した瞬間。
合流した艦で、彼と再び出会い。

そして。

不意に、アスランが唇をわななかせた。

「………っ、ぅ」

覚醒した記憶が、彼を、シンを、まざまざと甦らせたからだった。

アスランの変化に、カガリは動揺を顕にし、そしてキラは。

何かを、気付きかけた。
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侵食 13 (#38~39)
TB[ - ]  CM[ 0 ]   Edit   2005/11/13[ Sun ] 23:59
そして、戦いの火蓋は切って落とされた。
しかも、恐らく誰もが思いもしなかった形で、だ。

プラント、デュランダル議長側からの要求への回答期限を待たずして、地球軍艦隊から突如砲撃が始まったのだった。

要求に対し拒否された場合の為に海原に陣取っていたザフトを中心とした艦隊と、それを防衛する為に待機していち地球軍艦隊が、互いのトップの判断を待ちながら目の前の『敵』を監視していた時。

恐ろしく静寂が続いていた、その時。

地球軍艦隊のひとつの艦からミサイルが発射されたのだ。と同時に他艦隊からも一斉砲撃が始まり、一瞬にして灰色の海は赤く染まる。

最悪の、答え、だった。

勿論ザフト側に動揺が広がり、辺りは混迷した。直ちに戦闘開始準備が進められ、各クルーは己の職務に沿って迅速に動きだす。

シンも同じだった。
『デスティニー』のコクピットで待機していたから直ぐに出撃できる。
既にコントロールパネル等の計器類はチェックし立ち上げていた。
ミネルバから発進許可が下りる。

不意に目蓋を閉じて。

脳裏に浮かんだ、藍色の髪の人を、記憶から消して。

再び開かれた紅い眼差しには、迷いなどなかった。

『敵』を。
争いをなくす為にそれを阻む『敵』を、撃つ。

「シン・アスカ、『デスティニー』行きます!」

そう叫んで。

レバーを一気に押し上げた。



カタパルトから射出され上空に飛び出した『デスティニー』が見た景色は、壮絶なものだった。
ベルリンの街を焼き払った、あの『デストロイ』があちら側にいたのだ。
たった一機でもひとつの街を破壊した威力は凄まじかったのに、今は量産されたそれが五機もいて。
MA形態のそれらが一斉に放ったビームが一度に多数の戦艦を焼き払い、沈めた余波で高波すら引き起こして。
既に友軍の艦を幾つも冷たい海底へと沈め、跡形もなく消滅させていたのだった。
「………っ、何だよ、これは!?」
コクピットでシンが慟哭した。
余りにも、ひどかった。
確かにこちらの対応は突然の開戦によって出遅れたが、しかしそれでもダメージがでかすぎる。
「くそッ、あいつらーッ!」
シンは一気に体内の血液が沸騰したような錯覚に陥る。

あれは、あの機体は、ステラを、苦しめたもの。

それをあんなにも沢山造り、また同じ悲劇を、地獄の風景を生みださんとする地球軍、そして『ロゴス』に憤怒を抑えられない。

共に射出された『レジェンド』と『インパルス』も既に敵に接近している。
シンはその先頭を行くように加速して暴れ回る『デストロイ』へと向かっていった。
あちらからもシン達ザフトを阻もうと多数の量産機MSを出撃させている。
『デスティニー』が瞬時に高エネルギー長射程ビーム砲をそれらに向け発射させ、一撃で葬り去って道を開いた。
今度はビームライフルに持ちかえて近寄ってくる敵を確実に仕留めていく。
格段とシンの力は凄味を増していた。
狙いを外さず、仕留め損ねる事もなく。
それは新しく受領したこの機体の高い性能だけではなかった。
シンの中に根強く残る、争いを招くもの、生み出すものへの怒りがシンを更に突き動かしていた。
周囲ではルナマリアやレイも善戦している。
不意にコクピット前方にある小さなモニターを見れば、海上に浮かぶ艦のひとつが『インパルス』へ向けてビームを発射していて。
しかし『インパルス』はそちらではない別方向から接近してきたMSを撃墜するのに夢中で気付いていない。

「ルナ!」

シンは咄嗟に方向を変え左腕のシールドで己の機体を庇いつつ『インパルス』の前に躍り出た。
発射されたビームが激しい音をたててシールドにあたり、弾かれるように拡散していった。

『シン!?』
「ルナ、敵は上だけじゃなくて、下にもいるんだ!。海面にも気をつけないと!」
『…っ、うん、ごめん、ありがとう!』

庇いながら彼女に注意を促せば、一瞬だけ悔しそうな表情を浮かべたものの直ぐに素直に感謝の言葉を告げられた。
己の力量のなさと庇われる屈辱は感じても、しかし戦場では気にしていれば殺される。ルナマリアとて『戦う者』だ。
シンからの忠告を頭にたたき込み、意識を全方向へとむけた。
『デストロイ』は今も友軍を攻撃し破壊し続けていた。

『シン!、このままでは我らは全滅だ。先ずはアレを狙うしかない!』
「ああ!」
『切り込めるか!?』
「任せろ!」

『レジェンド』が『デスティニー』に接近し、レイがシンに策を告げる。
シンはそれに強く頷いて、ぎっ、とモニターに映る『デストロイ』の群れを睨む。
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侵食 14 (#38~39)
TB[ - ]  CM[ 0 ]   Edit   2005/11/13[ Sun ] 23:57
今ならシンにも判る。
あの時、アスランが、云った言葉。

きっとあの機体に乗るのはステラと同じ者。
無理に細胞をいじられて強化された人間達。
地球軍によって生み出された悲しい命たち。
『人間』として扱われず、『生体部品』として機体の中に組み込まれたモノ。

どんなに望まなくとも、その感情すら奪われ戦う事だけを植え付けられ、そして戦場で戦い散るしかない運命なのだ。

あの時ステラを返した選択をアスランは批判した。
あの時シンは批判の意味が判らなかった。

こういう事なのだ。
戦場で戦っても、研究所に隔離されていても、どちらにせよ使い捨ての彼らには『明日』はない。
利用するだけ利用して打ち棄てていくのだ。

今もステラを返した事を間違っていないと信じている。
間違っているのは、それを生み出し、利用して廃棄していく者達。

「くっ、そぉー!!」

シンが悲しみと怒りに満ちた声で絶叫した。

救いたい。しかし救えない。
今はあの機体を仕留めるしか、すべがない。

どうする事もできぬ己自身にも苛立ちを感じる。

『ロゴス』を、全ての諸悪の根源を、断たなければ。
終わらないのだ。

「うわあぁぁぁーッ!!」

叫びと共にシンの全てが覚醒する。

長い長い刄、アロンダイトを引き抜き、『デスティニー』が背面の紅い翼を拡げる。
刹那、拡げられた翼から妖しい光が放たれて。

その姿はまるで『蝶』のようで。

「こんな事…ッ。もう、やめろーッ!!」

そう叫ぶと同時にシンは一気に加速し『デストロイ』へと突進していく。
『デスティニー』へと放たれたビームを軽々と避け、敵の懐に入り込むと振り上げた刄で『デストロイ』の胸部を切り裂いた。
以前は太刀打ちできなかった機体に、しかし今は迷う事なく切り掛かる。
与えられた『デスティニー』の性能も加わってシンの攻撃は凄まじさを増していた。
今のシンは全てのものを凌駕していた。
あっという間にあの巨大な敵を分断し打ち倒していく。
切り裂き、叩き割り、破壊していくその様はまるで鬼神の如く。

それをミネルバで見守っていた議長を含む者達は余りの強さに息を飲む。

ふ、とデュランダルが眸に何かを宿して微笑したのを誰も気付かず、シンの戦いに魅せられていた。

『デスティニー』の攻撃で要となる筈だった『デストロイ』を破壊され動揺が広がる敵陣営に、『インパルス』が自軍MSを率いて突撃を仕掛ける。
『レジェンド』もまた『デスティニー』に負けじと飛びかう敵をドラグーンシステムで翻弄しソードで打ち払い破壊していた。

一気に情勢はザフトに有利に変わっていった。
シンの指示によりルナマリアは『ソードインパルス』に換装し、『レジェンド』と共に『デストロイ』を沈めた。
するとモニターに映るレイがルナマリアに告げる。

『やるな、ルナマリア!』
その声音は、最近の彼が放つ怪しさはなく、純粋に彼女を誉め讃えるもので。

「…ふっ、忘れてた?。私も『赤』を纏う者よ!」
そう答えたルナマリアも、自信に満ち溢れた、いつもの自分らしさを取り戻していた。

大丈夫。
もう、迷わない。

シンが、いる。
シンが、助けてくれる。
シンを、助けてあげられる。

もう、何も、失わないように。
戦える。

ルナマリアは前を見据えて。



最後の『デストロイ』とシンは対峙していた。
激突し、力の限り押し返して。

「これで…こいつを討てば…っ!。終わるんだーっ!」

そして『デストロイ』の腹部を叩き斬る。

装甲が破壊される音が聞こえ、中のパイロットの姿が覗き見えた。
エメラルドグリーンのパイロットスーツを着た若い少年らしき姿。

それが、かつて海で出会ったステラを迎えに来た、二人の少年の一人だと。
唯一生き残っていた、以前は『カオス』に乗り込んでいたスティングだと。

名前すら知らぬ相手を、しかしシンは見る事なく。
ただ相手の機体の頭部だけを憎らしげに睨み付けて。

ステラの仲間を、その命を奪った事を今は理解する余裕もないままに。


知らぬ間に『罪』をまたひとつ重ねて。


その最後の『悪魔』を破壊した。




やがて、凄惨な戦場は、静けさを取り戻さんとしていた。
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侵食 11 (#38~39)
TB[ - ]  CM[ 0 ]   Edit   2005/11/12[ Sat ] 23:34
やがて漸く泣き止んだシンは、しかし未だぼんやりとしたままでルナマリアの腕の中でじっとしていた。
目の辺りがひどく腫れぼったい。
散々泣き喚いた後だから仕方がない事ではあるが、こんな不様な泣き顔をルナマリアに見られてもシンは気にする事はなくて。
「………ごめん」
と、そう呟いた。
みっともない姿を見せてしまったからなのか、それとも。
言葉の真意は判らなかったが、しかしルナマリアはお互い様、だと薄く微笑んで告げた。
「ほら、いい加減準備しないと…もう直ぐ『作戦』が始まるわよ」
「………うん」
優しく云って抱き締めながらシンを立たせるとルナマリアは俯いたシンの前髪に触れる。
長く伸びて表情を覆い隠す前髪をそっと払えば、その下から目を真っ赤にしたシンの困ったように笑う顔が見えて、思わず鼓動が跳ねた。

「…なんか、ルナ、…お母さんかお姉さんみたいだ…」
「…あんた、ねぇ…若い女性に対してソレはないでしょ」
「そっか。ごめん」

いつも張り詰めた空気を纏って心を許さぬ者には歯向かってばかりの少年の、初めて見る素直な態度に知らず心を掻き乱されそうになり、ルナマリアは平然を装って毒づいた返事を返す。
するとまた素直に謝る彼が、何だか可愛らしくて。

こんなにも根は優しくて、素直で、真っすぐな少年。
汚れを知らないままに、絶望によって堕とされた所為で本来の自分を必死に隠して『敵』にむかっていって。
いつしか感情を正直に表せなくなったのかもしれない。
というよりコントロールをうまく出来なくなったのだろう。
心を許していない他人には扱いづらいと認識されて久しい。

それでも心に隠された本当のシンは、こんなにも良い子だ。

きっと、アスランも、それを知って。
シンにひかれたんだろうか。

今は居ない人の、シンにひかれた気持ちが判るようで、ルナマリアは困ったように笑った。
漸く抱き合っていた身体を離し、ルナマリアは先に行くよ、と告げて室内から立ち去ろうとした。

そして不意に思い出したかのように足を止め、振り返りシンに云った。

「…そうだ。私、『インパルス』に乗る事になったから」
「………え!?」

彼女の言葉にシンが驚く。
過日の戦闘でぼろぼろに破壊してしまった『インパルス』は、しかし修復すればまた大空を駆ける事は可能だと、整備クルー達が連日連夜作業に追われていたのは知っていた。
元の持ち主であるシンは新たに『デスティニー』を議長から直々に受領され、もう『インパルス』に乗り込む事はなく。
誰かが代わりに受領するだろうとは思っていたが、しかしそれがまさかルナマリアだとは。

「…嘘。ルナが…?」
「何よ、それ。………まあ、私も自分で驚いてるけどね」

呆然としているシンの言い方に口を尖らせつつもルナマリアは正直に自分もそうだと同意した。
ルナマリアも赤を纏う者として女性ながらに認められた存在だ。
実力はある。

だがその決定は、ひとつの事実をも知らしめる。

それは、『レジェンド』の事。

アスランが貰い受ける筈だった機体。
だがそれを拒んで置き去りにした機体。
それを、レイが、代わりに乗るのだろう、と。
ルナマリアが『インパルス』ならば必然的にそうなるだろう事は判りきっていた。
アカデミー時代はシンはMS戦や白兵戦等の類のものを、ルナマリアは情報処理や爆弾処理等の類を得意としていて。
レイはそれら全てを人並み以上にこなす上でMS戦における空間認識能力がずば抜けていた。
だから当初最新鋭の機体である『インパルス』をレイではなくシンが受領した事も驚いたが、今回もその決定には別の意味で驚いた。
前回の受領も今回の決定も議長が決めた事らしい。
ならば何か考えがあるのだろうか。
それは判らない。
確かに彼ならばあの機体にあるドラグーンシステムを誰よりも使いこなせるだろう。
だがいわくつきとなってしまった機体を、そして恐らく軍内部でも最重要機密であろう機体を、レイが乗るのだ。
それは勲章を貰い受けたシンやフェイスに属していたアスランとは違い、議長とレイの繋がりを匂わせるような決定に思えた。

「とにかく、そういう事だから。先にいくわね」
「…あ、うん」

ルナマリアはシンを置いて戦闘準備の為に格納庫へと向かった。
一人取り残されたシンは、涙で潤んだ眸で室内をぐるりと見回して。




アスランの気配を、感じられなくなったその空間に。

「………さよなら………」

ぽつり、と呟いて。

前を、向いた。

もう、迷う時間は、ない。

どんなに打ち拉がれていても情勢は目まぐるしく変わりゆく。
大切な人を、アスランを、自ら壊し、『殺して』。
失ってしまったけれど。

彼も望んでいた『争いをなくす為』に。

シンは、現実に漸く目を向けたのだった。

まだ心は痛むけれど、そう簡単には癒えないけれど。
しかし、今自分は必要とされているから。
『戦う者』としてでも、必要とされているから。

ならば戦う。
シンは戦うのだ。

想いの形は違えどアスランも願った『平和』を得る為に。

シンは過去の遺物となってしまった、アスランの部屋から退室し、長い長い通路を駆け出した。
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侵食 12 (#38~39)
TB[ - ]  CM[ 0 ]   Edit   2005/11/12[ Sat ] 23:30
やがて辿り着いたアラートで、シンはパイロットスーツを着込み、あと僅かと迫った出撃に備えていた。
勿論そこには同じ姿をしたレイとルナマリアもいる。
アスランを撃墜してからシンは殆どレイと顔を合わせていなかった。
何となく逢いづらかったのもあるし、あの時のレイに何故か恐れを感じていたのかもしれない。
確かにあの時は動揺していた自分をレイの巧みな言葉によって奮い立たされ、そしてあの結果を招いたのだ。
レイの言葉には何故か正当性を感じる以前に異論も同調もなく、すんなりと受け入れてしまう己を認識したからだった。
「…ねえ、シン?」
戦闘前の緊張による沈黙が続く中で、ルナマリアが声を掛けてきた。
それを気にする事もなく、レイはちらり、とシンを見やり、無言で立ち去っていった。
恐らく受領したばかりの『レジェンド』に向かったのだ。
だがシンはレイに反応せず、ルナマリアに向き直る。

二人だけが残された空間。

「…やっぱり凄いね」
「え?」
「…インパルス」
「ああ…」

ぼんやりと壁に背をつけて語る彼女の真正面に立ち、シンはやや俯いたルナマリアを見つめる。
いつもは自信に満ち溢れた勝ち気な彼女がひどく不安げに見えたから。

「………私に、扱える、かな………」
小さく、呟かれる言葉。

確かにルナマリアが乗っていたザクより遥かに性能は上で。
恐らくここに来る前に整備ログを確認し、機体もチェックしたのだろう。そして性能の差に愕然としているようだった。
それを今まで自分の手足のように扱ってきたシンを、改めて凄いと認識せざるをえなくて。

「シンみたいに…乗りこなせるかな…」
「…ルナ。大丈夫だよ…」

何となく安心させてやりたいと、何故かシンはそう思った。
先程慰められた礼なのか、それとも別のものなのかは判らないけれど。

「………うん。そうね。何としてでも、乗りこなさなきゃ、ね…」
「ルナ?」
「だって、私達これからあの『ロゴス』を討ちにいくんだから」

顔を上げてきり、とした眸でシンを見返すルナマリアは覚悟を決めたような表情をしていた。

「…アスランも、メイリンも、『ロゴス』の一味だって、周りは云うけど…」

その言葉にシンは、は、と目を見開いてしかし直ぐに俯いた。

確かに、そう云われているのをシンも聞いた。
『ロゴス』にあのAAも関係しているのだと、先日の議長の演説などで皆そう思っていたし、そしてAAを庇う発言をした上で軍から逃げたアスランを、かつての同胞である彼らAAと同じ立場だろうとも云われるのは当然だった。
そして脱走に関わったメイリンも今ではそんな風に囁かれ、ルナマリアはひどく傷ついていたのだろう。
今更彼女の傷の深さに気付き、気遣ってやれなかった自分の拙さが悔しかった。
「でも、………でも」
「ルナ………」
信じたくない、という口振りで首を横に振り、ルナマリアは突然目の前に立ち竦むシンの肩に頬を寄せた。

一瞬その仕草にシンは彼の人の癖のひとつだったそれを思い出し、目をきつく閉じた。

「………後で、話すわ」
そう呟いてルナマリアは言い掛けた唇を閉ざしシンから離れた。
何を云いたかったのか判らずにシンはルナマリアを見つめ返すと、彼女はそっと手を伸ばしてシンの頬に触れてきた。
「………泣きそうな顔、してる」
「…ルナこそ」
互いに眉をしかめて眸を潤ませている。

シンはアスランを、ルナマリアはメイリンを思って。

彼らが本当に『ロゴス』と繋がりを持っていたのか、シンには判らない。
今でもあの雷鳴の中でかわした言葉の意味を悟る事ができないでいたから。

本当だ、と告げる『戦士』としての自分と。
嘘だ、と否定する『人間』としての自分が。

シンの中でせめぎあっている。
それはきっとルナマリアも同じなのだろう。
二人、余りにも傷は深くて、同じ痛みを知っていて。
「…シン」
ぽつり、と呟いてルナマリアが僅かに顔を近付けた。
目蓋をゆっくりと閉じていく様を、シンは一瞬唇を噛み締めて顔を逸らしかけた。

先程思い起こされた彼の癖が、シンの記憶に眠るアスランを鮮明に呼び出して。

目の前のルナマリアに重なる。

だけど。

シンは幼い。
本当は弱くて、脆くて。

今でもアスランが好きだった。愛していた。
しかし彼はもう、居ないから。

その淋しさに耐えられる程シンは強くなくて。

「………っ、ルナ!」

逸らしかけた顔を相手にむけて、シンは勢い良く彼女を抱き締めた。

「………っ、シン」

驚いた声が耳元で聞こえた。
しかし、直ぐにルナマリアもシンの背中に手を回して強く抱き締め返してくる。

「………うん、シン………」

判っている。
シンの気持ちは、判っているから。
まるでそう告げるかのように頷いて。

自分も、今は独りではいられないから。
頼れるものがないと前に進めないから。

互いに傷を舐め合う結果になるのを判っていても、今は、今だけは。

そして二人の唇が、触れて、離れた。



「…ごめん」
「………ううん、いいよ」
「………ルナ」
「何?」

直ぐに離れた唇がぽつぽつと言葉を紡ぐ。
抱き締め合ったまま、額をこつんとつけて。
シンは云う。

「…ルナは、俺が、守るから」
「え………?」
「もう、何も、失いたくないんだ…俺の知っている人皆…。特にルナは…守りたい、守らなきゃいけない」

彼女の憧れと、親愛を、それらをむける相手を二人とも奪ったのは自分だから。

「だから…何があっても、守るから」

シンは硬く決意して、きっぱりと告げた。
「シン…」
ルナマリアはシンの中に芽生えた自己犠牲のような、自分に対する罪の意識を悟るも、それを拒めなかった。
それだけ自分も弱っていたから。

シンはルナマリアに約束すると、足元に転がったヘルメットを拾い、己の機体へとむかう。
直ぐ後を追って隣を歩くルナマリア。

二人は一瞬だけ手を繋いで、そして離し。

それぞれの機体へと乗り込んだ。



戦いは直ぐ目前に控えていた。
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