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管理人ひさこによるガンダムSEED DESTINY及び蒼穹のファフナーのファンサイトブログです。オフィシャル等とは一切関連はございません。
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千の夜とひとつの朝 12 (#40~42)
TB[ - ]  CM[ 0 ]   Edit   2005/12/10[ Sat ] 23:21
アスランは痛む身体を気にもせず、ただただ前へと歩き続けた。
メイリンに支えられ、漸く辿り着いた格納庫は、先程のアンノウンMSが突然収容された所為で騒然としていた。
周囲の整備クルー達はそれに驚くのに精一杯で、重体だったアスランが格納庫を訪れた事に気遣う余裕がない。
それも当然の事だろう。

今は『存在していない』筈のMSが、目の前に確かに『在る』のだから。

誰よりもよく知るアスランですら動揺しているのだ。
「あれ、は…?」
アスランを支えるメイリンが知らない筈の機体を見つめ呟いた。
あの真紅のボディカラーは、データ上で見たあのシルエットは。

かつてアスランが先の大戦でジェネシスを破壊する為に自ら爆発させた機体『ジャスティス』ではないのか?。

しかしアスランはそれよりも、今コクピットから出てきた一人の人間から視線を外せなかった。

「…ラクス!?」

まさか、そんな、と。
何故彼女がMSから姿を現すのか。
本来彼女は『歌姫』だ。
『戦士』ではないのに。
コクピットから地面へと降り立った彼女はヘルメットを脱ぎ、鮮やかな桃色の髪を宙に舞わせた。身に纏うパイロットスーツも彼女の髪と同色で、どう考えてもラクスの為に用意された物だろうと知る。
「アスラン」
ラクスがアスラン達に気付き、にこやかに微笑んだ。
「…え、嘘…っ。何で…ラクス様が、此処に…?」
アスランを支えながらメイリンが混乱を隠せないでいた。
当然だろう。
メイリンは議長が用意した『ミーア』を『ラクス』と信じ、今もザフト側に居ると思っていたのだから。
「あ、アスランさん…?」
「…すまない、話していなくて。詳しい事は後でするが………彼女が本当の『ラクス・クライン』だ」
縋るように見つめてくるメイリンにアスランは困りながらもそう告げて、再び近づいてくるラクスを見つめる。
「君が、これ、に乗っていたとはな…。大丈夫だったのか?」
「はい。キラに云われた通りに、本当に只『乗っていた』だけでしたから」
アスランが心配して問い掛ければラクスは更に笑みを深くして語る。

キラがあの後ラクスの元に向かったのは知っていたが、ラクスの説明によると宇宙にいたラクスにも議長は極秘裏に刺客を送り込み、襲撃を仕掛けてきたという。
カガリから借りたストライク・ルージュで何とかラクスが乗るヱターナルを守ったようだが、機体は中破したらしい。
そしてラクスがキラにあの新しい翼『ストライク・フリーダム』を再び与えたのだという。
いつのまに製造していたのだろうか。
プラント側に隠されていたデータを極秘に流用し、カスタマイズしてキラにしか扱えないであろう性能を更に高めたようだった。
そしてオーブの危機を救う為、宇宙に居たラクスをAA側と合流させる為、同時に製造していたらしいこの『ジャスティス』を使う事をキラが云い出したのだという。

「キラが…」
アスランが呟いた。
「ええ。私が乗り込むようにデータを書き替えてオートモードにして下さったのです」
「そうか」
ラクスの言葉を聞きながら目の前の機体を見上げるアスランに、今度はラクスが問い掛けた。

「アスランこそ、大丈夫、なのですか?」
「………え?」

僅かに首を傾げ尋ねるラクスにアスランは苦笑を隠せなかった。
確かに今、傷だらけの身体で、自分よりも小さく細い少女に支えられていなければ満足に歩けないのだ。
こんなみじめな姿をラクスはどう思ったのだろうか。

「大丈夫だ」
「いえ。お体の事ではありませんわ…」

ラクスの言葉にアスランは目を見開いた。

つまりそれは、どんな形であれ母国を裏切り離脱した事実、そしてそれを受け入れなければならない心情を、彼女は思いやってくれていたのだ。
「…キラから、少しお話を伺いましたの…」
「………」
少し哀しげに呟きながらもラクスは微笑みを絶やさなかった。
それがかえってアスランを苦しめる。
ザフトに戻り、偽物のミーアの存在を黙認し、AAにも刄を向けようとした。
本来ならばラクスになんと罵られてもおかしくはないのだ。
なのに彼女はアスランを静かに労る。
何も云えなくなり、アスランは視線を逸らして俯き、話を切り出した。

「………『ジャスティス』………」
「はい」
「…何故、これを再び作り出したんだ…。そして今、AAに…」

意を決したかのようにアスランが顔を上げ、目の前のラクスに鋭い視線を向ける。
キラに話を聞いていたのなら、今AAにアスランがいる事を知っていた筈だ。
そして『ジャスティス』はアスランにしか扱えない機体である事も、アスランの身体が今どんな状況にあるのかも、知っていて何故。

「………俺に、またこれに乗れ、と………?」

視線の鋭さをそのままに、アスランは自虐的に呟いた。
今度こそ『正義』だと信じたものに打ちのめされ、殺されかけた自分に、また『力』を与えようとするのか。
そして『母国』と、『同胞』と戦え、と命ずるのか。
属する側は違えど、議長のように『アスラン・ザラ』の利用価値は手駒となって『戦う』事だと、彼女まで云うのか。
アスランが苦々しく言葉を紡ぐ。

「俺は…『アスラン・ザラ』は…。結局は戦い、殺す事しかできない、何も生み出せず破壊するしか出来ない『戦士』だと、君まで…云うのか…?」

横でメイリンが驚きに声をあげていたが、アスランは彼女を気遣う余裕はなかった。

しかし、ラクスはまたも微笑う。

「………あちら、で何と云われ、どのように貴方を欲していたのか、判りませんが…」

そして、穏やかに、告げた。

「本当に?。本当に貴方は何も生み出せないと思われているのですか?」
「………ッ!」
「私は貴方がたのように戦場で直に戦う事は出来ません。しかし、その『力』を、『力』の使い方を、間違う事なく正しく振るう事が出来るならば、と思います」

淡々と優しい声音で語るラクスの言葉にアスランは言葉を失った。
それは確かに戦場に赴く事のない彼女だから云える言葉で。
壊す為の戦いを見つめてきたラクスが、今、アスランまでもそうなのか、否、違いだろう、と。
アスランは知っている筈だ。
生み出す為に戦う事の意味を、知っている筈だ、と。

「何であれ…進むべき道を、選ぶべき道を決めるのは、アスラン…貴方ですわ?」

優しく説き伏せるような言葉はアスランに衝撃を与える。
ラクスはいつも答えを突き付けない。
優しく語り、事実のみを語り、突き放し、しかし道を選び取るのを見守ってくれる存在で。

「そして、破壊よりも恐ろしいのは…道を閉ざす事」

此処で終わりだ、と先に進むのを諦め、流され消えていく事。

アスランはラクスの言葉を心の中で繰り返しながら彼女から視線を逸らし『ジャスティス』を見上げた。

不意にラクスの声音が僅かに変化する。

「傷尽き果てた貴方に今選択を迫るのは残酷過ぎるでしょう。でも…キラは」
「………………え?」

「キラは『何かをしたい、誰かを救いたいと願った時に、何一つ出来ないまま見守るだけは…きっと、アスランにとって、自分が死ぬよりも辛い事だと思う』と。そうおっしゃいました」

床を這い行こうとした時、キラが言い捨てた言葉をこの時アスランは鮮明に思い出した。

『力』を失った君に、何が出来る?と。

だが、今なら判る。
それは同じく機体を失ったキラとて同じ。
しかし彼は諦めず信念の元に再び戦場に戻った。
アスランも守りたいもの、大切な人の為に同じ選択をするだろう、と。
あの時現実を突き付けたのはアスランの身体を思っての事。
しかし目覚めた時にまたそれを望むのならもう誰にも止める権利はない。
選び、そして命尽き果てても、アスランがそれでいいと思うならば。
行け、と。キラはアスランの心情を察してラクスにそう助言してくれたのだった。

「…キラ………」
「確かに貴方は『戦士』なのかもしれません。しかし『力』の正しい意味を知る貴方は…。『戦士』である前に『アスラン』でしょう?」

ラクスは確かに今、アスランをひとりの人間として認めた上で告げた。
その言葉を聞き、アスランは視線を『ジャスティス』からラクスへ、そして己の足元へと移す。

ぎゅ、と拳を握り締めて。

今、思う事は。

先の大戦で行き先を失った自分を救ってくれたカガリと、彼女が愛する母国オーブを守りたい。
恐らく世界で唯一となった良心を守りたい。

そして。

修羅の道に置き去りにしてしまった、あの少年を。

今でもどうしょうもなくひかれている、シンを。

かつて彼が絶望の末に捨てた母国を自らの手で破壊し、心の闇を広げさせない為に。

本当は誰より優しいシンの心を守りたいから。



やがて沈黙していたアスランが、ゆっくりと顔を上げた。
そこには先程までの苦痛に満ちた表情はなくて。

ふ、と微笑って。

「…ラクス。頼みが、ある」
「はい」

聞かなくとも表情で判ったがラクスは頷いた。



「俺に『ジャスティス』を託してくれ」

迷う事なく、アスランは、告げた。
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Category [ 時系列(No.06)【千の夜とひとつの朝】 ]
Thread Title[ 機動戦士ガンダムSEEDDESTINY ]   Thread Theme [ アニメ・コミック ]
千の夜とひとつの朝 11 (#40~42)
TB[ - ]  CM[ 0 ]   Edit   2005/12/09[ Fri ] 23:37
ザフトによるオーブへの一斉攻撃が、始まった。
表面上はロゴスの長ともいうべきジブリールを隠匿したオーブへの制裁だったが、ヘブンズベース戦後では明らかにプラントへの絶対服従の意味の方が濃厚だった。

そんな中、AAも慌ただしく出航準備をし、そうして砲撃を受けるオーブを守るべく発進する。
アスランがCICの席についた後、マリューは一人医務室に取り残されたネオを解放したらしい。
しかし二人にどんなやりとりがあったのか、アスランは知らないし、知ってはならないような気もした。
口出しするべき事ではないのだ、と。

そしてブリッジにカガリが居なかった事も後から聞かされた。
かつてオーブの指導者であり亡き養父でもあるウズミから娘カガリに託された『力』、極秘裏に開発されたMSがあるという。
『力』を持つという事がどういう結末を生むか、そして『国』を守る事がどういう事か、望みや願望だけでは叶いはしないと、はっきりと理解した今のカガリならば託してもいいだろう、と。
キサカが秘かに案内したらしい。
恐らく彼女はそれを駆り、今この戦場に舞い降りるだろう。
アスランは何も出来ない、出来るすべを失った自分を悔やみながらも、とにかく今は少しでも関わっていたいから、と。
与えてもらった役割に集中した。



オーブ領海周辺に集ったザフト軍が一斉砲撃を開始する。
勿論その中にはミネルバもいて、それを確認したアスランは衝撃を受ける事なく、ああ、やはり来たか、と、これから起きるであろう最悪の事態を思い浮かべた。
AAも以前ミネルバに攻撃を受けて以来潜んでいた姿を露にし、戦闘に加わった。
ミネルバを中心としたザフト側に動揺が走ったのが判る。

「………っ、あれは!」

その時である。
何かを見つけ、反射的にアスランが声を上げた。

二度だけ見た、あの機体。

一度目は格納庫で。
二度目は奪取したグフのコクピットで。

シンの、新しい『力』。

今この戦場を『デスティニー』が旋回し戦っている。
『レジェンド』や『インパルス』もいて、前者はレイだとして、後者は恐らく他に唯一残ったパイロット、ルナマリアだろうと察した。
しかしアスランの横に居るメイリンにはその事を伝えなかった。
今はまだ識るには辛すぎるだろうから、と。

そして圧倒的数を誇るザフト艦隊に押され、劣勢を強いられていたオーブ軍勢に、一筋の『光』が降り注いだ。
カガリだった。
金色に輝く、オーブの獅子の娘の『力』。
彼女の髪と同じ色。
初めて見る機体にアスランだけでなく、戦場にいた者全てが驚きを隠せなかった。
こんなにも劣勢なのに、まだ『力』を隠していたのか、と。
最新鋭の機体と思われるそれに恐れにも似た気持ちを抱いたのかもしれない。
一瞬動揺が広がる中、回線を緊急チャンネルにあわせ、カガリがザフト、オーブ全軍に告げる。
今直ぐ、この無意味な争いをやめろ、と。
しかし言葉だけで治まる筈がないのはカガリとて知っている。
突進してくるMSの群れを、放たれる砲撃の嵐を、オーブ国土にひとつたりとも向けてなるものか、と。
率いたキサカ始め信頼できる部下達と共に攻撃を防ぐ。

カガリの出現により少しずつオーブ側が押し返し始めた時、それまで離れていた『デスティニー』がカガリに突撃してきた。

「畜生!。お前はまた…っ!。偉そうな事云って、何も守れなかったくせにーッ!」

『デスティニー』のコクピットでシンが叫んだ。
勿論オーブ側には聞こえる筈はないが、一瞬、アスランは息が止まるかと思う程。
シンの放ったビームライフルに、戦慄を覚えた。
シンの、オーブに、カガリに、対する憎悪の根深さを改めて感じざるをえなかったのだ。
『デスティニー』の攻撃をカガリは何とかかわすも、力の差ははっきりとしていた。
どんなに機体が素晴らしくとも、ナチュラルにしては巧く操作出来る方だとしても。
どうあがいてもコーディネーターであり訓練を受けたシンにかなう筈がなかった。
必死にかわし続ける内にカガリの機体は追い詰められていき。
アスランはかつて共に戦い、自分を必要としてくれた彼女の苦戦している様を見て、冷静ではいられなかった。
攻撃する相手が、シンだから余計心が痛む。

かつてのオーブの子が、その象徴だった男の娘を討つ。

なんという悪夢だろうかと。

そして。
機体を痛め付けられ、追い詰められて、次第にカガリは動きが散漫としてきて。
それを見逃さなかったシンがビームブーメランを振り投げ、カガリの機体を切り刻もうとして。
今のカガリには避けきれない、と見守っているしか出来ないアスランにも、彼女が襲われるだろう最悪の結末を案じた瞬間。

空から一筋の光が射られ、シンの投げたビームブーメランを砕き破壊した。

「な、何だ!?」

シンもカガリも、アスランも、突然の事態を把握出来ず、茫然として。

光が射られた上空を見つめる。

其処に居たのは、青い翼を広げた、キラ、の機体。

『フリーダム』だった。

「フリーダム…っ、まさか!」

シンは驚愕した。
あの機体は、確かに破壊したのに、と。
アスランも驚きを隠せなかった。
宇宙に居るラクスの元へ向かったキラが、『フリーダム』に乗って現われるなど考えてもみなくて。
しかしよく見れば間接部が前の物と違っている。
新しい『フリーダム』に誰が乗っているか判る筈もないのに、アスランは何故かあれがキラだと。
彼にしか扱えない機体だと瞬時に悟る。
キラが現われたのなら、カガリはもう無事だろう。
カガリを危険に晒す事はキラならば絶対にしない、という安堵が、シートに腰掛けている身体から強ばった力を解放していく。

しかしアスランは突如現われた『フリーダム』の、その背後に、もうひとつ『何か』が居るのに誰より早く気が付いて。

「あれは…、まさか、そんな!」
「アスランさん!」

思わずシートから立ち上がるも、身体がそれを拒否するかの如く激痛を走らせる。
苦しげに呻くアスランをメイリンが驚きながらも身体を支えた。
「すまない、メイリン…っ」
荒くなった呼吸と共に感謝の言葉を述べて、アスランは歩みだした。

上空から一気に滑空しながら『フリーダム』はカガリの機体に近寄り、『デスティニー』の攻撃からカガリを庇う。
そしてその背後に居たもう一つの機体は、キラから離れ、ゆっくりと漂うようにAAへ降下してきた。
『マリューさん!。ラクスを頼みます!』
『フリーダム』に当然の如く乗り込んでいたキラからAAへと通信が飛び込んできた。
彼が現われた事だけでも驚いているマリュー達に、何の説明もなくキラは告げ、そしてカガリを庇いながらも戦闘に加わった。

戸惑うマリュー達に、下層部のクルーから無線が入る。

アスランが、突然格納庫へと向かった、と。

その報せに、そしてキラの言葉に。

マリューは息を飲んだ。

では、今この艦に舞い降りようとしているあれは、あの中には、ラクスがいるのか?。

しかしあれは、よく識るあれに乗るべき者は今。
この艦にいて、自ら動く事も出来ない状態だというのに。

「と、とにかく!。アレを艦に収容する事が最優先よ!」




ブリッジのモニターに映された、真紅の機体、を信じられないものを見るかのように凝視しながら。

マリューが叫ぶようにクルーに命じた。
Category [ 時系列(No.06)【千の夜とひとつの朝】 ]
Thread Title[ 機動戦士ガンダムSEEDDESTINY ]   Thread Theme [ アニメ・コミック ]
千の夜とひとつの朝 10 (#40~42)
TB[ - ]  CM[ 0 ]   Edit   2005/12/08[ Thu ] 22:56
やがておぼつかない足取りで漸く辿り着いたブリッジに姿を現わすと、その場に居た誰もが驚愕した表情をしてみせた。
当然だろう。
動けない筈の、瀕死の重傷を負ったアスランが、共に担ぎ込まれたザフトの少女、メイリンに支えられてまでもブリッジにやってきたのだから。

「アスラン!。貴方、大丈夫なの!?」

入り口に一番近い席についていたミリアリアが声をあげた。
勿論他のクルーの視線も一斉に向けられる。

「大丈夫、だ…。それより、マリュー艦長」

気遣いを見せるミリアリアに一瞬だけ微笑うと、アスランは直ぐに視線をブリッジ中央に居るAAの長であるマリューに告げる。

「どうか俺にも、何か手伝わせて戴けませんか!」
「でも、アスラン君、あなた…。そんな身体じゃ、無理だわ…?」

マリューが心配そうに言い返す。

アスランは未だ青白い顔をしていて、しかも少女に支えられていないと自立できない身体なのだ。
今この場に居ないキラがもし此処にいたら、無茶をする彼を怒っていたかもしれない。
しかしアスランは断固として首を縦に振らない。
「大丈夫です。CICに座る位、俺にだって出来ます!」
そう、はっきりと言い切ったアスランは、今も苦しげな息を吐いているのに、眼差しは燃え盛るように熱く。意志の固さを皆に告げていた。

包帯の巻かれた身体でも、何かしたいのだ、と。

「お願いします…ッ!」

そうして頭を下げだしたアスランに周囲は溜息をつき、マリューは困惑した表情を浮かべながら答えを下した。
「…判ったわ。貴方がそこまで云うのなら…。でも、無理はしないでね?」
やはりこんな時まで優しく気遣うのはマリューの人間性だろうか。
不意に医務室に一人残されたあの男を思い出した。
「ありがとうございます。しかし…医務室にあの人を一人置き去りにしてしまったのですが…」
詳しい事は判らないけれど、記憶が違えているらしい男を置いてきた事を詫びると、マリューが一瞬だけ表情を曇らせた。
「いいの。気にしないで…?」
そう云われ、アスランは再び頭を下げ、ブリッジ最下層にあるCIC席につくべく、脚を動かした。



ゆっくりと進み、身体に響かぬよう静かに腰掛けると、アスランは深く息を吐いた。
そして支えてきてくれ、今も隣に立つメイリンを見上げ、優しい声音で話し掛けた。

「メイリン。君はこの艦から降りた方がいい」
「え?。アスランさん?」
「これからオーブを守る為、AAは戦闘配置につく。それがどういう事か、判るだろう…?」

そう、悲しそうに告げたアスランの言葉の意味を、メイリンは直ぐに悟った。

つまり、敵だったオーブを守る為に、自国の軍、ザフトと戦わねばならないのだと。

戦闘に加わらなくとも、その凄惨な現状を、オーブ側から見なければならないのだと。

アスランはそう伝えたのだ。

一瞬だけ眼を見開くも、メイリンは真摯な表情でアスランを見つめ返した。

「厭、です。…私は、降りません」
「メイリン!?」

アスランが驚いた声を上げた。

「判っています。この艦が、何処と戦うか…。でも!。今はこの艦から離れたくはありません!」

メイリンはきっぱりと言い切った。

「今のザフトは、もう…何をしたいのか、私には判らないんです。戦争を止めたいと云いながら、結局敵対する者を攻撃している。今のザフトが、正しいとは…思えないから…」

「………メイリン」

「それにこの艦の人達は敵である私に優しくしてくれた。だから私、何が正しいのか、間違っているのか、ちゃんと見極めたいんです!」

メイリンの言葉は上層部のマリュー達にも艦内無線で聞こえていて。

皆、敵軍の少女の決断を黙って聞いていた。

「………判った、メイリン」
「アスランさん!」
「結局、俺は君を修羅に巻き込んで後ろを振り返る事すら出来なくしてしまったな………」

しかしアスランはメイリンの決意を哀しげに聞いていて。
うなだれながら何度目か判らない謝罪を口にした。

「気にしないで下さい。アスランさんのお陰で判ったんですから。これからは命令じゃなく、自分で考えて決めなきゃ駄目なんだって」

アスランを慰めようとメイリンは笑って告げた。



そうして、とうとう。
ザフトとオーブの戦闘が今。
始まろうとしていた。

シンが自ら志願し、オーブと戦うと決めた事を知ったタリアが驚愕する。
既に機体に乗り込み待機している彼を回線で呼び出すも、返事は返ってこなかった。

返ってきたのは、レイの言葉だった。

シンと同じように機体に乗り込んだレイが、タリアに告げた。

『艦長、今はシンをそっとしておいて下さい』

「ならば尚更、シンを止めなければいけないでしょう!。判っていて何故貴方は…ッ!」

シンが不安を抱えたままだと暗に指摘したレイにタリアは声を荒げた。

判っていながら何故止めなかったのだと。

しかしレイはあっさりと言い返す。

『シンとて、フェイス。自らの信念の元、考え、動き、ザフトの為に戦う者の証です。その立場になった今、自分自身で決め、そして動くというならば、私にも艦長、貴方にも止める権利はないでしょう』

「………レイ、あなた」

タリアは正直この瞬間、レイを不安定なシンを戦場に送り出した彼を恐ろしいと感じながらも、しかし心の何処かで哀れだとも感じた。
彼が議長であるあの男に異常なまでの忠誠を誓っているのは知っていたけれど。
仲間である者までも巻き込み、それでも尚議長の為に尽くすレイを、可哀相な子供だと。

愛を知らない子が彼に父性を求めているようで。

タリアはそれ以上何も云わず回線を切った。



そして発進許可がオーブ領海間近に配置していたザフト全軍に下された。

勿論、シンも。
戦え、と。
オーブを、討ってくるのだ、と。
命を下される。



そして、広い空と海の境界線を、『デスティニー』が飛び立っていった。
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千の夜とひとつの朝 09 (#40~42)
TB[ - ]  CM[ 0 ]   Edit   2005/12/08[ Thu ] 22:49
ネオによってもたらされた最悪の報せに、アスランは覚悟を決めざるをえなかった。

「………メイリン」

傍に立つ少女に声をかけて。

「は、はい」
「頼む…俺を、ブリッジに、連れていってくれないか?」
「………え?」

アスランが何を云っているのか、一瞬メイリンは理解出来なかった。
その言葉に、ネオも驚きを隠せない。

「今、なんて………」

何を、云っているのだろうか。
今、自分の身体がどうなっているのか判らない訳はないのに。
ろくに動けないと、自分自身がよく識っている筈なのに。
メイリンもネオも同じ事を考え、思わず顔を見合わせた。

しかしアスランは繰り返す。

「俺をブリッジに連れていってくれ…ッ!」
「でも!。そんな身体じゃ…」
「そうだぜ、満足に動けないくせに何云ってんだよ」
アスランの言葉に二人が反論するも、アスランは全く聞こうとはしなかった。

「いいから!。早く連れていってくれ!」
「アスランさん…でも………」
「自分の身体がどうなっているかなんて、俺が一番よく判っている!。それでも、行かなければならないんだ!」

ベッドに横たわりながらも、アスランは叫ぶ。
その衝撃で胸部が痛み、顔をしかめながらも、アスランは切実にそれを願っていた。

例え何も出来なくとも。
機体がある訳でもなく、力を奮う身体が悲鳴を上げているとしても。
こんな、ベッドの上で寝ているよりはいい。
少しでも現状を、知りたい、感じたい。

その一心で。アスランはメイリンに半ば強制していた。

「頼む、メイリン!」

アスランの気迫は凄まじかった。

先程までぼんやりとしていた彼とは思えぬ程で。
己の身体などどうなってもいい。
何か、したいんだ、と。
上げられない拳を握り締めて。
メイリンはこんなアスランを初めて見た衝撃に言葉を失った。

するとネオが神妙な声音でメイリンに告げた。

「連れていってやれよ。お嬢ちゃん?」
「でも、そんな………」
「こいつが『行きたい』と云ってるんだ。連れていきな?。でなきゃさっきみたいに、這ってでも行くだろ、お前」

ネオの言葉にアスランは頷かずに視線だけを投げ返す。
しかしその眼差しは、当然だ、と告げているようだった。

何となく、判る気がした。
大切な物の為なら、己などどうなっても構わない。
後悔する位なら動いた方がましだ。
そんな考えなど本当は好かないが、しかし自分が彼の立場ならきっと同じ事を云い出すかもしれない。
ネオは何故かは判らないけれど、かつて『そうだった』ような気がしてならなかった。

同じ事を、したような気すらしていて。

アスランの心情を察し、どう考えても無理な事を承知で彼に同調したのだった。

ネオにも促されたメイリンが戸惑いながらアスランを見つめ。

そして、そっと手を伸ばした。

「………判り、ました」
「ありがとう、メイリン」

彼女の差し伸べられた手を何とか握り返し、アスランは微笑って見せた。



そうしてメイリンと、女手だけでは無理だろうとネオも手を貸して。
アスランは数日ぶりに身体をまともに動かした。
やはり動かす度に激痛は走るけれど。
ベッドサイドのテーブルに置かれた強めに処方された鎮痛剤を噛み砕き、そして上着代わりにと誰かが用意してくれたらしいオーブ軍の軍服を肩から羽織った。

初めて身に纏う、白い軍服に、妙な違和感が沸き起こるも、アスランは首を振ってひとつの事に集中する。

そうしてメイリンに支えて貰いながらもアスランは医務室を出ていこうとして。

ふ、と振り返り、ネオを見つめた。

「………ありがとうございます」

かつての敵に礼などおかしいかもしれないけれど。

だがネオもアスランに笑い返し。

「いいから、行けよ」

そう云って彼等を見送った。
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千の夜とひとつの朝 08 (#40~42)
TB[ - ]  CM[ 0 ]   Edit   2005/12/07[ Wed ] 23:42
突然もたらされた事実に、アスランは驚きを隠せなかった。
ネオ、と名乗る、死んだフラガによく似過ぎた男がシンを知っている、という事実。
そんなアスランの動揺を知ってか知らずか、ネオは淡々と語り続ける。

「…以前、ステラを…返してくれた時に、な…」

ネオの言葉にアスランとメイリンは息を飲んだ。

やはり、それか、と。

どう考えてもそれ以外に彼とシンの接点は見つけられなかったからだ。
ステラがMSのパイロットだった時点で地球軍のあの正体不明の艦に所属していた筈だ。
そしてネオも『大佐』という立場で、尚且つミネルバを知っていた。
ならばあの艦に居た、という事でもある。
そしてシンがステラを独断で軍規違反を犯してまでも返したのだから、何らかの形でネオが知っていて当然だが、男の口振りではどうも直に会ったらしい。

「………貴方が、彼女を引き取りにいらしたんですか?。大佐自ら…」
「まあな。………大切な、『部下』だからな………」

アスランが恐る恐る尋ねれば、ネオは簡単に答えを返す。
本当に、そうだと。
嘘偽りなく思っていると。
ふとした表情でそれを悟る。

ネオの言葉を聞き、アスランは複雑な思いに駆られた。

この男は、ステラを『生体部品』ではなく『大切な部下』と云った。
それはつまり、彼女をひとつの『生命』として認識し、接してきたという事。

シンと同じように。
ステラは『人間』だと。

そう思うのはあの艦に居てどれだけ辛い事だったろうか。
恐らく軍上層部は人間扱いなどしなかっただろうから、軋轢もあっただろう。
そして、記憶がなくとも、別人だろうとも、やはりこの男は『ネオ』ではなく『フラガ』ではないのか、とも考える。
姿形だけでなく、人としての思いやりや常識ある態度に彼の人の面影が色濃く感じられるのだ。
こんな偶然などある筈がない。

そしてまた、男の言葉はアスランに対し別の意味も突き付ける。

シンは彼女を『人間』として見た。
自分は、そして周囲はそう見なかった。

だからシンは例え敵に対する対応としては間違っていたとしても、自分達を憎んだのだろうか。
アスランはふと思い、そしてあの時貫いた己の意志が『人間』としてでなく『軍人』としてのものだったと気付かされた。

あんなにも戻りたくはない、と避けていた『軍人』だったのだ。
自分は、と。

「…もう、戦場に戻さない、と約束したんだがな………」
「シンと、ですか?」
「ああ。だが………やはり無理だったよ」
ネオの呟きに思わず聞き返したメイリンの声に、アスランの意識は引き戻された。
頷いて嘲笑うネオからは、本当は約束を守りたかった、という心情が伝わってきて。

ああ、だから、と。
この男だから、と。

丸腰で対面したであろうシンを捕えず殺さずに帰したのは、この男だったからだ、と。

「………ありがとう、ございます」

思わずアスランは呟いていた。

「え?」
「シンを、彼女を戻したシンを…無事に帰して下さって…ありがとうございます…」
不思議がるネオにアスランは再び感謝をした。
ネオが嘲笑う。

「…変な奴だな、お前」
「え?」

今度はアスランが不思議がる。

「お前、あの艦から脱走してきたんだろ?。もう、そのシンとかいう奴とも関わりはないんじゃないか?」

ネオが鋭く突き返す。

脱走するとなればそれだけ重大な何かがある筈で。
仲間を、部下を、捨ててきた人間が云う台詞ではないだろう。
それにもう艦を離れた今、アスランとシンとの間には何の繋がりもないのだから、感謝するなど必要もないのに。
しかしそれでもネオに感謝するアスランには、きっとシンに対し何かが、何かの感情が、あるのだろう、と。
ネオは鋭い観察眼でそれを見抜いたが、しかしどうせ自分には関係のない事だから、と思い直す。

「ま、いいけどな。どうせ俺もお前も、今は違う立場になったんだしな」

明るく云ったネオにアスランも漸く笑みを返した。

「………だが、もし、また………」
「はい?」

ぽつ、と小さい声を洩らしたネオの言葉。

「シン、に会う事があったら、伝えてくれないか?」

きっと、ずっと、忘れないだろう。

「約束、守れなくて………悪かったな」

アスランの中にある、シンの面影に、謝罪するネオの言葉。

伝える日などもう来ないだろうけれど。
それでも、忘れずに、いよう。

いつか、きっと。
そう、きっと、いつか、きっと………。



「それより、お前」

突然ネオがアスランを手錠で拘束された手で指差して。

「ここでのんびりしてていいのか?」

そう告げた。

「え?、何故…?」
「さっき、何処かに行く、とか騒いでいただろう?。いいのか?。どうやら、プラントは正式にオーブを標的にしたようだぞ?」

あっさりと云ったネオの発言にアスランは驚愕した。

「さっきお前が目覚める前に、報道されてたぜ?。…プラントからの要求を、結局オーブは蹴ったみたいだな」
「…そ、んな…ッ!」

動揺し、アスランは思わず身体を跳ねさせるも、胸部に走る激痛にそれは叶わなかった。
メイリンが慌ててアスランの身体を押さえる。

「アスランさん!」
「…っ、ぐ、ぅ…ッ」

しかしネオはアスランの身体など、無視して。

恐らく彼は、何としてでも行くのだろう、と。
そう、思って。

「ザフトからの一斉攻撃まで、時間はないぞ?」

どんなつもりで教えたのか。
アスランもメイリンも、そしてネオ自身も。

判らないまま。

目を逸らしたかった『現実』を突き付けた。
Category [ 時系列(No.06)【千の夜とひとつの朝】 ]
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千の夜とひとつの朝 07 (#40~42)
TB[ - ]  CM[ 0 ]   Edit   2005/12/06[ Tue ] 23:48
その時。不意に。

「おい」

と。開け放たれたカーテンの向こう、隣に並べられたベッドに居る男が声を掛けた。

「…あ、はい」
思ってもみなかった呼び掛けにアスランは男に視線を向けて答えた。
メイリンがベッドから起き上がる事すらできないアスランを気遣い、視界の邪魔にならぬよう、そっと身体をずらす。
すると普段は互いを気にせぬように閉められたカーテンが開いていて、その先にあるベッドの上に男があぐらをかいて座り、アスラン達をじっと見つめていた。手錠で戒められた手を脚の間に無造作に投げ出し、屈むような姿勢で俯き加減に、じろり、と見つめている。

「…お前達、ザフトに居たのか…?」

そう、男は低く呟いた。
一瞬アスランに対し、鋭い視線を向けて。

ぴり、と張り詰めたような、男が放つその気迫に、アスランは首だけを横に向けた状態で彼を見返す。
「…それ、が何か…?」
アスランは男の顔を凝視しながら答えるも、何故か違和感を感じていて。
ぼんやりとした思考でかつて初めて会った時より今まで、殆ど関わった事も少ないけれど彼に関する記憶を掘り起こした。
「確かに…俺は、ザフトに、戻りましたが…」
復隊したのは事実ではあるけれど、何故それを今聞かれるのだろうか。
しかし先程声を掛けられてからずっと、違和感は拭えなくて。

「…そうか。じゃあ、もしかして………ミネルバに、居た、とかじゃないよな…?」

そう云いながらも男の眼光は鋭さを増していく。

以前はこんな風に相手を見返したりするような人間だったろうか。
こんな、憎しみを相手にぶつけるかのような。

「…それが、どうかしましたか?」
アスランはわざとはぐらかすように答えてみる。
何となく男の、自分に対する視線が気になってしようがなかった。
メイリンはずっと不安げにアスランの傍に寄って黙ったままだ。
「…いや、俺にはあの艦とは、ちょっと色々あって、な…」
「え…?、それはどういう…」
「いや、気にしないでくれ」
思わず聞き返せば、男はその言葉を遮るように告げ、今度こそ笑った。
アスランも良く知る、大人の立ち振る舞いを感じさせながらも、何処か無邪気そうな、笑顔。
それまで張り詰めていた空気が一気に和らぎ、アスランはそれを見て何故か安堵する。

ああ、やはり、変わっていない。
さっきは何処か別人のように感じたりもしたけれど。
この人は、昔のままだ、と。
『フラガ少佐』は以前のままだった、と。

そうしてアスランは安堵感に流されるように呟いた。

「…フラガ少佐…」

しかし、その名を呟いた途端、男の笑みは強ばった。

「………何、お前まで、俺をそう呼ぶんだ?」

「………え!?」

アスランは驚きを隠せなかった。

何を、云っている?。
だって、貴方は。

そう、心で繰り返し、過去の記憶を手繰り寄せる。

「お前も、他の連中と同じように、俺を知ってるって?」

そういえば、何故この人は、こんな所に居るのだろう。
手錠で拘束され、まるで監禁されているかのような。

本当なら、此処ではなく、艦長と共に居て、そして、MSに乗って。
戦って、AAを守って。

「俺は『大佐』。地球軍所属、ネオ・ロアノーク大佐だ!」

そう、だ。

この人は、今、居る筈はないのだ。
この人は、MSに乗り込み、AAを守って。

死んだのだ。

アスランが漸く記憶を現在に手繰り寄せたのと、男が今の名を語ったのは、ほぼ同時だった。

「………あ、じゃあ、貴方、は………」

動揺に声が微かに震えた。

馬鹿らしさを感じる程、自分はこの艦に担ぎ込まれて以降ずっと頭が回りきっていなかったらしい。
常に襲う激痛と、そして様々な事に対する心痛で、正直そこまで考える余裕もなかったのだが。

「だから、俺は地球軍所属のネオ…」
「…っ、ネオ!?」

今度はアスランが男の言葉を遮った。

その名は聞いた事がある。
一度覚醒した記憶は連鎖反応するかの如く様々な過去も思い起こさせて。
確か、ミネルバに収容されたエクステンデッドの少女がうなされながら呟いていた筈だ。

では、この男がそうだと?。
この、どう見ても、フラガによく似た男が、あの艦に居た、という事なのか?。

ひとつ気付けば、疑念は一気に膨らんでいき、アスランは大きく目を見開いた。

「まさか、あの艦に、貴方は居たのですか!?」
「………やっぱり、お前達、ミネルバに居たんだな………」
「………………」

互いに、確信してしまう。

何度か刄を交えた『敵』が、今目の前に居るのだと、確信してしまった。
どうする、この身体では、もし今襲われても抵抗出来やしない。更にはこの場にいるメイリンを庇う事もできない。
横たわる身体を緊張で強ばらせながら最悪の事態を回避しようと思考を巡らせているアスランに、しかしネオと名乗った男は一瞬だけ鋭い眼をしただけで直ぐにそれを和らげた。
「………そんな、緊張するなよ。今更どうこうしようとは思ってないし、それに今、俺は『捕虜』だからな」
そう云いながら困ったように微笑い、かせられた手錠をアスランに見えるよう掲げてみせた。
そうしていると本当にフラガのままなのだけれど。
やはり違うのだろうか。
アスランは緊張を解きながら彼を見つめる。

「それに…ミネルバには、小さい借りもあったしな…」
「え?」

戦い続け、憎しみは抱いて当然だろうが、借りとはどういう事なのか。
アスランだけでなくメイリンも思わず声を洩らした。

「いや、インパルスの坊主に、な………」

その言葉に、アスランは心を大きく揺れ動かした。

今、なんと、云った。
インパルスの、パイロットの事を。
それは、つまり、シンの事。

「………シン?」
アスランの動揺に気付かないメイリンが、ついパイロット名を口にした。
「そうか、あの坊主。シンと云う名なのか………」
シンの名を知り、ネオは顔を俯かせ、視線を己の足元に落とした。

「………貴方は、インパルスの、パイロットに………会った事が、あるの、ですか………?」

動揺に震える声を振り絞りながら、アスランがネオに尋ねれば、彼はそれをあっさりと認めた。

「…ああ。一度だけ…な…」

ネオの回答に、アスランはひとつの事を考えていた。

まさか、あの時、シンに遭遇しながらも、殺さなかった男。
それが、目の前に居る彼、なのだろうか。



確かめなければ、とアスランは騒めく心を必死に落ち着かせた。
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千の夜とひとつの朝 06 (#40~42)
TB[ - ]  CM[ 0 ]   Edit   2005/12/05[ Mon ] 23:35
ふ、と目覚めた時、アスランは相変わらず医務室のベッドの上で。
半ばぼんやりとした思考で眠る前の出来事を思い出す。

そういえば、キラと話していて。
シンとの関係をキラに語っていた時、オーブの危機を知って。

シンが、オーブを、討つと悟って。

無理矢理に起き上がるも身体は耐え切れず、床に這いつくばった事までは辛うじて覚えている。
その時自分を押さえ込むキラに何かを云われ、愕然となった時、意識を手放した事も、おぼろげに覚えていたけれど。

結局はベッドの上で只寝ているだけの現状に、アスランは唇を噛み締める。

何も出来やしない。
こんなにも無力だ。

必死にあがいて、行く先を求めて、そうして漸く掴み取った物は何だったのだろう。
争いを止めたいと願い、陽の当たらない存在となってまでもカガリを支え、そして。
再び始まってしまった戦争を目の前にして、今度こそ止められるならば、と。

一度は捨てた故郷に、ザフトに、先の戦後培ってきたもの全てを投げ捨ててまでも戻ると決意したのに。

結局は道を間違えた。
真実を見抜けなかった。

かつての仲間を、カガリを、ラクスを、そしてキラを、裏切って尚、何も出来やしなかった。

腑甲斐なさに泣き喚きたい程。

それでも手に入れた情報を利用して、道を間違えた詫びにすらならなくとも、今度こそこの手で争いを止めようと決めたのに。

シンを、愛しいと思う少年を、置き去りにしてまでも。

しかし現状はベッドの上で藻掻き苦しむこの身体を心は持て余している。

今直ぐにでも行かねばならぬのに。

議長を問い正し、シンを説得し、争いを止めて。
するべき事はたくさんあるのに。

急く心の思うようには身体は動かない。

「………っ、くそ…ッ!」

知らず知らず呻き声をあげる。
悔しさに拳を握るだけが精一杯だった。



その時。シュン、とエアの抜ける音と共に医務室のドアが開かれた。
誰かが入ってきたらしいが、いつのまにか閉められていたカーテンに遮られ、その者の姿は判別つかなかった。

「…アスラン、さん…?」
幼い声音でアスランを呼ぶ声がした。

聞き覚えのあるその声にアスランは驚きを隠せず、カーテンの向こうを見つめた。
「あ…。アスランさん…起きてたんですね…?」
静かに開かれたカーテンの向こうには、メイリンが居た。
未だアスランと同じく白い病室着を身に纏った少女。
アスランがザフトを脱する際、助力を惜しまず、そして思わぬ形で巻き込んでしまった彼女。
アスランのように脱走の意志はなかったのに、結果として同じ立場にしてしまった彼女、メイリン。

「………メイリン」

ぽつりとアスランが少女の名を呟いた。

「怪我………どうですか?。痛み、ますよね………」
来訪者が来ても身体を起こす事も出来ないアスランを見て、そのひどさにメイリンは言葉を失ったようだった。
毛布で隠れているにせよ、その病状のひどさはアスランの顔色を見れば直ぐに判る。
遺伝子操作で強く生まれた身体を、ここまで弱らせているのだ。ナチュラルならばまず意識をこんなに早く回復するのも難しいかもしれない。
「…君こそ、身体は大丈夫、か…?」
彼女の問いにはやんわりと微笑い、そして同じ事をアスランが尋ね返した。
メイリンもまだ点滴を施された身体だった。
別々に分けられた病室から歩いてこれるだけ体力は回復しているようだが、しかしそのか細い腕には点滴の針が刺さっていて、それが釣り下げられた器具を杖代わりにして歩いている。

「私は、大丈夫です…。アスランさんが、かばってくれた…から…」

そうしてメイリンは俯いてしまった。肩が微かに震えだす。

「メイリン………」

泣いているのだろう。
だがそれに気付いたとしても今のアスランには涙を拭う事すら出来なくて。

「…っ、ごめ…な、さい…っ。私の…せい、で…アスランさん…っ」
「君のせいじゃない…。俺が、君を…巻き込んだんだ…。本当に、すまない」
「いえ!。それは私が…っ。自分から協力を…申し出たんですから…」
「うん…でも、君は…。ザフトを抜けるつもりはなかった、だろう…?」

アスランの言葉にメイリンが弾かれたように顔を上げた。やはりその顔は涙で濡れていた。
当然の事だ。
メイリンは本当に知らないのだ。
彼女の自室で匿われた時、うっすらと悟った程度なのだ。重なった偶然が最悪の結果となり、それだけで巻き込んでしまって。
アスランには謝罪の言葉しか浮かばなかった。
例え今身体が動かなくとも、彼女を救えたのなら、僅かでも恩を返せただろうか。

「私…私、でも、ほっとけなかった…から…。アスランさん、を…助けたかった…、から…」
「メイリン…?」
「確かに…こうなるとは、思わなかったけど…。でも今は…」

メイリンが何を云おうとしているのか、アスランには判らなかった。
何度か瞬きしていると。

「アスランさんの事、恨んでませんから」

泣きながら、しかし、はっきりと。

メイリンが己の本音を伝えた。

「あの場合は仕方なかったと思うし…。それに、おかしいと、思います…。軍も、議長も、レイだって…」

そうだ。
彼女はレイに捕われた上に反逆者の烙印を押されたのだ。
その疑問を抱くのは当たり前かもしれない。

「だから、私は今はこれで良かった、と思います」

ぐい、と涙を小さい手が拭い、そしてアスランに向けられた表情は。

断固とした意志が込められた、もの、で。

アスランの眼差しが、ひどく揺れた。

「………ありがとう。メイリン」

小さく呟かれた言葉が微かに震えていたのを、メイリンは気付かない振りをした。

ふい、と逸らされたアスランの目尻に、涙が浮かんでいたのは。
きっと気のせいだろう、と。

そう思って、メイリンは漸く微笑う。

彼と違って、何も知らない、何も判らない。

かつては敵として追い掛けていた艦に今居るのだけれど。
接してくれた人達は皆優しくて。
ナチュラルだとか、コーディネーターだとか、そんな事は些細な違いだと。同じ、人間だからと。接してくれるから。

だから、大丈夫。

もう戻れないのは辛いけれど、まだ気持ちの整理はつかないけれど。

大丈夫。きっと、大丈夫。

そう、心の中で言い聞かせて。
メイリンは微笑う。アスランに、笑顔を見せる。



それは、この艦に来て、初めての笑顔だった。
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千の夜とひとつの朝 05 (#40~42)
TB[ - ]  CM[ 0 ]   Edit   2005/12/03[ Sat ] 23:37
足音を響かせ近づいてくる金の髪の少年。
僅かでも機密をばらしたルナマリアは当然の如く、シンですら近寄る彼に警戒し身構えてしまう。

「…そんな所で何をしているんだ?」

シンとルナマリアに気付いたレイが声を掛けてきた。
「いや、何でもないんだ。ただちょっと俺が当たり散らしてたから…ルナが、諫めてくれてたんだ」
「そうなのよ、シンったら壁まで殴り始めるんだもん!」
我ながら下手な言い訳だと思うけれど、しかしそれも真実のひとつだから。
シンはレイにそう告げる。
「…そうか」
レイは予想通りそれ以上追求する事もなく、立ち竦む二人の横を通り過ぎようとする。
「あ、レイ。部屋に戻るんだろ?。俺も一緒に行くよ!」
「ああ」
シンが慌ててレイの後を追い掛けていく。

ちらり、とその場に残されたルナマリアに視線を向けて。

後で、話を聞くから、と。
眼だけで意志を伝えて。

シンはレイと共に歩きだした。

立ち去っていく姿を、ルナマリアは静かに見つめていた。

話して良かったのか判らない。
けれど、シンにも知っていて欲しい。

きっと『あの時』の彼らの会話に、アスランの脱走の真実があるのかもしれないから、と。
ルナマリアは自分にそう言い聞かせ、シン達とは違う方向へと歩きだした。



やがてシンはレイと共に自室へと辿り着いた。
特に何を話す訳でもなかったが、それでも共に寝泊りするのだ。
会話がなくとも傍に居るのは不思議な事ではなかった。
室内へ入り、シンは自分のベッドへと腰掛けた。
レイはデスクに向かい、パソコンを立ち上げている。

一瞬シンの中に動揺が広がった。

あの中には、彼から、アスランから、届いていたメールがあった。
しかし同室のレイの目に触れる前に消し去ったから、未だに感付かれてはいない筈だ。
友達なのに、同僚なのに、彼を騙す結果に、シンは俯いて心の中でごめん、と謝罪した。

「…シン」
不意にレイが呼んだ。

「…え、な、何?」
思わず声が上擦る。

「この艦は…間もなくオーブへと向かう事になる。…そして、戦闘に…なるだろう」

レイが、動揺する事なく淡々と語りだした。

「一応ヘブンズベース戦の時のようにあちら側にも『要求』はする。だが、きっとそれは飲まれる事はないだろう」

「何で!」

レイの言葉にシンは勢い良く立ち上がり、彼に詰め寄った。
上から見下ろして言葉の続きを待てば、彼は態度を崩さずに落ち着いた声音で告げた。

「今オーブはセイラン家の手中にあると聞く。カガリ・ユラ・アスハは『フリーダム』に連れ去られて以来行方不明、となっているからな」

それは形式上、とはシンも判っている。実際はAAと行動を共にしているとも知っている。

「そして…セイラン家も、『ロゴス』のメンバーだからな。…確実に要求は受け入れず…戦闘になるだろう」

「そんな…っ、レイ!」

シンは声を荒げるも、レイの告げる事は間違ってはいなかった。

動揺するシンの様子を見て、レイが問う。

「………シン。お前に、オーブを、討てるか?」

先程のルナマリアと同じ事を尋ねられた。

だが明らかに彼女とは違う思いで、レイはシンにそれを確認している。
それが判るからシンは返答に一瞬躊躇った。
「………俺、俺は………」
「無理をするな。出来ないなら、出来ないと云ってもいいんだ」
「レイ………」
躊躇いがちに伏せられた視線をレイに向ければ、彼の胸元に光る『フェイス』の証が見えて。

シンの胸元にもある、同じ証。

その時シンは漸くレイが『フェイス』として、自分に出撃する覚悟があるのか、と意志を確認しているのだと気付く。

「出来ないならば、俺がオーブを討つ事になるが…いいか?」

それは至極当然の事実だった。

勿論ミネルバも出撃命令が下されるだろう。そうなればパイロットは当然MSで出なければならない。
この時パイロットには拒否権などないのだ。
例え母国でも、故郷でも、討たねばならない。
軍とはそういう場所なのだ。
だがレイは今シンに出撃の覚悟はあるか、と尋ねている。
それは故郷を討たねばならないシンを思いやっての事か、もしくは命令に逆らってかつてこの艦に居た先任の『フェイス』のように軍を捨てるか。
その選択を遠回しに迫っているのだろう。

「レイ…。俺は………」

「シン、無理するな。幾らお前でも、またあの国を焼くのは厭だろう」

その言葉にシンは眼を見開いた。

今でも鮮明に思い出せる、あの記憶。

硝煙と爆音に支配されたのどかな風景。
晴れ渡る空の下、ばらばらに飛び散った家族の肉体。

辛い辛い記憶。

「もしお前が躊躇い、討てないと決めたとしても、俺は責めない。艦長にもそう進言するつもりだ」

レイはどうやら本当にシンを思いやってくれていたらしい。
だが過去の凄惨な記憶に思考を奪われたシンには、レイの思いやりを気付く余裕など既になかった。
するとレイが立ち上がり、茫然としているシンの肩に触れた。

びくん、とシンが身体を震わせる。

「どうする………シン」

レイの言葉が、思考を突き動かす。

もう、あんな光景は見たくない。
けれど、今。
あの国は、過ちを犯そうとしている。
戦争を、終わらせまい、とする『ロゴス』を、匿っている。
ならば。

不意にシンがぎら、と眸を鈍く輝かせて。
真正面からレイを見つめ返す。

「………大丈夫、だ。レイ………」

唸るように呟かれた言葉。

「誰かが、あの国を…オーブを…討つ位なら…」

そして今。
シンは覚悟を、決めた。



「俺が、オーブを、討つ!」



はっきりと、レイに、己自身に、そう言い切った。


心に眠る未だ癒えない傷となった記憶を揺り動かされ、巧みに決断を促されたと。

シンはレイの本心に気付く事なく。



最大の過ちを、決断したのだった。
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千の夜とひとつの朝 03 (#40~42)
TB[ - ]  CM[ 0 ]   Edit   2005/12/02[ Fri ] 23:42
授与式も無事に終わり、シンとレイ、ルナマリアは上官達から促されるように司令室から退室していった。
勲章を貰い、更には『フェイス』にまで昇格したシンを含む部下達の姿を静かに見送り、タリアもまた議長に敬礼すると彼等の後を追おうときびすを返すと。

「グラディス艦長」

しかし、退室する前に声をかけられて阻まれてしまう。
声の主を振り返って見れば、デュランダルがつかつかとタリアに歩み寄り、出ていこうとしていた彼女の後を追ってきた。

「少しだけ、いいかな?」

話がある、とデュランダルはタリアに声をかける。
タリアは何も云わず沈黙したまま頷いて。

そして二人は司令室を出ると、並んで基地内の通路を歩きだした。
無論議長ともなれば必ず従者が付き従っている。
今も数人が議長を守るように取り囲みながら共に居るのだが、我等は物云わぬ存在、とでもいうかの如く、二人の会話に反応を返さない。
聞こえてはいるだろうが、わざと聞こえない振りをしていて。
地位ある立場の者ならばそれが極日常となり、デュランダルは勿論、タリアも判りきっているから気にはしない。

「…何も、云わないのかな?」
「何を、で、ありますか?」

隣を歩く女性の様子を伺いながらデュランダルが尋ねれば、そんな彼に視線を向ける事なくタリアが冷たく言い返す。
予想通りの彼女の態度にデュランダルが小さく溜息を零した。
「判っているだろう?。…彼等に『勲章』を授けただけでなく、『フェイス』として任命した事だよ」
「…それが、何か?」
肩を竦めながらなるべく声のトーンを落とし、デュランダルがタリアの耳元に唇を寄せ囁いた。
だがタリアはやはりひどく冷静な顔つきで逆に聞き返す。
「直接の上司である君に何の相談もなく決めて、絶対何か云われるものだと覚悟していたんだがね」
「…何を今更。決定しておいて今更気になさるのはおかしいではありませんか?」
「…まあ、確かに」
他の者が云うならば大層な物言いだが、旧知の仲であるタリアだから許される。
今も議長は『議長』ではなくデュランダル『個人』として接していたが、タリアはあくまでも公的な関わり方を貫き通そうとして。
「他にも云いたい事などは沢山ありますが、今この場で云える事ではありません故、これ以上はどうぞお許し下さい。『議長』?」
と、感情を自制してそれ以上の詮索を拒否した。
「…怒っているようだね、君は」
デュランダルは隣の女性の静かな怒気に困惑したような表情を浮かべた。

だがそれすらも今のタリアの感情を逆撫でするものでしかなくて。

「………私は今も、彼等の撃墜許可を、認めた訳ではありません」

つい本音を告げてしまった。

はっきりと名を出さなくとも、それが何を、誰を指しているかなど分かり切った事だ。
確かにあの状況では疑う余地もなく彼等は『反逆者』だったろう。
何も知らなければそう思わざるをえない。

だからシンは信じてしまって、戸惑いながらも命令に従ったのだ。

軍の、そしてプラントの、長であるこの男の命令を、聞かなくてはならない状況に追い込んで。

しかしタリアは同じようには騙されない。

何故なら、彼女も彼等と同じく疑問を抱いているから。
すんなりと信じるにはこの男は危険過ぎる、と。
かつて愛した男、デュランダルの、昔とは違う一面を見せ付けられ、タリアは確かに違和感を抱いており、それが徐々に疑念へと変わりつつあったのだ。
それを、あの撃墜命令で確信に変えたのは男自身だと、きっと彼は気付いていないだろう。
否、気付いていて尚こちらの様子を伺っているのなら、相当の食わせ者だ。
だからタリアは目の前に居る男の本心が判るまでは、と用心して本音をバラさなかった。

「………とにかく。他にお話がなければ、もう艦に帰投しても宜しいでしょうか?」

暫らく歩いていた通路が二手に分かれる所に差し掛かるとタリアが急に立ち止まり、一方的に会話を終了させてデュランダルに敬礼する。
そしてデュランダルに背を向けて立ち去ろうとした。

一刻も早く、この男の前から去ろう。
この不毛な会話を終わらせよう。

そんなタリアに、デュランダルが何も云わずに見送ろうとした時。

その『報せ』が舞い込んできた。

『ロゴス』のメンバーで、実質それを仕切っている権力者『ジブリール』の潜伏先。
それが、あの中立国オーブ、であると。

その場にいた者達皆に動揺が走る。
立ち去ろうとしていたタリアにも、それは聞こえて。
だが、デュランダルだけはひどく冷静に報せを受けていて。
無意識に彼に視線を向けたタリアは僅かに眉をひそめ、デュランダルが報せを受けても『驚かなかった』事を訝しんだ。

まるで、其処に居るのが当然、とでもいうかの如く。

デュランダルは先を読んでいたのか、全く顔色を変えていなかった。
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千の夜とひとつの朝 04 (#40~42)
TB[ - ]  CM[ 0 ]   Edit   2005/12/02[ Fri ] 23:41
授与式を終え、シン達がミネルバに帰還すると、やはりその報せはミネルバにも届いていた。
先程入ったばかりの報告が既に一戦艦であるミネルバにまで届いているという、余りにも早すぎる情報伝達に、まだ誰も不信感を抱く事なく。
それよりも動揺が強くて。

「…っ、何だよ、何でオーブが『ロゴス』を匿ってるんだよ!。中立だなんて、やっぱり嘘なのかよ!」

戻ったばかりのシンはその報せを聞き、怒りを隠せないでいた。
報せをブリーフィングルームに集った仲間達から聞いて、思わず飛び出した通路を歩きながらシンは憤怒を隠す事なく爆発させて思いのままに叫んでいた。
そんなシンの様子を心配し、慌てて彼の後を追ってきたルナマリアが驚いている。
それに気付いてもシンの、オーブに対する憤怒は止まる事はなかった。

オーブが地球軍と友好関係を築き、事実上その傘下に入った時点で『中立』の理念は捨て去られていたのだけれど。

しかしそれでも。

どんなに憎んでいても、あの国は『中立』なのだという印象が強かったのかもしれない。

かつて己が居た国が完全に敵となった事実にシンの怒りは更に増していくだけで。

「シン…判るけど、気持ちは判るけど…」
治まらぬ怒りを拳に託し、廊下の壁を殴り付け始めたシンを、傍に居たルナマリアがその肩を掴み押さえようとする。
「でも、ルナ!。あいつら、隠してたんだ!。『ロゴス』を隠してたんだ!」
「うん、判るよ。シンの云ってる事…。私も、『ロゴス』を匿ってたオーブを許せない。けど…」
振り返り、諫めるルナマリアを鋭い眼で睨み付けるシンに、ルナマリアは困惑しながらも小さく語りだす。

「私だって『ロゴス』は許せない。戦争をわざと悪化させたんだもの、許せる訳ないわ。でも、ね」
そう云ってルナマリアは一旦沈黙した。

シンは変わらず彼女を睨んだままで。

「…シン?」
「何だよ!」

優しい声音で名を呼べば、荒々しく返される。

まるで、以前のシンみたいだ、と。

彼と出会った頃、そして彼が去ろうとしていた頃のように。

シンはまた、荒れてしまうのだろうか。

一瞬ルナマリアはシンに対し不安を感じた。
だけど、世界が、情勢が、安穏とした日々をシンから奪い続けるまでは。
きっと抗おうとも、無理なのかもしれない。

「…オーブは、シンの、故郷、でしょ?。…きっとまた、戦闘になるだろうけと…シンにオーブを、討てる…?」

鋭い視線から逃げる事なく、紅い眼を真っ正面から見据えて問えば、シンの顔が刹那強ばるのが判った。
けれど、それも直ぐに沸き上がる憤怒に掻き消されていく。

「けど!。あの国は、また裏切ったんだ!。世界を…俺を、裏切ったんだ!」

シンの声は怒りに満ちていても、何処か悲しくて。

「………シン」

もう、ルナマリアは何も云えなかった。

「うん。判った…」
これ以上は何も云えない。
これは、彼自身の、気持ちの問題だ、と。
そしてルナマリアはシンから眼を逸らし俯くと、小さく呟いた。

「…でも、やっぱり、私は…厭だな…。あの国を討つのは」
「何でだよ!」
「…だって、あの国は…アスランが居た国でもあって…。それに、アスランの仲間が居た国でしょう?」

アスラン。

不意をつくようにその名を出され、今度はシンも動揺を隠せない。
心の中で激しく燃え盛っていた怒りの炎が一気に消えていく。

「今だから思うけど…きっとアスランは、オーブに、彼等に会いに行こうとしていたのかもしれない…」

ぽつり、とルナマリアが吐いた言葉に、シンは眼を見開いて。

力任せに彼女の肩を掴み揺さ振った。

「何、何で!?」

掴まれた肩の痛みにルナマリアが、痛い、と小さく叫ぶも、シンはその手を離さない。

諦め痛みに耐えながら、ルナマリアは小さく語る。

誰にも聞こえないように。誰にも知られないように。
シンにだけ、判るように。

「だって、彼等の中には…『ラクス』がいるから…」

それを聞いたシンは一気に混乱に陥っていく。

「え…だって、ルナ、それ…」

彼女は、『ラクス』は、こちら側に、プラントに居るのに。
ザフトを支持する立場にいるのに。
先日も、シンは議長と共に居る彼女を見たのに。
何故。何時の間に。
幾ら考えても、答えは見つからない。

する、と肩を掴んでいた手が滑り落ちて。
シンは茫然と立ち尽くす。

「………ごめん。混乱させるつもりはなかったの」
思わず口を割って出てしまった『事実』にルナマリアは焦る。
極秘任務だった事をシンに話してしまった。
これがばれてしまえば確実にルナマリアは処罰されるだろう。
しかし、何故かは判らないけれど。
シンには云わずにはいられなかった。
話しておいた方がいい、と。
頭の何処かでシグナルが鳴ったように感じた。

「………嘘、嘘だ、そんな………」
未だ困惑しているシンに、何処まで話せば良いだろう、とルナマリアが悩んでいたその時。
それまで誰も居なかった通路に、遠くから人の気配がした。足音が近づいてくる。
「…後で、ちゃんと話すから………今は、忘れて?」
ルナマリアはシンにそう囁いた。
シンもそれで漸く正気に戻ったらしく、この場では語れない『事実』を悟り、強ばる表情で頷いて。
近寄ってくる足音に、視線を向けた。

「………あ」

足音の主を認識した二人が、思わず声をあげる。

「レイ…」

シン達から遅れてブリーフィングルームから出てきた、レイが、二人に近づいてきたのだった。
Category [ 時系列(No.06)【千の夜とひとつの朝】 ]
Thread Title[ 機動戦士ガンダムSEEDDESTINY ]   Thread Theme [ アニメ・コミック ]
千の夜とひとつの朝 02 (#40~42)
TB[ - ]  CM[ 0 ]   Edit   2005/11/29[ Tue ] 23:39
翌日、シンは軍上層部から出頭命令を受けた。

これまでの功績を讃える為、艦長のタリア、そしてレイ、ルナマリアと共にジブラルダル基地のある一室に招かれる事となったのだ。

足を踏み入れた其処は多くの軍人が居た。皆、地位ある軍人や、上司にあたる艦長クラスの者達であり、彼等に囲まれるように、デュランダル議長がその中心に居る。
中に招き入れられたシン達がドアの付近で敬礼すると、軍人の一人が近づいてきてシン達に告げた。
日頃の功績を讃える為に此処に来てもらったのだ、と。
議長自ら誉め讃える為に、と。

それは軍人として栄えある事。
素晴らしく名誉な事。

だがシンの表情は何処かぎこちない。
周囲はそれを緊張による物だと捉えたようだったが、実際は違っていたのだと、誰も気付かないでいた。

「………により、シン・アスカにネビュラ勲章を授与する」
「本当に、おめでとう。シン」

深紅の軍服に留められた勲章。
シンにとって、二つ目になる勲章。

名を呼ばれ、前に進み出たシンの胸元に議長自ら留め付ける。
きらり、と輝く証は、かつて、アスランも手にした物だと聞いた事がある。
先の大戦時に『ストライク』を撃破した戦闘を讃え授与した筈だ。
それを今、シンも手に入れた。

『親友』を討ち、勲章を授かった男。
その彼を、『恋人』を、討ち倒し、同じ勲章を貰ったシン。

なんて皮肉な結末なのだろうか、と。
シンは己の胸元に輝く金の勲章を只ぼんやりと見つめていた。
今この場に呼び出されたタリア艦長やレイ、ルナマリアも各々勲章を受け取っている。
本当なら、皆と共に喜ぶべきだ。軍人ならば、そうである筈だ。
しかし、どうしても素直には喜べない自分が、今も居て。

複雑な想いを抱いていると、議長が突然立ち竦んでいるシンの肩を、ぽん、と叩いた。

「…シン?、どうしたんだね?」
「………あ、いえ。何でも、ありません。ありがとうございました。今後もご期待に添えるよう、頑張ります!」

不思議そうに目の前に立つ議長に問われ、シンは慌てて頭の中を占領していた感情を掻き消し、プラントの長である議長に敬礼する。

この人に期待されている。
それはとても喜ばしいし、誇りでもある。
そう思う気持ちに嘘偽りはない。

だから、シンは期待に答えようと、精一杯の感謝を込めての敬礼をしたのだ。
議長が、ふ、と微笑い、シンの敬礼に頷いて答えると、視線をシンから後ろに待機しているレイへと向けた。
「…それから、レイ・ザ・バレル、もう一度前へ」
「………、はっ!」
議長に促され、レイが敬礼するとシンの隣に立つ。
それを見届けて、議長が二人に小さな箱を差し出した。

「これは私から君達に対しての、感謝の証だ」

す、と差し出された、小さな箱にはシンプルな装飾が施され、中に敷き詰められた深紅の布に包まれるかのように納められた物があった。

「………っ、議長!」

箱の中の物を見たシンが思わず声を上げるも、隣に立つレイはまるで判っていたかのように、全く動揺を見せない。

「シン・アスカ、そして、レイ・ザ・バレル。両名を今この時より『フェイス』と認め、その証である徽章を授ける」

議長が神妙な声音で二人に告げた。

彼からもたらされた小さな箱に納められていた物。

それは『フェイス』の証である徽章。

かつて『アスラン・ザラ』が掲げていた物。

それを今、議長は二人に与えると。

突然渡されたそれに、シンは驚愕し、勿論何も聞かされていなかったタリアやルナマリアも驚きを隠せなかった。

「議長!、これは…っ」
「何だい?。不服なのかな、シンは?」
「いえ、そんな!。そうではありませんが…」

差し出された徽章を受け取れずにシンが議長を凝視していると、彼は僅かに困ったような笑顔を返す。
シンは慌てて議長の言葉を否定しながら首を振り、そして戸惑いながらも手を伸ばして徽章を受け取る。
レイは既にそれを手の中に納めていた。

「君達は本当によく頑張ってくれているし、これから熾烈を極めるであろう戦極で、私は君達の力なくば乗り切れない、とも思っている」
「…議長」
「光栄に思います、議長」
議長の言葉に未だ動揺したままのシンを尻目に、レイは素直に感謝の気持ちを述べる。

「必要とされている。その事を誇りとし、今後もどうか我等同胞の為に『力』を間違わずに使って欲しい」

間違わず。
その言葉に、シンの眸が刹那揺れたが、議長は気付かないふりをした。

そう、誰よりも強い『力』を持っていたのに、裏切った彼のように。
与えた『力』を間違った方へと使った彼のように。

お前は、なるな、と。

議長は言葉の裏にそんな意味を込めていたのだ。

「はっ、議長の為に、そして我が『プラント』の為に僅かながら尽力致します!」
レイの宣言が力強い声音で発せられると、議長は満足した表情を浮かべ、視線をシンへと向けて。
「…っ、俺、あ、いえ、私も微力ながら頑張ります!」
議長の視線に促されるようにシンも彼に誓った。

手の中の『フェイス』の証が、やけに重々しく感じられた。

自ら手を伸ばし受け取ってしまった以上、もう、逃げられない、と。

議長に逆らうつもりもないし、今も彼を信じ心酔すらしているが、しかし。


迷いを捨てなければならない、と。
目の前の現実から逃げてはならない、と。




光り輝く『フェイス』の徽章が告げているようだった。
Category [ 時系列(No.06)【千の夜とひとつの朝】 ]
Thread Title[ 機動戦士ガンダムSEEDDESTINY ]   Thread Theme [ アニメ・コミック ]
千の夜とひとつの朝 01 (#40~42)
TB[ - ]  CM[ 0 ]   Edit   2005/11/26[ Sat ] 22:42
夢を見る。
辛くて、辛くて。
ひどい悪夢を見る。

お前が、殺した。
彼を、殺した。

お前は、その罪を背負い、生きていけ、と。
もう一人の自分が、突き付ける。

彼を愛している『シン・アスカ』が、戦い、血に塗れた『シン・アスカ』に。

『アスラン・ザラ』を殺したのは、お前だ、と。
涙を流しながら、指差し泣き叫ぶ。

聞きたくない、と耳を塞いでも、責める声は止む事なく。

いつのまにか手にしていたナイフを握り締め、泣き叫ぶ自分の胸元めがけてそれを突き立てる。

だが。

「………シ、ン………」

胸を貫かれたのは、アスラン。

驚愕に眼を見開けば、彼は、ごぼ、と沢山の血を吐いて。
赤い唇から、ごぼごぼ、と血を吐き続けて。
シンを、どす黒い血に塗れさせて。

「…ぁ…い、し…て………」

そう呟いて、『アスラン・ザラ』は息絶える。

シンの目の前で。シンの手によって。

何度も、何度も。
繰り返し、シンはアスランを、殺す。

そんな、悪夢を、見続ける。



「…ン。シン…!」

誰かが呼ぶ声。シンを呼ぶ声。

「………ッ!」

揺れていた意識を急激に呼び起こされ、シンは身体をびくん、と跳ね起こした。
「………ぁ、あ………っ。」
未だ此処が『現実』か『夢の続き』か判別できないシンが、己を覗き込む人物の顔を見つめ、漸く正気を取り戻した。
「…レ、イ…?」
悪夢から呼び覚ましたのはレイだった。
彼が居るという事は、今自分が何処に居るのか、誰と居るのか、その『現実』に意識がやっと追い付いて。
「…大丈夫か?。うなされていたが…」
「………ぁ、うん、平、気…」
「そうか」
まだ身体の震えは止まらない。
がくがくと震える身体を自らの手で抱き締めながら、シンは辺りを見回した。
此処は『ミネルバ』で。自分は今レイと同じ部屋に居て。
己のベッドに横たわり、眠っていた筈だ。
しかし手にはまだナイフの感触と、肉を裂く感触がはっきりと残っていて。
がくり、と力を失うかの如く、シンは起こした身体を蹲らせて、ベッドの上でかたかたと震え続けた。
何かに怯えうなされる様子のシンに気付いたレイが心配して自分のベッドから起き、覗き込みながらシンを目覚めさせてくれたのだった。

「…レイ、ごめん。ありがと…」
あれ以来、殆ど毎晩のようにうなされる。
その度に同室のレイが起こしてくれて。
シンは身体を丸めながらぽつりと謝罪を口にした。
「…気にするな」
ぽん、とうなだれるシンの頭を優しく撫で、レイはそのまま自分のベッドへと戻っていく。

「………彼等、の事、か?」
不意にレイが呟いた。
ベッドに横たわり、毛布をかけて。
シンに背中を向けるように寝転がったレイが、シンに問い掛ける。
アスラン、と、メイリン。
レイが云う彼等は、その二人の事。
名を出さなかったのは優しさか、それとも。

刹那シンの肩が、びく、と揺れて。
柘榴の眼が泣きだしそうに揺れた。

「………俺、…俺…っ」
「彼等は『敵』だ。裏切り者を、俺達は討ったんだ」
呻くシンの言葉を遮るようにレイがひどく落ち着いた声音で言い切る。
弾かれたようにシンは彼を見たが、背中を向けたレイの表情は判らなくて。
何故か、レイが、恐ろしく感じて。
「判ってる…判ってる、けど…!」
素直にそれを認められない自分を、シンは自覚している。
愛しい人を、仲間を、仲間の肉親を、自分は討ったのだ。
例え裏切ったのだとしても、信じていた分感情は抑えきれない。
思わずレイに向かって声を荒げれば、やはり冷静に言い返される。
「お前がうなされ、悩んでいた『悪夢』は、それ、か…?」
「………レイ」
「…シン。お前は…優しすぎるんだ。それだと…戦うには辛すぎるぞ…?」
「………」
レイの言葉に何も言い返せない。
こんな、心を痛めていれば、戦う度に辛い思いをする。
向いていない、と云われたようなすらした。
「………俺が、代わりに討てば良かったな」
レイが、ぽつり、と云う。
「それなら、お前が苦しむ事もなかったかもしれない」
「…レイ。お前…」
「………だが、シン。忘れるな。『敵』を討つ度に迷い悩めば、いつか自分が討たれるぞ?。…迷いは、弱さになる…それでは…何も、守れない」
「レイ…ッ!」
それきり、レイは何も云わなかった。
眠りについたのか、背中を向けたままでは判らなかったが、しかしレイの言葉はシンの心に深く突き刺さる。

守りたい。大切なものを守りたい。

だから、選んだ道だ。
戦う、と自ら選んだ道だ。

いつか、こんな日がくる、と判っていた筈だ。
知る人を、いつか討つ日がくる、と。
なのに、それが現実となり、思い知らされた。
判っていた、つもりで、判っていなかった。

しかしそれでも。

守りたい気持ちは変わらない。
『世界』を、『平和』を。守りたい。

覚悟をしていたのに、その為なら自らの手が血に塗れても、と、覚悟していたのに。

守りたいものを、守りたい人を、失った今。

自分は何を守りたかったのだろう、と。
シンは膝の上に置いた自分の手を見つめる。

心配してくれたレイの言葉を心の中で何度も繰り返し。
彼の云う事は理解できる。
彼なりの励ましだとも判る。
でもまだ心が泣いているから。
シンは彼に、レイに、はっきりと断言できなくて。




夜を、独り、過ごす。

何を守りたいのか、何を失いたくないのか。
未だ光の見えない闇を、迷いに囚われたままで。

シンは、独りきりで夜を過ごし、朝が訪れるのを待っていた。
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