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管理人ひさこによるガンダムSEED DESTINY及び蒼穹のファフナーのファンサイトブログです。オフィシャル等とは一切関連はございません。
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月ひとしずく 15 (#43~45)
TB[ - ]  CM[ - ]  Edit   2008/09/14[ Sun ] 23:25

自らの命を危険に晒してまで得てきた情報を、アスランが皆に伝え終えた時だった。一区切りがつくのを見計らうようにキラが言い出した。
「アスラン、そろそろ医務室に戻らないと」
まだデスティニープランの本質を告げたばかりだ。どう立ち向かわねばならないか、皆で話し合い策を練らねばならぬというのに、こんな所で中座しろと言うのか、キラは。
「いや、大丈夫だ」
「駄目だよ」
当然嫌だとアスランは拒否したが、しかしキラはどうしても駄目だと首を縦に振らなかった。
「まだ怪我治ってないでしょ。顔色悪いよ?」
それを指摘されると、もう反論の余地はない。確かにまだアスランは満身創痍な状態である。明らかに無理をしていると判る顔色では強がっても意味はないし、はっきりと言われたせいでカガリがキラの味方についてしまった。
「そうだぞ、アスラン!」
「カガリ……」
「これからお前にも協力してもらわなきゃならないんだからな!」
「…………」
只でさえ分が悪い状況で、更にカガリまでもアスランに戻るよう言われては、どうしようもない。元より口下手なアスランには、この双子に勝てる自信は無いのだから。
「ね?アスラン?」
「……判ったよ」
ここは従うべきかと判断し、アスランはキラに苦笑しながら頷いた。
カガリが今言った、協力、という言葉には、返事をせずに。
「じゃあ何かあったら呼んでくれ」
そう言い残し笑ったアスランの表情は、どこか儚げだった。






来た時と同じようにメイリンと共に医務室に戻る帰路、付き添いとしてキラもついてきてくれた。メイリン一人では男のアスランを支えるのは辛いだろうという理由だったが、何かが引っ掛かった。肩を貸して支えながら隣を歩くキラの表情には、いつもの穏やかさが無い。思惑か何かを腹に抱えて、でもそれを言葉にはしない。伊達に長い付き合いではない、キラのそんな様子がアスランには気にかかるのだ。
実際キラは先程から何も喋らない。だからアスランも黙ったままだ。沈黙の中、医務室までの廊下を歩くのは決して良い雰囲気ではないだろう。二人の一歩後ろを歩くメイリンも恐らく困惑しているに違いなかった。
「キラ、俺に言いたい事があるんじゃないのか?」
本音を隠されるよりも真正面からぶちまけられた方がマシだと、アスランは敢えてキラに尋ねる。するとキラは勘づかれていた事を驚きもせず、重く閉ざした口をやっと開いた。
「じゃあ一つだけ聞いても良い?」
「ああ」
「どうしてさっきカガリの言葉に頷かなかったの?」
「…………」
やはりそれか、とアスランは内心溜め息をつく。笑って誤魔化しても、キラには見透かされていたという訳か、と。
先程カガリはアスランに、これからも協力して欲しいのだとはっきり言った。だがアスランは笑みではぐらかして答えなかった。
彼女の元を離れ敵地に向かい、再び姿を現した時には彼女の敵になっていた。しかも、自らの意思で。そんな不実を犯しながらも、ザフトを離反し戻ってきたのだ。彼女にとって、裏切者の自分が。
カガリがどんな想いで自分を案じてくれていたか、今も変わらず受け入れてくれているのを判っているからこそ。
アスランは肯定出来なかった。
「君の事だから気にしてるんだろうけど……でもカガリの前ではこれまで通りでいてくれないかな」
「キラ……」
「カガリは今必死だから。他の事を気にしてる場合じゃないんだ。だからアスラン、お願いだよ?」
「……ああ、判った」
問いかけに答えないアスランに、キラは言葉を濁しながら己の意見を告げてきた。アスランが協力する事に迷っているのを知っているかのような、多少含みを持たせた言い方が気になったけれど、頷くしか術はない。
アスランが願いを聞き入れてくれたのをその目で確認すると、キラはやっと表情を緩めてにこやかに笑ってみせた。
「でも……よく気付いたよね」
「デスティニープランの真相を、か?」
「そう」
然り気無く話題を摩り替えられたのにも何ら違和感はなかった。というよりキラ達からすれば当然の疑問だったからである。
「俺も最初は偶然だったんだ。幾ら探っても糸口が見えてこない時、偶々俺の部下達のデータを確認してみたんだ」
それは単なる思いつきだった。議長が選んだ選りすぐりの者達が乗るミネルバ、その中でも特に優秀とされた彼等パイロット。議長自ら復隊させたアスランに任せる程の人材なのだ、と。合流して直ぐに確認した彼等のデータを改めて見直しただけだった。

しかし、気付いた。

議長からの評価と、議長に誓う忠誠、それは比例しているのだと。

ザフトは年齢や性別関係ない実力が全ての軍隊だ。ルナマリアが女性だから、シンが男性だから、そんなのは理由にならない。けれど与えられた最新機からしてもシンに対する議長の評価の高さは伺える。そしてシンもまた、議長に心酔している。

まるで、ザフトに戻ったばかりの己のようだ、と。

シンも、アスランも、同じだと。

議長の駒の一つである、と。


そしてアスランがシンがザフトに入隊しミネルバに編成されるまでの経緯を糸口にして、議長の真意を調べ始めたのを気付いたかのように、状況は議長に有利に、アスランに不利に動き出した。
それでもアスランは周到に隠蔽されたデスティニープランをやっとの思いで探り出したのだ。

気付いた自分は云うまでもなく、気付いていないシンを。

議長の駒から解放する為に。


只、彼をあの場所から連れ去るのは出来なかったけれど。そうするしか方法はなかったのだと、今も思っているから。だから後悔はしていない。


「アスラン?」
「……あ、ああ。すまない」
つい物思いに耽り沈黙してしまったアスランに、キラが声を掛ける。
「その部下って……」
「え?」
急に小声で話すキラに、うっかり聞きそびれたアスランが首を傾げる。

「シン、って子?」

何故そんな事をキラが尋ねるのだろうか。

「その子、アスランとどんな関係だったの?」

一気に世界が暗転するような、そんな不安がアスランを襲う。

「君が意識不明だった時、シンって子の名前をよく呼んでいたから」

それ以上は聞きたくない。キラの口からは聞きたくなかった。

「もしかして君が議長の計画を探ったのも、ザフトから離反したのも、……カガリに協力するのを躊躇うのも」

この時初めてアスランはキラの真意を悟る。


「シンって子の為?」




探られていたんだ、俺はキラに。

此処に来てからずっと。
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Category [ 時系列(No.08)【月ひとしずく】 ]
月ひとしずく 14 (#43~45)
TB[ - ]  CM[ - ]  Edit   2008/09/07[ Sun ] 21:17

アスランからもたらされた真実はとても重すぎた。特にカガリを始めとしたナチュラルには到底受け入れられるものではないだろう。事実皆が言葉を失っている。青ざめてカタカタと震え出す者や、隣に立つ者の顔を見る余裕すらなく呆然と何処かを見つめている者すら居た。
そんな中でも、数々の苦難を乗り越えてきた経験からか、カガリがいち早く立ち直る。
「どうして……そんな恐ろしい事を……っ」
やっとの思いで声を絞り出したカガリの呟きに、彼女達ナチュラルの恐怖が如実に現れていた。身の内からの恐怖に抗うカガリに、アスランは哀しげな眼差しを向けて、言った。
「だが恐らくこの計画に反対するのはナチュラルだけだ」
「何故だ!お前達は平気なのか、こんな計画を!」
アスランの言葉を、カガリは直ぐには信じられなかった。それまでの恐怖がたった一言で怒りにすり替えられ、仰々しい表情でアスランを睨み怒鳴って。まだ怪我が癒えぬアスランに飛び掛かろうとするのを慌ててキラが押さえ込むも、カガリの怒りは収まらない。
当然だろう、コーディネーターは議長の計画に賛同する可能性がある、とアスランは断言したのだから。
チラリと視線を移せば、カガリを押さえるキラがアスランの眼を見て頷いた。言いたい事は判る、と。
だからアスランはカガリにはっきりと告げた。何故そう確信したのかを。
「カガリ、判らないか?」
「え?」

「俺達コーディネーターは管理されるのを然程苦痛とは思っていないんだ」
「な……っ!」
又もカガリは言葉をなくした。さっきまでアスランに飛び掛かろうとした勢いすら今の言葉で削がれたらしい。バランスを崩し、押さえるキラの体に寄り掛かる程動揺した彼女に、今度はラクスが口を挟んだ。
「既にもう管理された人間だから、でしょう?アスラン?」
「ええ、ラクス」
やはり彼女も理解してくれたか、とアスランは肯定した。
コーディネーターは生まれた時からもう遺伝子を書き換えられている。それはこれから先の未来を有益に生きる為に、若しくは生まれつきもたらされた才能を限りなく生かす為に。そして各々の適正に合わせ将来を決めるし、共に未来を歩む相手をも遺伝子で決める。無論パートナーを選ぶのは遺伝子操作の弊害で出産率が低下する彼等なりの対応策でもあるが、より最適な相手を選ぶ傾向が予てよりあったのも事実である。
つまり、既に議長の計画の下地は出来ているのだ。
言い換えれば、議長はそこを上手く利用したとも言える。ナチュラルとコーディネーター、二つに区分されるこの宇宙で、人類の半数は既に遺伝子操作に違和感を持たない。残る半数のナチュラルをどう従わせるか、それだけを考えれば良い。

「議長が言葉巧みに計画を述べれば、今のプラントは彼の計画を支持するでしょう」
「ええ、ラクス。直ぐにとはいかなくとも計画は議長の思惑通りに動き始めます」
コーディネーターが計画に賛成するよう洗脳するのは、あの議長ならば容易いだろう。それだけのカリスマ性をあの男は持っているし、既に評議会やザフトは彼の手駒と化している。後はナチュラルを従わせるのみであった。
管理、否、支配される生きざまをコーディネーターは受け入れられる。無論それはナチュラルには理解出来ない。だからこそこれまでの確執があったのだし、戦争が起きた。
争いをなくす、その大義名分の為に、議長は計画を遂行する。己の手駒を操り、武力で捩じ伏せてでも遂行するつもりなのは明白だった。
「だから……ラクス」
「判っていますわ、アスラン」
アスランの呼び掛けに、ラクスはにっこりと微笑んで頷いた。
「計画を阻止する事が出来るのは……恐らく私しか居ないでしょう」
議長とは異なるカリスマ性を持ち、その発言の影響を恐れて抹殺されかけた、ラクス。彼女しか対抗出来ないのだと。
「そしてナチュラルを先導する事が出来るのは……カガリ、君しか居ない」
「私が?」
「君は争いを好まない、中立国オーブの長だろう」
「あ……」
アスラン言われ、カガリがハッとした表情を浮かべる。この先間違いなく戦争は激化する。今カガリ達が恐れをなしたように、ナチュラルが混乱したままでは圧倒的に不利な戦いになるのも目に見えている。それを抑え、導いて議長に対抗出来るのはオーブにしか出来ないのだとアスランは言っているのだ。
ラクスとカガリ、この二人が人類の未来を守る為には必要である。
そして。
「キラ、お前も……」
「うん、判ってるよ」
「ありがとう」
言論だけでは終息しない。武力には武力で対抗しなくてはならない。しかし議長に洗脳されたとはいえ無駄な血は流したくはない。その為にはキラの戦闘能力が欠かせない。これまで争いを嫌い、静かに生きたいと願っていたキラを表舞台に引きずり出す事にアスランは躊躇いすら抱いていたのだが、キラはその気遣いすら理解した上で頷いてくれた。

彼等に託して良かった、と。心底アスランは思った。
恐るべき計画を阻止するには自分一人では明らかに無理だった。彼等の力を借りねば叶わないと考えた。だから危険を犯してまで盗み出したデータを自ら届けに来たのだ。
一度は議長に洗脳されかけ、敵対した裏切り者の自分を赦してもらおうとは今更思わない。しかしどうしても協力してもらわねばならなかった。
「では共に立ち向かいましょう、カガリさん」
「ああ!」
ラクスの呼び掛けにカガリが強く頷く。その表情にもう恐れはない。
「アスラン、君も協力してくれるよね」
「……勿論だ、キラ」
ラクスとカガリ、二つのカリスマ。キラとアスラン、二つの強き力。議長と戦う為に必要な駒は、今此処で改めて決意を表した。それは他の者達にも伝わり、皆各々奮起する。

今度こそ、何者にも脅かせられない、平和な世界を。
そう、誓いあって。


「頑張ろう、アスラン」
「ああ、キラ」


全てを話し、共に戦う決意をしてくれた彼等を。

信じて良かった、と。



一人胸中で感謝しながら、アスランは差し伸べられたキラの手を握り返した。
Category [ 時系列(No.08)【月ひとしずく】 ]
月ひとしずく 13 (#43~45)
TB[ - ]  CM[ - ]  Edit   2007/10/14[ Sun ] 20:42

アスランの口から語られた真実は、淡々としたその口調に反してラクスやカガリを始めとした仲間達には衝撃でしかなかった。
一握の希望すら砕く程の、デュランダルが描いた残酷な未来予想図。仁く未来の地獄絵図だ。
「そんな…そんな馬鹿な事、実現出来る筈がない!」
「カガリさん…残念ですが、恐らく可能なのでしょう。遺伝子学に秀でたデュランダル議長なら成し遂げられる。その自信があればこそ生まれたプランなのですわ…」
驚愕の表情を浮かべながらも激しく憤るカガリにラクスがやんわりと諭す。彼女より先にDプランの表側を知っていたからでは、決してない。告げられた事実を真実として受け止め、今後どう対処すべきか冷静に思案しようとしていたからだ。それでも直ぐには妙案など浮かばない。焦る気を抑えるので精一杯だった。

Dプラン、それは悪夢で形作られた未来の地獄絵図だ。
生まれたばかりの赤ん坊の頃から、調べた遺伝子情報を総合コンピューターに登録する。そしてそのコンピューターが各々の適性を判断して要所要所に振り分けるという、表向きは人材派遣面等で効率性を高めるひとつの方法かもしれない。特に出産率低下に悩まされているプラントでは多くの支持を得る計画であろう。
だが、真実はそうではない。
幼児の内に遺伝子情報を把握しその生命が進むべき未来を定めるだけではなく、必要とあらば周到に影から操り管理する者の都合の良いように人生を歩ませる。
つまり人間が人間を飼う、惑星規模の巨大な牧場なのだ。
表面上は幾らでも取り繕える。だが正しき方法で利用するなど誰が信じられるか。人間達にそんな理性があるならば、始めからこの争いは起きていない。
私用目的以外、到底考えられぬこの計画で軍事利用を危険視するのは当然だった。
それを、あのデュランダルという男は実現しようとしている。己の信念か、野望か、どちらでもない別の理由か。
ただ云えるのは、恐ろしい存在だという事。

「…それで、どうしてアスランはこの事に気付いたの?」
重くのしかかる絶望の沈黙を破ったのは、キラだった。皆の注目が集まる中、キラはアスランだけをじっと見つめている。普段は柔らかな紫が、今は研ぎ澄まされた色を滲ませていて、見られる側としては痛い。
「それは…」
一瞬アスランが云い淀む。
「最初は俺も表側の計画しか情報を見付けられなかった。けれど……おかしい、と感じたんだ」
「おかしい?」
「ああ、キラ。この計画を考え出したデュランダル議長が、今プラントの最高地位に居て何故直ぐに実行にうつさなかったのか、と」
アスランの指摘はこの場合正しかった。自分一人では実行出来なくとも、評議会に意見を陳情する事は出来た筈だ。しかしそれをしなかった。という事は既に計画は実行にうつされており、今は実験段階ではないのだろうか、と。そして思った通りの成果を得て、漸く日の目を見ようとしている。
そこまで推測してアスランはふと前にデュランダル議長に云われた言葉を思い出したのだ。

『私には君が必要なのだよ』と。

確か、彼はそうは云わなかっただろうか。
先の大戦でザフトに背を向けラクス達と共に反旗を翻した。後に名を変え存在を隠してオーブに亡命した。そんなアスランを議長は考えられない好条件でザフトに再び招いた。君の力が必要なのだと云って。
「それは…今思えば計画のひとつだったのかもしれない」
アスランが自嘲気味に呟いた。
あの時自分は落下するユニウスセブンを防ぎ切れず、争いが始まろうとしているのも止められず、何も出来ない非力を悔やんでいた。力が欲しかった。
それを言葉巧みに丸め込み、甘い毒の囁きで議長はアスランを誘惑したのだ。あの時は気付かなかったけれど、今ならそう思える。
アスランは力を求め、デュランダルは駒を求めた。自分の都合通りに動かせる、エースパイロットとしてのアスランの力を、自軍の駒として置きたかったのだ。
「じゃあ、あのラクスは?」
キラが真剣な口調で問うと、アスランは今度は迷う事なくそれに答える。
「俺の場合戦闘力を求められたのだから替え玉は効かない。しかしラクスは非戦闘員だ。予め用意された台詞を語るだけの存在だけで充分だったんだろう」
「私のラクス・クラインとしての存在だけを求めていた、という事ですね」
「はい」
己の影響力をよく知っているラクスに今更誤魔化し等通用しない。そう思ったアスランはラクスの追求に素直に肯定する。
「だからミーアという駒を用意して自分の為のラクスを作り上げたのです。ラクスに憧れていた彼女ならば喜んで成り済ますだろうと」
「それで本物のラクスに表側に出てこられちゃ困るから消そうとした………そういう事だね、アスラン?」
「そうだ」
アスランが認めると、キラはラクスの顔を見て静かに頷いた。ラクスもまた、キラの云いたい事を理解したのだろう。何も云わずに頷き返している。
ラクス襲撃に居合わせたキラはやっとその理由が判った、といった顔をしていた。デュランダルに反するラクスが邪魔だからというのはよく判る。けれどそれだけならば替え玉まで用意する必要はないのではないかと思っていたらしい。けれどこの恐るべき計画を実行する為には、偽ラクスの擁立と本物のラクスの処分はどうしても必要だったのだ。

やっと、ここまできてやっと、デュランダルの陰謀の欠片を掴めた。

けれどそれは余りにも強大過ぎて砕く可能性はまだアスラン達には見い出せないでいたけれど。
Category [ 時系列(No.08)【月ひとしずく】 ]
月ひとしずく 12 ( #43~45)
TB[ - ]  CM[ - ]  Edit   2006/11/23[ Thu ] 22:36

「何から話せばいいだろうな…」


ぽつり、と呟いた言葉に何故か周囲の空気が更に張りつめる。何気無い言い回しなのに、その言葉の裏に隠された真実の重さが伝わってくるようだった。

ラクスやカガリを始めとしたAAの主だった面々、そしてキラ。彼等が一斉に見つめる中でアスランは言葉少なに語り始めた。
その顔には思いつめたような悲壮感はなく、何処か遠くを見つめているようで。ブリッジに集った皆に囲まれ、傷付いた躯をシートに腰掛けさせて。
漸く全てを語れる時が来たのだと、アスランはそう実感していた。


「きっかけはあの日…キラとカガリに会った事でした」
「アスラン…」

岩に囲まれた海岸で人目を忍んで再会した、あの日。
互いに真意を知りたくて、各々が相手を止めようとして、けれど決裂したあの日。

アスランの隣に立っていたカガリが悲しげな表情で彼を見る。その視線に気付いて、違う、責めている訳じゃないよ、とアスランはカガリに困ったような笑みをしてみせるとその先を語り出した。
「その時俺は初めてラクスの暗殺未遂事件を知ったんです。…ご存知の通り、俺はもうオーブには居なかったですから…」

そう、ザフトに復隊していたから。
彼等を一度は捨てて去った立場を今明確にせねばならないのが心苦しい。
だからはっきりと口にするのは避けて言葉を濁すアスランの心情を皆は複雑な思いで、それでも理解して受け止めてくれたようだった。誰一人今この場で蒸し返して追求する者はおらず、アスランが語る言葉を黙って聞いている。
「ミネルバに戻った俺はキラから聞かされた事が信じられずにいて…なら自分で確かめてみよう、と探り始めたのです」
それまでややうつむきがちに話していたアスランが顔を上げ、鋭い眼差しで周囲を見つめる。

全てはあの日知った事がきっかけだったのだと。


そして、それが彼にとって波乱の始まりでもあった、と。

鋭い眸の奥に僅かな悲壮を湛えていて。



ミネルバに戻り直ぐにアスランはフェイスという己に与えられた特権を利用して極秘裏に調査をしたのだという。
だがプラントではなくミネルバという限られた空間ではその手段も多くはなく、先ずは自室に備えつけられているノートパソコンからザフトの中枢である諜報部のデータに侵入した。無論表向きに公開されている情報には暗殺計画などある筈もない。
そんな事は始めから判りきっていたから、アスランは敢えて外堀を埋めるようにラクスには関係のないような事柄から調べたのだという。
「ラクスを暗殺するとなれば誰かが彼女を不必要だと判断したという事になります。ならばラクスが障害物となりうる案件や計画がないか探す事から始めました」
アスランの判断は確かに間違ってはいなかった。
誰が黒幕であれ、隠れ住むラクスの居場所を突き止め、そして秘密裏に消そうとしたのだから、今後ラクスが邪魔をしそうな何かがある、と踏んだのだった。
「私はそんなに暴れるような印象があるのでしょうか」
「ラクス…それはちょっと論点がずれてるから」
アスランの予測をそれまで黙って聞いていたラクスが、張りつめた空気を壊すようなのんびりした口調でぼやいた。片手を頬にあて、困ったように首を傾げて呟く彼女に、隣にいたキラが苦笑しながら制した。
変な所で天然なラクスの一面に中断したが、直ぐにアスランは続きを語り出す。
「ザフトには沢山の計画や開発が今も繰り広げられています。ザフトが軍隊である以上それは当然でしょうし、幾ら俺でも簡単には知り得ない事や口外出来ない物も数多くあります」
だがそれはザフトに限られた話ではない。軍隊であれば何処も同じである。
中立を保つオーブですら極秘に数々のMSを開発してきたのだ。人の思惑が絡み合えばそれは余計複雑になっていく。
アスランに幾ら特権が与えられていても知る事が出来る情報は限られている。多少危ない方法で探ってみても、それには変わりなかった。
「しかし…調べていく内にある事に気付いたのです」一瞬だけ言いよどんだアスランの言葉に皆息を飲む。

「Dプラン」

と、だけ。アスランは口にした。

と同時にラクスを始めとした宇宙に上がり諜報活動をしていた者達が目を見張る。
「データの所々にその言葉がありました。最初は見過ごしていたのですが、しかしそんなプランは聞いた事もないし勿論何かの作戦名でもない」
では何か?。そう感じた疑問が導いてくれた。
気まぐれに過ぎないような疑念でその言葉を検索すれば、示された答えにはある人物の名前があった。


ギルバート・デュランダル。
現在のプラントを導く保守的な指導者。

クライン派の流れをくんだ反戦主義者として支持を得ていた現議長の名前。
かつて彼は一人の科学者としてあるラボに所属していたという。それは議長に選出される前から皆に知られている肩書きでもあった。専門は遺伝子工学。遺伝子操作の果てに産み出されたコーディネーターの、自然に逆らった代償として欠けてしまった種族繁栄の問題を解決すべく様々な研究を行ってきた人。
その彼が関わるプランの名前が何故か軍部のデータバンクに記されている。本来ならばザフトでは有り得ない、寧ろ彼が所属するプラント評議会側にあっても良い事柄である。
確かにザフトは評議会の指揮下にあるが、しかし軍隊として独立した一面もある。
だがこのプランは評議会ではなくザフト側で記録として残されていて。
プラント評議会の最高責任者であると同時にザフトの最高責任者でもあるデュランダル議長の関わるプランが、ザフトにだけ記録されている事実に気付いた時、アスランの中で何かが警告音を発した。

キケン、キケンだ、と。

「まだその時にはDプランが一体どんな物なのかも判りませんでした。しかし何かが気にかかる…」
「それでDプランについて調べ始めた、というのですね?」
「はい、ラクス」

先程のようなぽやんとした彼女ではなく、凛とした表情で尋ねるラクスに、アスランもまた目を反らさずしっかりと頷いていた。


Dプラン。

全ては、それから始まったのだ、と。

Category [ 時系列(No.08)【月ひとしずく】 ]
月ひとしずく 11 ( #43~45)
TB[ - ]  CM[ 0 ]   Edit   2006/03/17[ Fri ] 23:35
彼が姿を現した瞬間、その場に居た者達は騒めいた。

全世界へ向けて発信した会見を終えて今後の動向を定めるべくAAに帰還していたラクスは、会見時に見せた麟とした表情でなく年相応の少女の顔つきでぽやんと見つめていたし。
ラクスを送迎がてら自国をキサカ達に一時預けてやってきていたカガリは、酷く慌てたようにシートから立ち上がり、声も出せずに泣きそうな顔で駆け寄ってくるし。
艦長という権威ある立場である筈のマリューですら驚いて素に戻っていたし。
彼女の隣には何故か拘束されていた筈のネオがちゃっかり居たけれど。

そして、キラは。

表情を変えず、しかし僅かに眉をぴくりとあげたのには、彼以外誰も気付かずに。

ぽつり、と冷静に呟かれた彼の人の名。

「…アスラン」

感情を抑えたキラの声音にも微かに驚愕が含まれている事に唯一気付けたのは、今名を呼ばれた彼だけで。

動く事もままならない癖に無理に出撃し、結局塞がり始めていた傷を開かせてしまい、強制的に医務室に逆戻りさせられていたアスランが。
ふらふらとした足取りで主たる者達が集うブリッジに不意に姿を現したのだった。
当然まだ身体はボロボロで、一人では立つのもやっとな状態で。
だから医務室に居つき彼に付き添っていたメイリンと呼ばれる赤い髪のザフトの少女が傍らに寄り添っていたのだけれど。

それでも彼は来た、確かに自分の足で、自分の意志で、皆の前に。

「お前…ッ!。まだ寝てなきゃ駄目じゃないかッ!」

駆け寄ったカガリが病人に接するには相応しくない口調で荒々しく叫ぶ。
だがそれが彼女なりの気遣いだとアスラン含め皆知っている。

「カガリ…。大丈夫だよ。もう一人でも歩けるから」

縋りつきたいのを必死に堪えているのだろう、胸元の生地を力なく掴むカガリに、アスランは困ったように笑いかけて彼女の金の髪を優しく撫でた。
隣ではメイリンがアスランを見上げて心底困り果てたような顔をしている。
それに気付いたキラが腰掛けたシートから立ち上がらないままにアスランに云った。

「一人で歩けるって云っても、どうせその子に支えてもらったりしてやっと辿り着いたんでしょ?」

淡々と語るその口調には何故か刺々しさが含まれていた。
アスランがキラを見つめ返して眉をしかめる。

「もう本当に平気だと云っただろう」

何故キラが不機嫌なのか判らないけれど、明らかに自分に対して不満を抱いている事にアスランは気付いている。
たからアスランの口調もきついものとなるのは至極当然だったかもしれない。
一瞬で険悪な雰囲気となった二人に、カガリが慌てて間に入る。

「それよりっ!。アスラン、お前一体どうして此処に?」

カガリが尋ねた。
つい先程まではまだ安静にしていろと云われていたアスランが突然ブリッジに来たのだから不思議に思うのは当たり前の事で。
するとアスランがまた金の髪をくしゃりと撫でて云った。

「ああ、前に俺がキサカさんに託したデータがあっただろう?」
「今は私がお預かりしていますわ」

アスランが視線を投げ掛けた先でラクスが微笑みを浮かべて答える。

瀕死で死にかけていたアスランがキサカに託し、そうしてラクスの手へと渡されたもの。

アスランが己の身体を切り裂き犠牲にしてまでも、ザフトから持ち出した極秘データだ。
それはデュランダル議長が押し隠していた、ある計画が収められており、公表すれば確実に世界は混乱と驚愕に襲われるであろう物だった。

ちょうど今それと私が入手した情報を照らし合わせて皆と話し合っていたのですわ、と。
ラクスが語ると、アスランはカガリを自分から離し、ふらり、とラクスへと歩みだした。

「俺が渡したデータはあれからこちらのスタッフが解析を始めた、と聞きました」
「ええ、圧縮されていたデータを解凍して一通り解析しました。私達もその内容を見させてもらったけれど…言葉も出なかったわ…」
「だと、思います。アレは間違いなく世界を惑わせる物でしかない」

ラクスの代わりに、隣に居たマリューが答えると、アスランは急に顔から一切の感情を消して強い口調で告げた。

そして、まだ言葉を続けて。

「…その様子ではやはり…まだ『表面』のみなんですね?」

と、意味深な言葉を洩らした。

「…『表面』?」

アスラン以外の皆が一斉に問い返す。

当然キラも、それまでの頑なな態度を氷解させた。

幾つもの眼差しがアスランへと集中する。

アスランはラクスの前に立ち、凡そ怪我人らしくない態度で告げた。

「アレは俺が見つけた軍の深層部とも云えるデータベースから丸ごとコピーをして保存した物ですが、予想通りに外部からのアクセスに対し頑丈なプロテクトがかけられていました。…恐らく俺以外は気付かない場所に、もう一つの『真実』が隠されているんです」

そう語りだしたアスランの言葉は、冷静でまるで何か別の事を淡々と語るかのようで。

恐るべき『真実』を示そうとするには到底感じられない程に落ち着いていて。

そのギャップに皆が背にぞくり、と冷たいものを感じざるをえなかった。


「順を追って話した方が判りやすいかと思います」


そう云ってアスランは己が知った、命の危険を侵してまで持ち去ってきた情報を静かに語りだした。
Category [ 時系列(No.08)【月ひとしずく】 ]
Thread Title[ 機動戦士ガンダムSEEDDESTINY ]   Thread Theme [ アニメ・コミック ]
月ひとしずく 10 ( #43~45)
TB[ - ]  CM[ 0 ]   Edit   2006/03/08[ Wed ] 21:15
「………う、そ。…嘘、嘘ッ!」

シンに告げられた衝撃の事実にルナマリアは愕然としていた。

思わず立ち上がった彼女はシンから見ても判る位にカタカタと震えていて。

これが他人事ならばどんなに良かっただろう。

ぼんやりとシンは目の前で震える程驚いているルナマリアを見つめながら考えていた。
しかしそんな訳にはいかない。
自分にとってもルナマリアにとっても、アスランの生存は簡単に片付けられる問題ではなくて。

「アスランが…生き、て、た…?」
「………うん」
「そんな…っ」
「本当、なんだ…。俺、モニター越しに話した…から…」

初めて知らされたルナマリアの驚く様はシンの胸を締め付けた。
アスランとの会話は彼が緊急用の回線を開いた事で叶ったものだ。
敵軍となってしまったシンと話した内容は明らかに両軍の通信記録に残されたであろう。
しかしあの時ルナマリアはまだアラートで待機中で、その会話を全く知らなかったのだ。
「後で副長にでも聞いてごらんよ…本当、だから…」
あの時出撃していたパイロットだけでなく艦隊の中枢である司令室にも無線は届いている筈だ。
シンの促した答えにルナマリアは頷かざるをえなかった。
「でも、じゃあ…ッ!」
突然ルナマリアがシンに近づいて、力任せに肩を掴まれる。
女性とは思えぬ位の力の強さに、肩に痛みを感じてシンは眉をしかめ、しかしルナマリアの眼差しから逃れるように顔を逸らした。

彼女が今何を聞こうとしているのか、何を知りたがっているのか、泣きたい位判ったから。

「メイリンは生きてるのッ!?」

それはまるで血を吐くような、それ程までに痛々しい悲鳴だった。

目を逸らしたシンをルナマリアは蒼白した顔で見つめ、掴んだ肩に爪を立てて。

「シン!。答えて、メイリンは!?。あの子は生きてるの!?」
「………ルナ」
「ねぇ!。答えてよっ、シン!!」

もう辛くて逃げ出したかった。

死んだ、と諦めていた、シンもルナマリアも。
二人はどす黒い深海に飲み込まれ藻屑となって散ったと思っていた。
だから無理矢理に言い聞かせて諦めていたのだ。

裏切った者を討つのは軍属ならば仕方ない事だと、アスランを想うシンは。

命令に従わざるをえない立場で尚且つ想い人を討ったシンを責めきれなくて、巻き込まれたメイリンを想うルナマリアは。

理不尽な結果だと判っていても、これが『戦争』なのだ。
その中を今生きているのだ。
自ら志願して軍に属した時から覚悟していたのだから。

何かを失うかもしれない、と。

「………生きてる。メイリンは…無事、だって…云ってた…」

締め付けられる胸の痛みに枯れそうな程乾いた喉からシンが必死に声を振り絞り、ルナマリアに伝えたのはメイリンの生存であった。
途端に肩から爪の食い込む痛みが薄らぎ、かくん、とルナマリアが崩れ落ちた。
「…っ、ルナ!?」
慌ててシンが逸らしていた目を彼女に向ければ、ルナマリアはかくりと床に座り込んで震えていた。
大きく見開かれていた眸からはボロボロと涙が零れ落ちていて。

その時シンは初めて己が彼女に与えていた苦痛と罪の深さを悟る。

ルナマリアはアスランを討ち落としたシンを気遣ってくれてさえいた。
しかしシンは縋るだけで何も返せなかった。
それどころか、彼女から大切な存在を奪っていて。
その罪に立ち向かえていなかった。
想い人を自らほふった罪にばかり囚われて、もう一つの罪を贖う事が出来ていなかった。

「ごめ…っ。ルナ、ごめん…俺、俺…っ」

云いたい事は他にもある筈なのに、けれど謝罪しか言葉が見つからない。
シンの足元で呆然と泣き続けるルナマリアを、シンは堪らず覆いかぶさるようにしてきつく抱き締めた。
胸元に顔を引き寄せればルナマリアは弾かれたかの如くシンの身体にしがみつき、絞りだすように声をあげて泣きじゃくりだす。

「…っう、メイリン…っ。メイ、リン…生きて、生き…っ。うぅ、うーっ」
「うん、うん…ルナ…ごめん。本当にごめん…っ」
「あぁ…っ、シン、シンーッ。あぁぁーッ!」

泣きじゃくるルナマリアを抱き締めながら、シンの眸にも涙が滲んで。

ヒトを討つという恐さ。
壊したものへの喪失感。

戦いの果てに何が残るか、自分がおこした事の結末を、改めて知らされた気がした。

やがて泣き止んだルナマリアは疲れ果てたかのようで。
シンは彼女をベッドに座らせるとくしゃくしゃになった前髪をそっと払い除けて、泣いて赤くなった目蓋に唇を触れさせた。

親愛のキス。
贖罪のキス。

これで彼女の傷が癒える筈はないと判っていても。
「じゃあ、俺部屋に戻るから…」
そう云って立ち去ろうとしたシンの軍服の裾をルナマリアが、くい、と掴み取る。
不思議に思い振り返れば。

「どうして…アスランと戦うの、アンタは…」

泣き疲れ弱々しくなった声でルナマリアがシンを静かに責めた。

「………だって」
「裏切り者だから?。自分を置き去りにしたから?」
「…ルナ」
「オーブを討つのを邪魔したから?」
「………ッ!」

その言葉にシンは一気に熱くなる。
かぁ、と頭に血が昇るようで、感情が激しく渦巻きだす。
「でも、私も…」
沸き起こった怒りのままに反論しようとしたシンに、ルナマリアは淡々と喋り続ける。

「………シンはオーブを討ったらいけない、と思うわ」

ぽつり、と呟かれたルナマリアの告白は彼女の部屋から立ち去った後も暫らくシンの中から消えなかった。
Category [ 時系列(No.08)【月ひとしずく】 ]
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月ひとしずく 09 ( #43~45)
TB[ - ]  CM[ 0 ]   Edit   2006/02/28[ Tue ] 23:38
ルナマリアの愛らしい唇から語られたその名は、しかしシンを激しく揺さ振る悪夢のような名前だった。

「…キ、ラ、ヤマト…」

まさかその名をこの場で、しかも『彼』以外から聞かされるとは思いもよらなかった。

シンの身体は強ばり、そうして語り続けるルナマリアを茫然と見つめ返すだけしか出来なかった。
襲われた衝撃に愕然としているシンを見て、ルナマリアが哀しげに微笑んで小さく頷いた。

「…アスランはね、キラって人に会っても…彼等を止めようとしていたのよ…?」
「………ッ!」
「寝返るとか情報を洩らすだとか…一切しなかったの」
「…じゃ、あ…スパイじゃなかった…?」
「うん…多分、ね」

ルナマリアが云おうとする事は混乱するシンにも理解できた。
アスランは脱走時にスパイ容疑をかけられていた、と聞いた。
かつての同胞AAが『ロゴス』の嫌疑をかけられ、それを庇うからかと思っていた。
そうして結果的に軍を抜けて彼等の元に合流したのだから、嫌疑は間違いないと思えたのに。
しかしルナマリアが実際に盗み聞きしたそれら証拠は、アスランには彼等に協力する意志はなかったのだと明らかにするものだった。
ではミネルバ内でたった一人AAを『敵』ではないと主張したのはどういう事なのか。
彼等にも戦況を混乱させるなと異を論じ、自分達にも敵ではないと云う。
まさか、本当に戦いを止めたかっただけなのか。
どちらの軍に属しているとか関係なく、世界が混沌と化すのをたった独りでも止めたかっただけなのか。

アスランの真実が、シンには判らなかった。

「…それでね、私が見たラクス・クラインだけど…」
「あ、あぁ…うん」

不意に話を変えられてシンが戸惑ったように返事を返す。

「ラクス・クラインはデュランダル議長の傍に居る、と皆思っていたし、事実そうなんだけど…」

ルナマリアが語る内容は彼女自身の目で確かめた真実だった。

歌姫としての任もあるからいつも共に行動を伴っている訳ではないが、演説など大事な局面には必ず同席している。
確かその頃もプラントに居て歌姫として、平和の使者として議長を支えていた筈だ。
ラクス・クラインが地球に降りたとなれば話題にならなあ訳がない。

しかしルナマリアは確かに見たのだ。

さっきオーブ側の演説の席についていたもう一人のラクス・クラインが、あちら側、AAと繋がっていたのを、ルナマリアは確かに見て聞いて知っていたのだ。

「じゃあ、議長と一緒にいるのは…?」
「判らないわ…どちらが本物かなんて。でもあの場に居た人は皆彼女をラクスと呼んでいたし…。それに」
「それに?。何?」

急にルナマリアが言い淀み、シンが不審そうに眉を寄せる。

今更何を悩むのだろう、とシンが思った時。

「…所詮盗聴だからはっきりとは聞こえなかったんだけどね………あちら側のラクス・クラインが暗殺されかけた、って………」
「…ッ、あ…ッ?」

暗殺、とつい叫びそうになるのを、物凄い早さでルナマリアに口を押さえられ、シンは辛うじてその言葉を飲み込んだ。

「馬鹿ッ!」

誰に聞かれるか判らないのに、とルナマリアがシンを叱り付けた。

「嘘…誰がそんな事…?」
「そんなの私に判る訳ないでしょ!」
「そ、そうだけど…」

思っていた以上にルナマリアが抱えていた秘密は重すぎる物で。

シンは既にその重さに潰されそうな程錯乱していた。

二人のラクス・クラインという存在、AAに関わりのある者達がラクスと呼び認めた存在、あちら側のラクスと共に居たフリーダムのパイロット、キラ・ヤマト。

そして、アスラン・ザラ。

かつての仲間に会いに行っていたという事実、嫌疑をかけられ同胞であるルナマリアに尾行調査を命じた事実、当時から彼が疑われていて監視をされていたという事実。

しかし、裏切るつもりなど本当になかったのだという、事実。

それらがシンを押し潰さんとして襲い掛かってくる。

今まで自分が見てきた物は、信じてきた物は、果たして本当なのだろうか。
彼を見てきた、と思っていたのに、それは本当に彼の真実じゃかたったのだろうか。

全てを疑いたくなる位にルナマリアがもたらした言葉はシンの胸中を激しく揺り動かした。

「でも、結局それしか私には判らないの。ありのままを艦長に報告して調査資料も全部提出したし、以降はこの事には首を挟むなって命じられたから…」

だから疑問ばかりが残り、何一つ真実は見えないのだとルナマリアが残念そうに呟いた。

「艦長も誰か上層部に命じられてたみたいだったから、きっと軍のお偉い人しか判らないんじゃないかしら」
「そっか…うん、判ったよ。話してくれてありがとう…」

シンが素直に感謝を述べれば彼女は漸く安堵したかのように笑った。
長い間一人で抱えてきた重圧から解放されたような、そんな疲弊した笑顔だった。
そうしてルナマリアがシンをじっと見つめ返す。

「次はシンの話を聞かせて?」

そう促され、シンは一瞬目を逸らし、しかし直ぐに意を決して口を開いた。
彼女も自らを危険に曝してまでも話してくれたのだから、シンが話さない訳にはいかない。

ルナマリアには云わねばならないのだ。

どうしても、何があっても。

「…この間の…戦闘の時なんだけど…」
「この間ってオーブ戦の事?」
「うん、そう。あの時ルナは俺達と別動隊だったから知らないかもしれないけど…」

そこで一旦シンは語るのを止めた。

すぅ、と息を深々と吸い込んで。


「あの時現われた赤い機体…新型MSに…」


声は震えていないだろうか。

泣きそうな顔をしていないだろうか。

うまく、彼女に伝えられるだろうか。


「………アスランが、乗って、いたんだ…」



云い終わらぬ内にルナマリアが驚愕の表情を浮かべ、反射的に立ち上がっていた。

そんな彼女を、シンはただぼんやりと見ていた。
Category [ 時系列(No.08)【月ひとしずく】 ]
月ひとしずく 08 ( #43~45)
TB[ - ]  CM[ 0 ]   Edit   2006/02/07[ Tue ] 22:41
「…どうぞ、入って?」
「あ…、うん」

ロックを解除した扉の向こう、ルナマリアに割り当てられた個室にシンは招き入れられた。
室内の設備などはシンがレイと共に過ごす部屋と大差なく、一人用だから若干狭いだけで特に違和感はなかった。
先に中へと入っていったルナマリアの後を追うように、シンも部屋の中へと足を踏み入れる。
ルナマリアはベッドに、シンは備え付けられた椅子へとそれぞれ腰掛けて互いに向かい合った。

「………」

目線はかっちりと合わさっても、どちらも云いだすのを躊躇っているのか直ぐには口を開こうとしなくて。
不自然な沈黙が流れだす。
「ねぇ、シン、話してよ…」
「いや、ルナから先に話して?」
「…もう、仕方ないなぁ…」
互いが抱える重大な話を切り出せずに押しつけあえば、このままでは埒があかないとルナマリアが口火を切った。

「前に、ね…アスランが艦長に許可を貰って艦を降りて人に逢いに行った事があるの」
「………え?、嘘、何時?」

いきなりアスランの名を出され一瞬だけシンの胸が痛んだが、しかし『ラクス・クライン』に関わる事となれば彼の名が出てもおかしくはない。
私情を無理矢理思考から引き剥がしてシンはルナマリアに尋ねる。
「うん…確か、ダーダネルスでの戦闘が終わった後、艦を修理する為に軍港に停泊していたでしょう?」
「ああ、うん。そういえば…」
ルナマリアに云われ、ぼんやりと記憶が蘇る。
まだ然程時間は経過していない筈なのに、何故だろうか、酷く昔の出来事のようで。
確かオーブ軍が地球軍と同盟を組んでから初めて戦闘を仕掛けてきた直後だ。
先の大戦でその名を轟かせたあの『フリーダム』が突如現れ、戦況をより混乱に叩き落とした。
その所為でハイネは命を失い、仲間が死んだ事と、かつての仲間が歯向かってきた事でアスランが酷く落胆していたのをシンは覚えている。
「…あの時?」
だがシンも仲間をなくした悲しみと、オーブが敵となった事、そして『フリーダム』が戦場を掻き乱した事への憤怒が渦巻いていて、当時の記憶は部分的に曖昧な所もあって。
自分以外が何をしていたのかよく覚えていなくて、シンはルナマリアを見つめながら聞き返した。
するとルナマリアはうん、と頷いて。
本題が近づいたからか彼女の表情が強ばっていくように見えた。
「丁度シンはレイと一緒に連合が廃棄した研究所の捜索任務を受けていたわよね?」
「ああ、うん…」
ルナマリアに云われ、シンの中で一人の少女の記憶が鮮明に甦る。
潜入した廃墟の中でレイが突如倒れ、一度艦に帰投した後にアスランと共に再調査に向かったのだ。

そうして、出会った少女。
悲しき運命を背負わされたステラ。

その後シンを襲った悲劇はルナマリアもよく知っている。
それをきっかけにシンとアスランの間で何かが狂い始めたのもルナマリアは気付いていたから。
「………あ、ごめん。思い出させちゃった、ね…」
そんなつもりはなかったのだけれど、と彼女が苦笑した。
丁度時期が重なる為に避けては通れない話題でもあって、ルナマリアはたじろぎつつも、しかし話すのを止めようとはしなかった。
シンも彼女の気遣いを悟り、いいよ、と先を促した。
今聞くべき事はアスランの事でもステラの事でもないからと。
「えぇと…。シンが潜入捜査に行く前にね、アスランが艦長に許可を貰ってミネルバを降りたんだけど…その時、私も艦を降りたの」
「…え?、ルナも一緒に?」
アスランが艦を一時的に離れていた事も知らなかったけれど、ルナマリアもだったとは知らなくて。
シンが驚いて尋ね返せば、しかしルナマリアは首を横に振って否定した。

「違うわよ。私はアスランに気付かれないように後をつけて『尾行』したのよ…」
「尾行?」
「…ええ。艦長に命じられたの…。極秘任務よ、って」
「そんな…。艦長が…?」

彼女の言葉にシンは驚きを隠せなかった。
何故艦長はルナマリアにアスランの監視を命じたのだろうか。
結果的に彼はミネルバを離れてしまったけれど、当時は仲間だった筈だ。
そうだと思っていた。
しかし艦長は当時からアスランを疑っていたとでもいうのだろうか。
部下であるルナマリアに尾行を命ずるなど、シンには到底信じられなくて。

「…嘘。だって…」
「うん、私もその時は凄く驚いたから、シンの気持ちもよく判るわ。でも、艦長が危惧していたのも無理はないと思う」
「………」
「アスランは、あの艦…AAの仲間達に会いに行ったんだもの…」
「………え!」

今度こそシンは激しく動揺した。

今、何と云った?。アスランが『誰』に会いにいったと?。

目を見開き、唇をわなわなと震わせるシンの顔色は一気に青くなっていって。
確かに当時アスランはかつての仲間と戦場で再会し、しかも敵対という最悪の形での再会に酷く落ち込んでいた。
だがまさか隠れるようにして会いに行っていたとは思わなかった。

そんな事、聞いていない。
俺は知らなかった。

その事実にシンは愕然とした。

「俺…知らなかった、そんなの………」
「うん。艦長以外誰にも話さずに行ったみたいだからね…シンが知らなかったのも無理はないわ」

ルナマリアが驚きを隠せないでいるシンを気遣って教えてくれたが、シンは彼女を見る事も出来ず、俯いて唇を噛み締めていた。

そんな大切な事を知らされていなかったのが悔しいのか、怪しまれると判っていて明らかに危険な行動をしてまでも会いに行ったアスランの心情を悟れなかったのか悲しいのか。

混乱が酷くて今のシンには判らなかったけれど。

「会って直接聞きたかったみたい…。何故戦場に現われたのか、どうして混乱させるような事をしたのか」
ルナマリアが立ち上がり、俯いたままのシンの肩に手を置いて慰めるように呟いた。
シンが動揺する気持ちがよく判った。
彼が居なくなってしまった今、聞かされるには余りにも辛過ぎるだろうから。
「その時の会話を私は…盗聴していたんだけど…」
彼女の言葉にシンの身体がぴくりと震えた。
仲間の行動を疑い、同僚に尾行させた上で盗聴までも。
しかし会話の相手はあのAAに乗り込む者達。
ルナマリアから伝えられる内容は次々とシンを混乱に叩き落としていく。

「…シン、聞いて?」

優しい声音がシンへと降り注ぎ、誘われるようにシンは怖ず怖ずと視線をルナマリアに向けた。
神妙な顔つきでルナマリアは云った。

「アスランが会いに行った場所に来たのは…」

ごくり、と息を飲んで言葉の続きを待つ。

「オーブ代表のカガリ・ユラ・アスハと、ラクス・クラインと…」

漸くラクスの名が出る。
プラントに居る筈のラクスが当然居る筈はないから、恐らくは『本物』を指しているのだろうか。

「あと…誰、が、居たの…?」

恐る恐る尋ねたシンの顔は、きっと悪夢を見た子供のように怯えていただろう。

「…キラ、って、アスランは呼んでいたから…多分あの『フリーダム』のパイロットだと思うわ…」



そして、ルナマリアの唇から発せられた名前に、シンは現実の悪夢を見せ付けられたような錯覚に陥った。
Category [ 時系列(No.08)【月ひとしずく】 ]
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月ひとしずく 07 ( #43~45)
TB[ - ]  CM[ 0 ]   Edit   2006/01/12[ Thu ] 20:12
やがて三者の演説はオーブに舞い降りた歌姫『ラクス・クライン』のメッセージで終わりを告げた。
とうとうその姿を現した本当のラクスの存在と、議長に仕える『ラクス』。
二人の同じ存在に世界は混乱の渦に叩き落とされたようで。
今まで信じてきた、本物だと思われた、あの『ラクス』は、その彼女の言葉は、脆くも崩れ去るように霞んでいく。
どちらを信じれば良いのか、どちらが本当なのか、演説を聞いていたミネルバクルー達も戸惑い騒めいていた。
これまで与えられていた戦いに挑む為の信念を揺らがせる事態に、当然の如く動揺は広がり各々議論を繰り広げていて。
勿論シンも混乱に支配されている。

「どういう事だよ、なぁ…?」

幾ら考えても答えは見つからない。
どうしたらよいのか判らなくて、ふと隣に居るレイを縋るように見れば。
彼は演説が終わりブラックアウトしたモニター画面をぎっ、と睨んでいて。

「…レイ?」
「………いや、何でもない」

その表情の凄まじさに怯むシンに漸く気付いたのか、表情を緩めていつもの冷静な彼に戻るとクルリと身をひるがえしブリーフィングルームから立ち去ろうとする。
シンも慌ててその後を追えば、ルナマリアも彼らの行く先を追い掛けてきた。そうしてドア付近で急にレイは立ち止まり、後ろをついてきたシンに対して話し掛けてきて。

「…シン。お前はこれからどうするつもりだ?」

そう問い掛けてくる。
レイの質問の意味が判らなくてシンは首を傾げて。

「どう、って…何が?」
「判らないか?。…ジブリールは潜伏先のオーブを脱し宇宙へと上がった。そうだな?。ルナマリア」

シンを見つめ語るレイが急にシンの隣に居るルナマリアへと、その冷えた眼差しを向けた。ルナマリアが一瞬戸惑いながらも頷いた。

「ええ、そうだけど…?」
「ではこれから我々も準備が整い次第ジブリールを追って宇宙に上がるだろう」
「そうだな。まだ正式には命令は下されてないけど…」

レイの語る内容は当然の事ではあった。
今ザフト全軍が最優先すべきことはジブリールの身柄確保なのだ。
例え肉体だけでもいい。
脱け殻となっていても『彼』を捕えたという事実が欲しい。
それは判るのだが、先程までの演説を共に見ていたのならば普通会話はその事に触れる筈だ。
ましてやあのラクス・クラインが二人も現われたのだ。
余計気になる筈なのに。
何故レイはそれには触れず、急にジブリールの事を云いだしたのだろうか。
それが気になってシンは顔には出さなかったけれどレイに対し小さな疑念を抱いた。
シンの気持ちを悟ったのか、レイは二人を交互に見つめ更に言葉を繋げる。

「我々も宇宙にあがるんだ。ならば当然あの艦も来るだろうな」

その言葉にシンは、はっ、とした。
まさか。彼が今告げたあの艦とは勿論AAの事だ。
AAはオーブ側に近い立場であり、となればあちら側に居るラクス・クラインも宇宙に来るであろう。

「レイ、それじゃ…」
「ああ。俺達は同時に二つの標的を追う事になるかもしれない」

ルナマリアもシンと同じ艦を思い浮べたらしく、驚いた表情で彼を見つめている。
ちらりと彼女を見やり、シンは俯いた。
ぎゅ、と拳を握り締める。

それだけじゃない。AAとラクス・クラインが来るのだとしたら。
当然『彼』も。

『アスラン』も宇宙にあがる。

生きてあの機体に乗り込んでいたのだ。
彼ならば例え何があっても追い掛けて来るだろうから。

だが、まだシンはその事実をルナマリアには云えてなくて。
話すタイミングを見定められないままで。

レイが今云わんとする事が何なのか判ったような気がした。

「………レイ」
「何だ、シン」

急に俯き沈黙したシンが小さく呼び掛けてくる。
レイはシンの心を読むかのような眼差しを向けて答えた。
その射るような視線を感じてシンは更に拳を握り締める。

「…後は、俺から…話す、から…」
「…そうか。判った」

呻くようにシンが告げれば、レイはその揺れ動く心情を汲み取ってくれたのだろうか、後は何も云わずにいてくれて。
話が見えず不思議そうにシンとレイを交互に見つめていたルナマリアと未だ俯いたままのシンをその場に残し、ブリーフィングルームを去っていった。

「………ねぇ、何?。レイが云いたかった事、シンは判ってるのね?」
「………………あ、あ」

明らかに様子がおかしいシンを気遣いながらルナマリアが尋ねる。
しかしまだ何といって伝えればいいのか言葉が見つからなくて、シンは俯いたまま小さく頷くしか出来なかった。

「取り敢えず…私の部屋に行こうか?。此処じゃ話しにくいんじゃない?」
「…うん。ありがとう…ルナ」

戸惑っているとルナマリアがシンの肩をぽん、と軽く叩いてそう促してくれた。
心遣いが嬉しいけれど、しかし今は辛かった。

「いいわよ。私もシンに話したい事あるし、ね…」

それは先程の二人のラクスの事だと直ぐに判った。
漸く顔をあげたシンに、ルナマリアは、ふわり、と優しく微笑んだけれど。
彼女の眸も戸惑いに揺れて見える。恐らく自分も同じだろう。
互いが知る事実はどちらに対しても驚愕する事に違いはないのだ。
それを伝えねばならない不安と。
知らねばならない恐怖がひたひたと静かに迫り来るようで。
シンはルナマリアと共に彼女の私室へと歩きだした。

今、この戦争の裏側に隠された真実のひとつを知る時がきたのだと。
そう、覚悟を決めながら。
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月ひとしずく 06 ( #43~45)
TB[ - ]  CM[ 0 ]   Edit   2006/01/07[ Sat ] 23:44
世界中に驚愕が広がっていく。
ザフトとの必死の攻防戦を繰り広げたオーブ代表首長であるカガリ・ユラ・アスハの会見を妨害する形で突如流された映像。
其処にはデュランダル議長が我が手に治めた歌姫『ラクス・クライン』の姿があって。
あの『ラクス』が強引な手段でメッセージを伝える様に目にしていた者全てが驚きの声をあげる。
詳しく語られていなくとも、かつて先の大戦時にはオーブのカガリ・ユラ・アスハとプラントのラクス・クラインは手を取り合い、共に信念の為に戦ったという事実は皆知っている。
しかし今。
かつての仲間と袂を分かつかのように『ラクス』が『カガリ』の妨害をし、彼女の会見に反論してきたのだ。
優しい歌姫らしからぬ行動に、かつての同志よりもデュランダル議長を正しいと言い切るメッセージに動揺は広がっていく。
いかなる手段で電波妨害をしたのか判らないが未だモニター画面はカガリを映さず『ラクス』が其処に居るだけで。

「…アスランさん、あれは………!?」
「………ああ、『ミーア』だ」
「…『ミーア』…」

メイリンが驚愕に満ちた顔で問い掛ければ、アスランは沈痛な面持ちでモニターに映る彼女の本当の名を呟いた。
以前軍を脱する際手助けしてくれた時はメイリンをここまで巻き込むと考えていなかったから、その名を口にはしなかった。
だがAAと合流した本当のラクスを見て、真実を知らなかった筈のメイリンも今ではどちらが『本物』か判っている。
だからアスランは躊躇う事無く『ミーア』だと告げたのだった。
モニター画面の彼女は『ラクス』らしからぬ鋭い眼差しをしていて。
議長を讃える言葉を吐きながらもその心の奥底では泣いているのかもしれない。
アスラン達を逃がしてくれた時彼女は己がどう利用され捨てられるか覚悟していると云っていた。きっと恐ろしいだろうに、モニターの向こう側で必死に『ラクス』を演じる姿は滑稽で、しかし何より強く美しく思えた。

そして、また画面が乱れだす。
ざぁ、と鳴りだした音声が突然クリアになった瞬間、モニターに映し出されていたのは、先程まで其処にいた『ラクス』とは違う衣裳を纏った『ラクス・クライン』だった。

それを目にしたアスランはごくり、と息を飲む。

とうとう、始まるのだ。

世界が全てを、隠されていた事実を、知る時が来たのだ。

知らず握り締めた拳が熱かった。



「………な、に、あれ…ッ!?」

シンが声を震わせた。
休息を過ごしていた時に始まったオーブ側の演説をシンはルナマリアやレイと共にブリーフィングルームに設置されている巨大なモニターで見つめていた。
勿論他のクルー達もその場に大勢いる。
突然画面が乱れ、プラントにいる『ラクス』が映し出された時もどよめきは起きたが、しかし直ぐに皆『ラクス』の言葉に引き込まれて。
彼女の言葉に心酔していた場の空気を引き裂くかのように再び画面が乱れ。
そして映されたのは違う『ラクス・クライン』だったのだ。
騒めきの中、シンは隣に立つレイを思わず見た。
レイはひどく驚いた表情を浮かべ、そして直ぐにいつもの冷静な顔に戻った。
だがアイスブルーの眸にはぎらついた怪しい光が宿っていた事にシンは気付く。

すると逆側から腕を引かれ、そちらを見やればルナマリアが顎でモニターを差した。
レイや他の者達がいるから声にはしなかったけれど。

あれが、本当のラクスだと。
真剣な眼差しが告げていた。

その意味を悟り、シンは弾かれたようにまたモニターを見つめれば、其処にはカガリ・ユラ・アスハの隣に佇む『ラクス・クライン』がいて。
前にルナマリアが告げた内容が本当だったと認めざるを得なかった。

「………どういう、事だよ、これは…っ」

そう呟いて拳を握り締める。
モニターの向こう側では『ラクス』が淡々と語っている。
争いを好まないのは議長率いるプラントやカガリが守るオーブ共に同じである事。
それらが戦う現実に胸を痛めている事。
事実を知らず、知ろうとはせず、命じられるがままにオーブを討つのは間違っている事。
それらを『ラクス』は語り続けていた。
『本当』の『ラクス』は議長には賛同出来ないとまで告げていて。
一層どよめきが沸き起こる。

「嘘だ…、何だよ…これ…っ」

シンも余計混乱していくだけで。
まるで今まで信じてきた信念を踏み潰されたかのような衝撃。

やがて会見が終わり、皆が騒つきながらその場を後にしても、シンは何も映さなくなったモニターを睨み付けるかのようにじっと見つめていた。



ダン、と。デュランダルの拳が机上に叩きつけられた。
ぎり、と噛み締めた唇はなわなと震えている。
先を越された演説を強引な方法で遮り、こちら側に有利になるようにミーアに語らせた。
でなければ国政に復帰したカガリの発言によって窮地に立たされるかもしれないと焦ったのだ。だがそれまで冷静に事を進めていたデュランダルが初めて見せた焦りが完全に裏目に出た。
まさか必死に捜索していたラクスが、宇宙にいるだろうと予測していた彼女がいつのまにか地上に舞い降り、そしてカガリと手を組んだと知らしめる為にあの場に現れメッセージを伝えるとは。全く考えもしなかった為に焦りは怒りとなり、冷静さを欠いたデュランダルが荒々しく机を叩いたのだった。

これでは圧倒的にこちらが不利になる。
折角の切り札のミーアも、これではもう使えない。

「………全く、何て事をしてくれるのかね…『ラクス・クライン』…」

呻くように呟き、そしてデュランダルは机上の端末を開き、部下に回線を繋いだ。

「…ラクス、いや、もう今更、か。ミーアを、こちらに…」

別室で会見を行なわせていた部下にそう呼び掛け、ミーアに来るように伝えると回線を一方的に切った。
机に肘をつき、重ねた手の甲に額を乗せて。

「また、一から策の練り直しだな…」

そう呟いたデュランダルの眸は恐ろしいまでに冷えきっていた。
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月ひとしずく 05 ( #43~45)
TB[ - ]  CM[ 0 ]   Edit   2006/01/04[ Wed ] 23:18
その瞬間を目にした者達は、きっと忘れられない記憶となるであろう。
終わりなど来ない、果てなどない、と思える程に混迷を極めた情勢がターニングポイントを迎えたのは正しくこの瞬間だった。

先の大戦でオーブを守った英雄であるカガリ・ユラ・アスハと共に、それまで痕跡を残さなかった、あのラクス・クラインがとうとう表舞台に姿を表した瞬間なのである。

偽物ではなく、本当の『ラクス・クライン』。

しかしそれは新しい悲劇と混乱を生み出すこととなる。

医務室のベッド脇に設置された小さなモニター画面にはカガリの雄姿が映し出されていた。
オーブ代表首長として会見の場に赴いた彼女の姿は雄々しく、かつて盟主と云われたウズミ・ナラ・アスハの子という肩書きに相応しいものであった。
全世界に、世界に存在する全ての者達へ向け、メッセージを伝えるカガリの言葉はオーブの長として、そして『人間』としての意志であった。

争いを意図して生み出した『ロゴス』の主たる人物ジブリールを匿ってはいない事。
一部の人間が『ロゴス』に関わっていた事実はそれに気付けず止められなかった己の責任をも感じている事。
それに関してはきちんと調査し責を負うつもりである事。
そして、いかなる理由であれ、『オーブ』を焼かんとするデュランダル議長の政策を遺憾に思うという事。

その会見をアスランはキラやラクス、メイリンと共に見つめていた。
カガリはもう迷わないだろう。
モニターに映る彼女の姿を見てそう感じていた。
以前オーブに潜伏しながら彼女を警護していた時は、幼くて清らかで真直ぐ過ぎて。
だから迷い悩み、アスランに縋った事もあった。
だが今、カガリの眸は何ら迷いもなかった。
その雄々しい表情にはいかなる困難にも立ち向かう覚悟が宿っていて。

ああ、もう大丈夫だ。
彼女はもう立ち止まる事無く一人でも前を向いて生きていくだろう。

流れてくる音声を聞きながら、アスランの眸はカガリの姿を焼き付けていた。

刹那、画面が乱れだす。
ざぁ、と音声すら途切れ、砂嵐のような画面にモニターが支配される。
「…え?」
「どうしたんですか?」
突然乱れた画面にアスランとキラが同時に声を上げれば、メイリンが不安げにアスランを見やる。
不測の事態にラクスは一瞬眉を潜めながら微かな声で呟いた。
「………まさか」
「え、ラクス?」
何かを察したラクスの様子にアスランが視線をモニターから彼女へと向けた瞬間だった。

『私は、ラクス・クラインです』

突如鮮明な画像と共にクリアな声がアスランを襲う。

弾かれたかのように凝視したモニターに居たのは。
『ラクス・クライン』と名乗る、しかし実はデュランダルが巧みに用意した偽物である存在、ミーアだった。
「………っ!」
「え?、え、えぇ!?」
本当のラクスは今此処にいるのだ。
画面の向こうにいるなどありえない。
キラは直ぐに替え玉だと気付き息を飲む。
メイリンは驚きを隠せなくてモニターとラクスを交互に見つめ混乱を隠せないでいて。

「…ミーア………」
「………ええ。そう、ですわね」

アスランが僅かに唇を開き、その名を呼べばラクスはしっかりと頷いた。

「彼女が、デュランダル議長が用意した『私』という事ですわね?」
「………そう、です」

ラクスに問われ、アスランは肯定するしかなくて。
ミーアを偽物だと知っておきながら議長を咎めず黙認していた自分を、遠回しに非難されているようでアスランは自らの罪を認めるしかなかった。
画面の向こうではミーアが何かを語り熱弁を奮っている。
オーブから飛ばされていた電波を遮る位だ。
ラクスに作り変えられた顔のその愛らしい唇が語る言葉は議長に有利なものばかりだった。
ラクスの視線から逃れるようにモニターを見やれば其処にもそっくりな人物がいる。
軍を離脱する際救いの手を差し伸べてくれた彼女もまた、あの時決めていた覚悟の通りに『まがい物』で在り続ける事を決めた眼差しをしていた。

例え間違った事だとしても選んでしまった道なのだ、と。

カガリとミーア。
自分に何らかの形で関わった女性達の凛とした姿に、アスランは恥じ入る気持ちが沸き起こる。
あんなにも迷い周りまで苦しめてきたのに、未だ光を求めてあがく自分を恥じていたのだった。

「ラクス…どうする?」
それまで黙ってミーアの演説を聞いていたキラが不意に話し掛ける。
首を傾げ、隣に立つ女性の細い肩に手を置いて。
「………そうですわね。このままでは…」
「まずい、よね。やっぱり」
心を許し合った二人らしい言い回しに、アスランは一瞬何を云っているのか理解出来ずに茫然として。

「…何をするつもりだ…?。キラ、ラクス…」

何故か嫌な予感がした。
ラクスは今だに不思議な人だけれど。
しかしキラの事はよく判っているつもりだ。
キラの立ち振る舞いにアスランは違和感を抱く。
アスランの問い掛けにキラはラクスと顔を見合わせると、二人揃ってアスランを見つめ返してきた。

「うん。あのまま好きに話されるのも…困るでしょ?」
「そうだが………」
「ですから、私は行きますわ」
「ラクス!?」

交互に語る二人にアスランは動揺を隠せなくて。
思わずベッドから身を乗り出し、途端に胸部に走った激痛に蹲る。

「確かに今まで私は光の当たらぬ場所を自ら選び、己の存在を隠匿するかのように過ごしてきました」

ラクスが静かに語りだす。
しかしその眼差しは真剣で。アスランの迷いを今また射ぬくような眼差しに息を飲む。

「………しかし、それがこのような事態を招いてしまったのです。私の存在、言葉、ラクス・クラインという名。どれも影響力が強く、今疲弊した世界には必要だったのでしょう。それを議長は利用した。同じ利用するでも彼は最悪の方法で利用したのです」

そしてラクスは微笑う。

「これは私の責任ですわ。逃げていた私が招いた事。ならば私本人が終わらさねばならぬ事です」
「………ラクス」

彼女は偽物の存在を黙認していたアスランを非難しなかった。
全ては隠れていた自分が引き起こしてしまったのだと告げた。

ラクスの眼差しも迷いはなかった。



そしてラクスはキラを伴って医務室から立ち去った。
議長の謀略を止める為、自分の罪を認める為。
そして、世界を救う為。
消えていく後ろ姿をアスランは言葉もなく見守った。

覚悟を決める時がきたのだと。
カガリもミーアも、ラクスも。
決心したのだ。
もう自分も迷ってはいられない。
これからどうしなければならないのか、何を優先させねばならないのか。
身体に触るからとメイリンに促され再びベッドに横たわる身体の、怪我を負った胸部に手をあてがい、アスランは静かに目蓋を閉じた。


そして。

世界は隠されていた『真実』を目撃する瞬間を迎える。
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月ひとしずく 04 ( #43~45)
TB[ - ]  CM[ 0 ]   Edit   2005/12/29[ Thu ] 23:40
「…え。…あ、あの…」
「………………キラ」

突然の訪問者達に、メイリンは戸惑いを隠せず、泣き腫らした赤い目で彼等を交互に見やる。
アスランは未だ痛む胸部の怪我を庇うように身を屈め、ベッドに座りながら視線をキラに向けた。
一瞬だけ、その視線が鋭く感じられたのは気のせいだろうか。
それを探る事を今は敢えてせずにキラはアスランに薄く微笑むと、その傍に佇む少女に声をかけた。
「アスランはね、どんなに辛くってもそれを他人には知られたくなくて強がるんだよ。だから大丈夫って聞くのはアスランには禁句なの。云えば悟られたくなくて余計無理するからさ」
「…そう、なんですか…?」
「うん、そうなんだ」
キラの告げる言葉に、不意に話し掛けられたメイリンはおどおどとした返事をして。
困り果てるメイリンに対しキラは、にこり、と笑い返す。

その笑みはとても優しげなのに。
初めて会った少年のあどけなさを残した青年に対し、戸惑いや恐れをうっすらと抱き、メイリンは思わず身構えてしまう。
それまではミネルバ側の視点で敵として捉えていたフリーダムのパイロットが、こんな若い青年だったから、余計恐れ戸惑うのかもしれない。
怯えるような表情をしたままのメイリンにキラは尚も笑みを深くし、安心感を抱かせようとした。

「………大丈夫だ、本当にもう…」
するとアスランがそう呟いた。
長い付き合いのキラだからこそ云える言葉なのだろうが、何となく小馬鹿にされたような気がして、アスランは立てた膝頭に肘をついた姿勢でキラを軽く睨み付けた。

「本当に?。まだ顔色悪いじゃない。アスラン、相変わらず意地っ張りだね」
「大丈夫だと、云っているだろ!。…っ、もう、平気、だから…っ」
「ふぅん。でも、ほら、苦しそうだけど?」
「………キラ。お前、そんな事を云いにきたのか…?」

少し声を荒げただけで痛む胸元を押さえるアスランを指摘するキラはいとも簡単に嘘を見抜いていく。
ぶつぶつと不満げに云うアスランの表情は拗ねた子供のようで。
隣でそれを見たメイリンはミネルバでの冷静な彼しか知らないから、初めて見せる年相当のアスランの態度に内心驚いていた。
「いや、そうじゃないけど…ね」
アスランを拗ねさせた張本人のキラは隣に立つラクスを見つめ、少し困ったように笑うと再び視線をアスランに戻した。
そして眸を細め、切なそうな眼差しでアスランを見つめて。

「………でも、本当に。良かった」
「え…?」
「君と、こうして又話せる時がきて」

キラの呟くような言葉にアスランは僅かに目を見開き、そして、ふい、と顔を背ける。

あからさまな態度だと判っている。

だが、今のキラの言葉を素直に受けとめる余裕はなかった。

「………………」

キラの視線から逃れるように壁に顔を向け、アスランは沈黙を守ったままで。
彼等の間に急に流れ出した険悪な雰囲気にメイリンは動揺しながら二人を交互に見やり、ラクスは困ったように微笑う。

「平和な時はいつでも話せるからって、特に深く考えたりしないけど…こういう時になって、初めて他愛もない会話が大切な時間だって判るから…」

ぽつり、ぽつりと語るキラの言葉は淡々としているように思えて、真実を言い当てていた。

今話しているから、明日も話せるとは限らない。
次の瞬間には二度と言葉を交わせなくなっているかもしれない。
世界を取り巻く現状は悲しいまでにキラの云う通り、信じている『永遠』など簡単に失われる流動的なものと化している。

だが、確かにそうだとしても。
アスランには頷けない。

まるで彼等の元を離れた自分を責められているように感じられて。
離れていたから話せなかった。
今手の届く場所に来たから話せるのだと、そう云われたようにしか思えなくて。
それに未だにまだ彼の選んだやり方を認められない。それはたぶんキラも同じだろう。
互いに同じ先を見つめているのに、進む道筋も方法も違っている。

それで想いを違えたのだ。
傍を離れたのだ。

だからまだキラの言葉を受けとめる事は簡単には出来なかった。
ひねた考えかもしれないが、キラの言葉を正面から受けとめられず、アスランは顔を背けたまま続く言葉を遮るかの如く言い捨てた。。

「………それで、何か、話があるのか…?」
「アスランさん…」

隣でメイリンが訝しみながら見つめているが、アスランは態度を変えなかった。
アスランのそんな態度をキラは何も咎めなかった。
今のアスランならきっと一度は敵対した自分の立場を考えて、素直に受けとめないだろうと思っていたからだった。
確かに嫌味に聞こえるかもしれない。
しかしそれは本音でもあったから。
本当にまたこうして話せると思っていなかったから。
だからキラは敢えて口にしたのだ。
アスランの態度にキラは苦笑を浮かべ、彼が居るベッドの横にある小さなモニターテレビの画面を指差して言葉を繋ぐ。

「…うん。テレビ、つけていいかな?」
「………?。どうして?」
「カガリが、ね。オーブに戻ったから…これから世界に向けて声明を発表するんだって」
「…カガリが?」

キラに云われ、アスランは自分の横の壁に埋め込むように設置されたモニター画面を見やる。
先の戦闘でカガリが亡き父ウズミが遺した新しいMSに乗りオーブの意志を示さんとばかりに戦場に現れ、そしてそれに同調したオーブ軍の者達と共に戦い再びオーブ指導者としての立場を強く誇示したのは、アスランも知っていた。
彼女の選び取った選択を、そしてこれから進むべき道を、世界に語るのだと。
オーブの長として語るのだと。

「一緒に、見よう?。アスラン」

迷い悩んだ彼女の決断を、共に見守ろうと。
キラはその為に此処に来たのだと、微笑みながらアスランに告げた。
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月ひとしずく 03 ( #43~45)
TB[ - ]  CM[ 0 ]   Edit   2005/12/22[ Thu ] 00:03
応急処置を終えた医療スタッフが医務室を去っていった。
その手にはどす黒い血に塗れた薄いブルーグレーのシャツが握られていて。
先程までそれを身に纏っていた者の今の状況をまざまざと見せ付ける証拠だった。
一人残されたメイリンはベッドサイドのパイプ椅子に腰掛け、沈痛な表情で先程まで血塗れだった彼の人を見つめる。

再びその場所に連れ戻された彼。

力なく横たわる身体。
閉じられた眸。
青ざめた顔。

手負いの身体でMSを操り、更に傷ついてしまったアスランが、手放した意識を目覚めさせる事なく、静かにベッドに寝かされていた。
メイリンは泣き腫らした眼でアスランをじっと見つめ、改めて怪我のひどさを知る。
あの時自分を庇ってくれたがためにひどく傷ついた身体。
打撲や裂傷だけでなく、胸部も痛めていると医療スタッフから聞いた。
それでも身の危険を顧みずラクスから託された『ジャスティス』を駆り、アスランは戦場へと赴いたのだ。

オーブを守る為、そして。

シンが、オーブを、討とうとするのを阻止する為。

二人の関係は判らなくとも、しかしアスランが何故危険を犯してまで出撃したのか、メイリンにも判ったような気がした。

「………アスランさん…」

泣き腫らし赤くなった眼で眠り続けるアスランの顔を見つめている事しか、偶然紛れ込んだこの艦で出来る事はなかった。

メイリンが小さく名を呟いたその時。
微かに睫毛が震えて。
そして、ゆっくりと目蓋が開かれていく。

「………………っ、ん………」
「あ、アスランさん!?」
「………メ、イリ、ン?。…こ、こ…は…?」

闇に閉ざされていた眸に天井から降り注ぐ人工照明の輝きは眩し過ぎるのか、アスランは一度開かれた眸を辛そうに細めて。
そして静かに首を傾げて、ベッドサイドに居るメイリンをぼんやりと見つめて尋ねた。
その身体には再び点滴が打たれ、新しく着せられた病室着の下にはまっさらな包帯が幾重にも巻かれている。
治療の為に投薬された鎮痛剤の影響か、惚けたような顔をしているアスランにメイリンは泣きそうになるのを必死に堪えて言葉を返す。
「…此処は医務室です…。アスランさん、コクピットの中で…気を失っていたから…。だから、フリーダムのパイロットの人が…アスランさんを…連れてきてくれて…」
「………あぁ。そう、か………」
次第に覚醒していく意識の中でアスランは全てを思い出していく。

ラクスに託してもらったあの真紅の機体に再び乗り込んで。
そして大空の下で、シンと対峙したのだ。
彼と直接話す為に無理矢理開いた緊急チャンネルで、言葉をかわして。
しかし、言葉は届かなかった。
シンを揺らがせただけで、根強い彼の意志を変える事は出来なかった。
そうして打ち上げられた信号弾に従い自軍へと帰投するシンを留める事も出来なかった。
唯一、シンが故郷を攻撃し廃墟にする最悪の結果だけは阻止できた。
『敵』として認識され、互いに刄を交えて激突せざるをえなかったが、それはジャスティスに乗り込んだ時点で覚悟していた。
例え望まぬ対立だとしても、シンがもうこれ以上『戦争』という悪夢に囚われる事よりはいい。

自分の幸せより彼の幸せを。

それを願い、叶える為ならもう迷わないと決めたのだから。

「………俺は、ジャスティスに乗って…そして、戦ったんだったな…」
「アスランさん…」
「そんな顔、しないでくれ。メイリン…。俺は後悔していないから」

何かを懐かしむような、それでいて、もう二度と取り戻せないと。
ひどく切なげな表情でぽつりと呟いたアスランにメイリンは悲しくて涙を滲ませる。
短期間であってもかつて共に過ごした仲間に戦いを挑まねばならないアスランの心情を思いやれば、どんなに辛かったのだろうかと。
メイリンとてこの艦に残ると決めた以上アスランと同じ思いをせねばならない。
それはどれ程辛くて悲しい事なのだろう。
特にアスランはMSパイロットなのだ。
メイリンと違い、直に戦い互いを攻撃しあわねばならないのだ。
想像しがたい位に悲惨な現実に、メイリンはとうとう俯いて。
両手で顔を覆い、細い肩を震わせて泣きじゃくりだした。
「メイリン………」
彼女の姿を、アスランは眉をしかめて見つめるしかなかった。
自ら決意し脱した自分と違い、巻き込まれてここまで来てしまった彼女に、かつての仲間達と対峙するだけの覚悟はまだない筈だから。
アスランはかける言葉が見つからなくて、点滴を打たれた左腕をそっと動かし、メイリンの鮮やかな色合いの髪を撫で擦った。
「………っ、く、ぅ」
負った怪我が然程ひどくはない右手を左脇腹の辺りについて、アスランはぐったりと横たわったままの己の身体をゆっくりと反転させる。
しかし再び悪化した怪我は途端に激しく痛み、激痛をその身に走らせる。
「ぁ、アスラン、さん!?」
「…ぅ、ぁ…ッ。ぐ…ぅ」
呻くような苦しげな声音にメイリンが驚いて泣いたままの顔をあげた。
右手で身体の重心をとり、あがくようにアスランは上半身を起こそうとしていて。
何とか起き上がれたが、しかし胸部の傷が抉られるような痛みを発し、そのまま崩れ蹲った。
「アスランさん!。駄目です!。傷口が開いてしまうから!」
「いや………もう、平気、だから………」
メイリンの言葉に返したアスランの声音は明らかに荒々しい。
それでも無理矢理に倒れかかった上半身を起こした。
只でさえ死にかける程にひどい怪我で、急な加速やのしかかる重力に耐え切れる筈はないのに。
MSに乗り込んだ所為で裂傷を負った頭部や銃で撃たれた肩、抉られた左腕、そして肋骨を砕き肺までを傷つけた身体は更に悪化させる結果となって。
それなのにアスランは必死に動こうとしていて。
「…本当に、大丈夫なんですか…?」
アスランの気迫に身じろぎ、メイリンにはもう何も云えなかった。
「ああ、大丈夫、…だから」
漸く起き上がったアスランが青ざめた顔で微笑う。


「駄目だよ。アスランに『大丈夫』って聞いても絶対大丈夫って答えるんだから」


その時。突然医務室のドアが開き、そんな言葉と共にキラがラクスを伴って訪れた。
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月ひとしずく 01 ( #43~45)
TB[ - ]  CM[ 0 ]   Edit   2005/12/19[ Mon ] 23:09
ミネルバから打ち上げられた信号弾により、過酷な戦場とされた海原に囲まれた小さな島国は静けさを取り戻した。
それぞれの武力は己が陣営へと帰投していく。

ザフトはザフトへ。
オーブはオーブへ。

そしてAAは現時点では何処にも戻れず還れず、取り残された海原を漂っていた。
まるで人間によって引き起こされた争いの残骸で汚された自然を見つめるかの如く。

ザフトがオーブを陥落させんとした発端となった人物、ジブリールは激化する争いの中に紛れるように逃亡して何処かへと消えた。
極秘に用意されたシャトルはやはりオーブ側の物であったが、ジブリールと同じ『ロゴス』のメンバーで今回の件も手引きをしていたセイラン家一族が血を絶やす結果となった事と、彼らに政権を奪われていた本来の指導者であるカガリが国に戻った事から、ザフトは今一度だけオーブの出方を見守る結論を出した。
それよりも最大の目的であるジブリールを、戦犯であり未だ勢力を保つ危険分子の男を追撃する事を最優先としたのだった。

ミネルバに帰投する途中でジブリール追撃の命を受けていたルナマリアから報告を受けたタリアが、軍本部にいる議長にそれを進言し認めさせたのも一因だった。
この戦闘を継続させる事は両軍共に無意味だといち早く判断しザフト全軍撤退を命じたタリアの進言は、他の軍上層部の者よりも的確であると議長が認めた形となった。

「…ジブリールは残念ながら逃してしまいましたが、ひとつ重大な報告があります」
『………何だね?。タリア艦長』
一切の私情を廃したタリアの報告を通信回線の向こうの議長は何も追求せず聞いていた。
タリアにも、周囲にいる部下達にも本音を隠しながら。
「AA及びフリーダムがこの戦いに参戦した事により一気にこちら側の不利となりました」
『…やはり、あの艦は沈まず潜んでいたか…。しかし、…まさかフリーダムまでも現われるとはね………』
簡単に消え去るとは思っていなかったというのだろうか。
議長は然程動じもせず報告を受ける。
そんな彼の態度に、では何故討伐の命を下したのかという疑念がタリアの中に浮かぶも、彼女はそれを決して表には出さない。
「………そして、もう一つ。先の大戦でも『あちら側』に属し戦った『ジャスティス』と思わしき機体も参戦しておりました。多少のカスタマイズを施されていても、あれは間違いなく『ジャスティス』かと思われます」
『………………ジャスティス、か…。では…』
「ええ、恐らくは」
暫しの沈黙の後、議長は呟いた。
又も動じない声音だったが、しかし明らかにひとつの確信を匂わせる呟きに、タリアはあっさりと肯定する。

突然開かれた緊急チャンネルによって交わされた会話。
『デスティニー』に乗り込むシンに問い掛けるあの声、姿。
今更全てを語らずとも通じるであろう、と。

アスラン・ザラが、生きていた。

議長が命じ、雷鳴轟く海底へ沈めた筈の男が、かつての大戦でジェネシスの発射を阻止せんと爆破させた愛機『ジャスティス』に乗って現われた、という現実。
タリアはそれだけを伝え、あとは何も語らなかった。
議長もそれ以上の追求も詮索もしてこない。
すれば逆にタリアに勘ぐられるのを充分理解していた。
そして議長は戦闘を労い、次の命令が下されるまでの間、補給と整備を目的とした暫しの休息をミネルバに与え、タリアとの通信を終了した。

回線が切れた後、タリアは深く溜息をし、議長は静かに目蓋を閉じて。
同じ事を、違う側面から見つめ考える。

やがて議長は何かの策を模索し、部下であり手駒でもある軍本部へと命じたのだった。



「………ン。シン?」

ルナマリアの優しい声が、たゆたっていたシンの意識を呼び戻した。

「………ん。ルナ………?」

ぼんやりと開かれた目蓋は赤く腫れていて。
ひどく重たく感じられた。
それが泣いていたからだと、直ぐに判った。
「大丈夫?」
「あ…ごめん。俺、あのまま…」
目の前に居るルナマリアの顔を惚けた表情で見つめながら、次第に覚醒していく頭が今の状況を理解していく。

ミネルバに帰投し、軍服に着替えずパイロットスーツ姿のままで自室に籠もったシンを案じてルナマリアが訪れ、そして彼女に縋るように泣き崩れたまでは覚えている。

しかしその後の記憶が曖昧で。

「………お、れ…?」

ベッドに横たわっていた身体をゆっくりと起こし、シンは己の格好を見回した。
あわせてルナマリアも隣で横たえていた身体を起こす。

「………え?、え………?」

少し混乱して、シンは何度も瞬きをする。
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月ひとしずく 02 ( #43~45)
TB[ - ]  CM[ 0 ]   Edit   2005/12/19[ Mon ] 23:08
確か、パイロットスーツを着ていた筈なのに。
どうして今、着ていないのだろう。

アンダーシャツに下着のままで、毛布に包まっていた身体。
慌てだしたシンの様子を見ていたルナマリアが途端に笑いだす。
「………っぷ。あはっ、あははっ。安心、して?。私、シンに手を出していないから!」
ベッドから下りてルナマリアが足元に転がったパイロットスーツを手に取り、シンに見せる。
「シン、あのまま寝ちゃうんだもん。でもパイロットスーツのままじゃ苦しそうだから、脱がしただけよ!」
「あ、そ、そっか………」
未だおたおたとしているシンは妙な納得をしていて。
普通、立場的にも性別的にも襲われるのは私でしょう?、と内心ぼやきながらもルナマリアは続けて語る。

「もう、大丈夫、ね?」
「………うん。ごめん」
「いいわよ。それに可愛いシンを見れたしね!」
「なっ、ルッ、ルナッ!」

からかうように言われ、シンは赤面しながらルナマリアにくってかかる。
普段とは違う、小さな子のように泣きじゃくる姿を見られ、あまつさえ自分より細い腕に抱かれながら泣き疲れて眠ってしまったのだ。
恥ずかしさより男として情けない気持ちになった。
でも、ルナマリアは優しく抱き締め、シンを支えてくれた。
同じように辛い思いをしているのに、姉のように、母のように、優しく守ってくれた。
恥ずかしいけれど、照れ臭いけれど。
シンは俯いて、ルナマリアに小さく告げる。

「…ありがとう。…ルナ…」

礼を言われると思わなかったのか、ルナマリアは僅かに驚いたが、しかし直ぐに笑って。

「気にしないで。ね?」

そう云って、ベッドの上で丸まっているシンの髪をくしゃくしゃに撫で回した。



「…そろそろ、私戻るわね?。レイも部屋に戻りたいだろうし」
「あ、そうだよな…」
彼女が戻らない為に同室のレイは気を利かせたのか、今この場にはいない。
何処に今居るのかは判らないが、さすがにずっとそのままでとはいかないから。
ルナマリアは自分の部屋へ戻ろうとドアに向かった。
ドアのキーロックを室内からあけ、廊下に出ようとした時、急にルナマリアがシンを振り返る。

「…後で、私の部屋に来てくれる?」
「ルナ?」
「この間の、話の続き…したいから」

その言葉に、シンは一瞬動揺する。

それは、誰にも聞かれてはならないこと。
ラクス・クラインが、二人居る、ということ。

あの時は聞けずに終わったけれど。
極秘情報を漏らしたとなればルナマリアもシンも、罪に問われるかもしれないけれど。

それでも、知らねばならないこと。

「………判った。後で、行くよ」

シンは俯いていた顔を上げ、覚悟を決めたかのように真剣な眼差しでルナマリアを見つめ返し強く頷いた。

そして。

「………俺も、ルナに話さなきゃいけない事、あるから………」

そう、伝える。

ルナマリアが不思議そうな表情をしているが、今は話せないから、と。
シンはじっと彼女を見つめて。
やがてシンの眼差しの意味を悟ったのか、ルナマリアが、うん、と頷いて。

後で、と。
約束を交わして。

落ち着きを取り戻したシンを部屋に残し、自室へと戻っていった。



そうだ。彼女には、伝えなければならない。
そうしなければならない、義務と責任が、自分にはあるから。
シンはまた騒めきだした心を落ち着かせながら己に言い聞かせた。

自分も、なくしたけれど。
彼女も、なくしたから。
シンが、なくしてしまったから。

ふたりの大切なものを、なくしてしまったのだから。

でも、なくしてなかった。

自分の大切なものは、確かにあった。
思いがけない結末になったけれど、確かに。

彼は、生きていた。

そして。

彼が苦悶する吐息混じりに呟き、自分に伝えた言葉。

それを、彼女にも伝えなければ。

ベッドに座ったまま、シンは拳を握り締めて。


アスランの言葉を、ルナマリアに伝えようと。



己が犯してしまった罪のひとつに、今。

目を逸らさず、向き合うことを決意した。
Category [ 時系列(No.08)【月ひとしずく】 ]
Thread Title[ 機動戦士ガンダムSEEDDESTINY ]   Thread Theme [ アニメ・コミック ]
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